あたしにしか見えないんだよ
そうそう、聞いてよ――――
放課後の話。先週からつき合い始めた山田と一緒に帰ったときのことなんだけど。
山田が変なんだ。
「でさ。そのお守りを持っていると、声が聞こえるんだって。小さいおじさんの声だっていうんだよね。そういうのって、ほんとうかなあ」
「ああ、それな」
「…………ていうか最近さー、山田さー、老けてない？」
「何だよ、それ。つき合い始めたばっかのカレシに言うことか？まー最近あんま寝てないからな。ゲームとかやってっから疲れてんのかなあ？」
「うーん。寝不足ってカンジじゃない、かな。頭とかハゲてるし」
「ええッマジ？どこ？あれか？ストレスで円形脱毛症とかかな？どこ？どこに、できてる？」
「ううん。円形ていうか、全部ハゲだよねー」
「なわけないだろ！ハゲてねーし！」
ほら髪あるし、とか言って山田は髪を掴むような仕草をした。
でも髪なんて生えてないし。カンペキに一本もない。ハゲだし。
「なにも掴んでないしッ地肌が光ってるだけだしッ」
「掴んでるし！地肌光ってないし！」
「そーやって怒鳴って、大きく口をあけたらさ、歯もないし」
「ザケンナよ！歯がないワケあるかよッ！」
「口の周りだってシワシワだしっカンペキ、おジイさんだよ」
「そんな中学生いるかよ！ふざけるにしたってヒドくね？」
「じゃコンパクト貸したげるよッ見てみてよ！」
「……やっぱハゲてねえし！」
「ええ！ハゲてるしッ、ウソいわないでよッちゃんと見てよッ！」
「見てる！もーカンペキに見てんだよッこっちは。お前の目がオカシイんだよ！どっか大きい病院行けよ」
――――で。
言われた通りに、大きい病院に来てやったんだけどさ。フフン。
そこで、わかっちゃったんだよねー。
あたしみたいに、モノとか人とかが前と違って変に見えだした人が今朝になって突然、増えたんだって！大勢いたんだって！
朝、洗面所で顔を洗って鏡を見たら、知らない年寄りが鏡に映ってたから驚いて病院に来た――
そんな人達がいっぱいいて、朝から病院超満員！マジでびっくりだよ。
あたし今日、朝から保健室で寝ててさあ、放課後そのまま帰ったんだ。
それで学校では山田としか会ってなかったんだ。だからその騒ぎに気づかなかったんだね。
日常生活は、声とかで人の区別とかわかるけど、やっぱり、かなり不便かな。
それから一週間くらいしたころ、何かエライ政治家の人と博士っぽい人がテレビに出てきて説明してたんだ。
なんか。この事件って――――
世の中に流れてる時間の中に別の時間が泡みたいになって混じって起こったんだって。
泡になってたのは、その人の未来の時間なんだってさ。泡ってのは、人から湧いたのかな。
世界って、時間が経つごとに、いーっぱい枝分かれして別の世界が生まれ続けているんだそうなんだけど…………
今回、そのいっぱいの世界を分けるガイゼンセイてのがわからない原因で変になっちゃったとかで、チョットだけ時間が混じったんだそうだよ。
……あたしには、よくわかんないけどね。
とにかく見たモノの未来の時間が目に見えない泡になって、そこら中に湧いてたんだって。その泡を見られる体質の人もいて、日本だけで二百人くらいいたんだって。 あたしもその一人、なわけ。
その人達は、見たものの何年か先の未来の姿を見ちゃったんだって。
何年後の未来かは、人によって違うんだって。でも段々。元に戻るから安心なんだって。
――――でね。
この変な事件が起こった原因は、ハッキリとは、わからなくて……
あ。でも、カワベゲンゴロウとかいう博士っぽい人が話してたんだけど、混じった時期は、はっきりしているらしいよ。
〝あくまで憶測だが、今年の十二月二十三日から三十日にかけて時間の状態に変異が起こったのではないだろうか？〟
とか、ＴＶで言ってたんだ。
スッゴイ話だねえ。ＳＦだね。
結局。
みんな騒ぎの様子がわかったのと、だんだんと見え方が元に戻ってきたんで、世の中も落ち着いてきたみたい。
あ、そうそう。
それであたしは山田を許してあげた。彼もこの〝見え方〟の事情がわかって。
言い過ぎたって謝ってきたし。
まだ時々は、笑うと…… 歯のないツルッパゲなおジイさんに見えたりもするけど、人は見た目じゃないし。仲良くしてる。
後ね、この事件ではね。良いこともあったんだよ。
あたしね、病院で検査した時から今までずーっと自分を見てても、全然おバアちゃんには見えなかったんだ！
スゴイ！
スゴイこと、わかっちゃったよ！
つまり、あたしは将来も、おバアちゃんにはならないってことだよね。
ああッ良かった！
今作は私がこれまで投稿した他の短編と、いささか関わりがあるのですけれども……
ちなみにクロスオーバーな物語で最も古くて有名な話というと――――
「アルゴナウタイ」でしょうね。
これはギリシア神話の長編叙事詩に登場する英雄たちの総称で、現代で言うところの「アベンジャーズ」みたいなもの、でしょう……たぶん。
英雄たちがアルゴー号という船で数々の航海をする物語なんですけど……なにせ登場人物が別の物語の主人公ばかりなんです。
神の子とかふつうにいます。ゴロゴロいます。
というか――――
不死身とか、元が女性で男性に変じて不死身になったとか、生まれ変わっても記憶が消えないとか、動物や木に姿を変えるとか、手で触れたものすべてを見えなくするとか――
アルゴー号は特殊能力者で溢れています。
有翼人は二人いる始末だし、予言者なんて三人ほどいますからね。かるく余っているんじゃないでしょうか。
行く末を見ても、後に星座になる人とか女神と婚姻する人とかが、二例以上見受けられたり――
従者が神な英雄や、後に冥界の審判者になる英雄とか――
言っている私も因果関係が説明し難いメンバーも当たり前に船に乗っていたりします。
特別な人がインフレ状態なんです。相対的に〝英雄〟の価値が急落しています。
でも私が注目するのはその英雄の一団にいる、
ブーテース。
彼は、養蜂家なんですよ。
この人って、船内で肩身が狭くはなかったのでしょうか。
バッサバサと羽ばたいて宙に浮いているとか透明とかのびっくり人間の一団の中に、特技はハチミツを作るってことで、普通に仲間として乗船できるものでしょうか。
なにしろメンタルが強いですよね。引け目を感じない強いメンタルこそが、彼の特技なのでしょうか。
でも彼も彼で、後に美の女神を孕ませているから――英雄といえば英雄なんですけどね。
木山喬鳥
