alchemist後日話 騒動は身内から来たりて
ちょっとあれな内容かもしれないので同性愛・GL・ふたなど引っかかるところがある人は注意
港町。ミツヤスが自身の師であるティザーと別れた街であり、アーシェやその師匠が住んでいた家のある街であり、またアーシェとミツヤスとフェリの三人が結構な時間をかけて戻ってきた街である。現在、三人は自分たちが住めるような物件がないかを探し、またその物件の内容や住む場所、値段などを見ながら話し合いと交渉を行っていた所である。そして彼らは一件の家のある土地を買い取ることができた。アーシェとしては師匠に話す前に勝手なことをしたから怒られるとか、色々と困ることになるかも、みたいなことを言っているが場合によってはアーシェは師のところで過ごしてもよく、ミツヤスとフェリの住む家にしてもいいということで問題はなくなった。問題があるとすればミツヤスとフェリが二人で済むことだが、この二人は特に二人自体に密接な関係性があると言うわけでもなく、アーシェを介した形でのつながりがあるくらいなので特にこれと言って問題はない。そもそも二人がアーシェを裏切ると言うこともない。
もっともそういった話はアーシェの師匠が戻ってきてからの話になるのだろう。少なくともまだアーシェの師匠は戻ってきておらず、今のところは特に何もない平穏な状況だ。
そしてアーシェ、ミツヤス、フェリは三人で別々の部屋に寝ている。たまに二人、二人、三人で一緒に眠ったりあれこれあったりするが、別に毎日ずっと一緒、くっついて寝ていると言うわけでもない。その時の気分次第である。そんなふうに別々に寝ているアーシェの部屋にこの家の物ではない誰かが訪れた。その人物はいろいろとセキュリティが仕掛けられている錬金術師の住まう家に、ミツヤスの気配探知に引っかかることなく入ってきた謎の人物である。
「ふっふーん。中々奇妙な体験といい縁を得られる楽しい旅をしてきたようだね、アルシェリット。ここでの生活も悪くなさそうだし、戻ってきたらこっちで住まうことも許可してあげよう。まあ、ちょーっと試練を課してみるのも楽しいかな? 今のアルシェリットで無理なことはさせないつもりだけど……ある程度、アルシェリットの錬金術の実力がわかってからにしようか」
その人物は他の誰も同じ服を持っていないと考えるような珍しい服装をしている。部屋の中であるのに帽子をつけ、手袋腕輪、首飾りから肩掛け、腕章からイヤリングなど様々な装飾品をつけ、奇妙ともいえるような様相をしている。そんな妙な格好をしているのに、彼の気配は誰も感じることができないような小さく隠れた気配で、動きから発する音は存在せず、空気の揺らぎのようなものも感じられない。
彼の首にかけられている首飾りは部屋の中でうっすらと光を放っているのだが、その光は周囲を照らすことはなく、彼やその空間を見えさせると言うような奇妙な状況かを生んでいる。それはある種の魔法的な光ともいえるものなのだろう。通常の物質が放つような光ではない。
その光は今の彼の状況を作り出すものだ。彼が誰にも気づかれないのはその首飾りの効果である。そのような魔法道具の類はこの世界にない。いや、正確に言えば作る人間は普通には存在しない。一つ、それを作ることのできる人間、人種、職種をあげるとすればそれは錬金術師のみ。そう、先ほどの言葉からもわかることだが、彼はアーシェの師匠である人物である。
「しかし、まさか女の子といい仲になるとはね。ふうむ……あの男の子ともいい仲であるのだから、別に女が好きというわけでもないのだろうけど。二人を好きになるかあ。本人たちが納得し受け入れ幸福に生きられるのであればそれもまたよかろう、といった感じかな? しかし、やはり絶対に得られない幸福もあるから完全には肯定できないかな」
女性同士の恋愛を否定するつもりは彼にはない。しかし、女性同士は通常の恋愛とは違い絶対に達成できないこともある。男性同士でもそうだが、これだけは異性との恋愛でなければ不可能と言ってもいい事柄だ。それの存在は仕方がないことだが、しかしやはり幸福というものにそれが存在しない状況はよくない。
「ふっふーん。だから、何とかしてあげようアーシェ。これでも私は君の幸せを望んでいる人間なのだから。あの女の子も存分に幸せにしてやるといい!」
そう言ってアーシェの師匠である人物が何かをする。そしてそれが終わるとアーシェの部屋から去っていった。
「ふええええええええええっ!!?」
家の中にアーシェの悲鳴がこだまする。ベッドから落ちたような音はしなかったが……いや、痛いからって悲鳴を上げることもないか。今のは驚いたような感じの悲鳴だったような気もするし。
「何かあったのかしら?」
「さあ…………」
三人の中でアーシェは一番目覚めるのが遅い。場合によってはフェリか俺が起こしに行くくらいである。仮に目が覚めてもすぐに起きてこなかったり、のんびりとしたところがある。この街に戻ってきてからは尚更。
どたばたとアーシェが降りてくる。何か焦ったような、困っているような、そんな感じだ。
「おはよう、アーシェ」
「お、おはようございますミツヤスさん! じゃ、ない! えっと、ええっと!!」
「おはよ、アーシェ。とりあえず落ち着きなさいよ。何、悪い夢でも見たの?」
「おはようフェリちゃん! 夢、夢? 夢じゃない! うーん、でも、でもー!!」
言おうとしているが言えない、言いたいが言えない、こう、言葉は出てきているのだが最後に詰まっているような、そんなふうに言いたいが言えない感じの詰まり方。待ってもいいのだが……さっさと言わせないと時間がかかるだけだろう。
「言いたいことがあるのなら早く言った方がいいぞ。どうせ迷っても最後には言うことになるんだから」
「そうね。言わないなら言わないで私が口を割らせるし」
「ううー……その、嫌わない?」
「嫌わない」
「嫌わない」
「何を言うかも言ってないのにー!」
そのあたりはもう、信頼してもらうしかないな。今更アーシェを裏切ることを俺たちがするのも変な話だ。
「で、結局何なんだ?」
「うう……えっと、これ、なんだけど」
「ア、アーシェ!?」
アーシェが自分のスカートをまくり上げる。フェリも驚いているし、俺だって当然驚く。目の前でそんなことをされれば。ただ、まあそもそもそんなこと以上に驚くこともあった。下着を降ろしていたとか、そういうのもあるが………………なんというか、ついているのである。アーシェには存在しない、男のアレが。
「えええええっ!? ど、ど、ど、どういうことよー!?」
「私が知りたいよー!!」
「何、ミツヤスから伝染ったの!?」
「病気みたいな言い方をするんじゃない。えっと、それはいつからついてた? 確か……前に見た時にはついてなかった思うが」
俺もちょっと混乱しているが、フェリの混乱具合を見ていると比較的冷静になれる。ただ、まあアーシェについているというのは、男としてどうにも複雑な心境になる。見たところ別に女の部分がなくなってアーシェが男になった、というわけではないみたいだが。俗にいう両性具有、ふたなりになった感じなのだろう。問題は何故アーシェがこうなったか、だ。少なくとも前にアーシェとしたときにはついてなかったのははっきりしている。フェリとそういうことをしたときのことは知らないが、少なくとも驚いている以上は知らなかったと言うこと、つまりはついていなかったということのはず。
「少なくとも昨日はついてなかったから、今日から……かな?」
「今までそういうことは?」
「なかったよ」
「体質とかそういうものではない、ってことか。まあまず病気ってこともないはずだし……そういうことがあるとすれば、やっぱり怪しいのは魔法とか錬金術とかそっち方面かな」
しかし、特にこれと言ってアーシェに影響のある錬金術とかはしてなかったと思うが。
「うーん…………心当たりはないかなー」
「まあ、そうだよな。とりあえず、何か原因がないか探ってみるか…………フェリ?」
「…………はっ! な、なにかしら!?」
「あんまり食い入るように見てやるな」
「……ごめんなさい」
まあ、フェリとしては……どうなんだろうな。アレに本来の機能があるなら、フェリはアーシェとの子供が作れることになる。まあそこまですることを二人が考えているかはわからないが……少なくとも、女同士のそれとは違う、まともな関係に…………は、ならないか。どっちにしてもアーシェが女であることには変わらないし、そもそも男とか女とか明確に分かれるんじゃなくて両方が一緒になった形だ。アーシェとしても複雑できついことのはず。
「まず原因を探るか」
そういうことでアーシェの部屋に入る。錬金術関連ならばアーシェの師匠のところが怪しいのだが、この家でもアーシェの部屋にはいろいろとある。
「……相変わらずだな」
「ちょっと汚いわね」
「うぐ……はっきり言われると傷つくよ」
部屋の中はちょっと雑に物がおかれていて、女の子の部屋らしさはちょっと薄い。まあ可愛い小物とかもあるんだけど、こう倒れていたり、床の上に置かれていたり。整理整頓がなされていないと言うわけでもないのだが、そのうえでちょっと雑に物がおかれている。まあ汚部屋というほどでもないのだが……それでもどこか汚い、と思わせるような雑感の強い部屋だ。
まあ、それはいいとして。ここに原因があるとしてもどこにあるか。
「……これ、何か書いてあるぞ」
「え? あれ? こんなもの置いた覚えないけど……」
「雑において忘れたとか?」
「それは流石にないよー。この部屋の物はちゃんとどこにあるかわかってるし」
乱雑に置かれていても、部屋のどこに何を置いたか所在だけはアーシェはわかるらしい。だからこんなふうにどこか雑な部屋になっているのだろうけど……まあ、それはいいとして少なくともアーシェが自分でおいたものでないとすると、つまりこれは別の誰かの置いたもの。俺やフェリがこんなものを置いていくはずもない。ならば、誰かとは……誰だ?
「読むか。えっと……"一緒に住んでいる女の子のために、男の物を生やす薬を飲ませました。なくすためのものもちゃんと用意しています。しばらくはそれでよろしくやってください。男の子にとっては複雑な心境になるかもしれませんが女の子のため我慢すること。師匠より"って、書いてあるんだが」
「………………」
「………………」
「馬鹿師匠ー!!!」
アーシェの叫び声が朝の時間帯、静かな家の中に響く。なお、このアーシェの部屋は錬金術関連のあれこれもあるのでしっかり防音にされている。外には漏れていないので安心してほしい。
「で、アーシェは錬金術の作業をしているんだな?」
「まあね……やっぱりいきなりあんなものが生えたら気になるんでしょ」
「…………だろうな」
いきなり男のアレが生えたアーシェはそれをどうにかする薬をつくれないかと色々試している。もっとも、まずどうやって生えさせたのかが不明な時点で生えた物を失くすのは難しいだろうと思われる。自分で実験するにも薬系は怖い。
「私としてはなくなってほしくはないんだけど……」
「あれば便利か。まあ、フェリにとってはそうだろうな」
「何よ? 悪い? 女同士でって言うのは、ちょっと、こう、複雑なのよ」
「悪いとは言ってないだろ……」
「はあ、それとも……何? 自分の以外はダメって?」
「それも違うだろ……あの時のことは忘れるって話だったろ」
一度だけ、フェリともそういうことをしたことはある。別に俺とフェリが自分たちでそうしたい、というわけでなくて……あの時はアーシェを含んだ三人で、一緒にだったからその流れでという感じだった。まああの時のことはもう忘れることにしようと言うことで話が落ちついた。別に俺もフェリもお互いが嫌いというわけでもないし、むしろ好ましい間柄ではあるのだが……根本的に恋愛関係とは別だからな。アーシェを挟んだ関係とは言え、そういうのには少々難しい所がある。
「別に俺もフェリとアーシェが……どうしてもいい、とは思うんだが。あれがアーシェの望まない形で存在していることとはまた別の話だろ。だいたい使ったこともない物をいきなり持たされても困るだろ。そもそも尿道とかのつながりはどうなっているんだと言う疑問もあるし……」
「そうね。確かに……いきなり生えてきたら困るわね。でも、どうするの? 斬って治すとか?」
「荒療治過ぎる。あの手紙がある以上、ちゃんとなくすための物もあるんだろう。生やすことができる人が作ったんだからな。つまり、アーシェの師匠を探せば何とかできるってことだろ」
「………………確かにそうね。でも、どこにいるのかわからないでしょ? そもそもいつ戻ってきたのよ?」
いつ戻ってきた、か………………いや、待て。そもそもあの手紙、おかしくないか?
「……普通、アーシェとフェリってどんな関係に見えると思う?」
「何よいきなり?」
「周囲から見て、フェリとアーシェの関係がどう見えるか、だ。二人が……なんというか、恋愛関係に見えるか?」
「……多分見えないんじゃないかしら? 表でそういうことはしないし、まあちょっと仲が良いな、と思うかもしれないけど……それでもまだ友人くらいにしか見えないと思うわよ?」
「なのに、アーシェの師匠はアーシェとフェリの関係を知っていた。周囲に見えるアーシェとフェリの関係ではわからないはずなのに。それに、俺とアーシェの関係もわかっているような書き方だ。三人の関係性をわかってる、ってあの手紙には書いている」
「っ!? それってどういうことよ……?」
そもそも…………いつの間に戻ってきた? 戻ってきて、アーシェの師匠は何故いきなりアーシェのところにきた? 何故アーシェと俺たちの関係を知っているのか? まず最初に、いきなりアーシェを置いて旅に出た理由は? そういったことを考えて、思いついた一つの事実。アーシェの師匠はそもそも旅になんて出ていない可能性がある。
「……アーシェの師匠は、もしかしたら先に旅に出たんじゃなくて後から旅に出たのかもしれない」
「ええ? 何それ? 確かアーシェが師匠を探してたんじゃなかったの?」
「ああ。だけど、そもそもアーシェの師匠は旅に出なかった。逆、師匠がアーシェを追ってたんじゃないか、と思ってな」
「ずいぶん突飛な発想ね………………でも、ちょっと否定しきれないかも? いきなり弟子に男のアレを生やすくらいだもの」
仮にそうだとすれば……今までずっと、アーシェの師匠は俺たちについてきていた。しかし俺はその気配を感じたことはない。ただまあ、それに関してはアーシェの師匠だからありえないとは思えない。何故なら……その人は錬金術に詳しい、かなりできる人物だから。アーシェの持つ様々な特殊な性能の道具なんかを見ればわかるが、相当に色々な物を作れるはず。なら不思議道具の一つや二つ所でない物を持っていてもおかしくはない。
「ちょ、ちょっとミツヤス!? いきなり剣を抜いてどうするのよ!?」
フェリがちょっと驚いて避けている。まあ、いきなり近くにいる相手が剣を抜いたら誰だって怖いか。
「……俺の学んだ剣技は剣を持っていないと使えないんだ。ちょっと面倒だけど」
一応例外的なものはあるけど、それ以外は別だ。集中する。様々な気配を感じる。そこから一気に集中をあげて…………………………この街に存在しているが存在していない気配を探す。こういった気配を探る方法はいくつかある。一つは気配の空白を探す手法。こちらで感じ取れないように隠しているのなら、そこだけぽっかりと気配の空白ができる。まあそれをごまかせる可能性もある。一つは気配の揺らぎを探す。普通の人間や空間的な気配とは別物になっているのなら、その変化を探る手法があるはず。それでもだめなら…………直感を、俺が師匠から学んだ、剣術を突き詰めたところまでやるしかない。あの出鱈目な剣術ならそれくらいできてもいいだろう。
「………………………………見つけた」
「あっ! ちょっとー!」
フェリを置いて、地を蹴って、屋根の上まで跳びあがる。そして屋根の上からアーシェの師匠の気配へと向かう。
「っ? 気づかれた?」
そこそこ近づいた所でその気配は逃げ出すかのように俺から離れるように移動を始めた。ただその気配が向かっている方角は港の方向、そちらに逃げるのであれば逃げ道は存在しない。だけど…………それは向こうもわかっているのではないか、と思う。だから奇妙に感じる。まあ、とりあえず逃がさなければなんでもいいだろう。崖に逃げた犯人のように、基本的に逃げ道は存在しないし逃げようとしても追うことができる。
そして俺はその気配の前へと降り立った。
「あんたがアーシェの師匠か?」
「その通り! まさか私を探して追ってくるとは思わなかったな。始めまして……ミツヤス君」
知っている、っていうのは一応分かっているが。こちらが名乗る前に呼ばれてしまった。
「……やっぱりこっちのことを知ってるのか」
「そうだよ。君のことも、フェリ君のことも、我が弟子アルシェリットを含めた三人の爛れた関係もね。まあ私はそれを否定する気はないし、本人たちが納得して受け入れて幸福にあるのであればむしろ祝福しようと思う。しかし……同性との恋愛には大きな問題が一つ存在する。私はそれだけは素直に受け入れるわけにはいかないと思っているよ。まさかミツヤス君、君がフェリ君に仕込むと言うわけにもいかないだろう? 嫌い合っているわけではないようだがね」
「だからあんなことをしたと?」
確かに言っていることは間違っていないのだろう。アーシェとフェリは女性同士の関係であり、それが抱える問題はいくつもある。だからって生やせばいいと言うわけでもないと思う。それにアーシェに話もせずいきなり生やすのはどうなのか。
「そういうことなる。しかし、まあ混乱したかい? ちょっと性急すぎたか」
「それ以前に本人に話もせずいきなり生やすのはどうなんだ」
「そうだね。しかし、本人に話を持ち掛けても戸惑うだろう。それならばいつの間にか生えていた、という方がしかたないと受け入れやすいだろう? そう考えると置手紙を残したのはまずかったかな? あれで私の仕業とばれてしまったからね」
こいつ、もしかして確信犯なんだろうか。ちょっとイラっと来る。
「おおっと。機嫌を損ねそうだし、私はすぐにその対処をするとしよう、まず今回のアルシェリットに生えさせた薬と、その解除を行う薬だ。丸薬でそれぞれ五つずつ。いつでも生やせるし、戻せるだろう。そしてこの紙もつける。いつでも作れるようになった方が都合がいいだろう?」
「っと!」
いきなり投げてよこされた袋と紙の束を受け取る。今言った丸薬の入った袋と、これらを作るための紙、か? レシピにしては多いような。
「それはついでにアルシェリットに対する課題だ。私も本当にしばらく旅に出るので戻ってくるまでにそれらも作れるようになれという課題だよ! お金に関しては一年分渡したが、いずれ尽きるだろう。しかしそれらの薬を作れるようになればそれらを冒険者ギルドに卸せば十分なお金が得られるはずだ。君たちもいる以上お金に困ることはないと思うが、まあ稼げる糧はあったほうがいいだろう! ではさらばだ! また会おう! そして今度会う時は子供の一人や二人でも見せてほしいな!」
「っ! そっちは海……ってええええええ!?」
アーシェの師匠が海へと逃げた。しかし、だ…………そのアーシェの師匠は水の上、海の上を走っていた。あんまり早くないが、流石に俺も水の上を走れと言われたらまず無理だ。やるにしても……相当大変だろう。新しく歩法を作らなければいけない。咄嗟にやれと言われてやれるかというとまず無理、そうとうに鍛えなければ不可能だと思われる。そもそもできるかどうかも不明だが。
「…………逃げられたか」
どちらにせよ追うことは無理だっただろう。それを見越して薬と紙を渡してきたのかもしれない。
「はあ……まあ、元に戻す手段は貰ったし、アーシェの課題とやらもあるわけだし、アーシェのところに…………おいてきたフェリに合流していくか」
フェリがおいていったことを怒るだろうな……まあ、しかたない。おいていった俺が悪いのだから。
そうして、フェリと合流しフェリに怒られた後、アーシェの下に向かう。そしてアーシェの師匠から言われたことや貰った薬と課題、その他諸々の話もした。流石にこれにはアーシェも滅茶苦茶怒っていたのだが、怒る相手もいないしいつまでも怒っていても仕方がないと思ったのか、薬を飲んで課題とやらに手を出した。まあ次の日まではそのまま結構起こったままだったが。
「………………………」
「フェリ?」
「ちょ、ちょっと複雑なのよ……アーシェとするの、どうすればいいかなって……ミツヤスとの時は、その、そっちが主導したじゃない? アーシェとだとどうにも」
「そういう話は知らん」
言われても困る。本人と話をつけろ。というか本番になってから悩め。こっちとしてはアーシェに生える時点で心境的に複雑だ。
自分で書いてちょっと自分でこれあれちょっとああなる可能性があるんじゃない、と思って複雑な気分になったりした。まあ多分それは大丈夫……三人の仲は良いはずだから。末永く仲良くいてほしいところですが、人間関係は複雑。まあこの三人の場合アーシェ次第なんじゃないかなと思います。




