第二章《破滅の死神》 Ⅵ
戦闘中に緊張感がないのは、まだ、シリアス展開じゃないからです。
レイアの代わりにアリスちゃんと対峙するレシティア。
アリスちゃんは大鎌を構え、レシティアは左手を差し出し呟く。
「――蒼天の書、起動」
するとレティシアの手元に青い本が出現する。おそらくあの本は魔法を発動させる道具で魔導書と呼ばれる類の書物、とてつもない魔力を感じる。
蒼天の書を警戒したアリスちゃんは大鎌を振りかぶり接近する、それでも、レティシアは微動だにせずアリスちゃんを眺めていた。
「――雷光鎌閃!」
アリスちゃんが振り上げられた大鎌より雷光が迸り、そのままレシティアを切り裂く。しかし、血飛沫すら飛ばすことなくレシティアの姿は数十羽の青い蝶となった。
「やっぱり、幻術ね・・・・・・」
アリスちゃんの問い掛けに、どこからともなく響くレシティアの声が答える。
「ええ、そうよ、これは幻術・胡蝶の幻影。貴女が見ているのは私が蝶になったのかな? それとも、蝶が私になっていたのかしら?」
「答えは、レシティアお姉ちゃんが見せた幻、だよね?」
アリスちゃんが詠唱して足元に赤い魔法陣が展開する。
「焼き尽くせ! エスクプロード」
炎属性上級魔法・エクスプロード。上空より巨大な炎の塊が地面にぶつかり爆発を起こす。数十羽いた蝶は全て燃え尽きて消えた。
「本当に火遊びをするなんてね~」
空中に再び青い蝶の群れが現れて集まりレシティアとなる。
「こんなの火遊びの内に入らないよ? 火遊びって言うのは、もっと体と体が混じり合うことを・・・・・・」
「レイアだったら、遊びで体を合わせてはいけない、って言いそうね」
「また、あの女の話をするの? あんな女、お姉ちゃんたちには相応しくないよっ!」
怒りに満ち溢れるアリスちゃん。レシティアは嘆息してまた口を開く。
「アリスが思っている程、あの娘は悪い娘じゃないんだけどね・・・・・・」
「フレアお姉ちゃんも、レシティアお姉ちゃんもあの女に騙されてるんだよ・・・・・・。アリスが目を覚まさせて上げるね・・・・・・」
アリスちゃんの瞳が虚ろになり、口元に狂気の笑みを浮かべる。大鎌を下段に下ろし、アリスちゃんの足元に闇が渦巻き、やがて闇は大鎌に収縮して、大鎌が禍々しい闇に包まれる。
「闇夜に響け! ダークネス・ハウリング」
アリスちゃんが大鎌を一閃すると、辺りは闇に染まり耳障りな音響が響く。
「聞いてるだけで頭が割れそう・・・・・・」
わたしは耳を塞いで蹲る、それでも雑音が消えることなく頭が壊れてしまいそうになる。
「フレア!? 大丈夫?」
レイアが声を掛けてくれるが全く聞こえない。どうやら霊体であるレイアには聞こえても問題はないようで平然としている。
意識が遠のき、全ての音が遠くに聞こえる。
気を失う寸前に、水のように澄んだ旋律が流れ出す。その旋律は心地よく、失いかけていた意識も戻り聞き入る。
その歌のする方を見るとレイアが目を閉じ胸に手を当て歌っている。
「綺麗な旋律・・・・・・」
もう雑音が聞こえることはなく、レイアの歌をうっとりと聞き入っていた。
闇が晴れアリスちゃんがグラウンドに立っていた。そしてそのすぐそこに、レシティアがうつぶせになって倒れていた。
「レシティアお姉ちゃんが悪いんだよ?」
アリスちゃんが倒れているレシティアに触れようとすると、その手を掴まれていた。
「残念でした~、これも幻術で~す」
レシティアが溶けて冷気となり、アリスちゃんに纏わり付き氷結して身動きが取れなくなった。
「本当に卑怯な戦い方だね・・・・・・」
「卑怯でごめんなさいね~」
青い蝶が集まりレシティアとなる。レシティアはアリスちゃんに妖艶に微笑む。
「まったく動けないでしょ~? さ~て、何をしようかしら~?」
レシティアは意地悪そうに笑ってアリスちゃんに触れようとした。
「そこまでよ~」
おっとりした女性の声と共に数本の銀色の鍵が二人に降り注いだ。
レシティアはバックステップして回避する。しかし、動けないアリスちゃんに鍵が当たることはなかった。
そして美しい金髪で青い瞳の女性がアリスちゃんの横に降り立った。
「は~い。またお会いしましたね~、お嬢さん方~」
「貴女は、クレイス、だったかしら?」
「そうで~す、可愛い娘に名前を覚えてもらって嬉しいですね~」
少し照れたように笑うクレイス。それを見たアリスちゃんが睨む。
クレイスは銀色の鍵をアリスちゃんの方に向けて回す。すると、氷が割れてアリスちゃんが自由になる。
「クレイス、何の用なの? 手助けなら必要ないけど」
「アリスちゃ~ん、怒らないでよ~。まあ、怒った顔も可愛いけどね~」
「だ・か・ら、何用なのっ!?」
「そうだった、撤退するわよ~、アリスちゃん」
「なんでっ!? アリスはまだ戦える」
「だって~、カオスが心配していたわよ~?」
「カオスが心配してたの?」
「そうなの~、だから帰りましょう?」
アリスちゃんは膨れっ面で渋々と承諾した。
「分かった、帰る」
そして黙っていたレシティアが口を開く。
「このまま帰らせると思ってるんの?」
「そこをなんとか~、お願いしますぅ~」
クレイスの頼みに思案するレシティア。そして、答える。
「ええ、帰っていいわよ」
「じゃあ、帰りますね~。それでは~」
クレイスは一礼して空間転移の魔石を使い魔界に帰った。
アリスちゃんはレシティアと屋上にいるわたしに視線を向けて微笑む。
「またね、お姉ちゃんたち。次は覚悟しておいてね?」
「そうね、また会いましょう、アリス」
レシティアは笑って笑顔で返すと、満足そうにアリスちゃんも魔界に帰った。
レシティアが屋上に飛び上がって戻ってきた。
「ふぅ~、疲れたわ~。主にあのおっとりし過ぎな人のせいで~」
「お疲れ様ね・・・・・・」
霊体のレイアがレシティアに声を掛ける。
「本当に疲れたわ~、ほらフレア癒して~」
そして、レシティアがわたしに抱きつく、柔らかい感触と甘い香りがする。
「ちょっと~、レシティア抱きつかないで~」
「え~、レイアには抱きつかれてもいいのに~?」
「それは・・・・・・」
でも、レイアそっくりなレシティアに抱きつかれても全く嫌な気はしない。むしろ、ちょっと嬉しいかも・・・・・・?
それをちょっと羨ましそうに見ていたレイアが話を逸らしてくれた。
「それにしても、あのアリスって娘は強かったわね・・・・・・」
「ええ、まだ体が馴染んでないレイアには厳しい相手だったわね」
わたしに抱きついたままレシティアが答える。
「体が馴染んでいない? どういうこと?」
「そうね、レイアは私が体を貸しているから存在できるのは知っている?」
「うん、レイアから聞いた」
「それで、存在が不安定だから、私の体に馴染んでいないの」
「そんな、どうにかならないの?」
「レイア本人の体があれば、それが一番なんだけど・・・・・・」
「二人ともいいの・・・・・・、心配しないで・・・・・・」
レイアは悲しげに微笑む、それがまた痛々しくて胸が痛む。
「それより元の世界に戻りましょう・・・・・・、フレアの友達が心配してるでしょうし・・・・・・」
「無原罪者の庭にいても現実の世界の時間は進んでいるのよ?」
「ええ~! じゃあ昼休みが終わっちゃう」
「じゃあ、解除しま~す」
わたしから離れたレシティアの声を合図に世界が硝子のように割れて元の屋上に戻った。そして、二人がこの学園の制服を着ていることに気が付いた、でも膝より下まであるロングスカートだった。
「あれ? なんで二人ともこの学園の制服を着ているの?」
「今頃気が付いたの? 明日から私たち転校して、このアルカディア学園に通うことにしたわ」
レシティアがスカートを手で翻して、優雅な仕草で答える。
「本当に!? 凄く嬉しい。でも、どうして?」
「それはレイアがフレアと一緒にいたい、って言ってたからよ」
「ええ、例え短い時でもフレア、貴女と一緒にいたかったから・・・・・・」
「レイア・・・・・・」
レイアの言葉に嬉しさが込み上げてくる。レイアと一緒にいられると考えるだけで胸が踊る。だから、この時は、レイアが短い時間と言った意味を深くは考えなかった。
次回、レイアとレシティアの転校してくるお話です。




