slime閑話 それは物語に恋い焦がれるように
それを見つけたのは偶然からだった。それを見つけたのはそれがスキルを願ったからだった。
私はその願いにこたえる。何故ならそれが私の仕事だったから。スキルを与える役割が私の仕事である。
神格、スキルを管理しそれを必要とするものに付与すること。もちろんその対象にとってふさわしいものでなければならない。
またスキルを得るのに必要な空き、器がなければならない。それも考慮し、それに<圧縮>のスキルを与えた。
奇妙に思うかもしれないが、それが望む現在の形と状態の維持にはふさわしい者だろうと思ったからそうした。
それは『スライム』だった。
面白い生き物だった。人間のような思考を持つスライム。いや、彼の思考を追う限りでは実際に人間だったようである。
転生と言うこと自体は普通に世の中あり得るが、大体は同じ生き物である。別の生き物にはなりにくい。
いや、実際には別の生き物になるケースも珍しくはないのかもしれない。しかし、魂の形質、性質もある。
あまり過度に生命体の魂に変化を与えるような入れ物に移すことはないはず。だからスライムと言うのは少々おかしい。
でも、まあ、そういうこともないことはないのかも。そう思いつつ、私は彼の様子を見ることにした。
世界上層である私たちのいる場所は世界管理のための場所である。ゆえに何か起きるようなことも少ない。
つまり退屈だ。だから世界下層で生きている生き物の様子を見るのが退屈しのぎになる。
なぜ彼を見ようと思ったのかというと、それは彼が良きものとして珍しかったからだろう。意志持つスライム。
彼の生き方は退屈だった。でも、それは確かに生きることを目的とした生き方だったと思う。
そしてその成果は確かに現れた。彼は進化条件を満たした。スライムの進化条件は確か一定以上の力の内包?
確かそんな感じだったと思う。少なくとも私はあまりそういうことに詳しくはない。関係していない内容なので。
だけど彼に関しては私がしばらく対処しようと思う。他の人に見つけられると私の関与がばれる。
別にばれてもいいけれど、それだと私が退屈をしのぐために彼を見ることができなくなるかもしれない。
仕事自体はしているので文句を言われないと思うが、しかし知っている者は少ない方がいい。
私はまた彼にスキルを与えた。<擬態>スキルだ。彼は生存に特化している。生存意志に特化している。
人間に下手に関わらないのも人間の危険度合をしっかりと認識しているからなんだろう。
元人間だからこそ、人間と言う存在の恐ろしさを理解している……もしくは、人間だからこそ関わりたくないのかも。
今の彼は魔物、スライムなのだから。下手に人間とかかわると人間に対する危険になるし、人間からの危険にもなる。
それにしては、人間を助けるために動いたのは……やっぱり姿かたちが変わっても彼は人間だと言うことらしい。
生きたい、死にたくない、生きるためにと願っている割に、彼は先へ先へと進む。迷宮の奥底へ。
彼の生きたいはただ死にたくない、無為に生きるというものではなく、活きる、この世界で自分らしく生きる事らしい。
だから進化したときのように成長を目的としている。いつか外へ出るために、強さを得るために。
そんな生き方をしているからか、彼は魔物に狙われる。いや、魔物自体同じ魔物でも食い合う。生物としては当然。
その魔物は彼を明確に狙っている様子。その結果、彼はその魔物の目的、その命令を出す主格を倒しに行くようだ。
そして、その魔物の集落で彼はそこに囚われている人間を見つけた。私としては、それは……あまり口に出したくない。
痛ましい、そうも思う。私がその場にいれば、集落を消し飛ばし……彼女たちはどうするべきか。少し迷う。救うべきか?
彼も思う所はあったようだ。しかし、彼は……彼女たちの願いをかなえたようだ。そして、進化できるようになったらしい。
なぜこのタイミングなのだろう。そう思う所は私にもある。ただ、彼は、それが彼女たちの想いに見えたようだ。
そんなはずはない、そんなはずはないはずだけど。でも、もしかしたら……これは運命というものなのかもしれない。
私が彼を見つけた時のように、彼を見始めた時のように。
その後<変化>のスキルを与え、その後も彼は先へと進む。スキルを与えた時も死にかけたと言うのに、それから何度危機があったか。
彼が無理無茶無謀をするたびにこちらがハラハラする。心配させないでほしい。
でも、彼の生き方はより生きる方向へ、より強くなる方向へと向いているようだ。前にあったことのせいかもしれない。
人間を食すると言うのは彼にとって禁忌だったのだろう。死体は自分で殺したわけでないのでよかったかもしれない。
だけど、活きている人間を直接食するのは彼にとっては禁忌だった。多分無意識だけど、今までよりも余計に急いでいるように思える。
気のせいかもしれない。
また彼は進化した。あまりにもペースが速いと思う。普通の魔物の進化速度とは全く違う。
これは恐らく彼が成長する意図を見せているからだろう。もう少し彼に自由にかかわれるのならばいいのに。
私の役割ではそれができない。まあ、それが行える神々もほとんどいないだろう。下位の神ならばどうにかできるかもしれないが。
いや、無理か。それにしてもワイバーンの巣? そんな場所で生活するなんて無謀な、と思ってしまう。
彼はいまだにスライムなのだから。進化してもスライム種であることには変わりない。スライムは最弱とも言われるくらいに弱い。
それで亜ではあるけど竜種のワイバーンを倒すのだからまた恐ろしい話だ。どれほどまでに彼自身は強いのだろう。
今度はボスラッシュらしい。奇異に過ぎる。この迷宮自体もそうだが、彼自身の行いに関しても。
しかし、彼の意思であればそれを無視するのも違う。彼は彼で、彼なりの生き方を、彼なりの生活を望んでいる。
私だって自分の生き方を曲げられるのは嫌だから、こちらからそういう誘導もできない。まあ、もともと誘導なんてできないけど。
彼に足りないのは防御力、あらゆる攻撃への防御力。<防御>のスキルを彼にあげた。スキル的にはどうだろう。
そういえば、以前あげた<変化>は耐久対応能力のものだったけど、いつの間にか攻撃性の高い使い方をされている。
まあ、彼に与えたスキルなのだから彼の望む通りに使えばいいのだけど……そんな使い方もあるのだと驚かされた。
早い、早すぎる。進化がどう考えてもだれがどう見ても早い! 理由は明白だ。場所の良さだ。
場所というか環境と言うか。あの迷宮に配置されている魔物、それも強大な魔物、俗にいうボスラッシュ。
そのボスラッシュで倒した魔物を全部取り込む。各所の攻略はまあいいけど、敵わないなら先に進む道を進めばいいのに。
竜くらいなら、強くてもあの狭さなら多分もう勝てる。しかし、それよりも恐らくは強いだろう横道の魔物を相手にしている。
一体何をやっているのですと思う所、しかし彼はそれらに勝っている。絶対あれは勝てるように置かれていないはず。
とはいえ、相手の不利と自身の有利をうまく利用し勝利した……まあ、二度目は挑まないようだ。そして進化。
彼はそれから竜を倒しに行った。そして余裕で勝って先に進む。本当に転生者である彼は奇異に強い。
彼には<跳躍>のスキルを与えた。同時に彼は<空中跳躍>のスキルを手に入れた。それで文句を言われている。
とは言っても、その文句はお門違いである。私の与えたスキルとは違う自動習得のスキルはまた枠が違う。
枠が違うと言うか、<跳躍>スキルに付随しているスキルという扱いだ。ゆえにスキルの空きはまだある。
まあ、彼にはわからないだろう。自分のスキル管理をできるような立場に在るわけでも、そういう道具を使えるわけでもない。
わからないでもいい。ただ、彼にそこまでスキルは必要なのか、とも思う。彼の強さはスキルに由来するものではない。
転生者、人間らしい知恵と知識と発想と悪知恵と意地汚さと頑張りと蓄積される努力と必死さである。
だから、スキルがなくてもたぶん問題ない。実際ヒュドラには勝ったようだし。って、そっちに行ったらダメ!
ふう……どうやら進化で迷宮の主には許してもらえたようだ。まあ、他者の進化の様子を直で見る機会は少ないだろう。
しかし彼も緊張感がない。なんでこちらがハラハラとして見守らなければいけないのだろう。近くに行ったら注意したい。
側に行って、匿って安全に保護したいくらいである。できないけれど。
そして、どうやら一番奥まで行って、ヒュドラまで倒した彼はようやく迷宮の外に出るようだ。
これまでとは違い回りが閉鎖的で魔物ばかりの物とは違い、外には多くの人間がいる。
元人間の彼とは言え、大丈夫だろうか。少し心配になる。今までと一緒で心配なのは変わりがない。
彼はどうやら観光気分だ。人間の跋扈する色々な国や色々な街をよくそんな暢気な感覚で移動できるものだと思う。
まあ、彼は実際それくらいに強いからこその自信だろう。もしくはそれほど人間に警戒を抱いていないか。
実際ヒュドラくらい強い相手でもなければそうそう彼に勝つのは難しい。ヒュドラに真っ向から戦って勝つくらいでなければ。
だから安心していくのは構わないが、しかし世の中にはスキルという者がある。もうちょっと注意してほしいものだ。
そうそう、今彼の目の前にいる幽霊とか! 幽霊に防御力とか関係ないのに! 悪霊だったらどうするんですか!
と、そんなふうに思ったが、どうやら彼女は、幽霊であった彼女は消え去ったようだ。長い間あそこに縛られていた。
しかし、その縛る原因を彼が回収し、所有権を移したからだろう。あれは少々特殊なものだから仕方がない。
そして得た物を捨てるつもりもないみたいだから<同化>のスキルを提供する。これで多分大丈夫。
海の中、自由に行き来できないのは大変だろう。私も周りを何とか見通すのは大変だ。届く届かないではなくて暗い。
光の無い場所はこちらから見ても光の無い場所である。おかげでかなりこちらも見る力を高めなければ見えない。つらい。
まあ、何か色々と彼は回収していっている。その中の一つはどこかであった宝剣の類、魔剣の類だ。
見えなくてもはっきりとその力が分かる程……っていうか、あれは古い時代の物で相当なものだ。
同化でよく保管できたと思うけど、あれは剣側の意思もあったのかもしれない。海の底で眠ったままは嫌でしょうし。
人魚たちの対応は……あの子の以外はちょっと文句をつけたい。でもここからでは言えない。つらい。
まあ、あの子が彼にちゃんと対応してくれただけで今回は良しとしましょう。もし下に降りる機会があれば、ちょっとお灸をすえますが。
海に入ってから、誰かと接触する機会が彼の中で増えている。幼女……大丈夫、敵にはならない。
かなり仲がいいというか、一方的とはいえ好意を抱かれている状況はそこまで嫌ではないかもしれない。
従魔スキルもあの子が得ているし、もしかしたら彼が彼女と一緒に過ごす未来はあったかもしれない。
でも、最終的にそうはならなかった。やはり人間という者は未知を恐れるものだ。ただでさえ魔物である時点で危険視されるのだから。
彼がいなければどうなったか。それもわからないのだろうか。まあ、彼があの場にいたのは……やはり、何かあるのだろう。
こういうのを私が言うのはいけないが、彼の出来事はどこか運命的というか、何かに関わっている。
行く先々でいろいろ起きているのはどう考えてもおかしい。平穏無事に済むことがない。そういう運命なのだろうか。
今度はエルフ、こっちがハラハラドキドキするのでもう少しイベントは勘弁してください!
次は吸血鬼……流石にちょっと、もう大変な事態ですよこれ。それにしても、街を救うですか? 聖人か何かですか?
いえ、少々言い過ぎですね。普通の人でも危機に陥っている人がいれば助けようと言う気持ちは生まれるものです。
まあ、気持ちがあっても実行するかどうかはまた別の話になるわけですが。実行しなくてもいいものなのに。
神である私がそういう発言をするのはよくないかもしれませんが。彼がそう望むならばがんばれとしか言えません。
しかし、まあ、あの吸血鬼がヒュドラよりも強いわけがないんですよね。なら大丈夫でしょう。
進化しました! 最終進化です! しかし、彼の持つ力はとんでもないことになっています……そろそろ神になるべきですね!
こちら側へと引き上げ出来ますよね? たぶんできますよね? それよりも、彼が女性と一緒にいるのですが!
早くこちらに引き込むべきですね! わかりました、彼にその通達を! なんとしてでも!
急ぎましょう……彼女は別に彼をどうにかしようと言う気はないです。繋がり的に部下のようなものです。
ですが、上司の安全のために閉じ込めるくらいはやりかねません! 私ならやります!
……少々テンションあがりすぎました。とりあえず、彼は最終進化の状態ですし、迷宮の主になることでしょう。
実際その兆候はすでに始まっています……うまく誘導しないと行けません。
全てを行うのは彼が眠りについてから、ですね。ようやく、彼に会えるわけですか……楽しみです。




