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イノセント・フラワー  作者: 聖 刹那
春季章 《凍てついた花の雪解け》
7/22

第一章《運命の邂逅》 Ⅲ

 ついに戦闘開始ですが、相変わらずレティシアはおしゃべりです。

 夜の森を、紅く染まった月が照らしている。

「レイアは何をしたの・・・・・・?」

「あれ、貴女は【無原罪者(フラワー)】なのに知らないの~?」

 わたしの疑問に、レティシアという少女の声を出す本が意地悪そうな声で尋ねてきた。

「知らなくて悪うございましたね」

「そう拗ねないで、説明するから」

 わたしは少し拗ねた顔でレシティアに視線を向ける。

「これは、レイアが創り出した世界【無原罪者の庭(フラワー・ガーデン)】。【無原罪者(フラワー)】しか使えない能力で、実際の世界とは違う擬似空間を作り出して、術者の味方と敵対する意思がある魔力反応を感知して、その対象をこの世界に閉じ込めるの。この中ではどれだけ地形が変わっても、実際の世界には何の影響もない。ちなみに、この世界から出るには術者が解くか、術者を殺す、または気絶させることで出られるの」

「なるほど、よくわかりました」

「貴女、頭弱そうな顔してるのに賢いのね」

「馬鹿にしてるの? 褒めてるの?」

「褒めてるのよ?」

 (確かにわたしは知的に見えないけど、勉強はそこそこできるし、学校の成績も良い方だよ?)

 レシティアの言葉に腑に落ちない点があったので、もう一度レシティアに尋ねる。

「ちょっとまって、わたしが【無原罪者(フラワー)】なの・・・・・・?」

「どう考えてもそうでしょ? 虫も殺せない見た目なのに、都市一つ滅ぼせそうな『魔力』を感じるわ」

「で、でも、【無原罪者(フラワー)】は伝説上の存在なんじゃ・・・・・・」

「そんなことはないわ、レイアも私も【無原罪者(フラワー)】だから」

 レシティアの言葉にわたしは言葉を失う。


 【無原罪者(フラワー)】とは、人と人の間に生まれず、『精霊』のように自然に発生して実体化する。

 その時、赤子ではなく少女の姿で現れ、外見と知識は十歳前後のもので、外見上は普通の少女だが、体は殆ど飾りのようなものであり。 

 常人より『魔力』が遥かに高く、食事をしなくても『魔力』を摂取さえすれば生きていける。食事をすると全て『魔力』に変換される為、老廃物を出さない。

 生殖機能がなく、子供を産むことができない。

 そして、ある一定の年になると精神と肉体を固定し年をとらなくなる――つまり不老になる。 

 不老だが不死ではなく、肉体を破損すると死亡し、『魔力』が枯渇すると消滅する。

 という、人知を超えた存在。

 

「そう・・・・・・、わたしは人間じゃなくて化物なんだね・・・・・・」

 わたしはがっくりと膝を落とす。  

 なんとなく、そんな気はしていた。しかし、改めて自分が人間じゃないと知ると、少し悲しくなる。

「そんなことないわ・・・・・・」

 気がつくとレイアがわたしの傍に来ており、しゃがみ込みわたしの肩を優しく掴み、そっと自分に寄せた。

「確かに私や貴女は普通の人間じゃないかもしれない・・・・・・。でも、貴女のように可憐で、美しい心を持った女性が化物な筈ないわ。貴女のことを化物と呼ぶものがいるなら、私が切り伏せてみせるわ・・・・・・」

 そう彼女は述べて微笑んだ。その言葉は、どこまでも温かく、そしてどこまでも優しくわたしを励ましてくれた。

 目が合って、少し照れくさかったけど、わたしも精一杯の微笑みを返した。


 レイアは立ち上がり再び目前の敵に視線を向けた。 

 『魔族』の黒鎧の男が二人。『魔族』の狙撃銃を持った男。そして、【ケルベロス】という『魔獣』。 

「【ケルベロス】・・・・・・。『上級魔獣』だから少し面倒ね・・・・・・」

「チッ、だからあの女は嫌いなんだよ! 気分で任務を放棄しやがるから・・・・・・」

「上司の悪口・・・・・・? 関心しないわね、あの人は悪い人には見えなかったわよ・・・・・・?」

「女同士ではそう見えるんだろうなぁ、本当にどこの世界も女は女好きだよな」

「ええ、好きよ・・・・・・。とっても・・・・・・」

 そう言うと、レイアは一瞬、私を見た。

 (まさか、これは両想いなの!? 両想いなのね!? レイアもわたしのこと一目惚れしてくれたのかな? それとも、わたしが見た夢をレイアも見たのかな?)

「良かったわね。レイアが貴女のこと、『とっても好き』だって~?」

「もう、からかわないでよ~」

 レティシアは人のことをからかうのが好きなのことはよくわかった。

「それは違うわ、可愛い娘をからかうのが好きなだけよ?」

「なっ!? なんで私の考えてることわかるのっ!?」

「さ~あ、どうしてかしら~?」

 もう、意地悪な本のレティシアは無視して、レイアの方に視線を向ける。

 既に戦闘開始しているようだった。


「――氷剣(ソード)

 レイアが呟くと、どこからともなく『氷の剣』が出現した。

 レイアは剣を上段に構え、間近にいた黒鎧の男へ、一気に間合いを詰め、その勢いで切りかかる。

 黒鎧の男はレイアの剣撃を防御しようと、腰の剣を抜いてレイアの剣を受け止めたが、黒鎧の男の剣は亀裂が入り、あっけなくへし折れた。

 そのまま、レイアは鎧ごと一刀両断するかと思いきや、剣を下げた。

 そして、黒鎧の男目掛けて体を旋回させながら、脚部を回し込んでかかとで蹴る『転身脚』という名の後ろ回し蹴りを放った。

「がはっ・・・・・・」

 兜ごと蹴ったレイアの美脚は健在で、黒鎧の男は蹴られた勢いで木に激突して気を失った。


 レイアは剣を構え直し、残りの黒鎧の男に向かおうとした。

 ところが、遠くからレイア向かって銃弾が飛んできて、レイアはそれを剣で弾く。銃撃より速く剣を振り銃弾を弾くのは並大抵の動体視力ではないだろう。

 狙撃銃を持った男がかなり離れた所から銃を構えている。

 そして、男は再び標準を定め弾を再装填する。

「無駄よ――アイスバレット」

 レイアの声と共に、氷塊が現れ、長銃の男がいる方向に一直線に飛んでいく。

「ぐあぁぁぁぁ!!!」

 氷塊は長銃の男に直撃して爆ぜる、そして、長銃の男の悲鳴が聞こえた。 

 レイアが使用したのは紛れまない『魔術』だった。

  

 『魔術』とは、有から有を生み出す術。『精霊の力』、簡単に言えば自然の力を借りて起こす事象のことをである。

 そして『精霊』とは、草木や、動物、人、無生物一つ一つに宿っているとされており、自然の神秘であり、自然そのものである。

 知覚では認識することができないが魔力の高いものは感じ取ることができる。『大精霊』になるその限りはなく、実体を持つと伝承される。 

 つまり『魔術』とは、その『精霊』から力を借りる代わりに『魔力』を渡して等価交換により成り立つ。

 自然を操るイメージを構成して、『魔力』を媒介にして『精霊』の力を借り、イメージを現実にし事象を起こす。

 彼女の場合、『氷の精霊』より力を借りて、『魔力』を媒介にして大気を冷却して氷塊を作り出して放ったのである。

 しかし、『精霊』から力を借りるのであって自身の力ではない。よって自然災害並みの『魔術』を使える人間は、この世界には存在しない。


 とは言っても『魔術』が等価交換によって成り立ち、自然に存在する『精霊』の借り、初級から中級程度の『魔術』しか使えないが。

 ちなみに、自然そのものである『精霊』自身は自然を意のままに操ることが可能である。

 そこで、自身に宿る『精霊』の力を行使して発動させる、『魔法』は『奇跡』と言っても過言ではない力が存在する。

 『魔法』とは、自身の『魔力』を『魔術』と違い莫大に消費するが、その分、威力は絶大で自然災害並みの『上級魔術』に匹敵すると言う。

 しかし、『魔法』を使用できるものは数少ないと認知されている、だが、それは一般人の話で【無原罪者(フラワー)】である彼女にその限りはないだろう。


 残りは黒鎧の男とケルベロスだけになった。

 そこで、初めてケルベロスが動き始めた。

「グオオォォッ」

 《ケルベロス》は咆哮を上げ、レイアに突進してくる。 

 そして《ケルベロス》の巨体がレイアに衝突する、レイアは剣で受け止めたが、剣は粉々に砕け散ってしまった。 

 そこに、《ケルベロス》の右前足の追撃が迫り、レイアを殴りつけようとするが――レイアはそれを左腕一本で受け止めた。

 おそらく、『魔力』で補助して腕を守っているのだろう。そうでなければ、あんな巨体の攻撃を腕一本で受け止められる訳がない。

「馬鹿な!? 《ケルベロス》の攻撃を腕一本で受け止めただと・・・・・・」

「『受け止めた』じゃないわよ・・・・・。腕が折れそうよ・・・・・・」

 レイアは愚痴をこぼし、《ケルベロス》を紅い瞳でゆっくり見つめ、呟いた。

「ねぇ、私の目を見て・・・・・・。何が見える・・・・・?」

 《ケルベロス》はレイアを睨みつけていたが、やがて《ケルベロス》の全身が震えだし、レイアから後ずさった。

 彼女から感じる絶対的な死の匂いを感じ取り、恐怖したのだろう。「このままでは、自分が殺される」と。

 

「どうした? なぜ攻撃をやめる・・・・・・?」

「お利口さんね・・・・・・。あなたたちよりもずっと賢い犬だわ・・・・・・」

「チッ、この使えない犬がぁぁ!」

 黒鎧の男は叫びながら剣をケルベロスの腹部に突き刺した。

「ガルルルル」

 《ケルベロス》は黒鎧の男に牙を剥いたが、黒鎧の男はそれでも攻撃をやめなかった。

「なにが『上級魔獣』だっ! ただの駄犬だろ!」

 《ケルベロス》は黒鎧の男を前足で殴りつけ、黒鎧の男は勢いよく吹き飛ばされ、地を転がった。

「た、助けてくれ・・・・・・頼む・・・・・・」

 黒鎧の男は命乞いをしたが、レイアは冷たくあしらった。

「自業自得ね・・・・・・、死んで悔い改なさい・・・・・・」

 そして、黒鎧の男に《ケルベロス》が迫り来る。


「どうして止めないの・・・・・・?」

「あんな奴、助ける価値があると思うの?」 

 レシティアは冷酷な言い放つ。わたしはその言葉に憤りお感じ叫ぶ。

「この世界に価値のない命なんてないよっ!」

 わたしはレティシアに叫び、黒鎧の男を助けるため走り出した。

「貴女は変わらないのね、フレア・・・・・・」

 レティシアの声はフレアに届くことはなかった。


 わたしは《ケルベロス》の前に立ち塞がった。

 レイアが驚愕の表情でこちらを見る。

「危ないから離れなさいっ!」

「いやっ! 見殺しになんてできない・・・・・・。『魔族』だって人間だった変わらない、みんな同じ命なんだよっ!」

 レイアが危険だからと離れるように促すが、わたしは引くことができない。

「我々『魔族』と・・・・・、人間など下等種族と一緒にするな・・・・・・」

「どこまであなたたちの心は汚れきっているの・・・・・・。彼女は、フレアは自分を見下してるあなただって助けようとしてるのよ? そんな彼女を見て恥ずかしく思わないの?」

「・・・・・・っ!」

「フレア、離れて・・・・・・一撃で仕留める・・・・・・」

 それを見てわたしは首を横に振った。

「いいの、人間も『魔族』も、『魔物』だって変わらない命なんだよ」

 《ケルベロス》がわたしを攻撃しようとするが、わたしは《ケルベロス》に優しく触れて囁いた。

 レイアはそう言い放ち、再び『氷の剣』を出現させて構える。

「可哀想・・・・・・、その傷、治してあげる・・・・・・」

 わたしは《ケルベロス》の傷を治すため『治癒術』を使用した。

 眩い光に包まれ、《ケルベロス》の腹部の傷は癒えていく。

「ほら、もう大丈夫だよ」

 わたしは《ケルベロス》に言葉が通じないとしても、わたしの気持ちは伝わっていると思った、すると――

「クゥーン」

 と《ケルベロス》は仔犬のような鳴き声を上げた。 

 わたしも少し驚いたが、わたしの気持ちが伝わったのだと思い嬉しくなった。 

 そして、レイアに向かってお願いした。

「レイア、【無原罪者の庭(フラワー・ガーデン)】を解除して」

 いつまでも夜の景色だと落ち着かないから、元の森に戻して欲しいと思った。

「えっ? ええ、わかったわ・・・・・・」

 レイアが【無原罪者の庭(フラワー・ガーデン)】を解除して、再び世界が硝子のように割れ、元の【まどろみの森】に戻っていた。


 

 次回で第一章は終わりです。 


 かなり編集しました。前から読んで頂いていた方には申し訳ないです。

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