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冒険者。  作者: kirin.conlo
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一話。

なんでも切れる剣です!


チラ見して、二度三度と自分の目を疑う。

そんなものがあるはずがない。いや、信じるバカはいない。馬鹿ですら買わない。むしろ何故この宣伝文句を使おうとしたのか全く意味がわからない。

まあ、そこに目を疑ったのではなく。

その商品を売っている明らかに怪しい黒ケープ被ったお兄さんに話しかけている人がいること。

それが明らかに誰が見ても美しいと嘆いてしまうような今時珍しい銀髪で、可愛い童顔な十代後半ぐらいの女だということ。

まさか、買う気なのか..?

宣伝文句しか目に入っていなかったが、まずその剣はどこにも見えないし、値段も書いていない。

さらに怪しさが倍増したことに気づいて近付きたくない気持ちもありつつ、明らかに騙されそうな子を放っておくのも良心が責められそうでこの場を離れられない。

黒ケープの怪しいお兄さんは硬いと有名なコウナツ鉱石をおもちゃ箱みたいなところから用意して、販売セット(標準として人が横に寝れるほどの大きさの机と一人が座れる程度の椅子)の机の下から剣を取り出して青い鉱石に振り下ろす。

そして青の鉱石はぱっかーんと切れた...ように見える。

非常に慣れた手つきだったが、あれは元から割れていた。遠くから初心者が見ても分かる断面の雑さ。何でも切れる剣の切り口じゃない。...こんなものじゃ引っかからないだろ。

....おいおい。ほんとうに買う気かよ。あ?...金貨?

金貨は十枚あれば家建てられんだぞ..嬉しそうな顔しやがって、騙されてるのに。

ここいらで止め時だと判断、怪しげな取引現場に向かって歩きつつ、万が一に備えて腰の短刀の感触を確かめる。

正直ガン見していたから店主はすぐ気づいたようだ。

焦った表情で早くお金を渡すように要求している。

銀髪の女は何をそんなに焦っているのかわからないと頭を傾げつつ、金貨を一枚、二枚...三枚丁寧に手渡しで渡す。

店主はひったくるように金貨を受け取ると店の状態もそのままで逃げようとする。

まあ、逃げ足は大して早くなかったようだ。

店主の首元を掴んで持ち上げると、カエルが潰れるような変なうめき声をもらす。

目線で威圧をかけると店主はゆっくりと金貨二枚を地面に置く。

それでも懲りずに金貨一枚持っていこうとした店主に向かって今度は短刀を掲げて刃物があるんですよアピール。

店主は降参したように首を振ると、金貨を指で弾いて街へ消えていった。下手くそ。落ちた。

金貨をせっせと拾い集め、しっかり三枚あることを確認する。

なんで俺がこの街の警備員まがいのことをせなきゃならんのだと思いつつ、銀髪の女に金貨を返すため振り返ると、銀髪の女は非常に怒った顔付きをしていた。

色々と台無しである。もうこのまま金貨持ち逃げしてぇ。




「ごめんなさい。そして、ありがとうございます」


一応詐欺に引っかかる子を助けたつもりだったはずが鬼の形相で睨まれ、なんでも切れる剣(仮)で切りかかってきた銀髪を短剣で軽くいなすと、簡単に床を転んでいった。

地面に転がったまま二十秒くらい無言のまま時が経ち。

何でも切れる剣(仮)なのに短剣が切れなかったことを把握、詐欺されていたということを理解した様子だった。

ゆっくりと起き上がって今度は切りかかってくる様子もなく歩いてくると、謝罪と感謝の意を述べたから、素直な子なのだろう。どこか抜けてしまっているのが、残念だが。

正気に戻ったため金貨三枚を渋々返すと、お礼ですと、すぐ近くの宿で飯を奢ってくれるそうだ。

今日の飯代が浮いたのはいい。まあ、運が良かったと思うことにした。


銀髪の女の名はソフィーと言うらしい。そのソフィーがおすすめする宿はぼったくりで有名な宿屋だった。こいつは詐欺にかかる運命にでも呪われているのだろうか。却下だ。

道中のソフィーの様子は大人しいものだった。ただ、たまに通る馬車にやけに目を輝かせたり、騎士訓練所から聞こえる訓練の声を拾おうと耳を壁につけたり、やはり...確実に変わっている。変人と呼ばれる類だ。

しばらくソフィーの奇行を眺めつつ歩いて、俺がいつも食べる質素なご飯屋にたどり着いて料理を注文すると、ソフィーは自分語りをしだした。


この街のダンジョン内にある、やすらぎの花を取りに行きたいらしい。父と母が徐々に石化していく呪いにかかり、やすらぎの花で解呪しないと石像となる、石化の呪いだ。

ダンジョン内には危険が多い。依頼できる相手もいない。なら、自分で行くしかない。

そのためには武器が必要だと、防具よりも武器をいろんなところで探したらしい。

ただどの武器店も、何でも切れるなんていう夢のような宣伝文句を使っているところはなかったみたいだ。

...他にはないのか、少し安心だ。


食事が終わって、大体予想できたことをお願いされる。

やすらぎの花、二つ。報酬は金貨三枚。

ダンジョンは上に上がる事に死亡確率、難易度が上がっていくが、花は比較的低階層にあるのにもかかわらず破格の報酬。

期限は完璧に石化してしまう一週間後の一日前、明後日だ。

久しぶりに依頼を受けるのも悪くないし、最初に関わってしまったなら最後まで面倒みること。それは我が家の家訓だ。

依頼を受ける。


ダンジョン内の仕組みは解明されてないことが多い。

判明していることは数少ないが、ダンジョンに潜る時に復唱しないと入れないぐらい大事なことが二つある。

一つ目。

長時間ダンジョン内にいるとダンジョン内の空気が身体にまとわりついてくること。

この空気はダンジョン内のモンスターが過度に寄ってくる原因で、お風呂や水浴びをしない限りとれない。

初期、中期、後期、最終期と四段階に分かれており、初期はエンカウント率があがるくらいで済むが、中期はモンスターハウスの形成、後期は上層からのモンスターの引き寄せが発生して危険な状態となる。

最終期となると生き残るのも不思議なくらいだが、御伽噺では街を滅ぼすモンスターの軍勢が形成されるとの話だ。

二段階にでもなるとパッと見黒い靄みたいなものを纏うような姿になるため、見つけたらすぐ撤退して騎士団に通報する義務が発生する。

通報されないように最低でも三日ごとに水浴びをしないと騎士団に囲まれるので注意が必要だ。

二つ目。

常識に囚われてはいけない。

ダンジョンの中では常に不思議なことが溢れている。

謎の飲める水、どこからか流れて来る風、はたまた太陽や空、そして森。

俺が一番納得していないことは、ダンジョンは下に伸びているはずなのに上に向かう階段があることだ。

ダンジョンに潜るという言葉のとおり、ダンジョンは平地の地下に形成されることが多い。しかしどのダンジョンも共通して、下に下る階段は無いのだ。

そう、上に行くと平地に繋がるはずなのに、ダンジョンの上層へと続いている。理解ができない現象。

この常識に囚われては行けないというのは、経験則というものにも当てはめられる。

低層だから、上層のモンスターが出るはずないと思い込んでいた冒険者はよく死ぬ。入口の説明を覚えていない慢心したバカが多いのだ。

まあ、大体この二つは常に意識しながら行動すること、それが死なない長生きのできる冒険者だ。


依頼受託後、待ち合わせ広場にて頼れる相棒と合流。

短パンと胸のラインがはっきり出た、忍者のような網の服を着た相棒はリナ。長い付き合いになるが、全然好きな食べ物やら家族やら、そういった個人的な話を聞いたことがない。

数年前から、ダンジョンに行くという日は連絡しなくても現れるようになり、以降水浴びや戦闘でも助けてもらっている。

いつも感謝はしているが、素直にありがとうと言うのも照れくさく、相棒の目的も分からないため、いつも適当に串焼きを買って渡して誤魔化してしまう。

リナが串焼きホルダーに空串を刺しているのを見て、ダンジョンの方向へと進む。

ダンジョンの入口では、軽くざわついて人混みと化していた。

顔見知りの騎士がいたから優先的に通してもらう。人命かかってるのだ。これくらいのズルは許容してもらおう。


ダンジョン内は丁度いい明るさで、湿度の高い洞窟のようなものだ。ここから八十メートルほど離れた曲がり角まで、敵影がしっかり確認できる。一層では騙し討ちのする方法を考えるのも、される心配をする必要もないだろう。

早速今日一回目の戦闘相手。

...スケルトンだ。

スケルトンはダンジョン内で死んだ冒険者の肉や服が腐り落ちて、骨だけの身体にダンジョンの空気が馴染み、魂が定着したと言われるモンスターだ。

肉がついてないため素早い行動ができるが、骨むき出しのため非常にもろく、関節部分を狙えばすぐに崩れる。

骨の剣を持つ剣士型、初級魔法を使う魔導師型、稀に見るレアなモンスターとして、崩れたスケルトンを復活させる僧侶型など、様々なバリュエーションがある。

ここで一つ補足だ。

モンスターにも上級モンスターという概念があり、永く生きたモンスターや、歴戦の戦士が死んでモンスターとなる時、精霊の加護を受けているモンスターハウスはこれにあたる。

上級モンスターはベースとなるモンスターの強化版みたいなものだ。モンスターの最弱代表のイメージがついてまわっているスライムはキングスライムに。最強の噂がよく出ているドラゴンはエンペラードラゴンへ。

今回の骨の剣士でいう上級モンスターは、スケルトンナイトだろうか。一見、スケルトン剣士型に見えるが、スケルトンか...雑魚だな、なんて軽い気持ちで切りかかりに行くと魔法をバリバリ使ってきたり、骨だけのはずなのに一撃がとんでもなく重いことに気づき、逃げるにも俊敏が早いから逃げきれず屍の仲間入り、よくある話だ。

しかし、スケルトン自体は雑魚である。ここは勘違いしてはならない。油断をするなと言っている訳で、スケルトンが強い、なんて思っているやつは冒険者稼業に向いていない。

...既にスケルトンは動かない骨の塊となっていた。

崩れ落ちたあとのスケルトンは丸くて手のひらサイズの蒼光となってダンジョンの壁に入っていく。

後に残ったのドロップ品の骨の剣のみ。拾ってどこかに消えてなくなった空串の代わりとしてリナに渡す。

リナは空串ホルダーの中に骨の剣を入れて先へ進んでいく。

俺がスケルトンの姿が見えた瞬間、さっき食べ終えたばかりの空串を、誤差なくぴったりと関節に投げつける相棒。遠距離での攻撃は完全に任せっきりだ。


さっきはリナと個人的な話をしたことがないと言ったが、実は俺はリナの声を聞いたことがない。

事前に話を通さなくてもわかるような合図を出すし、合図を出さなくても伝わる。

もしかしたら声が出ないのかもしれない。深く事情は聞かないが。


第一層目でのモンスター遭遇はスケルトンと鳥型モンスターのキュルイだけ。俺が役に立つ出番がない。


やすらぎの花は、第三層にある。

三層の中の森の中に、おぞましい顔をした木がいるが、そいつがたまにドロップする。葉っぱや枝ではなく綺麗な花を。何故だろう。

第二層の階段を登りきった後に見える目を悪くしそうなほど眩しい太陽、そして真っ白な空。地面に生える紫色の毒々しい草やオレンジ色の木。

ダンジョンに潜っていると段々と頭が痛くなってくるのは、地面や壁の色がまともじゃないことも原因だと思っている。

相棒が強すぎてここまで何も出来なかったが、ここからの相手はおぞましい顔の木、トレント。

弱点は火を使えば一回で勝てるが、火で燃やすとなんにも落とさないため、何回も木を殴って動かなくなるまで傷つけて倒す。

お察しの通りトレントは馬鹿に硬いため、リナは観戦タイムである。

...見つけた。オレンジ色の木のなかに一本、黒い幹が混じってる。相変わらずわかりやすい。

『ブレイク』

刀でなぞったところに裂傷を作る魔法技。

真ん中のず太い幹を中心にくるりと回って短刀でなぞったら、発動完了を宣言。

短刀の先となぞったところに紫の輝きが生じ、トレントにひびを入れていく。

紫の光が力を失ったように消えると、ひびが限界に達して、大きな幹は他の木を巻き添えにするように倒れていった。

大きな幹を蒼光が包むと、また手のひらサイズとなって地面へ吸い込まれていく。

後に残ったのはピンクの花びらが六枚ついてる花を咲かせた、やすらぎの花だ。

一回目でゲットとはなかなかに運がいい。

暇そうに骨の剣をくるくる回してるリナを連れて森の中を歩き回った。


出ない。

やすらぎの花のドロップする確率は結構低いのだ。十本に一本。

ついた時は確か夕ご飯の時間だったか。今はもう夜九時を時計がお知らせしている。

既に三十本ほど狩ってるのにも関わらず、出るのは枝、枝、たまに上級トレントの葉っぱ。

もう流石に枝は飽きた。薪ぐらいにしかならない。

上級トレントは戦闘という戦闘になりそうな感じを漂わせていたが、ブレイク三重掛けして発動したらトレントと同じようにすぐ倒れていった。

....ここいらで休憩しよう。

リナに目線で合図を送り、水浴びを先にしてもらう。

俺の生活に貴重なお色気要素...そんなものはない。

リナは水浴びが三分以内で終わってるから早すぎて覗く暇もない。一度試そうとしてみたが、腰につけてた短刀を一瞬で奪い、動いたら殺すぞと言わんばかりの目で喉につきつけられたことがある。もうやらん。

いつも通りリナが上がったのを確認すると、俺も水浴びをする。

この季節の水はどこも少し冷たい。大体、外の季節と真反対になるように水温が上下する傾向がある。

風は新鮮な空気を運んできてくれるが、周りを囲んでいるのはオレンジの木のため、あまりやすらげない。

水浴びを長時間していても風邪をひいてしまうため、体の汚れを落としてさっと上がる。

...タオルを忘れた。リナに頼むか。

ばさり。リナがタイミングよくタオルをこっち側に投げ入れてくれたため、なんとか助かる。

一般庶民的な服を着てリナにありがとうを伝えると、リナは何故か頬を染めていた。


夜のダンジョンも昼のダンジョンも危険度的には変わりはしない。ただし、睡眠を取らないことによって思考に油断ができてしまうのはよろしくないため、二人で行動している時は交代制の火の番で寝ることになる。

各自四時間ごと。大体の時はリナが先に寝て、俺が次に寝る。

リナがネックレスを触ると、ネックレスは緑色の光を灯す。緑色の光は人が一人寝れるほどの透明なクッションを作り上げて、俺達の周りを囲んで光を失った。

魔除の結界と生活魔法が組合わさった特注品だ。

火の番ではいつもあのクッションに埋もれることばかりを考えてしまう。とても柔らかいのだ。

虫の音もしない、青色の月と緑の空一面にかかる黒い雲を眺めて、ただ気配を感じるまでぼーっとしている。


...四時間か。

交代のためにリナを起こすと、地面がぐらぐらと揺れるのを感じた。

これは明日一悶着起きそうだ...

ふわふわのクッションに埋もれながら目を閉じた。

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