第一章《運命の邂逅》 Ⅳ
レイアとフレアは名前一文字違いなので、近いうちにバカップルになる、これは確定事項です。
レイアは剣先を黒鎧の男の方に向けて問いかけた。
「――で、戦いを続けるの・・・・・・?」
黒鎧の男は首を横に振った。
「いや・・・・・・、我々の負けだ・・・・・・」
「そう、じゃあフレアにお礼を言って【魔界】に帰りなさい・・・・・・」
「・・・・・・はっ?」
「聞こえなかったの? あなたが生きていられたのはフレアのお陰よ・・・・・・」
黒鎧の男はわたしに向かい会釈した。
「助けていただき、感謝する・・・・・・」
「どういたしまして」
わたしは笑顔で返した。
それを確認すると黒鎧の男は気絶してる仲間たちを介抱して、空間転移の『魔石』を使い【魔界】に帰った。
「ねぇ、レイア・・・・・・」
「どうかしたの・・・・・・?」
「この子はどうしよう・・・・・・?」
わたしは《ケルベロス》の方に視線を向ける、この子はすっかりわたしに懐いてしまった。
「フレアの家で飼えばいいんじゃない?」
レティシアが提案してきたが、とてもじゃないが・・・・・・。
「こんな大きい子、家では飼えませんっ!」
そう答えると、《ケルベロス》が捨てられた仔犬のような目で見つめる。
(うぅ、そんな目で見ないでよぅ~。)
「この、【まどろみの森】は危険な『魔物』がいないのよね・・・・・・?」
「うん、そうだよ」
「じゃあ、この森にで生きていって貰うのはどうかしら・・・・・・?」
レイアの提案に、わたしは頷いた。
「うん、それがいいと思う」
「ケルちゃん、この森は住みやすいよ、だからこの森で暮らさない?」
ケルちゃん(わたしが今付けた名前)は、こくりと頷き。
寂しそうな背中を見せながら森の中に消えていった。
「これで、終わったの・・・・・・?」
「ええ、フレアのお陰で誰も命を落とさずに、ね・・・・・・」
レイアが答えてくれると同時にわたしは緊張感が抜けて、ぺたりと座り込んでしまった。
「怖かったよぉ~」
「無理もないわね、手を貸すわ・・・・・・」
レイアがくすりと笑い、わたしに手を差し伸べる。
わたしは手を取って、お礼を述べる。
「はは、ありがとう・・・・・・」
わたしがレイアの手を取り立ち上がった瞬間、いきなりレイアに抱きつかれた、甘い香りに包まれて、柔らかく温かい感触を感じた。
「あの・・・・・・、レイアさん・・・・・・?」
「キャー、レイアちゃん大胆ね~」
レティシアはレイアを冷やかしたが、それでもわたしに抱きついたままで、レイアは頬を赤く染めた。
「ごめんなさい・・・・・・。可愛らしい花が咲いていたから、触れてみたくなったの・・・・・・」
そう囁いて彼女はわたしの頬を美しい花に触れるように、そっと撫でた――その眼差しは最愛の人を見つめるようでいて、わたしは目が合うと恥ずかしくて俯いてしまった。
「なんだか、貴女とは初対面な気がしないの・・・・・・」
「わ、わたしもレイアのこと知ってる気がするし・・・・・・、だ、大好きですっ!」
「ふふ、ありがとう・・・・・・。もう少しだけこのままでいさせて・・・・・・」
彼女の温もりに包まれて、体が火照る。わたしはそっと、彼女の腰に手を回す。
俯いていた顔を上げ、レイアと見つめ合う。
この時間がいつまでも続けばいいのに、そう思った。しかし、それは叶わなかった。
レイアがわたしからそっと離れ、背を向けた。
「フレア、私に好感を持ってくれるのは嬉しいけど・・・・・・。私は『魔女』よ、簡単に私を信じてはいけなわ。何をされかわからないわよ・・・・・・?」
「いいのっ!」
「えっ?」
「貴女になら、レイアになら、何をされてもいいの! わたしはレイアの全てを受け入れられるから・・・・・・」
わたしはなんてことを言っているのだろう?
こんなことを言ってもレイアを困らせるだけなのに。レイアは困った表情を浮かべたが、すぐに笑顔に戻った。
「やっぱり、フレアは優しいのね・・・・・・」
違う! わたしは優しくなんかないレイアから離れたくないだけ。そして、レイアに泣き落としして困らせて、わがままなだけ・・・・・・。
わたしはレイアから離れて泣きながら走り出した。
「待って、フレア」
レイアの呼び止める声が聞こえたが、それでも、わたしの足は走ることを止めない。
「――捕まえた」
気がつくと、後ろからレイアに抱きつかれていた。
一瞬で距離を詰められていた。どうやら、レイアは足がもの凄く速いようだ。
レイアの方を向くと、彼女は優しく涙を拭ってくれた。
「フレア、忘れ物よ・・・・・・」
「忘れ物?」
レイアはわたしが落した鞄を差し出した。
「あっ、わたしの鞄・・・・・・。ありがとう・・・・・・」
わたしが鞄を受け取ろうとすると、レイアは鞄を後ろに回し、わたしの額にくちづけして、悪戯が成功した子供のように無邪気に微笑んだ。
「また会いましょう、フレア」
鞄を差し出し、それを受け取って尋ねた。
「また、会えるよね・・・・・・?」
「きっと、ね・・・・・・」
レイアは微笑み、彼女の姿は無数の青い蝶となり儚く舞って消えた。
「じゃあね、レイアの婚約者さん」
「こ、婚約者っ!?」
「えっ、違うの・・・・・・?」
「まだ、そんなんじゃないよ~」
「『まだ』ということはこれからなる予定なのね?」
「もう、レティシアは本当に意地悪なんだから~」
「ふふ、本当にからかい甲斐のある娘ね、フレアは」
わたしは本の姿をした少女の声がする本に触れた。
するとレイアと瓜二つの半透明の少女の姿が見えた。
「レ、レティシアは幽霊なのっ!?」
「まあ、そうんなところかしら~?」
相変わらず意地悪そうで艷やかな笑みを浮かべるレティシア、でも、レイアそっくりなので、不覚にも美しいと思ってしまう。
「それと、レイアと会うということは、嫌でも私と会うことになるけど~?」
「レティシアのこと嫌いじゃないよ、ちょっと意地悪だけど根は優しいんだろうし」
「そう、なら私は喜んで貴女をからかいに来るわ」
「うん、それでもいいよ」
レティシアは面食らった表情をしたが、すぐに妖艶な微笑みを浮かべて、手を振った。
「じゃあね、フレア」
「うん、またねレティシア」
レティシアの姿も青い蝶となり空に舞い上がり、姿が見えなくなった。
不思議な出会いだった。まるで白昼夢を見ていたようだ。
しかし、レイアの温もりと唇が額に触れた感覚が残っている、夢ではない。
レイアという、強く、美しく、そしてわたしに優しく、儚げな少女。
レティシアという、レイアにそっくりな意地悪で妖艶な少女。
この出会いは、とっても素敵な出会いで、これからもっと素敵なことが起こるんのだと、また彼女達に会えると、期待を胸に、わたしは森の中を歩き出した。
第一章は終わりです。次は第二章、学園生活の始まりです。
ご視聴、ありがとうございます。これからもよろしくお願いします。
少し編集しました。まあ、そんなに違いはないと思います。