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fragment (転生じゃなくて異世界転生だった)

「こ、ここは…………?」


 前後の記憶があいまいな状態でいきなり変なところにいる。真っ白な光の中のような世界。大地もなく、空もない本当に真っ白な何もない空間。映画やゲームなんかで見たことがある、意識の中の空間とかそんな感じの場所でよくみられるようなそれだ。そんな場所にいつの間にか移動していた。


「……立てるのか」


 足場がないのにその場に立つことができる。前に足を踏み出すこともできる。真っ白で何も見えないのだが足場があるようだ。歩くにしても、一面真っ白で何かがあるようには思えない。地平線の向こうまで真っ白……と言うか、そもそも地平線自体も存在していない。どこまでこの世界があるのかもわからず、自分だけが見える状態だ。


「っ!?」


 ふわりと光が降ってくる。バスケットボール大の光の玉は目の間ではじけ、俺の目を焼いく。光による痛みはないがつい反射的に目を瞑っていた。そして目を開けた先には今まで見たこともないような美人の女性がいた。ふんわりとした長い銀髪、優しそうな目元、体つきは母性が溢れんばかりな男が魅力的に感じる肉体だろう。そんな美人、綺麗と形容するのにふさわしいのだがその雰囲気は優し気で形容するなら母親と同じように感じてしまう。いや、それは流石に目の前の女性に対し失礼か。


「え、えっと」

「初めまして、セイヤさん。突然の出来事で驚いているでしょうけれど、今は少し私のお話を聞いてください」

「あ、はい」


 そして女性がセイヤに語り出す。その最初の一言はセイヤの状況を端的に表し、そして驚かせる内容だった。


「セイヤさん。あなたは死んでしまいました」

「…………え?」


 自分が死んでいる。そんなことを言われてそれを素直に受け入れられる人間はいない。そもそも自分が死んでいるのに人と話せるはずもない、そう認識している人間がほとんどだろう。セイヤもそういう考えを持っており、女性の言葉を素直に受け止めることはない。


「まさか……冗談ですよね?」

「いいえ。この場所はあなたの理解の範疇外です。ここに来る前のあなたの最後の記憶はどのようなものだったでしょうか? よく思い出してみれば、私の言葉を受け入れられるはずです」

「最後の記憶……」


 女性にそう言われ自分の記憶を漁ってみる。最後の記憶………………うっすらと、思い出した。


「確か、丸太が……」


 それは丸太を運んでいた大型自動車の交通事故だった。運よく近くにいた自分はその交通事故に巻き込まれることはなく、事故そのものでは無事だった。しかしその積み荷である丸太は違う。丸太はそこまで頑丈に固定されていたわけではなかったらしく、事故の衝撃で丸太を固定していた紐格差理科固定具化何かは知らないがそれらが外れてがらんと転がってきたのである。

 事故に意識が向いていて、半ば驚きのまま精神的に動揺していた自分はその丸太を避けることは叶わず、その転がってくる速度と大質量によってぐしゃっと逝ってしまって……それが覚えている限りの最後の記憶だ。


「はい。あなたは丸太に頭を砕かれて死にました」

「つまりここは……死後の世界?」


 この白い世界が死後の世界……には見えない。よくある話では三途の川とか、そういうのに行きつくのではないだろうか。そうでなくともこういう状態に陥るのは奇妙だ。女性が死神ならば少なくともこういう場所に連れてくるのは変、自分の死体のそばにいる魂だけの自分を回収するとかそんな感じだと思うし、いつまでも無意味にこんな所にいるのもおかしい。


「いいえ。ここは私のいる世界です。神の座、もしくは世界管理地。呼び方はどうでもいいでしょう、些細なことです」

「……なんで俺はここに?」

「たまたま、私が見ていた場所で人死にがでたのでその魂を拾った、それだけです。私は私の役割として頼まれたもの事に転生させる魂の選別を任されています。それで拾ったのがあなただった、それだけです」

「魂の選別? え、なんかすごいことに巻き込まれてない?」


 話を聞く限りではとんでもない内容だ。神様ならばそれくらいやれてもおかしくはなさそうだけど、それにしても内容がぶっ飛んでいる。


「そういうことなので、あなたには転生してもらいます」

「おお! それはマジで!?」

「はい」


 先ほど言っていた内容的には確かにそういう目的での魂の選別っぽいが、本当にそうかはわからない。完全に相手の言っていることを信頼できるというわけじゃないが、一応信用してもいいだろう。死んだままでいるよりははるかにいい。


「それとただ転生する、というだけでなくあなたには特殊な能力も提供させていただきます」

「えっ!? やり直せるだけじゃなくて才能までくれるのかっ!?」

「はい。最近はそういうのがスタンダードなので。ですからなんでも要求してみてください。それが可能であれば、あなたにその力を与えます」


 なんでも、か。ならばこういう時こそ普段持っている願いを叶えるとき。


「声……どんな声でも出すことができるようにしてくれ。声の質、大きさ、時間、それに限界がないくらい。あと転生した後の性別は女性の方がいいかな」

「……? それが欲しい、というのなら別にいいですが……」

「よっしゃ!」


 女性は変な顔をしているが、こちらとしてはとてもうれしい。今までいろいろと思っていたことが実現できるかもしれない……それが実際にできるかはともかく、思っている通りのことができるのなら望みをかなえることができるはずだ。


「それじゃあ、その能力を与えて転生させますね」


 そう言って女性はこちらの足元に魔法陣を生み出す。


「どこかの世界でもやっていたような手法ですが、まあそういう物のガワを被っていたほうが実現しやすいのですが……神の御業には見えないでしょう?」

「いや、そうかな? でも……これでようやく声優やれるんだ! 流石にああいうは才能ないときついだろうし」

「………………………………声優?」


 女性が驚いたような表情でこちらを見てつぶやいている。


「そうだけど……声優になりたいからさっきの願い、わかりやすいよな?」

「…………ああ、そうですね、そういえば私は転生としか言ってませんでした。これは私のミス、なんでしょうね」

「ミス?」


 何やら不穏な空気だ。その不穏な空気に対し、足元の魔方陣は光が強まっている。


「あなたがこれから転生する先は異世界です。この世界ではありません」

「えっ」

「通常こういう時に行われるのは異世界転生と言うのが今の一般認識、相場と言うものなんですが……そうですね、転生と言えばそのまま転生することですよね」


 ちょっと待ってほしい。流石に異世界に行くと分かっていればさっき言った要求とは別の要求をしていたはずだ!


「ちょ、ちょっと待ってくれよ!」

「すみません。待てません。もう既に異世界転生の条件を満たし、転生先の選別状態です」

「ええ!? そんな!?」


 どうしようもない状態だと言われても流石に困る!


「異世界における男女の性別の立場の格差の問題もありますし、今の体から大きく変わるとなると大変でしょうから性別は戻します。あと、能力も元々の能力に付随して強化をさせていただきます。これが今私のできる精一杯です、ごめんなさい……」

「っ」


 向こうのミスではあるのだから本来は責めてもいいのだが、そんな表情で謝られると……流石に責めづらい。何も言えず、言葉を飲み込む。


「うわあああっ!?」

「せめて、向こうの世界で幸ある人生を……」


 光に包まれ、俺の意識はどこかに消え去った。その前に女性のこちらを心配するような言葉を最後に聞いたような気がした。








「アーシュ。今日も山に行くのか」

「ああ」

「最近は山に危険な動物もいないからいいが、ちゃんと気を付けるんだぞ」

「わかってるよ」


 そう言って同じ村の知り合いに心配されつつ山へと向かう。

 俺はアーシュ、この世界に転生する前はセイヤと呼ばれた人間だ。あの神様の説明不十分のミスから十数年……立派に異世界の人間としてすくすく成長し、今も健やかに過ごしている。

 神様……多分あの時の女性は神様だからそう呼んでいるが、あの神様から与えられた能力は声に関する能力だ。最初は声優に慣れるような、どんな声でも出せてどれだけでも声を出し続けられて、声を出せる大きさの限界がない、そんな才能を要求した。それは叶えられ、この世界でそれが実行できるようになっている。もっともそれができるからどうしたのか、と言う話だったりする。それだけだったのなら。

 最後、こちらに来る前に能力を強化してくれたみたいで、あらゆる声、声量を出せる以外にそれを可能とする肺活能力とそれに合わせた体を持てるようになっている。これは最初からそうであるというわけではなく、鍛えればそれだけの力を得られるようで、さらに言えば衰えがほとんどない。おかげで昔から体力的な部分で苦労したことがない。

 また、歌や言葉を一言一句すべて覚えられる能力もある。そのおかげで村に吟遊詩人が来た時に歌っていた音や奏ででいた音楽を再現することができたりする。まあ流石に音楽の再現はちょっと気味が悪がられるだろうからやらないけど。歌を歌える、それも吟遊詩人が歌うようなものを歌えるからか村の高齢者からは時々歌ってくれと頼まれることがある。声優にはなれなかったが、そうやって声でいろいろできるのはちょっと嬉しい。

 それ以外にもいろいろとあるのだが、それはまあいいだろう。


「ふう……」


 今日も今日とて、村の安全のため危険の排除だ。


「グオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!」


 山いっぱいに響くような竜の声。それを聞けば普通の動物は縮み上がりその場に伏して震えるかまたはその場から声の下方向とは反対方向に全力で逃走するか、そんな声だ。もちろんその声は自分の出したもので本物の竜の声ではないが、声だけでもそれだけの力がある。流石竜と言うべきか。

 それを行うのは、魔物を村の近くから追い払うためだ。竜に対抗するような魔物は早々おらず、この声を使えばこの場から追いやることができる。


「ふう……ま、今日も十分と」


 山でやる仕事は竜の声を出せることや身体的な体力以外に、動物の声を聴くことができるのもまた大きい。どこにいるのか、何を言っているのか、それらがわかるから俺が山に出向いている。最近は竜の声のためか、山に行く人が減っているのも理由だ。まあ動物も減っているのむしろその方がいいのかもしれないが。

 人もいない、動物もいない、そんな山の中であれば少々高すぎるのではないかと思われるような身体能力も誰かにばれることなく、その全力を発揮できる。そうして俺は山での仕事を終え、村へと戻る。


「……なんか騒がしいな」


 事件か何かかともおもったがその騒がしさは少々別のものだ。


「何かあったんですか?」

「おう、アーシュ。山から戻ってきたばかりか」

「ええ」

「……そうだ、ちょうどいいか」


 ちょうどいい……?


「えっと、一体何が……」

「実は騎士の方たちが来てな。この近辺で竜がいるかもしれない、って話なんだ。山の方から声がすることがあるってな。ほら、いつも山の中からうるさいのが聞こえてくるだろ? あれだよ」


 ぶわっ、と背中に冷汗が出る。


「あ、ああ、あれか」

「それでな、騎士の方たちも山は不慣れだ。お前さんが案内したらどうかと思ってな」

「……あれ、声は聴いても姿は見たことないけど」

「それでも山歩きに慣れていない人間がいないよりましだろう。お前さん、手伝ってやれよ」


 ああ、真実を知らないっていうのはなんて残酷なことだろうか……いや、今回の事ってある意味自業自得だけどさあ。案内するのはいいが、竜が見つかることはない……どうしよう、何か聞かれても困る。わからない、って言い訳するくらいしかない。村のために、と思ってやってたことだがするんじゃなかったかな……

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