fragment (ゴブリンの住む大陸に異世界転移した魔王)
「はあっ!」
「ふっ!」
剣と剣のぶつかり合い。その戦いが行われているのは城、それも玉座の間のような場所である。剣を取り戦い合っている二人の人物は一人は若い、まだ青年にならない年齢の男性。いうなれば、高校生くらいと表現するのがいい人物だろう。それと相対するのは若い容貌をしているが、どこか威風堂々としており人間離れした見た目……いや、どう見ても人間には見えない風貌と容姿、姿恰好、角や翼のようなものが生えている。人間ではない。魔族である。
「やるではないか、勇者!」
「くっ!」
片方は勇者。異世界から召喚された勇者の才ある若者。
片方は魔王。魔族の中から高い実力と能力を見込まれ選ばれた王者。
いくら勇者の才があり、異世界から喚び込まれたとはいえ、戦闘経験の少ない高校生の若者では魔王と正面から戦うのは難しいだろう。しかしそれはあくまで一人の場合。
「手を貸すぞ!」
「こっちは魔王を攻撃する! 巻き込まれるなよっ!」
「俺も加勢するっ!」
勇者とその仲間。この場にいる人間側の仲間たちは全員で四人。魔王と相対し戦っていたのは勇者の才のある人物だが、他にも賢者の才を持つ者、剣士の才を持つ者、魔法使いの才を持つ者が存在する。彼等が喚ばれたのは勇者と同時。複数の同時召喚である。一部屋、高校生の若者たちが校舎で勉強している最中に部屋にいる人間を丸ごと召喚という荒業である。ただし、全員ではない。一定以上の戦闘の才を持っている人間のみだ。それゆえに四人、勇者の才と賢者の才と剣士の才と魔法使いの才を持つ四人だけが召喚されたのである。
なぜそのような召喚を行うことになったのか? それはあまり詳しく列記しても仕方の無いことではあるが、この世界では人間と魔族の戦いが激化しているのが要因である。理由は単純にこの世界のリソースの問題。つまりは土地と資源の問題である。人間と魔族だけでなく人間同士ですらもありえるようなよくある出来事だ。そのために喚ばれたのが彼等だ。勝手と思えることかもしれないが、喚ばれた理由に対処しなければ還ることができない。なので彼らは戦っている。
「くそっ!」
「傷つかねえっ! どういうことだよっ!」
魔法使いと剣士の攻撃は魔王を傷つけることができない。
「やはり調べていた通り、勇者以外の攻撃は通用しないのかっ!」
「どういう理屈だよそれっ!」
理解はできないが、魔王はどうやら勇者以外の攻撃が通用しないようである。ゆえに勇者だけが魔王と戦うしかない。剣士と魔法使いの攻撃は目くらましにはなるし、衝撃を伝えいくらか攻撃を逸らすことはできるがそれくらいにしかならないだろう。そんな中、賢者は勇者の支援を行い手助けをしている。
「くっ!」
「はあっ!」
そして勇者は魔王をかなり追い詰める。このままいけば魔王に勝つことはできるだろう……だが、それを魔王は許さない。
「勇者さえいなくなれば……いけるかっ!」
「なっ!?」
魔王が大きな力を放出し、一旦全員を吹き飛ばす。そして、何やら特大の謎の術式を準備し始めた。
「何だあれっ!」
「っ!」
勇者、剣士、魔法使いはわからない。だが、彼らの中で賢者だけはその脅威に気づく。
「……っ!」
「これで消え去るがいいっ!」
「させるかっ!」
次元跳躍術式。それが魔王がくみ上げた術である。勇者さえいなくなれば魔王は問題なくこの場にいる者を倒すことができる。何故なら彼らは魔王を傷つけることができないから。それゆえに奥の手、最後の手段ともいえる最大の術式である次元跳躍の術式。だがそれは賢者によって模倣された。魔王もこれには驚いた表情を浮かべている。
賢者とはあらゆる魔法に精通する者。才のみであった彼だが、その才を召喚により覚醒させられ、魔王の作り上げた奥の手の術式を見ただけで模倣できるほどまでの才を持つ。才能という点では勇者の方が高いが、賢者の彼の才は剣士や魔法使いよりも上であった。具体的には勇者を十にするなら賢者は八、剣士や魔法使いは五か四といったところだろう。
それはともかく、二つの次元跳躍術式がぶつかり合う。同じ術式同士をぶつけ合うことで相殺するつもりである……それが普通の術であるのならば、可能であったのかもしれない。だが両者が使っているのは次元跳躍を行うための術式だ。それは一種の世界への干渉であり、それが変にぶつかり合うこととなったのならば……それは大きな歪みとなり思いもよらない作用を生み出す。
「うおおおおおおおおっ!?」
「なっ!?」
光が生まれ、その場にいるすべてを包み込む……そして、その場から魔王と賢者の姿は消えていた。
「ぐっ……ここは……?」
魔王が意識を取り戻したのは広い原っぱのような場所。意識が途切れていた期間は魔王の感覚ではかなり短い間。
「繋がりが途切れている。そうか、次元跳躍の術が原因か。ふむ……」
魔王は魔族たちがいる場所において力を操りつかさどる役割を担っていた。魔族側の確保するリソース、そのエネルギーの中核に自信を繋げ接続し、全体への配分を行っていたのである。世界におけるエネルギーの共有を魔王は最初はもくろんでいたが、人間側の強欲によりそれができなくなり全面戦争となった。魔王側にとってはそれが真相である。
「私とのつながりが立たれた以上、魔族側の大地は滅茶苦茶な状態となっただろうな……敗北は必至か」
次元跳躍術式。その影響は大きい。なぜなら、それが本来ならば異世界、異次元への跳躍を果たさせるものである。それが二つの術式でぶつかり合い歪んだ形で発動したとはいえ、その役割は変わらない。つまり次元の跳躍がなされたと言うこと。あの場にいた術式を使用した二人……魔王と賢者。つまり勇者と魔法使いと剣士は残ってしまっている。それでは魔王という最も強い存在を失った魔族は敗北することに間違いないだろう。
「やれやれ……しかし、ここはつまり異世界であると言うことだな。どういう場所なのかを調べなければ……」
そう思いながら魔王は周囲を見回す。と、そうしていると彼の目に彼へと向かってくる存在を見つける。
「ギッ! てめっなにもんだっ!」
「……ふむ、ゴブリンか」
「しねえっ!」
「いきなり襲ってくるとはご挨拶だな」
ゴブリン。魔族側ではかなり弱い方に存在する魔族である。しかしこの世界でも同列かは不明だ。しかもいきなり魔族側の王として君臨する魔王を襲ってきている。まあ、それはこの世界が異世界であるのだから仕方がないことではあるだろう。
「敵か」
「げっ!」
攻撃をいなし、頭を掴み持ち上げる。
「……あの術を使ったせいで力が大幅に減じている。食わなければやっていられない。繋がっていれば話は違うのだが……」
「ぎゃああああああああああああああああああああああああっ!!」
魔王が掴んでいた手に力を籠める。そうすると掴まれていたゴブリンは苦痛の声を上げた。別に頭を掴む手に罹っている力が大きくなったとかそんな理由ではない。ゴブリンの持つ生体エネルギーが魔王に吸収されて行っているからだ。命の力を雑巾を絞るかのように吸い上げる、それが魔王の力であり食事の方法であった。それゆえに魔王は魔王として君臨できるほどの力と畏怖を受けていたのである。
「さて……ここが何処か調べないとな」
命を吸われただの抜け殻と化し死んだゴブリンを捨て、魔王は自身が目覚めた世界、その大地がどのような場所であるのか。その調査を開始した。
余り長続きしそうにないのでfragment化のネタ。
なお、同時に次元跳躍した賢者はまた別のお話で。




