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fist if それは過ちなりしことか

「天拳!」

「あああああああああっ!?」


 拳の一撃にアルイーラは飲まれた。そのまま吹き飛ぶが、彼女の強靭さゆえにその一撃を耐える。本来ならば彼女でもルフェの一撃には耐えられないはずだった。しかし実際に彼女は生き残っている。


「うう………………」


 倒れ伏したアルイーラをルフェが見つめている。それは目の前の現実が信じられないというわけではなく、そうしてしまったことによる自分の躊躇の想いに対するものがあったからである。

 相手は魔族である。本来ならば彼女は人間の敵であり、容赦なく殲滅するべき相手だ。しかし、相手は姿だけで言えば人間と同じような姿をしている。人の姿に近いほど、またその思考や言葉、心根が近ければ共感感情を覚えるだろう。それにより手が鈍るというのはおかしくない。ルフェは神に鍛えられたせいかそのあたりは殆ど躊躇がないはずではあるが、それでも惑うほどに彼女は人に近いのかもしれない。

 いや、彼女の見た目も重要だが、その心根に迷いを覚えたのかもしれない。彼女は無邪気である。彼女は人間に対し容赦なく敵対する存在だが、その心根には無邪気さとそれまでの成長、過ごしてきた時間がある。彼女は人間に敵対するものだが、もともと巨人種は人間と積極的敵対関係にはない。魔族の多くは人間を買って喰らうことも珍しくないが、巨人種は食事事情が微妙に違うこともあってあまり人間とかかわらないのである。

 ゆえに彼女の持つ人間に対する感情はそこまで敵対性のある物でもない。あえて言うならば魔王から人間を襲え、などの指示的なものであったり本能的に弱者である対象を狩猟対象として考えているなどのものが理由だろう。ぶっちゃけ彼女人間に対し恨みや敵対心というものが薄いので本気で言い聞かせれば敵対することはない。もちろん、雑魚の戯言であればまったく聞こうともしないのだが。

 もちろん魔王という存在がいる以上、彼女をどれだけ言い聞かせても完全に抑えることはできない。であれば彼女を見張る存在も必要となる。


「…………死にたくない、か?」

「当たり前よぉ…………助けてくれるの……?」


 戦闘によってボロボロになったアルイーラがルフェに対し慈悲を乞う。もしこの様子を傍から見れば少女を殴り倒した男が無理やりいうことを聞かせているようにしか見えないという人聞きの悪い話になるだろう。まあ、それまでの経過を見ていれば全然別の感情になるだろう。いや、それはいい。

 アルイーラの言葉にルフェは迷う。先ほどの攻撃の時点で迷いを持っていたが、やはりアルイーラは魔族である。どう判断すべきかルフェだけで決められることでもないだろう。しかし、ルフェが決めるしかない。殺すか、生かすか。


「お願い、殺さないでぇ…………」


 その言葉は本心からのもの。彼女は嘘を吐いたり騙したりするのはあまり得意ではない。できなくもないが、そもそもそこまで狡猾に生きる必要もなかった。巨人種の生きる神、現実に存在する神のような扱いを受けていた彼女は祭り上げられ正当な形で教育を受けていなかった。もちろん巨人種の教育というのも偏っているのだが、それでもそれを受けていれば魔王に従ったかは怪しい。彼女が魔王の下にいるのもそういった扱いを受けていたことに疑問を持ち勝手に棲んでいる場所から抜け出してきたのが大きいだろう。


「……人を襲わない、敵対しない、殺さない。それを守るなら」

「守るから! 守るからやめてっ!」


 躊躇がない。彼女にとって人間はどうでもいい相手である。魔王に従っているから適当に殺したりするくらいで。であれば、自分より強い、魔王よりも強いかもしれない相手の言うことを聞くのに迷いはない。


「……本当に?」

「本当! 何もしないって! もう信じてよぉっ!!」


 ルフェの足にアルイーラがしがみつく。もはや懇願と言ってもいいくらいである。狡猾な魔族であればここからルフェを殺すことを考えそうなものだが彼女にそんな思惑はまったくと言ってない。最初に人間の男二人をだましていたのが謎なくらいである。いや、あれはむしろあの二人が勘違いしていたのを利用した感じのようなものかもしれないが。


「……じゃあ、殺さない。言ったことを守るなら」

「本当!? わかった、守る! 人間にはなにもしないわ!」

「あと、それが本当かもわからないから……監視させてもらう」

「監視……?」

「うちに来てもらう……宿だけど大丈夫だろうか」


 ルフェの住んでいる場所は宿である。そこに魔族を連れ込んで大丈夫なのかルフェにとっては疑問だった。しかし、そのぼそりと呟いたことはアルイーラには聴こえておらず、最初に言ったことにたいしてアルイーラは答えた。ルフェが途中で迷ったことは関係なく、すでに遅い。


「わかった、ついていけばいいのね?」

「あ……ああ、そうだ。住み込みな」

「わかったわ」


 そうしてアルイーラがルフェの仲間になったのである。それを見つめる魔王の配下のアルイーラの監視役が一人。魔王へと報告へ向かうのであった。






「あ、ルフェお帰り…………その子だれ?」

「ただいま……彼女はアルイーラだ。挨拶」

「アルイーラよ。よろしくね」

「……そういうことを聞きたいんじゃないんだけど」


 アイネの厳しい視線がルフェを襲う。見た目少女であるアルイーラを連れてくるのはどう考えても不穏である。もちろんアイネはルフェのことを信じている。少女に手を出すような人間性であるとは思っていない。しかし、目の前に少女を引き連れて帰ってこられればどうしてもそういったことに対する不安がでるだろう。そもそもそういったことをするなら連れてくるはずもないのだが。


「……アルイーラのことに関してはあとでしっかりと話す。とりあえず居候という形になるけどいいか?」

「…………………………」


 当然アイネには文句があるだろう。しかし、彼女はルフェが決めたことに反対するつもりはない。ルフェはそういった積極的に何かをしようということもなく、耳珠的に何かをするのであればそれに賛成したいくらいである。しかし、それが女性関係……しかも見た目少女が相手となると、どうしたものかと言いたくもなるだろう。


「とりあえず、リルツェやクレアさんに話さないとだめじゃないかしら?」

「あ、それもそうだな」


 その旨を話しに行くとあっさりと許可される。最初の時にルフェとアイネがここに住むことが決定するときの話は何だったのかと聞きたくなるが、それだけルフェ達に対する信頼ができていたということなのかもしれない。真実は不明である。

 そうして夜。三人が同室となるのだが、当然本来二人でもそこそこ狭い部屋に三人いるとさらに狭い。


「それで? その子は一体何なの?」

「これ誰?」

「これ!? これって言ったのこの子!?」


 アルイーラは自分より強いルフェ以外の扱いは適当、雑、大雑把である。それ以上に尊敬も何もない。見た目で言えばアルイーラは少女だが、実際には二人よりも年上である。流石にクレアマリーよりも年下ではあるが。


「あー……えっと、彼女は魔族なんだ」

「…………そう」

「信じるのか?」

「ルフェは行為ことで嘘をつかないもの……嘘の方がいいんだけど」


 頭が痛いと片手を持っていくアイネ。嘘ではないからこその問題である。


「……大丈夫なの?」

「まあ、どうにかする。何もしないよな」

「……しない。殺されたくないし」

「殺され……ああ、魔族だもの、そうなるかしら?」


 魔族と人間は基本的に敵対関係であり殺し殺されの関係である。今回みたいにルフェがアルイーラを連れてくるなどというのは本当に異常事態と言ってもいい。だからこそ対応の難しさがある。何の気まぐれでアルイーラが人間と敵対するかわからない。ルフェが抑えると言っても本当にそれができるかという話にもなる。まあ、アルイーラは殺されたくないので何もしないと話しているので一応大丈夫であろうという判断になるが……どこまで信用できるか、ということでもある。


「……何かあったらお願いね」

「もちろん」


 そうして三人で一部屋を使って過ごすこととなったのである。なお、リルツェの部屋に一人来ないか、という話になったがルフェとアルイーラが別部屋はあり得ず、アイネが移動するのにもルフェとアイネを二人にするのもということで結局三人一緒の部屋となっている。







「ただいまー」

「ただいま!」

「あ、二人ともお帰りなさい」


 ルフェとアルイーラが一緒に宿に戻ってくる。アルイーラの食事事情の関係上、その確保のためにアルイーラはルフェと同じ狩人をすることとなっている。組合への登録はまだどうするか決まっていないが、別に組合に登録しなくても狩りは可能である。ルフェと同じくらい……ルフェよりも弱いが他の普通の人間よりも遥かに強いので狩りをすることに何ら問題はない。

 どっさりと宿の提供用とアルイーラの食事用の獲物が持って帰ってきている。


「それ、いつものところにもっていって」

「ああ、わかった」

「はーい」


 最初の内は扱いの難しいアルイーラであったが、今ではある程度友好的な状態となっている。もちろんルフェがいるからこそ穏当に接触できるのだが、それでもこの宿の住人、リルツェやアイネであればそこそこ普通に話ができる程度にはなっている。


「……アイネさん、大丈夫です?」

「特に何も起きてないわよ」

「先、越されませんか?」

「……………………」


 アルイーラが同居したことで夜這うのも難しい現状。さらに言えば、アルイーラとルフェがアルイーラの種族の都合上一緒に居続ける関係でその仲の進展はどう考えても早い。この先どうなるか、不安な所である。


「どうします?」

「…………まあ、なんとかするしかないでしょ」

「あ、三人でというのはどうでしょう」

「それでいいのリルツェは…………?」


 実際どうなるかはわからない。ある意味アルイーラがいられるのはルフェがいるからこそであり、彼女の成長の関係やルフェの寿命の関係でいつかは終わりが来るだろう。それがいつになるかはわからないが、今は一緒に楽しく過ごすことができるだろう。

もしかしたらあったかもしれない、ありえない話。書いてて殺しちゃうのもったいないなあ……と思ったけど、どう頑張ってもただしいルートは殺さなきゃいけないので、本当にifもifな内容。ただちょっとうまく最後をまとめられていないのでそこが納得いかない感じ。それに関しては他の作品でもよくあるのでうまくなるべきところかな……

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