2
今回はほのぼのしてます。
※駄文注意
アスタロスは仲間たちに依頼の件、そしてそれを受諾する旨を伝え、その場は準備などのために一旦解散した。だが、準備する事が特にない事に気が付いたアスタロスは目的もなく街中をブラブラと歩いていた。
(今日も平和だなぁ······)
などと考えながら。
「あ、あの、すみません······」
そこへ赤ん坊を抱いた一人の女性が話し掛ける。
「何でしょう?」
「アスタロスさん・・・ですよね?申し訳ありませんがこの子を抱いて頂けませんか?貴方の様に強くなって欲しいんです」
「はい、良いですよ」
アスタロスは赤ん坊を女性から受け取り、抱く。
彼にとってはこの様な事は日常的な事だった。
なぜならアスタロスはこの都市では知らぬ者がいない程の有名人だったから。
理由は強いだけではなく彼が人格者だったからである。冒険者と言うのは職業柄、荒くれ者が多い。そしてランクが上がるほどその傾向は強い。
だが、アスタロスは最高クラスの実力に加え誰もが認める優しさを兼ね備えていた。そんな存在が有名にならない筈がないだろう。その結果として、この様な事が日常的になったのだ。
余談だが、時には、赤ん坊ではなく自分を抱いて欲しいと言う願いも来るようになっていた。その様な願いは全て断っているが。
十分な時間が経過し、赤ん坊を女性に返す。
「ありがとうございました。時間を取らせてしまいすみませんでした。」
女性は嬉しそうにそう言った。
「いえいえ、特にすることも無かったですし、問題ありませんよ。私でよければいつでも言って下さい」
これはアスタロスの本心からの言葉だった。赤ん坊を抱く事は全く苦ではないし、寧ろ好きだった。抱くたびに感じる事ができるから。――――――命の温かさを。
「あ、アスタロス先輩だ!!せんぱーい!!」
名前を呼ばれたアスタロスは声の方に顔を向けると、アスタロスを先輩と呼び慕う、一人の女冒険者が駆け寄って来ていた。その女冒険者は真っ白な髪に真っ白な肌、真っ白鎧を纏っていた。唯一色が違うのは真っ赤な瞳だけ。人懐っこそうな顔の彼女はまだ、少女特有の成長段階と言える体格だった。
「リノアか·····」
リノアと呼ばれた少女はアスタロスの元まで到着すると、嬉しそうに目をキラキラさせていた。
「この辺りで何をしていたんだ?」
「依頼達成を依頼主に報告しに行ってたんですよ!!······先輩こそどうしてここに?」
「ん?俺か?······特にする事が無くてだな······適当に歩いてたらここに来た」
アスタロスは苦笑いしながらそう答えた。
「先輩って今暇何ですか?·····じゃあ、もしよければ、これから食事でも一緒にしませんか!!」
「ああ、いい考えだそうしよう。丁度腹が減っていた所だ」
「ホント!?やったあああ!!!」
ぴょんぴょんと跳び跳ねて喜んでいるリノアをアスタロスは微笑みながら見つめる。「こいつらは何があっても守り抜こう」と思いながら。
「そういえば先輩って次の依頼決まってるんですか?」
食事中に思い出したかのように質問するリノア。
「次の依頼は王都までの護衛だな。明後日出立する」
「王都!!いいなあ私も一回行ってみたいです!!また今度一緒に行きません?」
「それなら、今回の依頼に付いて来るか?依頼は王都に着いたら終了だしな」
「え?ホントに?いいの?」
「ああ、もちろんだ、王都までの道中は話したりはできないが、向こうに着いたら散策でもしよう」
「いやったああああああ!!」
喜びの余り、大はしゃぎするリノア。その脳天へアスタロスのチョップが炸裂した。
「喜ぶのはいいが、周りの迷惑を考えろ」
「っう・・・ごめんなさい・・・」
リノアは脳天を押さえ、涙目になりながら謝った。そんなリノアを見てアスタロスは思わず・・・
「フッ・・ハハハハハハ・・・」
笑ってしまった。
「なんで笑うんあですかぁ・・・」
笑うアスタロスを見てリノアは更に目に涙を溜める。
「悪い悪い、つい・・・・・・な?」
「・・・・・・」
何故か、アスタロスを光のない目で睨むリノア。
「悪かったって、何か言うこと聞くから────────」
「じゃあ、明日一日買い物に付き合って下さい」
リノアはアスタロスが言葉を言い終える前に返答をした。
「一日!?」
「はい、一日です。じゃあ、明日先輩の宿まで迎えに行くので逃げないで下さいね?」
その時のリノアの表情は、それはそれは綺麗で見蕩れてしまう様な笑顔だった。・・・・・・だがその笑顔にはアスタロスが気圧されるほどの圧力が籠っていた。
「了解・・・」
翌朝。まだ朝日が昇って間もない頃。
────────コンコンッ
アスタロスの部屋にノックの音が響いた。
「先輩!!起きて下さい!!」
ノックの音に続いて聞こえたのは、アスタロスの後輩冒険者、リノアの声だった。
「ふぁ?」
予想以上に早いリノアの迎えにアスタロスは頭がついて行かなかった。
不審に思ったのか、ドアを開けリノアが室内を覗き込む。
「先輩?起きてる?」
「あ、ああ起きてる。少し部屋の前で待っててくれ。着替えたら出るから」
ドアが閉まるのを確認してから、アスタロスはベッドから降りる。
寝間着を脱いで普段着に着替え、ドアを開け部屋の外へ───────
─────────ゴンッ。
ドアが何かにぶつかる音がした。隙間から顔だけを出して外を見ると、額を押さえしゃがみ込んでいるリノアの姿があった。
「・・・・・・リノア、何やってるんだ?」
「部屋の前で待っててって言われたからドアの目の前で待ってたら・・・」
アスタロスはそう言えばこいつはこんな奴だったと気付き、処置なしと諦めた。
「そうか、・・・・・・出るからそこをどいてくれないか?」
「ん」
リノアはしゃがんだ状態からぴょんと軽く跳ねてドアの前から移動した。リノアが移動したお陰でアスタロスは漸く部屋から出ることができた。
「で、随分と早い迎えだったが何かあったのか?」
「いや?特に何もないですよ?ただ、朝早くに目が覚めたので、どうせならもう迎えに行っちゃおうって思っただけです。」
「そうか、じゃあ行こうか。どこに行くか決めてあるのか?」
「決めてないです!!」
即答だった。清々しいまでの。
夕方。空が茜色に染まった頃。
「今日は楽しかったです!!先輩。ありがとうございました!!」
満面の笑みを浮かべ、リノアはアスタロスに感謝の言葉を述べた。
「それと・・・この髪飾り・・・本当にくれるんですか?」
「ああ、俺が髪飾り持ってたって意味ないだろう?」
リノアが大切そうに握りしめている銀色の髪飾り。見るからに高価そうなそれは、リノアが露店で見つけたのだが、値段的に購入を諦めていた物。それを見ていたアスタロスがリノアに気付かれない様にこっそり買い取り、タイミングを見計らってプレゼントしたのだった。
「・・・大切に使わせてもらいます」
「今着けてみてくれ」
「え?・・・今、ですか?」
「ああ、折角だからな」
リノアは恐る恐る髪飾りを頭に持って行く。そして、綺麗な真っ白な髪に髪飾りを留めた。
「うん。似合ってる。買って正解だったな」
「ホント?ホントに?ウソじゃない?」
リノアは涙を浮かべながら、アスタロスに問いかける。
「ああ、本当だ」
「・・・ありがとう・・・ありがとう・・・大切にするね?」
涙を流しながらリノアは感謝した。言葉遣いが変わっていたが気にする余裕などない様だった。
「なんで泣くんだよ。明日は王都に向かうんだぞ?そんな調子で大丈夫か?」
「だって、プレゼントとか貰うの初めてだから・・・うれしくて・・・明日には大丈夫だと思うから心配しなくていいよ・・・」
リノアは幼いころに両親を亡くし孤児院で育てられた。しかし孤児院といっても名ばかりで子供の強制労働施設の様なものだった。当然プレゼントなどあるわけもなかった。だからこれが人生最初のプレゼントなのだ。
「喜んでもらえたのなら何よりだ・・・・・・明日は俺が迎えに行くから宿で待っててくれ」
「うん、わかった・・・じゃあ明日」
「ああ、また明日」
そう言って二人は別れ、それぞれの宿へと向かった。
──────────────禍の時は近い。
感想や誤字脱字報告。わかりにくい部分の指摘よろしくお願いします。