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fragment (引き取られた神のその後の顛末)

 ふわりと一人の女性が空から下りてくる。物理法則的にあり得ないことだが、現実としてそれが目の前でなされればその出来事を信じるしかないだろう。もっともその出来事を見届けた者はいない。


「ふう……まったく、いきなり街の中に降ろされるなんて。まあいいわ」


 すい、すいと視線を周りへとむける。時間としては既に夜。外を歩くものはあまりおらず、治安の悪い場所には娼婦や悪漢が蔓延るファンタジーの街。そんな不安と危険のある街を女性は歩く。


「お、ねーちゃん一人か?」

「こんなところにいねーでもっといい所に行こうぜー?」


 当然女性……それも見目麗しい女性が歩いていれば当然ながらガラの悪い男に絡まれるのはこの時間帯ならばおかしくない話。そのことを知っていれば護衛でもつけていたかもしれないが、残念ながら女性は一人。そもそも空から下りてきた女性に護衛がついているわけもない。それに、仮に女性に護衛がついていたとしても素の護衛に構わず声をかけていたかもしれない。それくらいに女性は見た目的にはかなりいい。


「………………」

「おいおい、無視すんなよ」


 そんな男の絡みを無視し進もうとする女性。当然男共はそんな女性の前に立ちふさがり、その行く手を遮り行動を阻害する。


「邪魔よ」

「はあ? 邪魔あ?」

「おい、お前俺たちに舐めた口きいてんじゃねえぞ」

「チッ。面倒ね……」


 口の利き方まで変わり露骨に女性に対し高圧的に出る男性。それに女性の方が舌打ちをする。


「ああん? なんだてめえ! 舐めてんのか!」

「ブチ犯すぞこら!!」


 その舌打ちを聞き、男達はついに女性に大して怒鳴りつける。


「はあ…………ま、どうせ大半は潰すつもりだったしいいかしら」

「何言ってんだてっ」

「あ? おい、どこいった…………ひっ、あ、足だけ!?」

「イーター」


 ぞろり、と女性の後ろから蛇が、鰐が、蜥蜴が。湧き出るように現れる。その爬虫類の生き物たちはその元々物置さよりもはるかに大きい。それこそ人間を一噛みで半身を噛みちぎることができるだろうというくらいに。


「さあ、喰らいなさい」

「ぎゃあああああああああっ!!」


 男の叫びが響き、それをきっかけに夜の街に惨劇が巻き起こる。






「はあ、まったく……」


 爬虫類の化け物を引き連れる女性。彼女は元々は"嗜虐者"と呼ばれる神格の一人だった。しかし、ある事件をきっかけに邪神に闇の底まで連れていかれ、そこで邪神の配下として、眷属として、闇の力を受けその役割を担うようになった。元々の彼女の性質はなりを潜め、今ではその精神性が残っているくらい。とはいえ、その精神性、元々の性質を満たすために相応に犠牲を求めるのが彼女の生き方である、嗜虐、虐めて愉しむのが彼女の生きがい。とはいえ、どんな存在でもそうすることが許されたのは元々の彼女であったとき。今は彼女は大きくその存在を変えている。今の彼女は"悪虐喰らい"。イーターと呼ばれる化け物を引き連れ、それらに悪党を喰わせ悪を滅ぼす役割を持つ。もっとも、それは結果的にその世界から悪が取り除かれるというだけであり、悪、すなわり闇はイーターの中に保持されそこに残される。悪を喰らわせ闇を集積する、それが彼女の役割だ。


「昔のように誰でも虐められなくなったのは本当に残念だわ。まあ、生かされているだけましなのかしら」


 本来なら彼女は消されてもおかしくない。それくらいのことを同じ仲間と一緒とはいえやってきている。しかし、邪神に持っていかれ、その配下となり、生まれ変わることで生き残ることを許された。本来は望むものとは少し違うが、まあしかたがない。生きているだけ儲けものだ。


「さて、大体は喰らいつくしたかしら……あら? 一体戻ってきてないわね」


 生み出したイーター、爬虫類たちの一体がまだ戻ってきていない。"悪虐喰らい"はその一体の気配のある方向へと向かう。


「あそこね。まったく、そんなにたくさん食べる者がいたのかしら…………っ!?」


 空より一条の光がその気配のある場所、建物に落ちる。そして、それと同時に爆炎がまき散らされる。


「なにっ!? いきなりあそこにいたの消し飛んだけど!? 流星!? いやいや、それはないわ。流星ならもっと被害が甚大なはず……ならいったい?」


 光が落ちた建物は炎に包まれ燃え盛り、夜の街を明るくしている。多くがしに、叫びが響いた夜の街は今は燃え盛る建物以外は静かな物だ。まああれだけ叫びや悲鳴が鳴り響けば、善良な一般市民は家に篭りこの未曽有の災禍を恐れぶるぶる震えて隠れることだろう。さて、それはともかく、燃え盛る建物の上に、人影が見える。炎の明るさに照らされその姿が"悪虐喰らい"にも見える。


「……あれは、人間じゃないわね」


 おそらく自分と近しい何か……すなわち何かの神格。それが彼女に向かって振り向く。


「っ!」


 そして、次の瞬間それは彼女の目の前にいた。


「何だお前? 闇の匂い……邪神の所のか。"悪虐喰らい"? ああ、元"嗜虐者"か。ってことはここには悪を滅ぼしに来たわけか」

「……あなたは?」

「俺か? 俺は悪を滅ぼす者。悪に裁きを下す者。お前ら闇とは違い、光の側の神だ。結果が同じなら大して変わんねーけどな」


 結果が同じなら。悪を駆逐しこの世から悪を無くす。光で浄化するか、闇に飲み込み上書きするか、どちらにせよ同じ結果としてそこから無くすという点では変わらない。もちろん経過ややり方、別の部分での結果が違う異常全く同じではないが、大して変わらないという点ではそうだろう。少なくとも目的としては同じ結果に一致しているのだから。


「そうか、なら後はお前に任せるとしよう」

「……面倒ごとを押し付けられた気分ね」

「ふん。お前と違って俺はやるべき仕事が多いんだ。邪神の気まぐれで仕事をするお前と違ってな」

「チッ。腹が立つけど、まあいいわ」


 神の役割は様々であるが、"悪虐喰らい"は邪神に支持されることでようやく仕事を果たすことになる。彼女は別に望んで何かするということはあまりない。そもそも人を虐めて愉しむのが趣味である。あまりそういう点では望んで己のやりたいことをやってほしくない所だ。まあ、現状の彼女は隔離されているので特に問題はない。彼女がどうにかするのは今は闇の底に眠る世界、またそこに連れていかれた悪者くらいである。だからこそ彼女はつまらないわけであるが。


「さて……っと、そうだ。忘れていた、その前に」

「な……に……!?」


 ぴしり、と"悪虐喰らい"の動きが停止する。動けなくされた。


「俺の役割は悪を裁くこと。お前、自分がしたことを忘れてるわけじゃねえよな?」

「……………………」

「今のお前の役割、務めもあるしそこまで手厳しいことは言わねえ。だけどな、お前が今までやってきたこと、その犠牲者の存在は見過ごせねえ。一撃だけ、裁きの怒りの一撃をぶち込んでやる。それで俺がやるべき裁きは終わりだ。覚悟しとけ」

「…………!」


 拳の一撃が"悪虐喰らい"にまっすぐ向かう。まっすぐ、その、お腹に。ドゴオッ! と生物が出していい音ではない音が響く。まともな人間であれば今の一撃で確実に死んでいるだろう。


「ッ! ッ!!」

「これで俺からの一撃は終わりだ。じゃあな」

「…………ッ!」


 痛みでぷるぷる震えて悶絶し、お腹を押さえている"悪虐喰らい"流石に女性にそのような攻撃はいかがなものか、とも思うが、死んでいないだけましかもしれない。今までの彼女の所業から殺されてもおかしくはないくらいなのだから。


「………………は、はあ、はあああっ、あ」


 ようやく痛みが治まった、と言ったところで泣き出す"悪虐喰らい"。


「自業自得ってのはわかってるけど…………きっつ…………はあ。ま、これで許されたってことなのかしら? 今までやってきたことを考えれば安いもの……と言ってはいけないのだろうけど」


 殺してきた報いがただの腹への一撃一発。所業に見合わぬ報いと言える。とはいえ、これからの彼女の役割上悪を誅するものとなっている。つまり今までの善も悪も虐め殺す者から善なる者の助けになる役割を担う。それが決して罪滅ぼしになるとは言わないが、相応に彼女は罰を受けていると言える……のかもしれない。

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