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wizard if もしかしたら正史だったかもしれない話

 魔女は長命だ。それゆえに、魔女は人とのつながりが薄い。いや、正確には弱いというのが正しいだろう。自分は変わらないままずっといるのに対し、人間はどんどん老いて死ぬ。同じ姿をしているのに、自分たちと違う私達に人は怯えや恐れを抱く。逆に敬い崇めることもあるかもしれないが、そういう話はどうでもいい。結局は、普通の人と人……この場合は人と魔女だけど、その普通のつながりのままではいられなくなる。

 ゆえに、魔女は魔女同士で交友関係を持つことが多いが、そもそも魔女の絶対数が少ないのでそうそう交友を得ることも少ない。私や<夕闇>のように一か所に定住せず、旅をしていなければ他の魔女に会うこともないだろうから。まあ、魔女はそれなりに独自の関係性やつながりはあるけど。


 まあ、そういう話は別にいいと思う。今回問題なのは魔女に関しての話じゃない。私に対して、ある男性が行った奇妙な告白に関してだ。

 『俺と一緒に、永遠を生きてくれたりはしない?』

 告白、とは違うのかもしれないけれど、それは彼の想いだろう。私自身彼に対して好意を抱いていないわけではないけれど、かといって本当にずっと一緒にいたいかと聞かれると難しい所がある。

 ただ、その言葉の意味は分かる。意味というか、どうしてそういう言葉がでてきたのか。永遠を生きる、というのは簡単ではない。ただ長命である魔女ですらそうであるのに、下手をすれば世界が終わるまで生き続ける永遠であるなら尚更問題は多いだろう。もちろん、完全無欠な不老不死なんてものは難しいから、多分物理的に死ねば死ぬタイプだろう。寿命を取り払う不老のタイプの永遠だ。いざというときに死を望めるのは永遠とはいいがたいかもしれないけど。


 私の知り合いの魔女……<夕闇の魔女>もまた、彼のように永遠のを望み、体現したものだ。彼女の場合は永遠に転生し続ける術式を使っている。太陽の魔力を使う術式。日のように登り落ちる、生と死の体現……とか適当に行っていたけど、自身の魔女としての名前である<夕闇>にかけているのだろう。

 彼女はその都合、魔女でありながら魔女ではない。魂は魔女であっても肉体は人間のもの、という形になっていることがほとんどだ。まあ、魔女で生きるならばそうそう寿命で肉体を転々とすることはない。その都合、彼女は家族や友人関係がその肉体由来になる。私とは使い魔で連絡を取ることはあるけど、以前の肉体での知り合いには連絡を取ることはない。その時々での関係性を楽しんでいるようだ。

 それくらい気楽にやれないと永遠は難しいだろう。人の生き死にを気にしていれば、永遠なんてものを望むことは出来ない。精神的な問題で死にたくなる。


 彼が私に一緒に生きてほしい、みたいなことを言うのはこの問題が大きいのかもしれない。本来長命である魔女ですら、そういう部分は人間と大きな差はない。多少の慣れや、種族の違いの覚悟はあれども、なんだかんだで魔女と人間の寿命は違う。それですらかかわりのある人間の死を気にすることは多いのに、もともと人間であればどれだけ苦しい心情になるだろうか。その時、側で支えになる存在がいてほしいと思うのは変な話ではないだろう。

 そういう気持ちだけではないだろうけれど、そういう気持ちがあるからこその誘いだと思う。ただ、それ自体が悪いというわけじゃない。それはつまり、私だからこそ話せることでもあるのだから。彼は隠れ家と言っていたけど、そこで一人で過ごしている。環境的な意味ではなく、精神、心情的な意味合いで。他の人が信頼できない、どこか臆病に過ぎる、もしくは慎重に過ぎると言ったところだと思う。なんというか、外に対して壁を作っている感じ。

 最初に彼に会った時から、それは感じていた。分身として操作している肉体と彼自身との会話での違い。違和感。彼は、どうにも対外的な自分というものを作っている感じがある。私が直接会う彼は、結構本来の彼に近いとは思うけど……でもやはり違う感じがある。

 ああ……多分、それだろう。私が彼の想いに応える上で、迷いがあるのは。彼の言葉は本心だけど、本当の意味で本心じゃないと思ってしまうから。もちろん、永遠を生きるということにも迷いはあるけれど、それは結局死なないだけであまり今までと変わるものではない。単純に友人や知り合いに関してなら、<夕闇>の存在もあるし、ダメとは言えないし。それに私が連れ合いになる、ということは逆に彼が私の連れ合いになるということでもある。つまりは、そこで問題になるのは私が彼をどう思うか、だろう。

 もう一度言うけれど、私は彼に対し好意を抱いていないわけではない。むしろ、側にいてもいいとは思える程度には好意はある。


 だから、もう一度しっかりと話さなければならない。









 相変わらず、彼の使っている魔法は異常だ。いや、魔法が異常というよりは……彼の魔力の方がよほど異常だとは思うけど。私でも、あれだけの規模の魔法は使えない。独り言をつぶやいているところに話しかける。

 国作り、といっても人のいない国なんてものは存在しない。彼の今行っているのはあくまで国土の作成、人の住む場所の作成だろう。まあ、人が集まるかどうかはわからないし、それ自体は私が気にかけることではない。


「色々とやっている所に悪いけど、あなたに話があってきたわ」

「何だ?」


 ……やはり、少し違和感がある。硬さ、言葉が微妙に硬質的だ。どうしてそんなふうになったかは知らないけど、やはりこのままでいいはずもない。


「その前に……私は、あなたの本心が知りたいわ」

「……本心?」

「本心……いいえ、本性というか、本当のあなたを、と言った方がいいかもしれないわね」

「俺は……俺だけど」


 恐らくは本人も気付いていないのかもしれない。無意識……いや、どちらかと言えば、無理やり作っていた形態が常態化した、と言うのが正しいのかも。


「本当のあなたと最初に会った時、あれくらいの時なら、本当のあなたを少し見れたと思ったけど……いいかげん、その仮面を外しなさい」

「仮面…………」


 少し驚いた感じではあったけど、どこか腑に落ちた、納得したような雰囲気になっている。やはり自覚はなかったのかもしれない。


「あー、あー、んー……ま、これでいいか。ちょっと昔の自分らしく、話してみるけど」

「そのほうがらしいわね。なんというか、今までのあなたはあなたらしくない感じがあったから」

「そういうものかな? 確かに、ちょっと対外的な物を作ってる感じは……自覚はないけど、あったかもしれない」


 そのあたりのことは私の知ったところではない……いや、気にした方がいい。というか、やっぱり心配になる。


「はあ……そうそう、実はここに着た理由、話、あの時の返事をさせてもらうわ」

「え……ああ、あの時の」

「ええ。私の返事は……あなたと、永遠を共にすることは出来ない」


 そこまで言った所で、表情が少し強張る。やっぱり、断られると複雑なところでしょうね。まあ、これはちょっと意地悪だけど。


「と、言おうと思ってたんだけどね」

「え?」

「あなたの監視、というか、あなたのその精神状態というか、凄く心配になるのよ。別に、この世界をどうこうとかの意味合いじゃなくて、あなたがその心の状態で大丈夫なのか心配になるというか……その……」


 ああ、なんというか言っていて恥ずかしい。


「ああ、もう! あなたが心配だから連れ添ってあげる! これからずっと、永遠に! それでいいわね!」

「あ、はい……」

「何よその返事は!」


 この雰囲気でこの内容で、その返事は一体どういうことなのかしら? 怒るわよ、流石に。というか、この状況だと私の方が彼に好意があるように見えるじゃないの!


「いい、これからは、私には絶対にあの仮面の状態は見せないこと。本心をさらけ出しなさい。じゃないと、私もあなたも安心できないんだから」

「……うん、まあ、そうさせてもらうよ」


 はあ……多分、本当に、心配だからなんだと思う。だから気になるし、助けてあげたくなる。人の抱く恋愛感情とは違うのだろうけれど……ま、それでもいい。一緒にいれば、また変わってくるだろうから。









「というお話だったとさ……」

「わーすげー」

「おとーさんたちから聞いたお話とちがうよー」


 今、俺は紙芝居をしている。内容はこの国の起こりの時の物語だ。まあ、その内容は真実だけど、伝えられている話とはいくらか違っているが。

 かつて俺が土台を作った国は今では獣人と人の共存する国となっている。時々見回って、やはりあちこちで不和や問題ごとはおおいけれど、それでも共存できる数少ない国だ。獣人の国、みたいなものはまだできていないけどいつかできる可能性はあるだろう。もちろん、獣人に対して敵対的な国はある。北の方の。でもそうそうこちらに手を出してきたりはしない。友好国もある。まあ、お隣だ。他に関しては、様子見という形が一番近いだろう。獣人の立場やらなにやら、色々と急な変化は難しい問題がある。そうそう手出しできないからこその様子見であり、どうなるかの経過を見ているのだろう。それはそれでいい。

 この国問題ごとは、俺の手を借りて解決する必要はすでになくなっている。それでもまだまだ問題は多い。それにある程度対応する必要性はある。そのために各地を回っている対での紙芝居だ。まあ、そろそろこれもする必要性は低い。というか、そろそろ俺が国にあまり関与しすぎない方がいいが……


「純也ー!」


 セディアに呼ばれる。旅に付き合ってもらっている形……一応恋人関係なので付き合ってもらっているというのは語弊があるかもしれない。一緒に旅をしている状況だ。

 紙芝居をしている間は暇なので旅に必要なものの買い物とかをしているようだ。まあ、旅と言っても……魔法を使えば一瞬で各地に移動できるので、情緒的に旅を楽しむことでもなければ必要性はないかもしれない。家へのお土産は二人で選んだりするのでこういう時には買わないし。

 紙芝居をしまい、セディアのところに行く。紙芝居は一種の娯楽、それが終わったということで少々子供たちにぶーぶー言われるが、まあ諦めてほしい。


「買い物終わった?」

「ええ。そっちはもういいのかしら?」

「やることはやったし……もう行く?」


 ここでやることは大体終わらせた。ここには少し前にも一度来ているのでお土産はいい。もう用がないというのであれば、すぐにでてもいいが、たまにはのんびりしてもいい。そのあたりはセディアに任せよう。


「もう行くわ。実は<夕闇>に呼ばれたのよ」

「え、そりゃあまた……」


 <夕闇>。セディアの友人であるらしい魔女だ。永遠の体現者、とか自称しているが……こちらとは違う転生による永遠を実現している。同じ永遠を生きる者、ということでもともとセディアの友人で会ったことも影響しているが、こちらと結構関わりが大きくなっている。それにしても呼び出しか……


「まあ、ゆっくり行きましょう。私達も旅行中だし」

「そうだな」


 まあ、大雑把に扱ってやっていいだろう。あまり放置しすぎるとこちらの状況を考えずに乗り込んでくるので注意は必要だが。

本来正史として書くつもりだった内容のお話。

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