魔王討伐の後日談
既に決着がついているのも迅速討伐ということで(言い訳)、魔王迅速討伐シリーズ第4弾。ちなみに、最近ハリウッド版『Ghost in the Shell』見ました(伏線)。
「な、なぜ、あなたがここに!?」
「真の敵は、勇者や貴様などではないことに気がついたのだよ、聖女ユリアナ」
「ユリアナ、下がれ!ここは俺が!」
ユリアナの前に出た俺は、牢獄に入っていたはずの魔王やその腹心達を睨み、剣を向ける。
魔王軍討伐成功の記念式典の最中だった。脱獄した魔王達が、王城での式典に乱入した格好だ。
周囲には、一緒に戦ってきた聖女親衛隊の仲間も勢揃いしており、まさに一触即発だ。
「ふん、確かカークと言ったな。親衛隊の中でも最弱の、しかし、常に先陣を切っていた」
「そうだ。魔王ジョセフ・サーライトに名を覚えてもらえていたとは光栄だよ」
「いや、牢獄で話を聞くまで知らなかったが。それが、そもそもの間違いだった」
数年前に始まった魔族の侵攻により、人間側の街や村は徐々に陥落していった。
各国が制圧されかけた時、異世界より勇者が召喚され、後に発見された聖女と共に迎撃した。
1か月前、聖女とその親衛隊が勇者と共に魔王軍本拠地を急襲、魔王と軍幹部を捕え、終結した。
「謎の多い勇者を探し出すのに躍起となりすぎて、貴様の影響力を見逃していた」
「牢獄で頭が冷えたのか?各地の勢力に抵抗する人々の心を支えることこそが重要だった」
「その役割は、勇者と聖女が果たしていたと思っていたのだがな」
召喚勇者が士気を高めたのは確かだ。しかし、庶民にとってはあまりにも雲の上の存在だ。
俺が一介の冒険者として活動していた頃は庶民出身の聖女もおらず、そりゃあ酷いものだった。
勇者召喚した王族や貴族はともかく、各地の人々にはあきらめ&他人任せムードが漂っていた。
「俺のような一兵卒が勇者や聖女を信じ、剣ひとつで立ち向かい続けることが重要なんだよ」
「お前が前線を崩す、他の親衛隊員が活路を開く、王国軍が攻め込み、勇者がトドメを刺す」
「今も同じだ。俺が魔王以下脱獄犯を迎え討つ。その間に戦力が整う。お前に勝ち目はない」
俺が対峙している間に、親衛隊や王国軍の魔導師達が防衛陣形を取っていく。
ユリアナも後方に下がった。これなら、最初の魔法攻撃さえ防げば奴らを鎮圧できるだろう。
「言っただろう?『間違い』だと気づいたと」
そう言って、魔王と腹心達は魔力を集めていく。その力は膨れ上がり、魔弾が次々と生まれる。
しかしその魔弾は、ある一点に向かうよう連なっていた。
たったひとり、この俺に向かうように。
「や、やめて!なぜカークひとりに、そこまでの攻撃を!?」
「奴の命が惜しいか?そういえば、貴様はそいつに聖女としての資質を見いだされたそうだな」
「…それも牢獄で聞いたのか」
まだ俺が冒険者として活動していた頃、最前線の村でユリアナと出会った。
絶望の中で必死に回復魔法で人々を癒やし続けていた彼女は、まさに聖女だった。
ユリアナを説得し、その国の王城に連れて行った俺は、聖女認定と親衛隊設立を懇願した。
「そうしてお前は、兵士としては最弱ながら、隊長として親衛隊を編成し、最前線で戦い続けた」
「ならばわかるだろう?俺を消し炭にするため魔力を枯渇させたところで、意味はない」
「意味はあるさ。お前に一矢報い、もう一度勇者と剣を交えたいのだよ。正面から堂々とな」
魔力を集中させながら、剣を構える魔王ジョセフ。
魔弾を放ったらすぐに切り込むかのような様子を見せる。
「勇者様は既に元の世界に帰還しました!役目を終えたと、自ら大神官に頼んで」
「聖女よ、貴様は直接見たのか?勇者が異世界に帰還するところを」
「それは…。で、でも、カークが倒れても、勇者様はもう現れない…」
お別れを言ったからな。もう姿を見せないって。
ユリアナは勇者ではなく、親衛隊長の俺を選んだ。それは公然の秘密として知られている。
しかし、そんなユリアナの吐露を無視するように、魔王達の魔力が臨界点に達する。
「では聞こう。カークはなぜ常に生き延びた?そして前線を崩した後、そいつはどこに居た?」
「な、なにを…?」
あちゃー、魔王のやつ、全部気づいたのか。あーあ、平和に過ごしたかったのになあ。
「これが、答えだ。逃げるなよ、カーク!いや、召喚勇者、カズヤ・クロサキ!」
膨大な数の魔弾が俺に向かって次々と放たれる。
しかし、俺の数メートル先に巨大な魔法陣が現れ、魔弾を吸収していく。
それはもちろん、俺が発動させた防御魔法だ。
「そ、それは、勇者固有の魔法…。カーク、あなたは…?」
「ごめん、ユリアナ。俺の世界には『敵を騙すにはまず味方から』という言葉があってね」
そう言って俺は変身魔法を解く。この辺では珍しくない長身の銀髪碧眼から、本来の黒髪黒目に。
「か、カズヤ様!?あなたが、カーク…いえ、カークがカズヤ様…え??」
「あー、カークとして接してもらえると嬉しいなあ。一般人の俺を選んでくれたのは嬉しかった」
勇者と聖女と隊長の三角関係は、この国のゴシップネタとして割と知られていた。
ユリアナ自身、カークへの親密さと、勇者への憧れで苦悩していたのは気づいていた。
俺としては、ユリアナの気持ちを弄んでいたことになって心苦しかったけど。
「くくく…やはり、やはりか勇者カズヤ!貴様が…なに!?」
「俺はこっちだ。不意打ちはしないから安心しろ」
「いつの間に背後に!?そ、そうか、伝説の転移魔法、それも勇者固有の!」
これと、変身魔法があったからこその戦略だった。しかも、秘密にしていなければならない。
このまま秘密にして、帰還したフリして平和な異世界生活を楽しみたかったんだが、このやろう。
「まあ、相手してやるよ。俺の異世界いちゃいちゃ計画を台無しにした罪を償ってもらう」
「何を世迷い言を!」
「うるさい!式典の後、カークとしてユリアナと初デートする予定だったんだぞ!」
ユリアナが、真っ赤な顔をしてうずくまっていた。
転移能力って便利だけど、バレると警戒されて使い物にならないことがあるよねと考察してみました。