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god slayer閑話 決めるのは土台と環境と人生

 私の最初の記憶はかなり曖昧な記憶だ。ただ、自分が生まれ落ちたその時のことを詳しく覚えているわけではないが、自分が生まれてすぐだったということだけは覚えている。その記憶もかなり昔の話で相当古いものだけど、ただ鮮明に覚えていることがある。生まれてから僅かな時間しか自分は生きていられなかった。自分の首にかけられた手の感触、よく見えない眼で見た女性の人影。そして、首を絞められる感覚。

 窒息か、首が折れてかは知らないけれど、ただそれで自分が死んだ。それだけを覚えている。


 それが一回目の自分の人生で、そのしばらくの間自分が送る人生だった。


 二回目に私は生まれ落ちて、そして同じ展開を繰り返した。それがなぜ起きたのかは知らないし、何故私の記憶の底にこんな記憶が残っているのか、そんな理由は知らない。ただ私はその時同じ家、同じ母、同じ父の下に生まれ落ちた。一回目と違って生まれ落ちてすぐも私の意識はあったのだと思う。明確にはわからなかったものの、父と母は感覚的に分かったことを覚えている。そして、一回目と同じ場所に寝かされ、一回目と同じ時間を過ごし、一回目と同じ運命を過ごした。

 二度目も自分の首に手を駆けられる。一回目の時はその意味を理解していなかっただろうけど、二回目はそうではない。一回目の時に死をもたらした、そのことは覚えていたはずだ。私は死におびえ、赤ん坊ながら叫んだ。しかし、その叫び声を聞いていたのか、聞いていないのか、だれも来ることはなく、私の二回目の人生は終わりを告げた。

 そして三回目が訪れた。二回目の終わりを覚えていたのか、その時の私は生まれてすぐに叫び続けていたことを記憶している。父や母はなぜそんなに私が叫んでいたのかはわからなかっただろう。ただ、赤ん坊なのだから生まれてから叫ぶのは当たり前だと思っていたのかもしれない。私はずっと泣き叫んでいたけれど、赤ん坊の体力にも限界がある。私は疲れて眠り、その時泣き叫んでいた理由を忘却したのか、それとも精神が落ち着いてしまったのか、そのあとは泣き叫ぶことはあまりしなかった。結局、三回目も前二回と同じようになった。首に手を駆けられ、泣き叫んだ。ただ、その時にそれ以前のことを思い出してしまった。もちろん、赤ん坊なのだから本当の意味で理解はしていない。けれど、二回とも誰も来なかった、前回は叫んだけれど誰も来なかった。叫んでも変わらない、そう思ったのだろう。だから私は泣き叫ぶのをやめてしまった。その時に少しだけ首の力が弱まったように私は感じたはずだけど、本当に少し、それも一瞬の間だ。後になってその時を思い出したら分かったけれど、その時はわからなかっただろう。結局結果が変わることはなく、私は死んだ。

 それ以降は私はあきらめ気味に人生を過ごしていた。ほんの数日とはいえ、私は生きていたのだからそれを人生と呼んでもいいだろう。理由はわからないが、生きて死ぬまでの記憶は残っていた。それを奇妙に思うだけの思考も、意思も、精神もなかっただろう。赤ん坊として生まれたばかりなのになぜそんなふうに人生を諦められたのかはわからないけど、同じ死がずっと続けばそうなる。自分の人生を決める間もなく、殺されてしまう運命。そんな生を続けていれば。そして、私はほんの数日の生を何回も、何十回も続けていたからか、それとも記憶を引き継いでいたからか、理由は不明だが、少しだけ精神の成長があった。だからと言って何の意味もない。すぐに私は死ぬ。精神が育ったところで肉体が変わらないのだからどうしようもなかった。


 ある日、その運命が変わるその日までは。


 何十回か、何百回かはわからないけれど、ある時運命は変化した。生まれ落ちてからいつもの私が殺される日、それは私の記憶、感覚でわかっていたけれど、その人生の時にその日は来なかった。ずっと諦めていた運命が変化し、私はその時泣き叫んだと思う。その叫びを聞いて、私の下に来たのはいつも私を殺しに来る小さな人影だった。その人影は泣いていた私を慰め、抱きしめてあやしてくれた。その温かさは私にとって初めての感覚だった。何故運命が変化したのか、そんなことを考えるだけの思考力はなかった。ただ、その温かさを私は記憶の底に、魂に深く刻んだだろう。

 その日から数年がたつ。私の精神成長は普通の人間と比べれば異常だっただろう。私は生まれ落ちた時点で多少の精神成長があり、日数だけで考えれば一歳以上の精神年齢があったはずだ。たった数日を繰り返していただけなのだからそこまで精神が成長したとは思わないが、それでもその精神成長の差は大きい。ただ、私の家には私以上に異常な存在がいた。それは私の兄である。

 私の兄は異常な私から見ても異常だった。一緒に過ごしていればわかる。明らかに精神がその年齢とは思えないくらい成長しているのだ。自分を棚に置いて話すのはどうかと思うけれど、異常である自分から見てもそう思うくらいだった。兄に比べれば私の精神成長の速さは大したものではないと思われただろう。

 そして、あの日私を抱いて救ってくれたのも兄だった。私がなぜ死ななかったのか。その理由も兄だった。私は私を殺した人のことを覚えている。それは私の母とは違う母親、私の兄の母親だった。私の父は貴族で、母はその側室という立場だった。正妻は兄の母だ、別に母と兄の母の仲が悪いということはない。ただ、なぜ私を兄の母が殺していたのか。私は色々と情報を集め、推測を立てた。恐らくは、私が死んだ運命の中では兄は死んでいたのだ。いつ死んだのかは不明だけど、兄の母は自分の子が死んだのに、私が生まれ生きている。それが許せなかったのだと思う。突飛な推理かと思うかもしれないけれど、兄が生まれた時に息をしていなかったが吹き返したということを聞き、思ったことだ。もちろん確証があるわけではないけれど、私が死んだその運命では兄の姿はなかった。あの日のように私が叫んで兄が来るということはなかった。もしかしたら、兄は死んだ兄に入った別の誰かかもしれない。少し非現実なことを考えすぎだと思うけど、私の記憶も、兄の精神成長も結構非現実的だ。そんなことを考えても信じられる程度には。

 そして、それは私の父、母、兄の母に対しての不信、とは少し違うけれど、家族への愛を抑えこんでしまう要因になった。私が死んだとき、叫んでも誰も助けに来なかった。それは父や母が兄の母の行いを容認してしまったということなのかもしれない。もしかしたら違うかもしれないけれど、私はそう考えてしまった。だから私は家族への愛に制限ができてしまった。ただ、それは兄に対しては別だった。そして私は兄によって救われたという気持ち、向けるべき対象のいない家族への愛情、様々な感情から兄に対して強い想いを持ってしまっている。恐らくそれは誰かに話せば異常だ、おかしいと言われるようなことだろう。それの何が問題なのだろう。

 私は兄を愛している。兄のためにこの命のすべてを費やしてもかまわない。兄のために私の人生のすべてを捧げてもかまわない。どうせ私の人生は何度も終わり続けたその先にあるものなのだから。私は何度も生きて、死んで、そのさなか兄に救われ生きているだけの人間なのだから。だから、私は兄のためになることを行おう。それが私の兄に向ける想い。


「リフィちゃんに手を出したら、流石にお兄ちゃんも怒るでしょうし、駄目ね。やはり懐柔が一番でしょうね」


 ベッドを見る。今の人生を送る私が生まれてからもう十数年。私の気持ちやその精神性を知っている父や母は貴族の娘である私をどこかに嫁入りさせようとはしない。実にありがたい話だ。最も、私を他の家に嫁がせれば私がその家を兄の都合のいいように動かせるように作り変えるようにするのだから、そんなことをする娘を嫁がせるわけにもいかないのだろう。だから私は家に残れるのだけれど、問題はそのあとだ。私は兄と関係を持ちたいと思っている。側室というのは無理でも妾みたいな立ち位置で問題はない。別に身体を捧げることができなくてもいい。その全てを兄のために費やせればそれだけで満足できる。だけど、贅沢な話だが想い人と繋がりたいという想いはある。そのうえで最大の問題になるのがリフィティア・リュジートイ、兄の婚約者であり私の友人であるリフィちゃんだ。

 正直、あの子は素直な子だ。あれくらい素直な子であれば、攻めて堕とすことは難しくなさそうだ。精神に衝撃を与えて依存させてもいい。やりようはいくらでもある。兄はしばらくいないし、父や母はこちらにあまり関与してこない。同じ部屋で過ごすのだからやりようはある。ただ、それをしてしまえば兄は私のことを許さないだろう。そして、自分のために私が友人であるリフィちゃんに手を付けたということに傷つくだろう。私だって友人関係であるリフィちゃんにはいろいろと思う所はある。ただ、私の場合はそれ以上に兄の方が大事だと言うだけだ。ただ、兄のためにという理由で友人に手を出せば兄は傷つく。それは私望むところではない。それをしてしまえば私は私のためにリフィちゃんに手を出すということになる。兄のためではなくなる。それは私のすべきことではない。


「私のすべては兄のために。ただ、少しくらいは私が望んでも……いえ、そういう考えはいけませね」


 兄のために。私の全ては兄のために。


「想いを叶える必要はない……ただ、可能性だけはあってもいい、ですよね」


 それは免罪符にすらならないだろうけれど。兄のためにすべてをささげた少しの余り、そのくらいは……

ヤンデレヤンデレ言ってるけど、ヤンデレだって最初からヤンデレってわけではないケースもある。まあ、自分の書くヤンデレは一般的なヤンデレケースとは違う感じだけど。病み方もまた色々。

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