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fragment (異世界移動した魔王と異世界移動した魔法使いとその器)

「ぐああああああああああああああああああっ!!」


 ある世界で魔王が滅ぼされた。そうしてその世界は平和になったのであった。






 と、どこにでもよくある英雄譚、御伽噺のような出来事があり魔王が討伐された。しかし、全ての魔王がそうして大人しく討伐されると言うわけではない。魔王にも魂などの存在を残す手段を持つ者も珍しくはない。何度も復活する力を持つ魔王、継承する形で時代を生み出す魔王、場合によっては生まれ変わることもあるだろう。この魔王は魂を残し別の場所で魔王として復活する道を選んでいた。


『おのれ……! よくも我を……しかし、我を殺すことがいる場所に戻るのも危険だ』


 自分を殺せる存在がいる場所で復活してもまた自分が殺されるだけ。そうであるならばもっと別の場所で復活したほうがいい。


『世界を渡る。今の私ならば…………うむ、流れに押しつぶされない場所を通ろう。世界の垣根は意外に大きいものだ。それにできれば近い所の方が安全だ。流れや道筋は先に把握しておかねば危険だな』


 魔王のくせに妙に安全策を取りたがるが、世界移動はそれほどまでに危険なものなのでそれも仕方がないと言える。そもそも自分を殺した存在がいない世界で復活しようと言うのだから危険を避ける傾向があるのだろう。それはそれで悪い物ではない……魔王でなければ。

 そうして魔王は世界を移動する。意外にあっさりとした移動だ。


『よし、これで……まずは我を満たせる器を探さねばな』


 魔王と言う存在は普通の有象無象の存在よりも格上である。存在としての格が上位である。力もまた強く、持ち得る技能も多彩、特化している場合もあるが極めて高い実力を有することが多い。例外もあるが、基本的には上位者である。なのでその存在を満たせる程強い物でなければ魔王と言う存在を許容することはできない。そもそも、それは元々そこに生きているその存在を奪い去ることであるのでかなり悪質な行いだが。


『ほう……あの者はかなりの力を有するようだな』


 魔王がふわふわと魂だけで漂いながら自分がその存在に取り付き器となる肉体を奪うのに良さげな相手を見つける。見つけた以上善は急げと早急にその存在に近づき、魔王はその存在へと入り込む。


『さあその体をよこすがいい!』


 魔王の持ち得る能力は魂だけとなった現在でもかなり多くのものが残されている。これは魂となる際に魔王が次の肉体を得た時に継承できるようにと自身に手を加えて残されたものだ。魔王は自分が討たれる前から殺された場合の対策はしていたのである。用心深い。

 そうして魔王はその存在の体に入り込んだ。そしてその体を自分のものにしようと自分の力をその器に満たそうとする。しかし……なぜかそれはうまくいかない。


『なっ!? なんだ!? いったいなぜこの体を我が物にできないのだ!?』

「…………まったく。いきなり人に取り付いて何をしてるんだか」

『貴様っ! この体を大人しく我によこせ!』

「何故渡さなきゃいけない? まったく、ただの魂如きがうるさいな。それ、少し弄ってやろう」

『な、なにをする!? う、うわあああああああああああっ!?」


 自分の中に入った魔王の魂を取り付かれた存在、魔法使いの男は好き勝手弄りまわす。


「来い、駄猫」

「だ、誰が駄猫だ! 我は魔王! 世界に恐怖をもたらす絶対的な者だ!」

「それ今のお前の姿で言えるか? ああん?」


 魔王と呼ばれた存在。それは取り付いた魔法使いの男に改造され、猫の姿にされた。俗にいう使い魔と呼ばれる存在である。


「我をこのような姿に……貴様、どうやってっ!」

「どうやってっつってもな。普通にちょっとあれこれ弄っただけだが」

「ななな、なんだと!?」

「何せ俺はこの世界最高最強の魔法使いらしいからな。よく知らんが周りはそう言ってるぜ?」


 どうやら魔王の取り付いた先はこの世界でも最高位の魔法使いであるようだ。それゆえにその実力は魂となった魔王ですら好き勝手できるようだ。それほどまでにこの男の力は高いと言うことである。実際に魔王以上の実力があるからこそ、いや魔王よりもはるかに高い実力があるからこそ、魔王に抵抗されずに好き勝手なことをできた。魂だけとはいえ魔王はやはり魔王である。それを好きにできるほどに高位の実力者である。


「お前、名前は?」

「魔王である我に個を示す呼び名は必要ない。そもそも名前を訊ねる前に自分が名乗るのが先であろう? 失礼ではないか?」

「人の体に勝手に入り込んだ魂野郎がよく言うな。まあ、こっちの名前くらい教えてやろう。ハイルシェリト・ブロファリアンだ」

「長いな。ハイルでよかろう」

「人の名前を勝手に略すな。まあ、別に呼びづらいならそれでいいが……ってか使い魔だろお前。まあいいか。お前の名前はマオーだ」

「……ちょっと待て! 我の名前はマオウではない! 我は魔王だがマオウというのは名前ではないぞ!?」

「気にすんな」

「気にするわっ!」


 そんなやり取りをする面白おかしい……いや、べつに面白くもおかしくもない普通の魔法使いとその使い魔。そんな二人に彼らはなったのである。







 と、そんなことがあったのも昔の話。


『ふはははははは! 我が主が殺され、我は自由となった! 何がマオーだ! 我は魔王である!』


 マオーの主、ハイルシェリトは暗殺された。いくら高位の強力な魔法使いと言えども、常にその身を守る手段を講じているわけではない。それこそ外部からの攻撃に対してはかなり注意して対策を講じていたのだが、それが味方からの攻撃、さらに言えば暗殺であるならまた話は違ってくるだろう。いくらなんでも味方から最高位の魔法使いを失うようなことをして来るとは思っていなかったのが一因である。もちろん本当に全くそのようなことをしてこないとは思っていなかったものの、そこまでして来るかと思う所でもあった。まあそこに関しては対策をしていなかったハイルシェリトが悪いのであるが。


『ああん? 誰が自由になったって?』

『は……はあっ!? 何故貴様が!? 死んだのではなかったか!?』

『それ、お前が言えることか? 自分も魂だけになってるだろうが。あの時のお前と同じ感じにしてるんだよ』

『そんなバカなっ!』


 いくら何でも当時マオーが魂だけで行動しハイルシェリトに取り付いたことをあっさりとやってのけるのは納得がいかない様子である。それほどまでにハイルシェリトがやったことは異常だ。チートじみていると言ってもいい。


『しかし、どうしようか……魂だけでいてもしかたねーしなあ』

『そこは肉体を作るとかできないのか主よ』

『できるわけないだろ……ま、前のお前さんみたいに適当に肉体探すか』

『ほう、我と同じ手を使うか主よ』

『お前みたいに誰でもいい、その相手を乗っ取り殺すみたいなことはしない。ま、獣とかそういうのの肉体を借りて作り直しとかそういうのが一番いいだろ』


 相手が人間でなければいいというわけでもないだろう。しかし、人間のような明確で強い意志のある存在でなければまだ許容的であるかもしれない。そこは結局人間と言う存在の勝手な考えによるものだが。


『ん……?』

『どうした主よ』

『何か引っ張られる感じがする。ちょうどいいかもな』

『なに!? う、うわああああああああああ!!』

『いちいち叫ぶなよ……喧しいぞ』


 むしろ何も感じないかのように動じていないハイルシェリトの方がおかしい。そんな彼等のことはともかく、ハイルシェリトはまるで何かに引き寄せられるかのように別の世界へと引っ張られていく。彼の使い魔として未だに繋がりを維持されているマオーもまた一緒に。








「だ、誰か……助けてください……」


 綺麗なドレスを纏った少女がその身を横たえている。彼女の見た目と比べ、その体を横たえている場所は明らかに硬質な石の台。寝台やソファのような柔らかい場所ではなく、さらに言えば彼女はその身を拘束されている。動けないように、逃げられないように、その体を横たえている石の台に拘束されていた。


「誰も助けに来るものなどいない」

「あなたの目的は何なのですかっ。お願いします、離してください」


 黒いローブを着て、部屋の中でしかも薄暗くろうそくの明かりしかないのにローブについているフードを被り顔を隠している誰がどう見ても怪しい男。しかも何やらドクロの付いた杖を持っており明らかに私は呪術師です的な雰囲気がとてもする怪しすぎる男である。


「それはできないぞ……ククク、何故ならお前はこれから最強の魔物を作るための生贄となるのだからな!」

「さ、最強の魔物を作る生贄っ!? ど、どういうことですかっ!?」

「冥途の土産に教えてやろう。この魔核心臓を見るがいいっ!」


 そうして怪しい呪術師は宝石のようなものを見せる。赤黒い多角形の宝石のようにも見えるおどろおどろしいがどこか綺麗で毒々しく禍々しい石。大きさはそれぞれで違い、拳大の者から爪程の大きさの物まで種類豊富である。全部で二十二の魔核心臓がある。これは魔物と呼ばれる存在、それもかなり強力な魔物からとれるもので、大きさによりその魔物の強さが決定する。小さい物でも魔核心臓を持つと言うだけで魔物としてはかなり強力な存在である。

 それを二十二も用意していることの男はかなり強いのではないか。もしかしたらどこかから盗んだり冒険者などの魔物を倒す実力を持つ者に金で依頼するなどして得たものかもしれない。そこはわからないが、その魔核心臓を用意していることからも男が何かをするつもりであることは間違いない。


「この魔核心臓を使いお前を最高の魔物に仕立て上げる。王家の血筋に存在すると言われる神の力、それを魔核心臓と融合させるのだ! そうしてお前を最高の魔物にしてこの世界を滅ぼしてくれようっ!」

「そ、そんなっ!」


 具体的にどうやってやるかは言わないのは呪術師がケチだからか、言っても意味がないからか。そもそも説明をすることじたい必要ないともいえるのだが。冥途の土産と言っている割に教えてくれる情報が少ない。しかし、どうやら王家の血筋の少女、恐らくは王女であると思われる少女を魔物を作るための核にするようだ。魔核心臓は力の塊であるが、それ自体に生命としての作用はない。生命体として王女を利用しそこに魔核心臓を力として作用させると言うことだろう。具体的にどうやって魔物にするかはわからないが。


「ふふふ……さあ、魔核心臓をお前の体に埋め込んでいくぞ」

「ああああああああっ!」


 生きたまま体に大きな宝石を埋め込まれていく少女。痛みで叫びをあげるも、呪術師はそれを聞いて愉しそうに笑うだけだ。その手の趣味があるのではないかと思われる。そしてそのまま全ての魔核心臓を少女に埋め込み、呪術師は少女から離れ杖を掲げる。


「さあ! 生まれ変わるがいい王女よっ! 我が最高の魔物としてなっ!」


 杖を掲げ何やら呪文を唱える呪術師。その影響で王女の体がびくっと震え、暴れ出す。


「あっ、あっ、あっ、あ」


 バンッとはじけ飛ぶかのように王女の体が膨張する。体、というよりはその肉体が膨れ上がり肉の塊へと変貌していく、ぐちゅぐちゅと音を立てながら体がどんどん大きくなる。それは形を形成するに至らない。まだ王女であったそれは明確な意思もなく何になるかも決まっていない。それゆえにただの肉の塊へと変わっていくだけだった。それが分かっていたので呪術師は彼女から離れたのである。


「ふふふ……さてどのような姿にしてやろうか。やはり最強と言うことだから竜にするのがいいだろうか、それとも蜘蛛や蠍などもいいかもしれんな……うん? 何? 勝手に縮んでいく?」


 膨れ上がった肉体はなぜか大きくなることを止め、逆に縮んでいく。それはどのような形態になるかが決定したかのようである。小さくなっていった肉の塊は人の姿を形成する。服を纏った男の肉体を。服は何処から持ってきたのか。その服もまた肉体の一部である。


「何故だっ! 何故勝手に……」

「ふう。まったく。いきなりなんだと思ったが……悪くない肉体だな」

「なっ!? 勝手にしゃべり出した!? 我が意に従え!」


 呪術師が魔物を操る術を使おうとする。呪術師が作り上げた魔物ならば当然のように呪術師が従えることができる。そのはずだと言うのに、その術は男へ通じない。それもそのはずだ。その男は呪術師が作り上げた肉体を乗っ取ったと言うだけで呪術師に作り上げられた存在ではない。その制御は全て男が奪い、男の肉体を形成するに至ったのだ。


「誰が従うかバカ。っていうか外道な真似をしてやがるな」

「何っ!?」

「俺が言うのもなんだが……今までの報いと、あと俺を操ろうとしたお返しだ」


 男が指を向ける。それだけで呪術師が消し飛んだ。


「おー。凄いなこの体。魔力がとんでもない量だ……っと、出てこい」

「ようやくか。全く、我をすぐに呼び出さないなどとは不遜な!」

「黙ってろ駄猫」


 男の手によって猫の使い魔が現れる。その名はマオー。そして男はハイルシェリトである。


「ところで、娘は出してやらんのか?」

「どうするか。あの子は解放してやりたいんだけどな。別に俺もあの子を拘束する気はないし」

「しかし、体の核となって引きはがせんのだろう……まったく面倒な話になっておるな」

「ま、とりあえず話を聞いてみるか」


 ハイルシェリトが魔法を使う。もっとも、ハイルシェリトの得意分野ではない新しい分野への挑戦となってしまうので最初は完全な魔力によるごり押しとなってしまう。それができるのも今のハイルシェリトの体が大量の魔核心臓を埋め込んだという特殊な肉体であるためである。


『ひっく……あれ? え? 私いったい……』

「大丈夫か?」

『えっ!? あ、あの、これはいったい……ひゃああああっ!? 体、透けてますっ!?』


 先ほどの王女が肉塊に変わるその前の姿そのまま、来ている物もそのままに姿を見せる。ただ、自分自身の姿を見て驚いている発言にあるように彼女の体が透けている。魂だけであったハイルシェリトやマオーとも違う、いわゆる幽霊に近い状態である。


「落ち着け。お前は自分がどうなったのか覚えてるよな?」

『は、はい……確か、私の体は……あの時、あの人の手によって滅茶苦茶に変えられてしまって……それで、あれ? それから……どうしたのでしょう?』

「今の俺の体がその時滅茶苦茶に変えられたお前の体だ。あの時俺があの肉の塊になったお前の体に入って今の俺の体に作り替えたんだ」

『そう……なのですか』

「お前に返しようがない、そもそも肉体としては完全に俺の物になっている状態だな。それで、同じ体の中にいるお前を見つけて今ちょっと仮初の形で外に出してやったんだが」

『……それはありがとうございます。本当は私の体を返してほしい所ですが……あなたにそれを要求しても仕方ありませんよね』

「そもそも以前のお前の体はもうないからな。完全に俺の体に変わってる。それで、だ。お前を外に出すことはできるんだが、あくまで今のように肉体もない状態で、しかもお前の体がこの体を作るうえでの核になっているせいで切り離すこともできない。切り離したら多分お前は消えることになるだろう。流石にそれは嫌だな?」

『そう、ですね。せっかくまだ……私の意識だけでも生き残れているのに、本当に、完全に死んでしまうのは……』

「まあ怖いか」


 誰でも死ぬことは怖い。せっかく王女は意識だけとはいえ、肉体は完全に失いハイルシェリトの肉体にその意識がとりこまれ縛られ離れることすらできない状態とは言え、死んでしまうのは嫌だろう。


「ま、そう言うならなんとか肉体を戻す方法を探ってやらなくもない」

「ほう、主にしては優しいな。別人か?」

「もともとそこまで過激なことをしているつもりはないぞ? 普通の人間と同じだが?」

『本当ですか!? ありがとうございます!』


 王女の肉体を元に戻す。元には戻せなくとも、新しい肉体を作りそこに意識を移す。魂や精神の状態が厳密にどういう状況であるかは不明だが、ハイルシェリトはそれをやってあげるようだ。そもそもハイルシェリトは悪人ではなくわりと普通の人間である。それなりにいい人間としての部分もある。マオーや呪術師は勝手に弄られたり消し飛ばされたりしているが、そもそもマオーはハイルシェリトの肉体を奪おうとし、呪術師は王女を今の状態に追いやった最大の要因である。死んで当然と言うわけではないが、彼らはハイルシェリトにそうされただけの原因が存在する。


「さて……まずは何処に行こう。ここって別世界だろ?」

「そうだな。まあ、適当にうろつくのでも構わんだろう。何かやることがあるわけでもないのだからな」

『それなら、私の……フグレンシアの国に行ってください』

「フグレンシア?」

『はい! 私はミリエル・フグレンシア、フグレンシアの王女です! まずは私の今の状態を伝えに行きたいです』

「なるほど……」


 王女の頼みにハイルシェリトは迷う。仮にミリエルの言うとおりにした場合、絶対に色々と問題が起きるだろうなというのがハイルシェリトの予想だ。しかし、そもそもハイルシェリトはこの世界について詳しいわけでもない。逆に王女のことを伝えることで王家の手を借りられるのであれば、今後がかなり楽になる。


「よし、なら行ってみるか」

『ありがとうございます!』

「いいのか?」

「ま、何かあっても対処できるさ」


 そうしてハイルシェリトとマオーとミリエルの三人のフグレンシアまでの旅が始まるのであった。

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