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fragment (鍛冶師のところにあった面倒な剣を抜いたら)

「こんにちはー!」


 とある建物。それなりに大きい長屋の建物である。近くには倉庫兼居住施設の建物もたっている。そこの長屋に女性が元気よく入っていき、大きな声であいさつをする。その声にカンカンと金属を鍛えている鍛冶師の男性はそちらに視線を向け、反応する。


「おう。今日は何の用だ?」

「いつものです!」

「武器の手入れか……自分でやれって何度も言ってるんだがな」


 ため息を吐く男性。女性はいつも武器をこの場所に持ってきて手入れを男性に任せている。それくらいは自分でしてもらいたいというのが男性の本音だ。女性の武器を作ったのはこの男性であるし、いくらかのアフターケアをする分にはいいのだが、毎度となるとしつこい。とはいえ、自分の作った武器がどう使われているかの確認もできるし、いくらか使い手である女性に対するアドバイスもできるだろう。彼自身が作っている武器の数は多く、そのうちのそれなりのものの一つとはいえ、作ったものに対する愛情がないわけではない。それをむざむざ使えなくされるのも癪に障るので男性は女性の代わりに手入れを行っているわけである。まあ、女性が今まで手入れをしていないことからいきなりやってもうまくいかないだろう、教えてもちゃんとできるかもわからないといった理由もある。

 そんなわけで女性から武器を預かる男性……いや、正確には彼の近くに置かれただけだ。今彼は武器を作成している途中なのですぐに手入れには移れない。女性も作成の中断をしてまで手入れを頼むつもりはなく、その間手持無沙汰で待たなければならない。


「暇ならその辺を適当にぶらぶらしてろ」

「はーい。あっちに行ってもいいですか?」

「ん? そういえばいつもはこっちでのんびりしてるだけだったか? まあ、見てくる分には構わないが、いろいろとあるから気を付けとけ」

「はーい!」

 

 そう言って女性は長屋から出て倉庫のほうへと向かう。いつもは長屋で待つが、今日は男性が武器の作成をしていることもあり時間がかかるだろうと思い、興味あった外にある倉庫のほうを見に行った。普段からも行こうと思えば行けるが、一応居住施設のある個人の住居でもあるため相手から了承を得ず入るのは失礼だ。そういうことなので今までは行けなかったが、今回は男性から許可を受けているのでそちらへと向かう。

 倉庫の中。いろいろと物が置いてあるが、やはり男性が鍛冶を行っているためか、武器やら鎧やら盾やら、鍛冶で作ったと思われるものが散乱している。もちろんそれ以外の物も色々とあるが、基本的には鍛冶の品に目がいく。


「……うん、欲望にとらわれちゃダメ、うん」


 思わずそのうちの一つを持っていきたいところだが、さすがに窃盗はいけない。そんなことを思いつつ中を見て回っていると彼女の頭の中に声が聞こえた。


『あら? お客人かしら?』

「えっ!? だ、だれ!?」

『あなたから見て右のほうを見なさい。そこからまっすぐ進んで」

「は、はい…………」


 いわれた通り女性は声に従い進む。すると壁際に岩のようなものに刺さっている剣があった。


「……あれ?」

『ふふ、意思のある武器は初めてかしら?』

「えっ!? も、もしかしてこの剣なの!?」

『そうよ。初めまして』

「は、初めまして……」


 どうやら声の主は彼女の前にある剣のようだ。


『とりあえず、抜いてみてくれない? そのほうが話しやすいわ』

「え? あ、はい」


 女性は剣に手をやり、それを抜く。剣自体はかなりあっさりと抜けた。岩のようなものに刺さってはいるが、別に固定されているというわけでもない。


『ありがとう』

「どういたしまして」

『お礼に、あなたの体を使ってあげるわね』

「えっ?」


 女性は剣の言葉の意味が分からなかった。ただ、何かに押しつぶされるように自分の意識がもみくちゃにされるのを感じる。


「あ」


 女性はびくりと震え、ふらりと身体を揺らす。しかし、それも一瞬で次の瞬間には普通に戻っていた。いや、正確には、普段と変わらないように見える彼女だったというだけだ。


「ふふ、私と一緒にあなたも彼に愛される権利をあげる。意識は私だから身体のみだけどね?」






「おう、戻ってきた……おい」

「あら、怖い顔をしてどうしたの?」


 女性が戻ってきたのを確認し、男性が声をかけるが、女性の持つ剣をみて怖い顔をして睨みつける。


「まったく……まさかお前を抜くとはな。まあ、お前をみるのは初めてだったんだろう。ったく」

「私としてはありがたい話だったけれど。これであなたを愛せるわ」

「そいつの体はお前の物じゃないだろう」


 先ほど作ったばかりの剣を持つ男性。


「あら、どうするつもり?」

「お前のやっていることを止めるだけだ。おい! まだ消えてないよな! 意識が残ってるならきっちり抵抗しておけ!」


 そういって男性は女性に斬りかかった。







「うう……ん……あれ? 天井…………っ!」


 がばっと布団から起き上がる女性。


「あれ? 私、たしか……」

「起きたか?」

「あっ! ローガスさん……あ! あの剣は!?」

「ちゃんとしまっておいた。勝手に抜いたのは叱っておきたいが、あんな目にあったばかりだからな」

「っ……ごめんなさい」


 封印されていたような感じだった剣を抜いたのは彼女である。その点に関しては彼女が悪いのは事実だ。


「……でも、あの剣って危険なものなの?」

「下手をすればお前の意識が消えてたぞ。残っててよかったな」

「う……でも、なんでそんな剣を残してたんですか? 壊したりするのは……」


 持った相手の意識を乗っ取るような危険な剣。それを残すのはどうなのか。そう女性は言っている。


「まあ、確かに問題はあるだろうが……あんなのでも、一応俺を慕ってくれている存在だからな。俺の手で引導を渡すというのも複雑だし、武器を作る人間としてはできのいいあの剣を壊すのはどうかと思ってる。ああしておけば一応は安全だしな」

「…………」

「今回だってお前が抜かなければよかったしな」

「う」


 確かにそういう意味では剣を抜いた彼女が悪いのだが。


「できればあれの体の代わりになるようなものでもあればと思うんだが、鎧とかを作ってもうまくいかなくてな。性別的な問題か、生物としての肉体が必要なのか……理由はわからないんだが」

「そうなんですか……」


 そんな事情を聴き、その後手入れを頼んでいた武器を返してもらい、女性はこの場所から離れた。




 後日、女性が冒険の先で手に入れた剣の意思の体の代わりになる人形を持ってきて、いろいろと小さな騒動に発展する。まあ、問題が解決したという点では女性が剣の存在を知っておくのは重要なことだったのかもしれない。ある意味彼女のしたことの汚名返上の意味合いになっただろう。

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