第四章《災厄の種》 Ⅱ
今回はレイアさんが色々酷いです。
普段は冷静だけどフレアのことになるとこれが平常運転です。
◇レイア・エンフィールド 視点
夜が明け、朝を迎える。
余り体が休めていないが学校に登校する。学校で勉強することより彼女に会えることに意味がある、いや、それが本命だ。
彼女に会うために学校に通っている、と言っても過言ではない。
フレア。『太陽の花』のような彼女は、自ら光を放つ星である恒星のように輝きを放つ。彼女の傍にいると彼女の温もりで溶けてしまいそうだ、もっとも、彼女のに溶けてしまうなら本望だ。
登校する準備を終えて家から出る。空を見上げると空一面を覆い尽くす鉛色の空。
「胸騒ぎがする・・・・・・」
不安が曇り空のように心を埋め尽くしていく。まるで今日は晴れることがない、と告げているようだ。
「レシティア、学校まで一気に行くわ・・・・・・」
「えっ? ちょっと、レイア・・・・・・」
私は地を蹴り、木々から木々へ飛び移りながら学校へ向かう。『霊体』であるレシティアは浮遊しており、風船のようにふわふわとしか移動できないので私に追いつけないが、まあ、後で謝ることにしよう。
今は一刻でも速くフレアに会いたかった。
学校に着き、教室に入るとクラス全体が驚いたと思う。なぜなら私が窓から教室に飛び込んできたからだ。
三年花組の教室は東校舎の三階で、すぐ横に【まどろみの森】の樹木が広がっている。
私は『鍵開けの魔法』で施錠された三階の窓を開け、木から飛び上がる。
『鍵開けの魔法』とは、鍵の掛かった扉などを開ける手段であり。
方法は簡単、物に宿る『精霊』に語りかけて鍵を開けてもらうようにお願いする、すると『精霊』が鍵を開けてくれる。
『精霊』を感じ取ることができる者には、誰でも使用できる初歩的な『魔法』だ。
空中で『碧海の書』から上履きを取り出し、履き替え、下履きを『碧海の書』に収納する。そのまま窓から飛び込み廊下を素通りして教室に入り着地する。そして第一声が――
「フレア、会いに来たわ・・・・・・」
という経緯なので、普通の人は誰でも驚くだろう。まあ、私は驚かないが・・・・・・。
「いや、可笑しいだろ・・・・・・」
クラス全体が私に注目している中、黒猫さん、もとい翼が私に近づいて来る、隣には渚も一緒だ。
「えっと・・・・・・、どのあたりから可笑しいのかしら・・・・・・?」
「全体的に、だよ・・・・・・」
翼は頭を掻いて、ため息をつく。渚は真剣に私を見つめ口を開く。
「そうです、学校は勉強するために通う場所です。恋人と逢い引きする場所ではありません」
「いや、そうじゃないだろ」
渚の指摘はもっともだが、翼にとってはそこは問題じゃないらしい。
「私は高校卒業以上の知識を持っているから、学校で勉強するということは復習をしているようなものだから余り楽しくないわ、知らないことを知るならまだしも・・・・・・。それに、一度覚えたことを忘れることは殆どないわ。古きを温めて新しきを知る、温故知新という言葉もあるから復習することにも意味があるのかもしれないわね・・・・・・」
「長いっ! もっと簡潔に言え」
「つまり、私が学校に通うのはフレアに会うのが目的、ということよ・・・・・・」
私の告白に翼と渚だけではなく、クラスメイト全員が絶句し、沈黙に包まれる。
私の発言のどこに問題があったのか思考を巡らせるが、何も問題はないと結論づける。フレアに会いたい、という気持ちは嘘偽りない本心だから。
「ダメだ・・・・・・。なんで朝っぱらからこんなにのろけてやがるんだ・・・・・・」
「聞いてるわたくしたちの方が恥ずかしいです・・・・・・。なんで恥ずかし気もなくそんなことが言えるのでしょう・・・・・・」
翼と渚は頭を抱えてうなだれる。静まり返っていた教室は再び朝の喧騒に包まれる。
「やっぱり、フレア姫とレイアさんはデキてるって~」
「いや~、もう一夜を共に過ごした中なんじゃないの~?」
「いや、あの二人はピュアな関係なんだって~」
クラスの女子たちは嬉しそうに私とフレアの関係について話し合ってる。
「嘘だぁぁ! フレアたんは女の子に興味ない筈だぁぁ!」
「よせ、俺たちが踏み込んでいい次元の話ではない・・・・・・」
「応援しよう、彼女たちの幸せな未来を願って・・・・・・」
男子たちに至っては泣き喚く人や、悟りを開いたような顔をしている人など様々であった。
私は確かにフレアに会うために学校に通っている。だが会いに来ているのはフレアだけではないことに気がついたので補足説明をする。
「そうね・・・・・・、私が学校に通っているのはフレアに会うことだけが目的ではないわ・・・・・・」
「――と、言いますと・・・・・・?」
渚が顔を上げて続きを促す。翼も顔を上げてこちらに視線を向ける。
「渚に翼、貴女たちに会いに、かしら・・・・・・?」
そう言って私は優しく微笑む。翼は頬を桃色に染め、渚は頬を紅色に染まる。
「お、お前は旗を何本立てる気だ・・・・・・?」
「そ、そうですよ・・・・・・。複数の女性と関係を持とうなんて不誠実です・・・・・・」
二人は明らかに動揺している様子だ。旗? 不誠実? なんのことだろう?
「よくわからないけど、友人に会いに来ることはそんなに不自然なことかしら・・・・・・?」
私は首を傾げる。それとも、二人のことを友人と思っているのは私だけなのだろうか?
「友人・・・・・・。そうですね、不自然ではありません。友人に会いたいというのは自然なことです」
「なんだ、フレアに会いたい、ってのもそういうことか・・・・・・」
渚と翼は安堵したように胸を撫で下ろす。確かにフレアのことは友人だと思っているが・・・・・・。
「今は友だちだけど、フレアがそれ以上の関係を望むなら喜んで受け入れるわ・・・・・・」
私の発言に再び、クラス全体が沈黙に染まる。
それから、しばらくしてレシティアが到着した。置き去りにしたことを謝ったけど許してもらえず、「体で贖いなさい」とか言い出したので完全に無視した。
予鈴が鳴り始業時間となるので自分の席に着く、隣のフレアの席が空席だった。
本鈴が鳴り、担任であるクローム先生が教室に入ってくる。朝のホームルームが開始された。
フレアの家に連絡したが、フレアの両親は、「フレアは学校に向かった」と言ったらしい。つまり、フレアは無断欠席しているということだ。
フレアのことが心配なので教室から飛び出そうとした私を翼と渚、そしてクローム先生が制止させられた。渚と翼は私を取り押さえているだけだったが、クローム先生はどさくさに紛れて私の体を触りだしたので、男女問わず教室全体が色めき立つ。その様子をレシティアは愉快そうに見守っていた。クローム先生曰く「授業をサボろうとする悪い娘にお仕置きよ」とのことだが、『お仕置き』と言って胸を触ったり、お尻を撫でたりするのはいかがなものか? いかがわしいものだ。
これ以上、担任教師のセクハラ行為がエスカレートさせる訳にはいかないので、大人しく授業を受けることにした。本当は今すぐにでもフレアを捜しに行きたいところだ。
そんな賑やかな朝のホームルームを終えて、一時間目の授業が開始される。
授業中も終始フレアのことを考えていた。渚や翼の視線を感じた、心配してくれているようで申し訳ない気持ちになる。だから、少し落ち着くことにした。
考えていても仕方がないので、フレアはお昼休みに捜すことにした。
次回はレイアとフレアは会える・・・・・・と思います。
ちなみに、レイアの胸騒ぎは未来の恋人の危険信号です。




