(6)発症
「うさちゃんを虐めないで!」
小学生にしては妙に足の速いアリスを追いかけて、飼育小屋に駆け込む。と同時に、アリスが叫び声が響いた。
文字通り一足遅く、アリスと悪ガキ共の言い争いは俺が入った時には既に始まっていた。
「は? 俺らは化け門を退治しに来ただけだぜ。な?」
「う、うん」
悪びれもなくそういう悪ガキにアリスが反論する。
対する悪ガキは3人。リーダーっぽいのとその取り巻き、そして無理矢理つき合わされてる感がある気弱そうな少年だ。
「うさちゃんはバケモノじゃない!」
「確かお前もあの時いたよな? なら見てただろ、こいつがバケモンになる所をさ」
「そうだそうだ」
そう言って手にしたウサギをリーダー格っぽい少年が突き出す。その持ち方は抱っこの様な優しいものではなく耳を掴んでぶら下げるという荒っぽいものだ。
ちなみに彼らは「見た」と言っているが、俺が着いたときの状況から考えてそれは初期状態。異形化をしていない黒い「もや」の様な物をを纏った状態で、完全に発症した姿は見ていない筈だ。だからなのか、どうにも《MONSTER》を甘く見ている気がする。
その貧弱な思いこみのまま事が起きればかなり危険だ。
だから、俺は口を挟む。
「おい、ガキ共。そいつはもう完治してるからもう《MONSTER》にはならないぞ」
「はぁ? あんた誰だよ」
「俺か? 俺は……通りすがりの獣医だよ」
とうぜん嘘だが上からはそう名乗るように言われているのだから仕方ない。とは言ってもあながち間違いじゃないんだよな。いまは《MONSTER》専門だが一応「治療」しているし、人間を診る事は圧倒的に少なく動物専門と言えなくもない。
「と言うわけだ。そいつをこっちに寄越せ」
「はあ? なにが『と言うわけ』だよ。そんな事言われて渡すわけねーだろバカ。こいつは俺たちが粛正するんだよ」
「粛正? やめとけ。授業で習わなかったのか? 《MONSTER》を完治した生き物は要保護対象だ。危害を加えると罪になる。テストにでるかも知れないから覚えといた方がいいぞ」
嘘ではない。抗体の研究の為に検体として保護することになっている。とは言え明白な証拠がなければ罪に問えないし、程度にもよる。ぶっちゃけ殺しさえしなければ目をつぶられるんじゃないだろうか。
「そう言えば……」「まじか?」「うそだろ?」「ほら、勘ちゃんたち寝てたから」「まじかよ」
そんな少年たちのざわめきもすぐに落ち着き、リーダー格の少年がウサギを持ったまま前に出た。
「ちっ、わかったよ」
悔しそうにつぶやくと一旦下ろしていたウサギを掴んだ手をもう一度前へ突きだし、足を……ってバカ野郎!!
ソイツがしようとしている事に気づいた俺は、咄嗟に飛び出し直後、蹴り飛ばされたウサギを何とかキャッチする。
運良くと言うよりも、さっきの話が気に掛かっていたのだろう。軽く蹴られたウサギには怪我もなく命に別状もない。多少怯えている感はあるがそれもすぐに解消するだろう。
とま、ウサギの事はこの際どっちでもいい。まずはウサギが無事であることをアリスに伝えるべきだ。
そう考え、後ろ、アリスのいる方を振り返るのだが……時既に遅く
「ウさチャんヲ、イジめルNaぁッ!!!」
―― 病みを、発症した。
次回、『病堕』