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demi god後日話 ある予定外の道筋と結末

 やることが終わり、私は森へと帰った。そして、今までと同じ日々を過ごす。そう、今までと同じ、変わらないはずだった。


「…………はあ」


 けれど、そんな日々に、私はつまらない、おもしろくない、楽しくないと……そんなことを感じていた。そもそもからして、村での生活自体に微妙なものを感じていた。決して過ごしづらいと言うことはないけれど、かといってこのまま生活していても、何にもならない。ただ、無為に日々を過ごすだけ。

 もともと村に住む他の住人と仲が良いと言うこともなく、一人で過ごしていたことが大きいのだろう。そこに入ってきた、特大の刺激。ユウキと言う存在。それは、私にとって……なんだろう。難しい。決して、恋愛だとかそういうものではないのだろうけど……一緒にいて、楽しい、一緒に過ごして、嬉しい、こういうのはなんだろう? ちょっと一緒に生活しただけなのに。

 ともかく、ユウキがいなくなって私は村での生活に満足できなくなった。今までも、満足していたとは言えないけれど、よりはっきりしてしまったのだろう。

 だから、私はつい、行動してしまった。


「……来ちゃった」


 今、私は王都にいる。








 ユウキことについて、私は噂程度しか知らない。世界全土に知らされたらしい神様の事、それに関係していること。少なくとも私のいた森で知らされた、知ることができるのはそれくらいだった。

 王都に来てからは、それ以上にいろいろな噂が出回っている。特に、ユウキの行った大討伐、巨大なモンスターを退治したことについては諸説様々だ。言われていることは色々あるが、それでも変わらないのは、ユウキがそのモンスターを討伐したこと、その実力が本物であることだ。もともと強かったけれど、それでもその話にあるほどには強くなかったと思う。でも、その噂でその強さについては本物だと言われている。他のことは色々と違ったふうに言われているのに。

 どの噂でも共通するのであれば、それは本当と言うことなのだろう。その強さの秘密については本人に訊ねるべきだと思う。その噂のほかに、今優樹のいる場所について。ユウキは現在王城にいる。そこでどんな生活をしているとかそういう話は色々と……そう、色々と言われているが、場所については明確だ。これは単に噂と言うだけでなく、明確に王家が表明しているかららしい。でもどこかに掲示されているわけでもないからやっぱり噂でしかわからないけれど。


「……来たのはいいけど、どうしようかな?」


 王城の前に来たはいいけれど、ユウキに会えるかどうか、中に入れるかどうか。当たり前だけど、王家に知り合いがいるわけでもないし、単なるエルフが中に入れるはずもない……いや、王女とは知り合いと言える可能性はあるけれど、あれっきりだ。だいたい、あれはもう昔の話だし。


「……どうしよう」


 佇むしかない。このままだと怪しいと兵士が寄ってくるかも……でも、本当にどうしよう。

 そんなふうに考え事をしていると、兵士が寄ってきた。つい逃げよう……と一瞬考えたが、逃げるほうが私は怪しいです、と言っているようなものだろう。なので、逃げずに素直に受け答えをしようと、その場を動かずにいた。

 しかし、そんな私に対してかけられた言葉は、私を王城内に案内する、という内容だった。

 当たり前だけど、私は混乱した。ありえないことだ。知り合いがいるわけでもなしい、この兵士が私の考えを読んだ上で、その内容を汲んで善意でやっている、なんてことはないだろう。そもそもただの兵士がそんなことをしていいはずもない。どういうことなのか、詳しく聞く。聞いた所、どうやら王女に言われて案内しているらしい。王女と言うと、セシリエ・フォーネ・アグライア、彼女だろう。しかし、彼女とは一度会ったきりなのに……

 兵士に案内され、たどり着いた場所は、王城とは明らかに違う空間だった。外から見ると普通の王城だったはずなのに、この場所はその王城よりも広い……そして、入り口までしか兵士は案内してくれなかった。私は中に入れません、と言われて。

 まっすぐ行けば王女の下に行けるので、真っ直ぐ言ってくれと言われたので言われた通りに道を行く。十字路に扉、高い天井……王城とは思えない。


「久しぶりですね、フェニアさん」

「えっと……お久しぶりです、セシリエ様」


 流石に王女様相手の対応はどうすればいいかわからない。困る。


「……えっと、何で私が来ることを?」

「"予感"があったので。そういうことは、なんとなくわかるのです」


 予感? そんなことで? ちょっとありえない……とは思うけれど、嘘をつく必要もないだろう。だいたい、神様とかそういう話が出てきたくらいだし、そういう変な何かがあってもおかしな話ではない。


「わたしこそ聞きたいのです。フェニアさんは、一体なぜ王都までわざわざ来たのですか? あなたが来る、というのは私はわかりましたが……その理由までわかるわけではありません。いったい、何故、ここまで来たのです?」


 王女の雰囲気が変わる。野生の獣と相対している時よりも、研ぎ澄まされた気迫。獣と人間では、持っている気質が違う。それは、恐らくその目的の違いだろう。殺気……とは違うけれど、目的如何ではこちらに剣を向けてくる、そんな印象だ。


「……ユウキに会いたい、そういったらおかしいですか?」

「ユウキさまに会いたい……ふふふ、そうですか」


 雰囲気が一変する。良くなったわけじゃない。ただ、向けている気の質が、今までは剣を向け、刺してくるようなものだったのが、ねっとりしたものに変化した。なんだろう、さっきのよりも嫌な感じが強い。


「ユウキさまは渡しませんよ? ユウキさまに仕えるのは私だけの特権です!」

「……えっ!?」


 言われたことの意味が分からない……いや、わからないわけではないけど、何故そんなことをいきなり言われなければならないのか。


「ちょ、ちょっと待って!? セシリエ様!?」

「……たとえ、あなたと言えど……いえ、あなただからこそ、この立場を渡すわけにはいきません……!」


 話を聞いてくれない。困った……とは言えないけど、でもどうしよう。どうしようもない。流石に王女様相手に手を出すわけにもいかないし……でも、向こうもこっちに危害を加えるのは難しい。流石に身体能力の差がある。でも、このままだと……


「落ち着いて、セシリエ様!」

「そうです、落ち着きなさい」


 っ!? セシリエ様の背後に……人が!?


「…………すいません、落ち着きました」


 人が後ろに現れ、いきなりこちらに向けられた気が消える。落ち着いた……と言うよりは、落ち着かされた感じがする。


「初めまして、フェニア。私は『調停と秩序の神』。名前くらいは聞いたことがあるでしょう」

「……え? 神様?」


 神様の話、それを全世界に伝えた神様。それ自体は存在しているのは知っていたけれど……いくらその成果があっても半信半疑だったけど、本物が目の前に現れるなんて……いや、変な話ではないのかも。ユウキがいるのなら、その近くにいてもおかしくはないだろう。


「は、初めまして! フェニアです!」

「知ってます。知り合いから話を聞いていますし、彼の記憶からも知識はあります。本人に会うのは初めてですが……今はそういう話はいいですね。とりあえず、机といすを出します。ここを訪れた要件、理由を尋ねましょう。セシリエ、あなたもそこに座りなさい」

「はい……」







 私はここに来た理由を話す。ただ、ユウキに会いに来たと。本当に、今の私の目的はそれだけだった。ただ、その感情、理由については、私自身よくわかっていなかった。セシリエ様の言ったような、ユウキに仕えるとかそういう者とはまた違うのだけれど、でも、一緒に、あの時みたいに過ごしたい。そんな気持ちは確かにあったのかもしれない。


「なるほど。しかし、ただ会いに来た……それだけで満足できないでしょう」

「そうです!  私の立場を奪うつもりですね!」

「あなたは黙ってなさい」

「はい……」


 なんというか……セシリエ様、王女様なのに……このだめさは一体……


「セシリエも、少しは大人しくなってほしい所ですが……いえ、十分すぎる程頑張ってくれてはいるんですけどね。それで、あなたは彼にあった後、そのまま帰るつもりだったのですか?」

「…………」


 わからない。もし、ユウキとあった後、そのあと素直に森に戻れたかと言うと……疑問だ。また、あの時みたいに一緒に過ごしたい。そんなわがままを言ったかもしれない。


「わかりません」

「でしょうね。そもそも、わざわざ会いに来るくらいです。相応の情念がなければ動けません」


 情念……そういうものではないけど。


「セシリエ。あなたの立場は今までとは変わりません。しかし、管理神の側にいる者が一人とは限りません。そも、一人で手伝いをするのも大変でしょう?」

「いえ、そんなことはありません! 一人で十分です!」

「あなたは使える者を増やしたくはないかもしれませんが……あなたでは、彼を全肯定するだけです。狂信ゆえに」

「………………」

「他の視点、少なくとも、彼に対して疑問を発することのできる人も必要です。それを、彼女にゆだねます」


 そう言って、『調停と秩序の神』は私を見る。


「あなたは森に帰る必要はありません。彼の側で……一緒に過ごすだけ、とはいかないでしょう。色々と、仕事や手伝いはあると思います。どうしますか?」

「……どうします、と言われても」

「ここで断っても構いません。ですが…………これが最後の機会となるでしょう。ただ、退屈な森に返り、乾いた無為な日々を過ごすか……それとも、共にいたいと思った、ただ一人の相手と過ごすか。それを決めてください」


 そう言われると、私に否の答えはない。


「……ここに、残ります。ユウキと一緒にいたいです」

「よろしい。それでは、そういう立場のものとして、色々と頑張ってください。まだ神様修業は途中ですから、本当に神の座に就くのはまだまだ先、しばらくはここで過ごすこととなるでしょう。その間、セシリエと少しは仲良くなってくださいね」


 そう言って『調停と秩序の神』は消えた。


「……これからはライバルですね。ユウキさまは、絶対に渡しません!」

「だからそういのじゃないって……えっと、よろしく、セシリエ様」

「様はいりません。これからは対等な立場ですから」


 ユウキに関しては色々とあるみたいだけど、それ以外は普通みたい。でも、そう簡単に仲良くなるのは難しそうかな……何か知らないけど、将来を決められたみたい。でも、前のように、生きていてつまらない、楽しくない、なんてことはなくなりそうだ。それ以上に苦労しそうな気はするけど、それもまたいいのかもしれない。

何が予定外なのか? その答えはフェニアという存在です。

本来、彼女はチョイ役だったのに……勝手に彼女が動いた結果、この後日談を書くことになりました。

元々が単なるちょっとした妄想なので、そういうこともあります。

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