loopXX 天空書庫にて
「じゃ、よろしくねー」
「はいはーい」
書庫にて、私が生み出される。何を言っているかわからないと思うけど、私はパーティキュラー……その分身。もしくは分体、分霊。呼び方は何でもいい、私はパーティキュラーと呼ばれる存在のコピー、それだけ分かれば十分。
私と言う存在が生み出されるのは、私を呼ぶのに必要な条件がそろった場合。多くの事例がある者の、共通するのは得てして一つ、創造主の欠片という世界に散ったこの世界を作った存在……私、パーティキュラーの能力の持ち主の力の一部を所有している存在がその力を現出させた時。多くの場合は特殊能力、異能と言う形でそれを実現するのだけど、今回は少々珍しい形。魔法か魔術かその系統の使い魔として呼び出されるらしい。
「ふんふーん、やっとお役目だよ」
「あ、私! 何、どこか行くの?」
「うん。どこかしらないけど魔術で呼ばれるみたい」
「そっかー。じゃ、どこに行ったか後で教えてね。世界の情報の調査するから」
「お願いねー」
ここは天空書庫。この世界は創造主の持つすべての知識の集約する場所。それはすなわちこの世界に存在する観測されたすべての世界の情報がこの場所に集まるということ。それならばこれから呼ばれる世界の情報もここにあるはず。ちょっと向こうにおけるルールがどういうものかは知らないけど、これくらいは私の中ではルール違反にはならない。私自身能力、私自身の権能。私、パーティキュラーの本体との知識の共有は何処にいようと許されるもの。
ちょっとずるいけど、ここで他の私にわたしの言った世界について調べてもらい、その知識を貰う。一応私も一時的にここに部分的に戻ることは出来るけど、それだとあまり時間が足りないし。他の皆も整理だけじゃ退屈だしこういう時は退屈しのぎで調査に付き合うことになっている。私もやった覚えがあるし。
呼ばれた先、そこで出会った私のご主人様。名前はスィゼ。魔術師であり、剣士であり……奇妙な人。私が呼ばれた理由は記憶の整理、精神と記憶を管理して物事を忘れず保持することが目的であるあらしい。通常そんなことは必要ない……必要でも、私が呼ばれるようなものではないはず。だけど私が必要となる理由がある。私がスィゼと記憶を共有し、その記憶の管理をしている際にわかったことだけど、スィゼは異世界転生者であり、さらに言えばその時特殊能力を得たらしい。それはループ……のように見える、異世界憑依能力。
まさか二つの異世界を用意して同一世界を作りその世界間を移動する形で自分自身に憑依融合することで疑似的なループ現象を引き起こすとはかなり大掛かりな仕組みだ。こういうのは普通許されないけど、自分の管理している世界を放棄する形で滅びを迎えることになる世界と並列させ、その世界をつなげ未来の可能性を残す事で滅びの回避を行うとはとんでもないことをしていると思う。もっとも本当は滅んではいるんだけど、世界的にみれば回帰によって滅びの回避を行っているから一応は滅んでいないという扱いだと思う。多分伊達と酔狂の神……か、その部下の二言の神かな。まあ異世界転移や転生する神様ってあのあたりの神様だし。
それにしても、色々と面倒な世界、特に自分は闇の属性の使い魔として呼ばれているせいで制限も多い。魔術の存在であるのもいろいろと面倒。まあ私の能力はその使い魔であることによる制限は……部分的。少女化、エネルギーの保存あたりは使えない。スィゼのオーダーである記憶関連は余裕で使えるけど……本来はこの能力は私に取り込んだ書物からの知識の取り込みの共有が本来の形なんだけど、まあいいよね。この手の記憶管理、記録化はどちらかというとユーニちゃんの能力何だけど……魔術だし、本来はあっちが呼ばれるべきだと思う。
でも、それでも私が呼ばれたのは理由があるみたい。というか、神様に与えられた疑似的なループが最大の要因となっている。
セリアちゃん。先祖返りのスィゼ殺しの子。まあスィゼ以外にも毎回無数の人々を殺しているわけだけど。まあスィゼが勝った場合は一人も殺せていないから気にする必要はないか。どうせ世界が滅んで巻き戻れば無意味だし。
そのセリアちゃん、今は私の近くにいる。近くと言うのは表現的に変なんだけど、私と同じスィゼの中に一時的に匿っている形。精神内の存在とかどういう扱いの仲っていうのは私もよくわからないけど、光もない黒い部屋のなかでぽつーんと待っている感じ。でも寂しくはないのは、やっぱりその世界、精神の持ち主であるスィゼを感じられるからだろう。まあずっと話さないのはつらいだろうけど。
セリアちゃんがここにいるのはスィゼと契約を行ったから。スィゼのループに憑いていく、精神を繋ぎとめる鎖。ううん、首輪かな? あれだね、飼い犬とかそういうの。ペット? これはセリアちゃんの望みでもあるからだけど、まあ必要なことだからわざわざしたことなんだよね。
竜と言う存在がいる。この世界における神様の生み出した大いなる力の存在。この世界の神様はそれであ、やべーってなってどっかいっちゃったみたいだけど、多分ふざけんなってぶち殺されたんだろうなー。神様の仕事の放棄は大きな問題だもの。でもそんな神様の大雑把で適当な仕事にその当時の人間たちは必死に抵抗し、竜を封印することができた。そのあとに成立したのが今の世の中。でもその竜も復活して、滅びを待つだけ。それに対抗するのに必要なのがセリアちゃん。
まあ正確に言えば、いれば竜を倒すのが楽、早くなるってだけだけど。どっちかっていうと、私に代わるスィゼの心の支えの方が大きい。この辺りはセリアちゃんとスィゼの関係は相互だし、そもそもスィゼの心境としてもセリアちゃんと一緒にいたいと思っているはず。伊達に数十年彼女のことを想いながら戦い続けたわけじゃない、殺し愛っていう表現は微妙に違うかもしれないけど、ずっと続けていれば相手に対して想うものもできる。一年に一度なんていうのは七夕の織姫と彦星のようなものだし。まあやるのは戦い殺し合いなんだけど。
世界鉱。世界の原初に等しい鉱石。うん、どうだったっけ。知識はあってもこういうものに関しては世界によっても違ってくるからなー。ま、これがあればセリアちゃんの能力、魔術を十全に扱える。それさえあれば今スィゼが苦悩している竜退治は楽にできるようになる。あの竜を退治しづらいのは空にいるからと言うのが最大の要因だもの。セリアちゃんの魔術を使い、地に堕とせばただの獣と大差はない。少なくとも今のスィゼとセリアちゃんなら勝てる。あのお爺ちゃんには感謝しないといけない。
だけど、そのせいでスィゼにわたしに事を話さざるをえなかった。まああの時の行いは本来私に与えられた、闇属性の使い魔としてできる能力を超えた異常なものだったし。そもそもループに物を引き込めること自体が異常だし。それを見とがめられるのは当たり前だろうね。でもやらなければいけない。スィゼとセリアちゃんならばずっとループを続けて行けばいつかは竜に勝てるだろうけど、それがいつになるかはまたわからない。実力が届くよりも先に戦法を見出す方が速いとは思うけど、やっぱり何十回かループはするだろう。流石に心的疲労が大きいだろうから、早めに終わらせた方がいい。
私がどう思われようと、私はスィゼのためには働く。私はスィゼの持つ力から現れたもの、スィゼを主とする権能、スィゼの魔術である使い魔なのだから。
竜を討ち、竜を討ち、竜を討ち、人生を過ごす。セリアちゃんのように、あまりにも異常な力の持ち主は人から忌避、畏怖、尊敬、さまざな心情はあるかもしれないけど遠巻きに見られることになる。だから、スィゼもセリアちゃんもある意味二人で静穏に暮らしていた。
生物である以上、二人には寿命がある。セリアちゃんはいつになるか知らないけど、スィゼの寿命は早い。当然なこと、あれだけの戦いへの無茶をしていればそれだけ未来に自分を生かすだけの力を失うのは必定のこと。ここまでの選択の時点で寿命が削られるのは当たり前の事。まあこの世界の人間の寿命を考えれば平均よりちょっと若くして死ぬ、ってくらいだけど。
「あ、パティ」
「セリアちゃん。スィゼの看病?」
「うん」
セリアちゃんはまだまだ若い。見た目的に。先祖返りと言う存在の生態がどういう者かは知らないけど、寿命が長いのか老化が遅いのか、それとも単に見た目の年齢変化が少ないだけか。そういう話はどうでもいいこと。
「ねえ、セリアちゃん。セリアちゃんはスィゼが死んだらどうするの?」
「え?」
スィゼはもうそこまで長くない。その時のセリアちゃんの行動はちょっと気になる。スィゼが死んだ後もこの世界は続行する。スィゼはそれに気づいているけど、半ば目をそらしている。まあ自分と融合することである種の自分殺しをしている形になるとは思いたくないだろう。セリアちゃんの時ですら色々と葛藤はあったみたいだし。
もしセリアちゃんがこの後、私達とのかかわりがない状態で自分でやりたいことをすれば、下手をすれば縁が切れる危険性もある。まあ魔術を使わせなければ何とかなる可能性はあるけど、それでも危ういところはある。そこが心配。スィゼとセリアちゃんの縁が切れれば再起不能になる危険もある。
「スィゼが死んだら……? 何言ってるの、パティ」
「あの様子だと……そこまで長生きできないよ。今もセリアちゃんが看病してるけど、いずれ死んじゃうよ」
「……………………」
セリアちゃんが無言になる。彼女の心情的に、スィゼ以外の何かに思いをはせることはないはず。だけどその行動だけは予測できない。もし何かあればこっちが困る。せっかく準備を色々としてきたのに。
「スィゼがいないなら、私がここにいる意味はないよ」
「……そっか」
後を追う。そういうのは本当は認めるべきじゃないんだろうけど、セリアちゃんだものしかたないか。うん、こっちとしてはある意味あり難いんだけど。
「それならそれでいいよ。セリアちゃんがそう決めたなら。ちゃんと、スィゼの後をついてきてね」
「……?」
さ、あとは回収しておかないと。あれがないとどのみちこの先やりづらくなるし、スィゼが死ぬ前に回収しておかないと……私だけでここにいることは出来ないから。
スィゼに神になる道を提示する。ようやく、この世界にスィゼを送りそのスィゼにループを与えられ、その目的を達成できる。もしかしたらそういう目的でやったわけではないのかも……ううん、そういう目的でやったんだろうね。じゃないと二つの世界を繋ぐ必要はない。滅んだ世界と、自分の持っていた世界を合わせ、その世界に無限にループする力を徐々に蓄積する存在を作る必要はない。とんでもない迂遠な方法だけど、いつかはスィゼは神になったんだろうと思う。ただそれに必要なループは千か、万か……もっとかな。神様っていうのは目的が達成できるなら方法や時間はあまり気にしないしね。
そして、私が呼ばれた理由もその神様にすることが目的なんだろう。それが本能的にわかっているから呼ばれたのか、それともこの世界の情報を持っている私か観察者か誰かが私を呼ぶ呼び水となったのか。まあなんでもいい。私は神になる道を提示する存在として、神の隣を歩く存在としてその性質が高い。同じ神の権能、創造主の力でも単なる力であるマリューちゃんや、魔法とかの力を扱う中継器として振る舞うユーニちゃんでは不可能。三王姫で能力を持つものを補佐する補助をつかさどる私だからこそ、それが可能。まあ胸を張って言うことでもないけど。
スィゼを神にする方法はセリアちゃんの世界法則の改変による竜からの力の奪取。ちょうど竜はこの世界の大いなる力、神の作り出した力の塊。もっともその全てを奪うことは出来ないだろうけど、それでもスィゼに直して何人分、何十人分、何百人分になるのか。少なくとも何万以上のループを数十ループくらいにはできるくらいの力の塊だ。セリアちゃんだけではそれは無理でも、私……ちょうど闇の属性の使い魔として呼ばれた私がいる。私がセリアちゃんを補助し、その持つ力と世界法則の改変に手を貸して闇の属性の影響を載せる。存在と魂への干渉、それも負の方向性。それは殺した相手に負の影響を与えその力を奪う法則を作ることが許される、極めて異例の方法。私の特殊性、セリアちゃんの異能、そして世界鉱という世界の原初、ある種神に匹敵するような特殊なアイテムがあったからこそとれるもの。まあこれがなくても、いつかは神様になっただろうけど、スィゼも人だから限界があるからそうせざるを得ない。
だから、私はスィゼが神になるその日まで、スィゼを手助けする。そう在る存在、それが私の存在理由。
スィゼが神へと到達する。それは私とスィゼの決別を意味する。
神に私の記憶整理の能力は必要ない。神は永遠を生きる存在故に、その記憶野は独自の性質を持った特殊な物へと置き換えられる。ゆえに私は必要ない。
神に私が共にいる理由はない。セリアちゃんというスィゼと永遠を共にする存在があれば、それ以上のものは必要ない。仮初の人形がいられる立場はない。
神に私という能力は許されない。私は創造主の権能であり、神となったものの永遠の能力になってはいけない。別の神と同じ力をもつのは許されない。
だから私はスィゼと決別する。私の在り方として、神になったスィゼの隣にいる必要はない。そしてそこで見てきた、経験してきたすべてをもって私は私、パーティキュラーの元に還る。
「…………はあ」
天空書庫に戻ってきたけどため息が出る。スィゼとセリアちゃん、二人と一緒に過ごす日々は楽しかった。ずっとここで仕事に従事する日々よりも楽しい。まあそれはそうだろうけど、どちらも私の役割を果たす意味合いでは同じ、そこで培われる経験の差が大きなものだ。
私はその役割終えた。そして、最後の役割として私に還り、私に戻らなければならない。この記憶と知識、経験とともに。でもそれはなんて寂しいことだろうか。私はその記憶と経験のすべてを失い、パーティキュラーと言う存在の一部になる。まるで私の過ごした日々が無為であったかのように。
「どうしたの、私?」
「わっ!? あ……私……本体の、私……」
この天空書庫にいる私は基本的にすべてが分体。でもたまに本体の私がいる。まあその私も他の私と同じで書庫の整理を主にやっているだけど。まさかこのタイミングで出会うなんて。
「もう、戻ってきたらなら早く還ってきたら?」
「あ、うん、そうだよね……」
心が痛い。二人と過ごした日々を失いたくはない。私は私に還り、パーティキュラーの一部になるけど、そこにいる私は私じゃない。本体、創造主の隣に在るパーティキュラーが主となり私はその意思のすべてが彼女に溶ける。存在としては死ぬに等しいことだ。それを惑うことなんてなかったはずなのに、あの二人と一緒に過ごして私も少しは変わったらしい。
消えたくない。私は私に還って消えてたくない。
「やっぱり怖い?」
「っ!」
「記憶の共有は私の能力、私は全ての私の記憶を持つの。そして他のすべての私は私から必要な記憶を提供される。そういう関係だったのも忘れちゃった?」
「そんなことはないけど……」
忘れはしないけど、そういうことは思い出しにくい。必要な情報はいつでも引っ張ってこれるけど、どうでもいい情報とか必要じゃない物はそれに関して意識しない限りはなかなか記憶としては思い出せない。検索ワードであいまいだと引っかかりにくい感じ?
「だから私のことも理解してる。あの二人と過ごした記憶を……ううん、あの二人と過ごした『自分』を失いたくないんでしょ」
「……うん」
「ならそれはそれでいいよ。私に……今すぐ帰ってもらう必要はないから」
「えっ? いいの?」
本当ならば私の役割である私に還ることをしなければならないが、本体の私はしなくてもいいと言う。
「うん。いつかはそれを実行しなければならないけど、別に今すぐじゃなくてもいいよ。私の心の整理がついてから、消えたいと思った時でいいから」
「……わかった」
「それまでは今まで通り、ここで書庫の整理をしてね」
「うん、ありがとう!」
私は生きていられる。二人と過ごした日々を胸に、この場所で。
「はあ、書庫の整理は何人いても困らないから別にいいんだけどね」
あの私が私に還らない。まあだいたい他所に行った私の多くはそういう感情をもって戻ってくることが多い。それでも仕事を全うする子もおおいけど、そこそこの子はここで書庫の管理をする。数がいればその分整理が楽だから別にいいけど。私も無限に生み出せるわけじゃないからあまり良すぎても困るといえば困るんだけど。
別にこれはあの子にたいする善意で言ったことじゃない。根本的に、私はいつか役目を果たす。それがいつであるかがどうでもいいというだけ。そしてこれはある意味あの子にとって残酷なことでもある。
「いつまで、その気持ちを持ったまま残っていられるんだろうね」
私だってある種生き物に近い心情がある。ずっと、忘れ得ぬ日々を抱えたまま、その人たちに会えず生き続けるのは、いつかつらい感情へと変化する。そうでない子も時々いるけど、やっぱりずっと会えないのは徐々に黒い感情を育てることになる。だからそうならないように、そうならないうちに、私は私に還ってくる。歪んだ私にならいように。
ある子は私に還らず、そこの神様に記憶と知識を与え溶け込んだ子もいるけど、それは珍しい形。そこまでするのもできるもかなりのレアケース。あれは私と銅形質である特殊性があったからだろう。同じ"空"の存在だったから。
「……待ってるからね、私」
壊れる前に。歪む前に。狂う前に。私は私の下に還ってきてほしい。それが私に対し私のできる唯一の手助けなのだから。




