fragment (異世界転生電話ラジオ)
『レディーーーース、アーンド! ジェントルメーーーーン!!!!! ラァジオの前のみんなぁ! 元気してるかぁっ!?』
「うわっ!?」
夜、明日提出しなければならない宿題を仕上げていると、机の上に置いてるラジオから唐突に何かの番組が流れる。今、ラジオはつけていないはずだが、一体何が起きたのかわからない。ただ、目の前のラジオから流れる声だけはしっかり聞こえる。
『今ー日は! 今までやってきた異世界放送! その異世界に行くための手段と、いける異世界について放送しちゃうぜぇぇぇぇ!!! メモの用意はいいかあっ!! 一回しか言わねーから、ちゃんと聞いてちゃんと書いて、このチャンスをものにしやがれぇっ!』
「……何この放送」
あまりにテンションが高い、そして内容もちょっと奇妙だ。そもそも、今まで放送されていたらしいが、少なくとも聞いたことはない。この時間帯にラジオを聴くことそんなにないので前にもやっていなかったという確証はないけど。
『まーず、最初にぃっ! 今回使う電話番号を言っておくぜえぇっ! 電話番号は9680-0000381-3588149673-5401、さらにこの後にはこの後紹介する異世界の番号を入れやがれぇっ! もう一度言うぜぇっ!? 順番に、少しづつ言うから、気になるやつはちゃんとしっかり記録するんだぁぜぇっ!!』
そう言って、もう一度ラジオの放送は電話番号を伝える。明らかに電話番号というには桁数がおかしい。どう考えても、このラジオの放送内容が本当の事であるとは少々考えづらいだろう。
「…………でも、何で記録してるんだろうなー」
本当の事とは思っていないのに、なんとなく、電話番号を記録する。ちょっと桁数が多いから電話できるかどうか怪しい……というか、無理なはずだ。しかし、それでも、何かこの番組を気にしてしまう。しゃべり方、熱意、放送を行っている司会者? その人物の話方がうまいからだろうか。いや、勢いだけな気がする。でも、その勢いにのまれている自分がいるのがなんとなくわかる。
『あと、電話するときは携帯なら通話ボタンを押さないでやれぇっ! 固定電話なら電話線はぬけぇっ! あとFAXは対応していないからそこは勘弁しろよぉっ!』
「えっ」
電話するときに電話線を抜いたらつながらないはずだが。やっぱり、ただの悪戯放送……? でも、そういう放送をするのも変な話だ。もしかしたら、電波ジャックとかそういうものだろうか。ラジオは別の、車のとか、外国の電波を受けることもあるっていう話を聞くし、そういった何かを受信したのかもしれない。
『いよおおおおおおおおおしっ!!! じゃあ、各異世界の紹介に行くぜえっ! ラジオの前のみんなぁっ!!! しっかり耳かっぽじって聞けよぉっ! まず、最初の異世界、それは機械文明の栄えた、多くの基準世界をベースにした世界と比べても格段に進んだ機械技術を持った異世界だぁっ! その世界では、空飛ぶ車、馬車や、電子世界、非現実的なあれこれまで機械で実現したぁっ! だがっ、わかってるなぁっ!? 機械技術が進めば、人間は弱くなる! 歩かなくなれば足腰が弱くなるし重いものを持たなければ腕は鍛えられねえっ! 技術の発展によって、その世界において人間は弱体化したあっ!! そのため、別の世界から人間を、ということでこの番組に白羽の矢を立てわけだっ! もし、この世界に行くことを決めれば、衣食住完備、雄だろうが雌だろうが、関係なく思い思いにハーレムを作って過ごせるぜぇっ! ただ、外に出しては貰えないだろうから自由を求めるならこの世界は諦めなぁっ! もし、この世界に行きたければ、この番組の終了後、先に言ったで電話番号の最後に491を付け加えろおっ! わかったなぁっ! てめえらぁッ!!』
「機械世界……ねえ」
よくわからないことも言っていたが、大体意味合いはわかる。技術的に発展した世界、ということだろう。そういった映画や漫画の類もそこそこあるから例としてはわかりやすい。しかし、自分たちが弱くなってしまったから、外部から強い生命体を求める、というのもとんでもない話だ。まあ、ありえなくはないんだろうけど、ちょっとわからない。それは自分がそういう世界の住人だから、なのかもしれない。
一応番号は記録しておくが、恐らくここに電話することはないだろう。
「……なんで、明らかに怪しい、信用ならない内容なのに記録するんだろう」
そこまで自分は異世界というものに飢えていただろうか。別の世界に行きたい、なんて思っていただろうか。もしかしたらちょっとした好奇心のようなものなのかもしれない。
『二つ目ぇっ!! この世界は、多くの世界の文明から遅れている野蛮で程度の低い世界だぁっ!!! 多くの世界には石器時代と言えばわかる世界は多いだろう! そういう所だ!! この世界にいるある部族、その部族が自分たちをまとめ上げ、戦いを勝利に導く頭脳を持った、リーダーになる存在を神に求めやがったあ!! 別に神様がそんな話を聞く必要はねえんだが、退屈しのぎや面白そうと言う理由で色々と便宜を図る神様は珍しくねえ! そういう神様が手を貸した結果、人を送るって話になったあ! 別に一人じゃなきゃいけねえってわけじゃねえだろうが、そんなに数は遅れねえから先着五名が限度だから注意しなあぁッ!! この世界に行きてえならっ相応の腕っぷしと頭脳を持っていることが前提になるから、行くつもりなら考えておけっ! 番号は1192だ! 自身がない奴はやめておけよぉっ!!』
「石器時代……国作りでもしろってことかな? でも、部族を引っ張る人間を神様に求めるってことは、やばいってことじゃない?」
神頼みをするってことは、それ相応な事態ってことになる。勝利に導く、ということからも、負けかけているのだろう。
「流石にないよな。記録はしておくけど」
ここに行くくらいならばまだ最初の方がいいだろう。もしこういう世界に行く人間がいるなら、それは英雄願望があったり、苦労をいとわないたいぷじゃないだろうか。
『いよおおおおおしっ!! それじゃあ三つ目行くぜえ!! 三つめはよくあるファンタジー、小説や漫画であるような幻想的な異世界だあっ!! たあだあしいー!! その世界では魔王という存在が生まれ、世界を支配せんがために、人間と争っている! そして、その世界における戦いは人間が不利な状況だ! そんな中、人間たちは異世界の勇者を召喚しようとしている! まあ、良く小説とか漫画であるような他力本願の話だあっ!! まあ、そんな話はどうでもいい! わからない世界の奴は、よくある英雄譚の英雄になれるチャンスだって理解しておけば良いぜ!! 異世界召喚は色々決まりがあって、そこの神様がそういう決まり事を守った結果、この番組にその話のお鉢が回ってきたわけだっ! ちなみにこれは先着一名だ! もし行けなくても文句言うんじゃねえぞっ!? この世界に行くなら、ある程度勇気、蛮勇の類でもいいから戦いに前向きな奴じゃないといけねえっ! ちなみに強くなくても問題はねえ、神様が能力を与えてくれるからなぁっ!!! 番号は718だっ!!』
「勇者ねえ……ありがちだけど、なしだな」
小説なんかではよくある話だが、勇者というのはやはり不安がある。戦うことに不安がある、というよりは戦後の話だ。英雄は死んでいる方が都合がいい、という話もあるし、仮に魔王を倒した後でも、戦争に駆り出される可能性はある。よくある話だと、人間に絶望して魔王化……なんてこともあったりするし。そこまでひどくはないにしても、苦労は多そうだ。
『最後ぉっ!! この世界は三つ目の世界とはそこまで変わらねえが、魔王とかそういう存在はねえ!! ただ、迷宮、ダンジョン、いわゆるそういうのがあって、そこを攻略する冒険者のいる世界だあっ!! そういうものがあるからあまりないっていばねえんだが、戦争があったりと実に人間らしい側面も珍しくねえ世界だ。この世界に行くなら、その世界の神様からちょっとした恩恵は受けられるが、貰えるのは本当にちょっとだから注意しなぁっ!! 基本的にはこの世界で冒険者になってダンジョン攻略、っていうのが主な内容になるぜえっ! なんでそんなことをするのか、って思うかもしれねえが、この世界は異世界の人間について寛容的だぁっ!! だが、異世界の人間ってのは勝手が違うから、扱いに困る。だから迷宮攻略を押し付けて半ば閉じ込める形で迷宮に行かせてるってわけだ。その分、あまり干渉してきたり、面倒ごとをさせたりはしねえみたいだが、その分迷宮で戦い続ける大変さがあるから覚悟はしておきなっ!! 番号は596だっ!』
「……ちょっと難しいな」
最後の世界も、内容としては微妙に感じる。一番安全やら何やらを考えるのならば最初の世界が一番いいだろう。ハーレムできると言う話でもあるし、安全は確保されているし、技術的にも進んでいてその恩恵は大きい。
『さあ、今回も異世界紹介、ついでに異世界へとラジオの前のお前らを呼び寄せる準備もしてあるぜぇっ!! 来たい奴は電話しなあっ!! スィーユゥーアッゲーイーン!!!!!』
ぷつっ、とラジオの音が聞こえる。放送が終わったようだ……が、なぜこんな終わり方をするのだろう。いや、そもそもラジオ放送を聞けたこと自体がおかしいのだが。
「…………えっと」
とりえあず、自分が採るべき行動を考えてみる。当たり前に考えるならば、何もするべきではないのだ。しかし、そういう思考とは裏腹に、手は携帯電話へと伸びる。少しだけ、迷いを見せながらも、遊びの気分で試そうとする。
「9680……0000、3813……5881……4967……35401っと、あとは…………596っと」
――もし、未来の自分が見ていたならば。このときの自分の選択を、遊び気分で手を出してしまった自分を、全力で止めたことだろう。