看病
「・・・38度9分。立派な熱ね。あんた今日は学校休みなさい」
「ああ・・・そうするわ・・・」
ある日の朝、前日に風呂を上がってから上半身裸で筋トレしていたおかげ
で湯冷めしてしまい、俺は風邪をひいてしまった。
当然、学校は休み。俺は朦朧とする頭を堪えながら携帯に手を伸ばし、綾
に、休むから今日は一人で行ってくれとメールを打つ。
理沙が「お兄ちゃんの看病する!」と言ってくれていたが、そんなことで
学校を休ませるわけにはいかないので俺は無理やり理沙を学校へ行かした。
出る直前まで看病するの!と言って聞かなかったが・・。
メールを打ったあと、母さんが薬と水を持ってきて飲ませてくれる。
その後、俺はしんどいので寝ることにした。
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次に起きたとき、俺の背中は寝汗でびちゃびちゃになっていた。重い体を
無理やり起こし、タンスから着替えをとって服を着替えようとするが腕に力
が入らず、倒れてしまった。
その時、俺の部屋のドアが開かれる。
「_!祐くん!?」
そこにいたのは綾だった。綾は慌てて倒れてしまった俺を抱き起こしてく
れる。
「まだ動いたらダメです!病人なんですから!」
「いや、服がびちゃびちゃで気持ち悪くてさ・・・着替えようとしたんだよ」
「私が着替えさせてあげますから、祐くんは大人しくしてください!」
綾に着替えを手伝ってもらうのは恥ずかしかったが、早く着替えたかった
ので我慢した。
新しい服に着替えると俺は再びベッドに横たわる。綾が手のひらを額につ
ける。手の感触がひんやりして気持ちよかった。
「まだ、かなり熱がありますね・・。ちょっと待っててください」
綾がバッグから冷えピタを取り出して、俺の額に貼ってくれる。
「こっちに来る際に薬局へ行って購入したんです。ひんやりして気持ちいい
と思います」
確かにひんやりして頭が落ち着いた。そして俺はようやくまともな思考に
浸ることができた。
「綾、俺の家来るの初めてじゃないのか?と言うか学校はどうしたんだ?」
「学校は休みました。それで、祐くんのお母様に看病させて欲しいんです。
って言ったら二つ返事で了承してくれました」
「おいおい母さん・・・」
母さんには綾と付き合っていることは伏せていたが、まあ恐らく今ので確
実にバレただろうな。母さんのニヤニヤしている顔が目に浮かんだ。
時計を見ると、時刻は15時30分。ちょうどホームルームが終わったぐらい
か。俺は体温計を取り、熱を測ると38度4分。まだ下がらないか。
「祐くん、こんな部屋に住んでいたんですね・・・」
「ああ。綾の豪邸に比べたら狭くて暮らしにくそうだろ?」
「そんなことはないです!私の家は逆に広すぎて落ち着きません。それより
も祐くんの部屋の方が落ち着いて癒されます・・・」
綾が俺の部屋を物色する。特に見られて困るものはないのでそのままにし
ておいた。
その時、誰かが帰ってきたようだった。まあ、大方予想はつく。
足音がだんだん大きくなり、俺の部屋に理沙が入ってきた。
「お兄ちゃん!熱は大丈夫!?」
理沙は俺と綾を交互に見て驚いた。綾も理沙の登場にとても驚いていた。
「お兄ちゃん、この人・・・」
「ああ、理沙にはまだ言ってなかったな。俺の彼女、綾だよ」
「初めまして。祐くんの彼女の皆本 綾と言います」
「は、はいこれはご丁寧に!お兄ちゃんの妹の木村理沙と言います!」
二人が頭を下げる。俺はその光景が少し面白くて笑みを浮かべた。
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「お兄ちゃん、こんな可愛い彼女いたんだ・・・。どうして理沙に言ってくれなかったの?」
「言わなくてもそのうちバレると思ったからな。それにちょっと気恥ずかし
かったし。でも母さんにからかわれるだろうな」
理沙は俺の横から綾をじーっと見ていた。綾は理沙と目が合うと、ニコッ
と微笑んだ。
「目元が祐くんにそっくりなのね。とっても可愛い」
「うん。だって兄妹だもん」
綾と理沙が出会って数時間。俺に近づく女にはかなり容赦ない綾だけど、
理沙は別なようで、二人とも既に打ち解け始めていた。
「理沙ちゃんは今何歳なの?」
「今は小学5年生です。もうすぐ6年生です」
「お兄ちゃん思いの妹さんなのね。でも祐くんの妹だなんて、理沙ちゃんが
羨ましい」
そんなことを言いながら談笑し合う二人。安心した俺は、再び眠ることに
した。
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「ん・・・・」
起きると既に夜中だった。さすがに寝すぎたか、と思って横を見ると俺の
手を握りながら眠っている綾がいた。
「うー・・・ん祐、くん・・・好きぃ・・・」
どうやら夢の中でも綾の頭の中は俺のことでいっぱいらしい。嬉しい限り
だ。だが、綾を家に返さないわけには行かない。
ずっと安静にしていたおかげか、多少の体のだるさは残るものの、熱はだ
いぶ引いてきたようだった。
俺は外に出るために服を着替え、綾をおんぶした。おんぶする際に起きるか心配だったが、大丈夫だった。
「祐、くん・・・?寝てなきゃダメだ・・・よ・・?」
綾が突然そう言ったので一瞬起きたか?と思ったが、まだ夢の中だと思っていたらしく、またそのまま眠ってしまっていた。
というかどれだけ気を許している相手でも綾は人の前では寝ないと言っていたが、俺の前では寝てくれているということはそれだけ気を許しているということなんだろうか。
俺は綾をおんぶしつつ、外へ出て綾の家へと向かう。道中、綾は全く起きなかった。
綾の家に着くと、事情を知っていたのかメイドがやってきた。
「すまない。俺がずっと看病してもらっていたばかりに、戻すのが遅れてしまった」
「いえいえ、ではお嬢様は運びいたしますね!裕二様、帰りは車でお送りしましょうか?」
「いや、徒歩で帰るよ」
もうこの屋敷では俺が綾の彼氏、もとい夫だと言うことが広まっているらしく、俺が綾の家に行くとなぜか皆に歓迎される。
・・・・・この屋敷でそのことを知らないのは綾の父親だけだろう・・。
最後にメイドに挨拶をしてそのまま家に戻った・・・・