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fist閑話 二人の密談

「来たわよ」

「あ、どうぞ入ってきてください」


 アイネがリルツェの部屋を訪れる。彼女たちは仲が悪いというわけではないが、別段仲がいいというわけでもない。同じ宿で働く従業員という形で友人という形ではあるのだが、微妙な空気が存在する間柄である。普段から宿の中でぱったり会うせいもあってアイネがリルツェの部屋をわざわざ訪ねるということが今までなかった。必要性もなかったのもある。

 だが、今回はある用事……いや、用事というよりはリルツェの方からアイネに誘いをかけた形だが、そういう形でアイネがリルツェの部屋を訪れたわけである。それも、その要件を果たすのはルフェのいない時という条件付けがされている。

 ルフェがいない時期を見計らう。その理由はルフェの地獄耳のせいだろう。ルフェの聴力は村でお隣の家の会話が聞こえるほどの異常なもので、その異常聴力に関してはアイネもリルツェもクレアマリーも知っている。なので基本的に誰にも言ってはいけない秘密の話、もしくはルフェに伝えたくない、伝えられないような話はルフェがいないときに話すことにしている。今回のリルツェの話もそういう事柄の話なのだろう。


「……それで、話って? ルフェがいないときってことはルフェに関することでしょ?」

「はい、そうです……」


 アイネがリルツェに訊ねると、空気が少し重くなる。リルツェの雰囲気に変化が見える。なんだかんだで少人数で宿を維持するだけはあるというべきか、リルツェもこの宿の働き手として十分以上の能力を持っている。その雰囲気に晒されアイネも少々居心地が悪い。一体そこまで威圧するような空気にして何を放したいというのか。


「アイネさんは、ルフェさんのことをどう思っていますか?」

「ルフェの事……?」

「はい。同じ部屋で、一緒に過ごして。出身も同じなんですよね? ここに来るまでも一緒で、一体どういう関係でどう思っているんですか?」

「ちょ、ちょっと……一体何を? そもそもあなたには関係ないんじゃ」

「答えてください」


 リルツェは真剣にアイネを見つめる。本気の目である。生半な答えは言ってはならない。そうアイネに思わせるような目だ。



「……っ!」

「教えてください。アイネさんはルフェさんのことをどう思っているんですか?」

「…………」


 アイネはそれをはっきり言うことに対して抵抗がある。そもそも自分が別の誰かに抱く感情、想いは通常他者に話すようなことでもない。いや、話すこともあるがわざわざ聞きだされるようなことでもないだろう。アイネが口を噤み何も言わないことを見て先にリルツェの方が話を始める。


「私はルフェさんのことが好きです」

「えっ」

「だからルフェさんと一緒になりたいと思ってます。アイネさんはどうなんですか? ルフェさんのことをどう思っているんですか?」


 リルツェは自分の想いをアイネに語る。ルフェのアイネへの想い、アイネのルフェへの想い。そういったものは傍から見ているだけでも十分に分かるもの、それくらいに二人は想い合っている。しかし、その想いを言葉に出したことはない。相手への好意を惜しげもなく見せることはあっても、相手のことを好きだ、結婚してくれみたいなことをはっきり言ったことはないのである。一応二人は幼馴染の婚約者であるのだが、それは実質的に村から追い出された時点で白紙の状態だ。アイネがついていったことで半ば事実婚みたいなものと言ってもいいのだが、やはり正式なものではない。

 だからこそ、はっきりと二人の関係が明白となっておらず、そもそも二人が肉体的に結ばれたという事実も今のところなく、本気でやろうと思えばリルツェがアイネを完全に無視してルフェに手を出すことだってできるだろう。ルフェがそれを受け入れるかは別として。

 しかし、リルツェはそうしない。二人の関係を理解しているからこそ。だからこそ、はっきりとアイネの答えを聞きたい。そうでないとリルツェは自分の想いをどうにもできないから。


「……はあ。リルツェはルフェのこと、好きなのね」

「そうです」

「…………私はルフェのことが好き、ずっとね。子供のころから、幼馴染で婚約者で、結婚の約束をした間柄って言うのもあるけど、ずっとルフェのことが好き。ルフェが村からいなくなっても結婚を勧められても、ルフェ意外と絶対結婚する気はないっていうくらいに好きよ」


 二年待ち続けたそれは誰がどうみても重い愛情とみていいだろう。彼女が一緒になるべき相手はルフェ以外にいない、だからこそルフェについていった。そしてルフェと対等でいられるように在るために仕事も探した。村と同じではいられないから。


「そうなんですか」

「軽いわね……」

「そうですか?」

「もうちょっと何か感想みたいのはないわけ?」

「そうですね……アイネさんは、本当に心の底からルフェさんのことが好きなんだなって思います」

「……そうはっきり言われると、こう、恥ずかしいわね」


 基本的にアイネは素直だが素直ではない感じである。自分の思いを相手に伝えるのが苦手というべきか。だからこそ、その想いを伝えれないがゆえにルフェとの関係が進まないともいえる。


「そこまではっきりとしてるのになんでルフェさんとの関係が進まないんですか」

「うっ……それは、そのー…………」

「……アイネさん。私もルフェさんのことが好きです。このまま、全く関係が進まないようなら取りますよ? 先に私が夜這いして襲いますよ?」

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!?」


 顔を真っ赤にしてアイネが叫ぶ。そういう点においてアイネはかなり初心な方である。進まないのは思いを伝えるのが特異でないという点もあるが、そういった初心さも原因の一つであるかもしれない。


「そ、それはダメよ!」

「なんでですか? いつまでも進まないのが悪いんです。そもそも、他人の恋路に関してアイネさんが文句を言うのは筋違いですよね?」

「うー、そ、それは……うー、その…………」


 アイネにははっきりとアイネを糾弾することはできない。も彼女の言う通り他者の恋路に手を出せるものではないだろう。そもそもルフェとアイネはお互い想い合ってはいるが、恋人ですらないのである。両想いなのに全く進展しないという奇妙な間柄。お互い進めようとしないがゆえに余計に進展しない。


「……私は、ルフェさんのことが好きです。同時に、アイネさんがルフェさんのことが好きなことも、好きです」

「……それはどういう」

「そして、ルフェさんがアイネさんを好きなことも好きなんです。正直、私が入っていいのかって思うくらいです」

「…………」


 リルツェもかなり複雑な思いを抱いている。だからこそ、アイネとはっきり話しあいたいと思ったのだろう。


「ところでアイネさん」

「……何?」

「ルフェさんは、凄く強くて格好いいですよね?」

「なんか肯定難しい話だけど……そうね、そう思わなくもないと思うわ」


 アイネは実に素直とは言い難い部分がある。その言い方にリルツェは小さく笑う。


「アイネさんも、私もそう思う人です…………そう思うのって私たちだけでしょうか?」

「え……?」

「他の人もそう思うかもしれません。もし、そんな人が出てきたらどうします?」

「ど、どうするって言っても……」

「誰かが、ルフェさんのことを好きになるかもしれません。その人は、私のようにアイネさんのことを気にせずルフェさんを掻っ攫っていくかもしれません。そうなってもいいんですか?」


 そうリルツェが言うものの、誰かがルフェを好きになりアプローチをしたところでルフェがそれに靡くかと言われれば靡かない。なのでその過程自体は無意味である。しかし彼女たちにルフェがどうするかはわかるものではない。

 仮にそうでなかったとしても、その女性がリルツェのようにアイネとルフェの関係を尊重するかと言われればどうだろう。恐らくはしない……そもそもその関係を好きだというリルツェのほうが本来は異常である。


「だから、私と一緒にルフェさんに迫りましょう。アイネさんだけだと一生関係が進みません」

「そ、そんなことないわよっ!?」

「いいえ……仮に進んだとしても、何年後ですか? それまでどういうことになると思います? だから、無理やり進めます」

「で、でも! それって普通じゃないわよ!?」


 女性二人に男性一人は一般的ではない。そもそも一対一以外のものは恋愛としては一般的ではない。ゆえにアイネも否定的だ。しかしリルツェはそれを無視して話を進める。


「だからこそですよ。普通じゃないからこそ、他の人に心移りする可能性が減ります。一本の縄では引っ張る力が弱くても、二本の縄ならいけますよ」

「…………………………」

「……やっぱりだめですか?」


 アイネとしてはとても複雑な思いである。認めがたい、自分以外とルフェが関係を持つその事実を認めるのは難しい。しかし、リルツェは世話になっている相手であり、自分とルフェの関係性を好きだと言ってくれる相手である。つまり自分とルフェの関係性を認めてくれている相手。普段アイネとリルツェは特別仲がいいというわけではないが、それでも別に嫌いだとかそういうわけでもない。微妙で複雑で難しい関係状況だった利したのである。リルツェ側かアイネ側かどちに問題があったかは知らないが。


「……リルツェだけよ」

「認めてくれるんですね!? よかった……」


 その日、二人の間に約束事が出来た。

こんな感じで決めていたのかも、という二人の話の内容。なお本編との整合性は微妙な感じかもしれない。

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