第三章《巡り合う花》 Ⅳ
ボーイッシュで不良少女ぽいっ、翼さんは、優等生な渚さんと仲良しなので。悔しそうにしてる渚さんの為に一肌脱ぎます。
ちなみに翼さんは着痩せするタイプです。
「ここは・・・・・・」
渚が目を覚まし、辺りを見回す。
「気がついたか? ここは保健室だ」
「翼、思い出しました・・・・・・。わたくしはレイアに負けて・・・・・・」
渚は思い出して暗い表情をする、その顔には悔しさが滲み出ていた。
「わたくしはどうしてこんなに弱いのでしょう・・・・・・?」
「弱くなんかねぇ~よ」
渚が弱くなんかない、いつも精一杯努力して強くなろうと頑張っている。普通の人間なら弱音を上げて投げ出すような鍛錬を自分から進んでやっている。そんな渚が弱いわけがない。
「それでも無原罪者なのに魔力量が低くて、出来損ないです・・・・・・。あの時も翼に守ってもらっていただけです・・・・・・」
「お前は出来損ないなんかじゃねぇ!」
俺はつい声を荒げてしまう、渚の瞳が潤む。少しきつく言い過ぎたと思うけど、一度口から放たれた言葉を取り下げることはできない。
渚は言葉が丁寧なのに、俺は口が悪いとよく言われる。それでも変える気はない、強がりでも、虚勢でも張ってないと渚を守れないから。
俺は渚が横になっているベットの隣の椅子から立ち上がり、保健室から出ようとする。
「翼どこに行くんですか・・・・・・?」
「ちょっと、レイアを殴ってくる。そうしないと俺の気が収まらない・・・・・・」
「いいです、翼・・・・・・。悔しいけど嬉しいんです・・・・・・・。レイアはわたくしのことを見下さず認めてくれたから・・・・・・」
「その上から目線が気に入らないんだよ・・・・・・」
俺はそう呟いて保健室のドアを開ける。渚は涙を手で拭って微笑む。
「心配してくれてありがとうございます、翼」
俺は保健室から出る。当たり前だ渚は俺にとって――大切な人なのだから。
保健室に向かって廊下を歩く私とフレア、その後ろをレシティアが霊体で浮遊しながら追って来る。
「あ、フレア姫だ」
「本当だ横に並んでる人誰だろう?」
「綺麗な人だよね、フレア姫の彼女かな?」
「いいな~、美人カップル」
などと、女子生徒たちが話していた。私は疑問に思ったことを口に出す。
「フレア姫・・・・・・?」
「それは、よくわからないけど。いつの間にか呼ばれるようになってたんだよね~」
フレアは照れたように笑っていた。そうね言われてみれば・・・・・・。
「フレアは可愛いらしくてお姫様みたいで、守ってあげたくなるからじゃないかしら・・・・・・?」
「ええ、そんなことないよ~。レイアの方が綺麗だよぉ~」
「はいはい、二人とも美人、二人はバカップルそれでいいじゃない?」
レシティアが呆れたように口を挟んでくる、フレアは頬が紅潮していく。
「な、何言ってるの!? わたしとレイアはまだ付き合ってないから~」
「また、まだ、って言ったわね? いつ付き合う気なのかしら~?」
「レシティア、フレアをからかわないで・・・・・・」
「あれ~? レイアさん頬が緩んでますよ~? どうしました~?」
レシティアに指摘され自分の頬が緩んでいるのに気が付く。照れてるフレアが可愛くて、つい頬が緩んでしまったのね、これは仕方ないことね。
「まったく、甘ったるくて見てらんねぇ~」
聞き覚えのある口調は悪いのに綺麗な声のする方を向くと、翼も呆れた表情でこちらを見ていた。
「あっ、翼。渚はもう大丈夫なの?」
「さっき目を覚ましたところだ。それより・・・・・・」
フレアの質問に答えてから、私の方を猫のような瞳で睨む。
「レイア、ちょっとツラ貸せ」
翼の表情から読み取ると・・・・・・。
「なるほど・・・・・・、渚が悔しがってたから一発殴らせろ、ってことね・・・・・・?」
「なんで俺の考えてることが分かるのか知らねぇけど、理解が早くて助かる」
「ちょっと、翼、なんでレイアが殴られなきゃいけないの!?」
「フレア、いいの・・・・・・。翼、いいわよ、それで貴女の気が晴れるなら・・・・・・」
私が殴られて事態が収まるならそれでいいと思った。しかし、翼は納得のいかない、という感じだった。
「それじゃあ意味がねぇんだよ! 俺がお前と戦って勝たなきゃ意味がないんだよ!」
「本当にわがままな、子猫ちゃんね~?」
そこでレシティアが翼に向かって苦笑する。それを聞いて翼の怒りの矛先はレシティアに向かう。
「誰が、子猫ちゃんだって・・・・・・?」
「翼ちゃん以外に誰がいるのかしら~?」
「馬鹿にしやがって・・・・・・」
「女の子なのに男装して、男言葉で、子猫ちゃんなんて。翼ちゃんは本当に可愛いわね~?」
「もう許さねぇ、レシティア、お前からぶん殴ってやる!」
「はいはい、子猫ちゃんとじゃれあうのも悪くないわね。レイア交代して」
「レシティア・・・・・・。余り人を怒らせるものじゃないわよ・・・・・・?」
私はレシティアに実体を譲り、霊体になる。そして、フレアに声をかける。
「フレア、渚のところに行って上げて・・・・・・?」
「分かった。翼、レシティア、余り怪我しないでね?」
「二人は、私が見ておくから大丈夫よ・・・・・・」
「ありがとう、レイア」
フレアは渚のいる保健室へ駆け出す。
翼の周囲が木の葉を纏った風に包まれ世界をの見込んでいく。景色は一変して紅い月が照らす夜の校舎となる。
無原罪者の庭の中で翼とレシティアは対峙する。
「子猫、子猫、って馬鹿にしやがって! 俺は化け猫だってこと思い知らせてやるっ!」
翼がそう叫ぶと、跳ねた二つの黒髪が猫の耳となり、黒い尻尾が出て、爪に風が纏い、長い爪となる。その姿は黒猫のようだった。
『レシティア、彼女はかなり強いわ・・・・・・』
私は念話でレシティアに警戒を促す。
『わかってるから、レイアは大人しくしてなさい』
レシティアは妖艶な笑みを浮かべる。そして宝具を出現される。
「蒼天の書、起動っ!」
蒼い魔道書が空中に浮かんでいる。そして詠唱する。
「――アイスニードル」
氷属性初級魔法・アイスニードル。複数の氷柱が翼の真上に現れ降り注ぐ。
「チッ、この程度で仕留める気かよっ!」
翼は風を纏っとた爪が空を切る。その刹那、旋風となり氷柱を砕く。そしてもう一本の腕をレシティアに振る。切り裂くように鋭い風が迫る。
「うわっ! 危ないっ!」
レシティアは窓から飛び出て回避する。そのまま空を浮いている。飛行魔法、空を飛ぶ古代魔法、無原罪者でも使える人間は殆どいない。レシティアはそれを感覚だけでやってのける、天才と言わざる得ない。
「空飛びやがって、撃ち落としてやるっ!」
翼は跳躍してレシティアに接近する。
「撃ち落とされるのはどっちかしら?」
レシティアが詠唱して足元に青い魔法陣が出現して、空中で静止する。
「――アクアバレット」
水属性下級魔法・アクアバレット。水に弾を相手に撃ち出す魔法だが・・・・・・。レシティアの周囲に留まる、その数は数十といったところだった。
「アクアバレット、一斉発射っ!」
数十個の水弾が翼を襲う。翼は空陣を空中に出現させて、空陣を蹴り飛び上がる、いくつかの水弾を躱す。空陣は魔法陣より簡易式の魔法陣のようなもので、空陣と空陣を渡って空中を歩くことができる。
いくつかの水弾は校舎に直撃し崩れる。無原罪者の庭の中で起こったことなので実際の世界には影響はない。
しかし、数個残った水弾は校舎に当たり直前に曲がり翼を追尾する。レシティアの魔力が込められているから、それを操るのは簡単だ。
「追っかけてくんなよっ!」
爪で空を切り裂きかまいたちが発生して、水弾を全て相殺する。
さらに翼は空陣を出現させ蹴り、一気にレシティアに接近する。レシティアは迎撃の体制に構え詠唱しようとする――が。後ろから風の塊が直撃して体制を崩す。
「い、いつの間に・・・・・・?」
『貴女がアクアバレットを発動してる時に遥か後方でエアロショットを発動していたみたいね、タイミングを合わせて今飛んでくるように調整したようね・・・・・・』
風属性下級魔法・エアロショット。風の弾を発生させる魔法。
『まったく、気がつかなかった~。翼なかなかやるわね~』
『ほら、その翼さんは、目の前よ・・・・・・?』
『あっ、やばっ・・・・・・』
私とレシティアが念話で会話してると、翼はレシティアの目前に来ていた。そのまま風を纏った足を素早く回転させながら蹴る。
「旋風脚っ!」
レシティアは翼の蹴りを物理障壁で防いだけど、勢いを殺せず撃ち落とされる。
「ひゃあぁぁぁ」
間抜けな声を上げながら落下していくレシティア。そこに追撃するように、翼は両腕を振り、大きなかまいたちを放つ。
体制を崩したままのレシティアは直撃する、そして校舎に激突する。
翼は校舎に降り立ちレシティアの姿を探す。しかしレシティアの姿は見当たらなかった。
次回、レシティアと翼の戦いに決着が付きます。




