fragment (スキルメーカーのゲームのその後)
「や」
「……まさかこんなところで会うなんてね。ま、予想通りというか、いつも通りというか」
どこか明るい洞窟、または遺跡とも言えるような人工的な形状をしている道。そこはダンジョンと呼ばれる場所で、そこで二人は出会っている。片方は背の高い筋肉質ではあるが細見である男性。腰に二つの剣を携え、どこか軽めの防具を装備している。片方は背の低い女性……もはや少女と言っても過言ではないくらいに背の低い女性だ。しかし、幼さはなく既に成人していると思える。そして彼女は重装備、金属製のしっかりとしたその小さな体を覆う鎧に大きく太い、重量級の剣を持っている。他にも背中側に背負う剣が一本、腰に短剣が一つ。明らかに少女の見た目と比べると多すぎるくらいに剣を持っている。
「サービス終了でもやることは変わらないのね」
「ま、そういうもんだよ。いつも通りいつも通り。ほら、いつも通りだから」
「そうね、いつも通りね……もう何度目かしらこういうの?」
「さあ。こっちの勝ちの方が多かったか、そっちの勝ちの方が多かったか」
「どっちかが勝つより引き分けの方が多かったわよ。ここでリポップしたモンスターに襲われて途中終了」
「そうだっけ? 今回はどうなるかな?」
「さあ……でも、これで最後なのかしら?」
「最後だろ。スキルメーカーもサービス終了だしな」
スキルメーカー、サービス終了。そう言っていることからもわかるように、この場所は『スキルメーカー』と呼ばれるゲームのダンジョン内部である。
『スキルメーカー』。スキルを作成できるということをゲームの最も重要な点においた特殊なVRゲームである。そのゲームはサービス開始時の情報の少なさや、当初のシステム的な不便性などもあり、中々人気はでなかった。大幅なゲーム内容の拡充、不便な点の幾らかの改善によりある程度の話題と人気を博し、それによりプレイヤー人口を増やしたが、しかしそれもある程度。それ以後も他の数多あるVRゲームにシステム面や話題性、面白さで上回れ徐々に人が離れていく。それでもやはりスキルを自由に作れる……厳密な所ではないが、そういう性質があるということもありコアなプレイヤーは残ったが、それでもプレイヤーが少なくなり新規の参入者もあまり入らないとなれば、ゲームとしてやっていくことは難しい。
そうしてそれなりの期間続けられたが、こうして今回サービス終了が通知され、今日この日、彼らが今やっているのが最期の日最後の時間ということである。
「ところで、ログアウトはしなくてよかったかしら」
「VRゲームでは基本的にサービス終了で自然とログアウトするのが基本だし。他のゲームでもそういうものだったから」
「そう……じゃあ、思いっきり戦り合えるわね」
「邪魔が入ると困りそうだけど……」
「ま、その時はその時よ。いっそ邪魔があっても中断しなくてもいいかもね」
「それもありか」
そんな最後の日最後の時間だが、二人はいつも通りだ。いつも通り、いつも通り戦い合う。殺し合う。物騒な話であるが、今彼らのいる場所はあくまでゲーム、感覚的にはかなりリアルに近いが苦痛を大幅に抑えられたゲーム空間である。現実ではできないようなこともゲーム内であれば一定のレベルでは許容される。生死を伴う殺し合い、犯罪ともなりえるような行為、リアルでは扱えない武器道具などの類、魔法なども。
彼らはそんな中の殺し合い、生死のかかった戦い、決闘のようなものを幾度も行い続けている。ゲームだからこそ自由にできる。別にリアルで知り合いであるわけでもないし、お互いに組み合うような仲でもない。戦闘狂というわけでもなく、単にそういう機会があり、その時から続けてきたことだ。お互い何か噛み合ってしまったのか、機会があれば今いるこの場所で会い、お互い殺し合う、そんなことを続けていた。ある種の切磋琢磨にもなり、お互い技術が高まり悪いことでもなかっただろう。
しかし、そんな決闘も今日この日が最後の戦いとなる。
「さっさと抜きなさいよ」
「ああ、そっちはもう抜いてるし」
「体が小さいのに武器が多いからつけてらんないのよ。ほら、さっさとしなさい」
「はいはい」
男は腰の二つの剣を抜く。既に女性の方は剣を抜いている……というよりはしまうための物がないので抜き身のままなのはしかたないのだが。
「それじゃ……」
「行くわよ……」
「っ!」
「っ!」
剣がぶつかり合う。男は二つの剣、両手に剣をひとつづつ持っている。女性は両手持ちの大剣。ぶつけ合うには男の剣は一本で足りず、交差するようにして女性の大剣を受け止めている。
「はあっ!」
「っとお!」
力という点において、女性の体は小さいが男性よりもはるかに大きい。その力ゆえにその巨大な剣を扱えるのだから当然だ。弾き飛ばすように剣を受け止めた男を押し込む。それに弾き飛ばされるように男は女性から距離を空ける。
「ふっ!」
「っ! くっ!」
距離を空けた男は地を蹴り、壁を蹴り、天井を蹴り、身軽で狭い空間を飛び回る。その速度と軌道は縦横無尽、横から後ろから、自由自在な攻撃が可能だ。女性はその男の動きを目で追いながら対処しようとするが、相手の動きの方が早い。ほぼ横の斜め上からの攻撃を女性はその大剣を持って受け止める。
「はっ!」
「っと!」
その受け止められた剣、それを支えにして男はもう一方の剣を振るう。男の持つ剣は二つ。片方が受け止められてももう一方を扱える。しかし女性も何度も男と戦うだけあり、それは予見できていた。その攻撃を回避する。
「やっぱりなかなか当てられないなあ」
「何度戦り合ったと思ってるのよ。当然じゃない」
「じゃ、疲れるのを待つしかないか」
「ゲーム内で疲労なんてないわよ。まあミスがないとは言わないけど? でも、それまで持つかしら?」
「脳筋力押しにそうそう負けるつもりはないね」
「だれが馬鹿ですって!?」
「馬鹿とは言ってないじゃん!?」
大剣が振るわれる。怒ったように、驚いたように言う彼等のやりとりも大体いつもの通り。お互い慣れ親しんだ関係なのだからそうもなるだろう。そうやって二人は互いに向けて剣を振るい戦い合う。お互いそれぞれ独自のスキルを持つが、こういう決闘の場ではなかなか使いにくいものも多い。速く接近しあい戦うゆえに、仕えるスキルは近接戦主体のものばかり。だからだろう。決闘は長引き、決定的な終わりがない限りは決着がつきにくい。相手を殺せなければ戦いは終わらないのだから。
ゲームが終わる、そんな日であるのに、二人の戦いの決着はつかない。簡単に決着がつくようなら引き分けが多くなるようなことにはならないだろう。ゲームゆえに単純に当たれば殺せるというほど楽でもないのも理由かもしれない。
そんな戦いも、時間の経過とともに終わりが告げられる。何故なら今日はゲームの終わる最後の日なのだから。
「っ!?」
「っ!?」
剣同士がぶつかり合い、鍔迫り合いのような状態になる。そうなって少しして、いきなり証明が落ちるように空間が真っ暗になった。見える者はお互いのみ、足場も壁も天井も、まるで世界そのものが喪失したようなそんな状態。
「なっ……」
「動けない……?」
空間が無くなったからか、両者ともその体勢のまま動けない。どうしようもない状態だ。そんな中、声が聞こえる。
『……異常事態ですね。面倒な』
『そ、そうですけど……』
『やはり以前組み込まれ作動したものが原因でしょう。しかたのないこととはいえ、ブラックボックスに組み込まれた多大な仕組みが残った影響によるものです。あなたに引き継がれた後もそれは残り作動し続けた……それによる作用だと思われます』
『そうですか……』
『こちらにも責任はあります。とりあえず……現状残っているのはどれほどですか?』
『二十人もいないです。プレイヤー自体が少なくなっていることもありますし、最後の最後までずっと続ける人もそう多くはいませんでした。それでも十数人くらいはここに取り残されてます』
『魂を読み取り移す。この場に残るデータは……消しても良い物ですが、少々残った存在をただ消すと言うのも味気ない。勿体なくもありますね』
『そうですか? あなたなら世界運営に関わるものでもないし消去する者だと思いましたけど』
『どちらを選んでも得にも損にもならない……まあ、ここ残す意味も消す意味も、どこかに送る意味もない。とはいえ、ちょっとあの人が異世界転生とか異世界転移とか異世界召喚とかに関わらないよう、こちらで幾分か舞台を整えるのもありですし』
『そうなんですか……』
『ええ』
二人の女性の話し合い。それが何もない空間の中に響く。そしてその話し合いは終わり、そのうちの一人の声が動けない二人に響く。
『そういうことですので、あなた方には異世界に行ってもらうことにします。ここで消えることを望むのならば、それもまた構いませんが……死にたくはない、消えたくはない。そう思うのではないですか? であれば、大人しく従ってください。その世界でその体、その力を扱えるようにして送り出しますので』
問答はない。肯定か、否定か、その意志だけを問う。
「……ま、断ることもないよな」
「そうね……って言うか何、この状況」
話についていけない、理解できない、状況が把握できない。だが、結果だけは決まった。今この場にいる存在は消えることを選んだもの以外は異世界へと送り出される。
「っ!!」
「っ!!」
二人の体が次元の波に飲み込まれる。そうして、彼等の意識の消失と体の消える感覚と共に、この何もない場所から彼らの姿は消え去り見えなくなった。
skillmaker after。本来の意味で。fragment化ネタ。
別世界に行った人達とは別の元世界側のゲームのサービス終了時のお話。




