1
初投稿です。よろしくお願いします。分かりにくい点があると思いますがご了承ください。
6/30日加筆、修正
英雄――――――そう聞いて君達はどんな人物を思い浮かべるだろう。聖人君子?救世主?―――それは間違いではないが、違う。そもそも英雄とは、勲章――――――結果でしかない。即ちそれは結果が違っていたとしたら、英雄は英雄では無かったと言うこと。
もしも、英雄に淘汰された存在が勝っていたら英雄になるはずだった者はただの反逆者だ。そして反逆者を倒した者が英雄だ。そうやって歴史は動いてきた。正義は移り変わると言うことだ――――――まあ、これはただの言葉遊び。戯れ言だ。忘れてくれて構わない。
ただ言える事は、英雄になった者は総じて愚か者だと言うこと。
そして、愚か者だからこそ英雄になれたと言うこと。
何故なら英雄は自分勝手で貪欲な存在だからだ。全てを守ろうとして、何も失いたくなくて、自分のエゴで周囲を巻き込み戦い続けた。そんな存在。これが冒頭の問いの答えだ。
――――――しまった。こんなに話すつもりは無かったのだけど少し話しすぎてしまったみたいだね。まあ、この物語は愚かで、貪欲で、自分勝手で、だからこそ何よりも美しい。そんな英雄を志した主人公の話だ。飽きずに最後までお付き合い願いたい。語り部は俺こと俺がお送りする。それでは開幕。楽しんで行ってくれたまえ。
世界を混迷と争いの渦で覆い尽くそうとしている男――――――アゼル。後の世で、『魔王』と呼ばれるその男は、別段愛しているでもない人間の女との間に一人の子供を設けた。
その子は当時、世界最強と謳われていたアゼルさえも凌駕する才能を持っていた。アゼルはその才能に惚れ込み、その子を育て上げた。
子供も初めは幸せだった。―――父親が母を手にかけたのも、自分の名前が無い事も、毎日朝から夜まで戦闘訓練をしている事も、食事が飼われている魔物と同じだという事も、自分は人間でも、父親と同じ魔人でも無い事も、普通だと思っていたから。――――――本当の幸せを、知らなかったから。
しかし、その子が成長して少年となったある日、ちょっとした興味でアゼルの目を盗んで街へ外出した時に知ってしまった。本当の家族というものを、本当の人間の温かさを、本当の――――――幸せを。この一件の後少年はアゼルの元から脱走する。それが少年にとって幸運だったかどうかは分からない。ただ、分かっている事は、いずれ起こる世界を巻き込んだ親子喧嘩はこの事が原因であるという事だけ。
少年は逃げた。当てもなくただ、ひたすらに。自分を縛るアゼルの幻影に怯えて。魔物に遭遇する事もあった。逃げられない時は戦った。アゼルから教え込まれた技術を使って。戦う度に、教えれらた技を使う度に、アゼルの顔がちらつき吐き気を催す。それでも少年は足を止めなかった。まるで、前にしか進めない歩兵の様に。
少年は何時しか青年になり、アスタロスと名乗る様になった。アゼルの呪縛も克服し、多くの人々に囲まれて本当の『幸せ』を手に入れた。――――――禍が訪れるその時までは。
ヴァーティス王国 第三都市 ネイノス
「さて、今日はどんな依頼を受ける?」
アスタロスは仲間に問いかける。
「この前のバジリスク討伐の報酬が余ってるし、今日は受けなくても良いんじゃない?」
とチームの近接攻撃担当(自称)であるアイシャが口を開く。綺麗な金髪を一つに結った碧眼の快活な少女である。健康的に焼けた肌が露出の多い鎧から晒されている。
「貴女は何時もそんなだから、いざという時にお金が無くて困るんでしょう?」
その言葉に噛み付いたのは、紺色の髪をした何処か固い雰囲気を漂わせる灰色の目をした青年。チームの参謀を担うクルレル。魔術師に相応しいローブに長杖を所持している。
「じ、じゃあ、コカトリスでも倒しに行こうよ。あれならすぐに終わるでしょ?」
二人の話を遮る様に発言したのは、腰の辺りまである長い白髪をそのままにして、今もおどおどと髪と同じ色の瞳でアスタロスを見上げている気弱なエルフの少女、エミリア。チームの回復役を担当。無茶な突撃を繰り返すアイシャがよく世話になっている。
以上の三人とアスタロスは一つのチーム『カルテット』として冒険者を生業としている。彼らとアスタロスがどのようにして出会ったかは、追々語って行こう。
「コカトリスか・・・丁度良い依頼があればいいけど・・・」
コカトリス──────巨大な鶏とドラゴン、蛇を混ぜたような生き物。非常に強力な毒を持ち、石化の魔眼などの能力を保有する。
一般人では接触すらも禁止され並の冒険者がいくら束になろうと敵わない様な化け物に対し「あれならすぐ終わる」という反応が彼らの力を示していた。それもそうだろう。彼らは最下級、下級、中級、上級、最上級と分類される冒険者の中で最上級に位置し、その階級まで、一週間という異例の速度で上り詰めたのだから。
「あの、すみません。少しよろしいですか?」
依頼書が貼り出された掲示板を見て依頼を探していたアスタロスに受付の女性が話しかけた。
「何でしょうか?」
「どうしてもあなた方に依頼したいという方がいらっしゃるのですが・・・お時間はありますか?」
アスタロスはメンバーに確認の意味を込め視線を送る。クルレルとエミリアは問題ないと返し、アイシャは何の事か分からずに困惑している。アスタロスはバカなアイシャに頭を痛めながら、受付嬢の方に向き直り、
「問題ありません」
と答えた。
「ありがとうございます。では、こちらへ」
アスタロスは受付嬢に連れられて奥の部屋に向かう。後ろから「あれ!?アスタロスどこ行くの!?」と騒ぐ声が聞こえたがアスタロスは努めて無視をする。
受付嬢は応接室と書かれた部屋の前で立ち止まりノックをしてからドアを開ける。
「アスタロス様をお連れしました」
「感謝しますぞ」
部屋の中で待っていたのは、一人の老人──────というには些か失礼な壮年の紳士。昔は好青年だったであろう顔は多くの皺が刻まれても尚深い優しさを湛えている。そしてその眼は年齢とは不釣り合いな程力強い。
「貴殿がアスタロス殿ですな?儂はフェルディナントと申します」
「よろしくお願いします。フェルディナントさん。今回は我々に依頼があるとの事でしたので、参上いたしました。」
アスタロスはお辞儀をしてからソファに腰掛ける。
「この度はこの様な老いぼれの為に足を運んで頂き、感謝いたします」
フェルディナントが机に頭を打ち付けそうな程頭を下げる。
「いえいえ、私たちも受ける依頼がなかった所でしたのでお互い様ですよ。それで、早速依頼内容を聞かせて頂けますか?」
「はい、明後日から儂は王都へ向かうのですが、その際の護衛を依頼したいのです」
護衛の依頼──────比較的簡単な依頼だ。ましては王都などの大都市へ向かう際の護衛は。なぜなら国の中枢である王都に向かう際は大抵街道を使う。街道は騎士たちによる警備が行われている為盗賊などは近づかないからだ。
「報酬は1500金貨で、王都へ向かう際は街道を使います。この依頼、引き受けてくださいますか?」
1500金貨。それは破格の報酬である。一般家庭の平均年収が金貨30枚程なのだから、その50年分に値するとすれば大変な金額である。しかも簡単な護衛任務で、だ。
「何か別の目的があるのですか?」
こう考えるのが自然だ。条件が良すぎると逆に疑わしい。そういうものである。
「・・・・・・あなた方に迷惑を掛ける様な事はございません・・・だから・・・どうか、どうかっ」
机に頭を擦り付け懇願するフェルディナント。じきに言葉に嗚咽が混ざり始める。それがアスタロスの判断を鈍らせる。
「分かりました。その依頼引き受けましょう」
(つくづく俺は甘いよなあ、まあ何かあっても俺が何とかすればいいか)
「あ・・・ありがとうございます!!ありがとうございます!!」
この軽い判断が、一つ目の禍を引き寄せることなど今のアスタロスは知る由もない。
兎にも角にも、運命の歯車が動き出した。
チーム名が英語なのは許してください。感想ご指摘お待ちしています。