center 魔王と呼ばれる者と能力
「この世界にある大陸はかつては古代大陸のみでしたがー」
世界に存在する大陸の話。歴史としてはおかしな話ではないが、中心世界と呼ばれる蒼空界では少々奇妙なことになる。かつてこの世界には国は一つ、大陸も一つという世界観であった。それからぽつぽつ国も大陸も増え、現在の状況下となっている。
この世界において大陸は四つ。古代大陸、霊律大陸、魔源大陸、妖珠大陸。厳密に言えば氷結大陸と呼ばれる場所もあるが、人類種を含めた多数の生命が住まう場所と言う括りで言うのならばこの四つが基本の物となる。
しかしなぜその大陸の話を歴史でやるのか。通常ならば世界の地理的な話であり、歴史でやることではない。だが先に話した通り、この世界での大陸や国の情勢、発生要因、構成要素。そもそも最初から大陸は存在していたわけではないと言うことなのである。大陸はこの世界が生まれてから時が経つにつれ増えて言ったものだ。まあ、それを正しく認識している者は少ない。しかし、大本の歴史でも五千年前の時代から大陸というものがそもそも存在していないみたいな話もある。ゆえに歴史的な話でも間違いではないのかもしれない。
「現状の世界の情勢ではー、いろいろとありますがー、国の状況では」
「先生ー」
「はいー、なんですかー?」
一人の生徒が質問をして来る。
「魔王ってすごいのー?」
「その質問を今ここで何故私にするのかわかりませんがー、強いですよー?」
魔王の話。この世界にも魔王と呼ばれる存在はいる。恐らくは大陸の話をしており、そこで霊律大陸の魔王領の話になったからだろう。魔王と呼ばれているが、別に魔族や魔物を従えているわけでも、人類の敵対者と言うわけでもない。魔王と呼ばれる本人は人類の敵対者としての側面を利用し、うまい具合に強者を呼び寄せ腕試し的なことをしたりもしているが。
「でもなんでそんなことを聞くんですー?」
「えっとねー、お婿さんがねー、これから魔王を倒しに行くって言ってたのー」
「お婿さん? 最近の子供はませてますねー……あ」
質問をしてきたのは少女。以前異世界からの転生者について話していた少女である。それを思い出してああなるほどと思ってしまう。なぜ異世界からの転生者は無謀なことをしたがるのか。この世界にもいろいろと秩序があるというのに。まあ、そういう危険への挑戦は若者の特権である。多分殺されないだろうから、遠慮なく挑んで容赦なくやられて現実を知ってほしい。そんなふうに教師である彼女は思う。
「お婿さんですかー……あれですねー、完全にからめとられてますねーこれは」
さて、少女に声をかけてきた男は果たして自分から声をかけてきたのか。少女に縁を結ばれて声をかけたのか。最初がどちらかはともかく、もはや少女の認識的に完全に囚われていると思ってもいい。まあ、そこまで悪いことにはならないだろう。少女に声をかけてきた男も別に悪人ではないのだろうし。
「さてー、魔王についての話ですがー、別に魔とかついているから悪い人じゃないですよー。そうですねー、そのあたりのことについて話しましょうかー」
授業の後半。歴史の授業で行われるこの世界について子供たちが知りえていない様々なことを色々な形で教える天羽風那の独特の授業スタイル。
「ではー、質問は今回は受け付けずー、魔王とその関係……魔王が魔王である要因、彼女の絶対能力についての話もしましょう。本来能力関連はその授業でやるべきですがー、絶対能力は少々特殊だから深いところまではやらないでしょう」
「先生ー。絶対能力って何ー?」
「はいはい、その解説は後でしますねー」
そうして魔王についての話が始まる。そもそもこの話の発端は魔王についての質問だったからである。
「魔王。各種創作、各種世界においてもっとも強い敵、人類種の敵対者、世界の支配を目論む者、様々な形で存在しますー。場合によっては単に魔族の支配者、魔族の国の王としてもありますがー、大体の場合結構な強さである存在ですねー。まあ、魔族種の王ならその立場になるのに強さが基準になる可能性は大いにあると言えますから当然といえば当然だと思いますけどー」
多くの場合魔族は実力主義である。まあ、この世界でも多くの場合は実力主義、金銭や権力だけで世界の頂点に立つのは難しい。なぜそうなるのかと言うと、この世界を含め多くの世界では魔物などの戦闘能力が必要な脅威が存在するからである。とはいえ、世界によっては普通にお金や権威が力を持つ場合もあるし、基準世界においてはそもそも魔物などがでないし、そういった権威や金銭力もまた力の一種であるともいえる場合もある。
とはいえ、やはり個人の実力が高く、生活スタイルに戦いの多い魔族種などでは本人の実力を良しとすることが多いのはある種当然と言えるだろう。この世界でもおおむねそれは変わっていない。
「この世界でも魔族は基本実力主義です。まあ、魔族に限らず多くは実力主義なところはありますがー、では魔王とは何か? そもそもこの世界における魔王は前提として魔族種の長、王、まとめ役とかそういうものではないですー。そもそも彼女は魔族ではないですしねー」
「えー」
「じゃあ何なの?」
「まあ、一応魔王、王としての振る舞いはしていますけどー、別に魔族しかいないとかそういうわけではないですー。魔王領は聞こえはよくないですがー、つまりは彼女の治める国であると言う事実に変わりはないでしょうー。元々は彼女は単に魔王という称号と能力を有しているだけだったわけですー。それがわざわざ国を興すことになったのは、当人友人家族、仲間に色々複雑な事情があったからでしょうー。今はそれなりに安定していますが、当時はエルトナージュの機械都市がうるさかったですしねー」
エルトナージュはこの世界に存在する国の一つ。四つの都市と中心に謎の多い<エルトナージュの塔>が存在する国で、その四つの都市もまた癖の強いものが多い。それぞれで別種の特徴を持ち、その中で閉鎖性が強く外とのかかわりを持ちたがらないのが機械都市だ。その名の通り、機械で様々な物を作っている都市で、この世界における機械文明、その中でも特に人型機械に関してはこの機械都市が一番研究しているだろう。もっとも、人型機械がもっとも発展している場所ではないのがまた複雑な情勢であるのだが。教師の言う事情もそこに関わってくることだ。
もっとも、その事情に関しては今回省かれる。必要な情報ではないし、色々と面倒ごとが降りかかってくる内容だからだ。特にこの話を書いている書き手に対して。
「魔王という特殊性ですがー、これはもともと彼女の能力が<世界>だったからですねー。彼女は魔王と言う存在、もしくはそれに近い性質を持つと認識され、それゆえに世界にそういう役割、在り方を強いられていましたー。別に彼女はそれを悪いと思っていたわけでもないでしょう。実際<魔王>の能力はかなり強いはずですしねー。ですがー、彼女はそれで満足しませんでした。彼女の周りにいる者も実力者が多かったから、というのもあるでしょう。特に三女さんと五女さんは中々に強いですしねー。特に三女さんは世界的な歌姫ですから偶像化と信仰、集合意識によるイメージの付与、多彩な性質をまとめて力として有しているがゆえの強さがあるからこそ。別に魔王が弱いと言うわけでもありませんしー、そもそも彼女は家族ともいえる存在ではありませんー。他人ではないですが、しかし決して近縁の者とはいいがたい所はありますねー。まあ、彼女たちは近しい所で過ごしていたのはありますがー……ちょっと話がずれましたねー」
魔王と言う話から、その彼女についての話ではなく、その周辺事情の話に移っていた。偶像、集合意識は以前話した名前のことについても関わることだが、むしろこれに関してはその時話したこととは逆に近しいもの事であるため詳しく話すとまた長くなる。今回はあくまで魔王とその能力種に関してだ。
「えっと、まあ周りの状況もあって魔王は力を求めましたー。その結果ー、能力種は<世界>から<絶対能力>になったのです」
「絶対能力ってなにー?」
そもそも<世界>の能力種に関してもどの程度わかっているというのだろうかと言いたくなるぐらいだが。
「<絶対能力>は、この世界において世界に与えられる能力基準で与えられた能力……ではない、能力です。いうなれば世界の力を超える能力種のことです。先ほど<世界>の能力種に関して話しましたがー、本来世界は自分を超える能力を自分の世界内部に存在する者が持つことを認めません。当然です。自分を超える、破壊できる能力を持っていたら世界が殺されかねません。そもそも世界がそのような能力を持つ存在を生まれさせること自体不可能でしょう。なんでって、自分の能力を超えている存在をどうやって生み出すのかと言う話になるからですねー」
リソースの問題とでもいうべきか。それとも出力的な問題とでもいうべきか。自分の才能以上の物は作れない、自分の出せる力以上の力は出せない、空いている穴以上の大きさの水はホースから出ない。たとえ話ならいくらでもある。わざわざ自分を壊せる危険なものを作ろうとはしないし、そもそも作れないと言うのが共通的な意識になるだろう。
だが世界は謎が多い。意図して作らなくてもなぜかそういう存在が生まれることがある。ただ適当に文章を書いたらそれが魔法陣になってしまったり、なんとなく配置した積木が多大な影響を与えるオブジェになったり、ちょっと武術を教えたらそれ以上の武術を生み出してしまったり。それが才能によるものか、偶然によるものか、運命によるものかはしらないがそう言ったことは起こりえないことではない。
「ただ、そもそも<絶対能力>はどうやって入手できるものか不明ですー。魔王は自身の力足らずを気にして鍛えた結果ですがー、それ以外の絶対能力者は例えば自身の能力の本質部分、根本部分に気づいたとかー、親が持っていた神意の役割を引き継いだとかー、はたまた自身の起源の存在が影響していたりと、得ようとして得られるわけではありません」
彼等全て自身の能力を<絶対能力>にしようとしてそうなったわけではない。特殊な状況、血筋、立場、もしくは運命か。
「さて、現在判明している<絶対能力>、よく知られているのは<魔王>、<滅亡>、<氷結>の三種ですねー。後ろの二つはよく知っていると思いますがー、誰ですかー?」
「世界三強ー!」
「はい、そうです」
世界三強。厳密に言えばその三人以上の強者がいてもおかしくはないのだが、なぜかその三強が世界の最強者の基準である。まあ、神とかも含めてしまうと世界の強者分布は複雑な様相を取ってしまう。あくまで人間、人類種の最強基準で判断するべきだろうということでその三人であるらしい。
「<滅亡>はあらゆる存在、あらゆる物質、あらゆる力……つまりはどんなものでも消滅、滅ぼすことのできる能力ですー。まあ、本人は絶対能力としてその力を使うことはほとんどありませんー。世界に存在する力まで消し去ってしまいますからー。それに彼は珍しい複数の能力を持つ人ですから、それを使うほどの危険は早々ないでしょう。<滅亡>無しでも三強に含められる可能性がある程です。<氷結>は全ての存在の氷結……まあ、正確に言えば停止させることができるというのが強みですねー。その停止をわかりやすく表すのが氷結であり、これによって氷結させれば炎ですら氷の中に閉じ込めることができます。消滅させる能力ですら氷の中に閉じ込めることができるのですから相当強いですよねー」
<絶対能力>とはかなり出鱈目な能力である。まあ、世界に喧嘩を売っているともいえる能力であるためしかたがない。もはやそれ自体が世界法則に等しい代物であると言ってもいいものであるのだから。
「<魔王>は魔王であるという能力です。正確に言えば、魔王であることならなんでもできます」
「え? なんでも?」
「はい、何でもです。ただ、その基準がまた広いんです。だって、その魔王であるというのはあらゆる世界の魔王と言う但し書きがつくわけですからねー。捜索でもなんでも、『魔王』とされる存在であれば、その存在の力を扱える。<世界>ではそこまで強力にするのは無理です。できなくもないですがー、やはり制限はつくでしょう。本当に際限無しなのは<絶対能力>ゆえのものですねー」
<魔王>の<絶対能力>に限界はない。本当の意味であらゆる魔王の扱える能力を扱える。まあ、再現上の限度はあるだろう。例えば身体的特徴が必要だったり、男でなければ不可能であったり、その世界特有の事象が関係していたり。まあ、身体的特徴が必要なことは彼女の場合できなくもない。何せ彼女はキメラである。いや、キメラであるという特殊性を持つ<マテリオル>だ。彼女の特殊性は知り合いの三女に近しいが、彼女の場合ちょっと独特な要素が強い。まあ、そこに<魔王>としての能力もまた関わってきていることになるのだろうけれど。
さて、そんなことを話していても子供にとっては難しい話。まあ、歴史の授業よりはまだ面白いかもしれないが、やはりちょっとくどいというかつまらない所もある。
「先生ー」
「はい、なんですか?」
「魔王ってどれくらい強いのー?」
強さに関して。この世界におけるいろいろとわかりやすい話である。
「そうですねー。まあ、一応あれで国主ですしー、かなり強いですよー」
「どれくらい強いのー?」
「そうですねー。同じ<絶対能力>持ちですから三強ともまともに戦えるでしょうねー」
世界三強。世界における最大戦力と同等というのが基準であるようだ。破格である。
「まあ、彼女の強みは何といっても多様性と持久力でしょうねー。他が弱いのではなく、彼女が少々特殊なのですがー」
<滅亡>や<氷結>と違い、<魔王>には他にない強みがある。それが多様性。世界において魔王と言うのは多種多様、個々の能力も違ってくる。それらすべてを扱えるのだ。いうなれば、神の魔王版ともいうべき存在である。あらゆる魔王の要素を持つがゆえに、その大きな力を有しているのが彼女と言うわけだ。確かにそれは強いだろう。魔王という存在に対する概念や信仰もまた彼女の下に集まることになり、その力を扱えると言うことになるのだから。
むしろ、それを相手に真っ向から対抗できる<滅亡>や<氷結>の方がまともでないと言うべきかもしれない。まあ、そもそもまともなら世界三強なんかやっていないのだが。ちなみに、世界三強のもう一つの能力は<神速>。ただでさえ速さを追究している彼女の能力だが、そのうえで彼女は<テンカウント>と呼ばれる技法を二段階以上で扱える。つまり、一秒を百秒以上にできる。他の人間でも一段階では扱える、というかそれ以上に扱えるのがおかしい。そもそも時間の加速は特殊な技法であり、神儀一刀を学ぶことで技法として得られるもので実力者であれば普通に使っている場合もあるがそれでも限度はあるものだ。まあ、それで常識を超えたことができるからこその世界三強なのだが。そういう意味では<絶対能力>とそこまで変わらないのかもしれない。
「ちなみに彼女が世界三強に入らない理由は彼女の立場の問題で」
そこまで話したところで授業終了の鐘が鳴る。時間は無慈悲に過ぎるものだ。
「ああ、残念ですねー。今回のお話はこれで終わりですー。気になるなら自分で調べるのもありですよー。ちゃんと宿題はやっておいてくださいねー」
「えー!」
「もっと話してよー!」
「最後まで聞かせてー!」
「残念ながら授業が終わりましたのでー」
あくまで彼女の語る内容は授業の一環である。しかも語り切れなければそこまでという先を気にさせる鬼畜さ。まあ、自分で調べるのも重要だと教えているのかもしれない。




