哀れな友人
結局、俺達は二人仲良く遅刻した。俺はともかく、綾が遅刻することがすごいことだったらしく、クラスメイトが驚いていた。
先生に少し怒られたが、あんな綾を見せるぐらいなら怒られてる方が全然いい。
その後は何事もなく授業が進み、昼休み。
「よー裕二。お前今朝はなんで遅刻したんだよ?」
そう言いながら近づいてくるのは俺の悪友の宮本 巧。顔は悪くないんだが、いつも彼女がほしい!と連呼する上に女の子を見つけてはすぐナンパするのでその性格故に女子から敬遠されるというなんとも哀れな男だ。でもやるときはやる男なので俺は信頼している。綾と付き合ったことを最初に報告したのもこいつだ。
まぁ、その時こいつはどういう反応をしたかはご想像におまかせする。
「色々あったんだよ」
綾とディープキスして綾が他人に見せられない状態になったから、なんて言えない。俺は適当にごまかすことにした。
「でも、綾ちゃんと一緒に遅刻してたじゃねえか。綾ちゃんとなんかしてたんだろ!?」
巧が俺の肩を持って揺さぶってくる。
「さぁ言え!綾ちゃんと何をしてたんだ!まさか、朝からしっぽりやってたなんてこと・・・ぎゃあああっ!?」
巧が言い終える前に、巧の股間が蹴り上げられた。巧は痛みに悶絶している。
「汚らわしい手で祐くんに触らないでください。あと、誰が下の名前で呼んでいいと言いましたか?」
蹴り上げたのは綾だった。綾はゴミ虫を見るような目で、痛みに転げまわる巧を見下ろしていた。
「綾ちゃん、そりゃないぜ・・・さすがの俺でも股間を蹴られるのは・・・あっ、でも綾ちゃんに蹴られた痛みだと思うとだんだん気持ちよくっ
アッッッーーー!!」
巧はそのまま気絶して動かなくなった。クラスの男子がそんな巧を祈ったが、女子は完璧にスルーしていた。
「あらら、巧沈んじゃったよ」
「祐くん、邪魔者は退治したのでこのまま私と一緒に昼食にしましょう♪」
その問いに賛成し、俺と綾は屋上で昼食することにした。
屋上は人が少ないのでいちゃつくには最高の場所らしい(巧談)
巧もナンパなんかやめてちゃんと告白したらすぐ彼女作れそうなのになんでかなー。
「はい祐くん。今日はアスパラガスのベーコン巻きを作ってみたんです。あーんってしてください」
フォークに刺して綾が俺の口に持ってくる。俺は周りに人がいないのを確認するとパクッと食べた。
「・・・ん、おいしいな」
「ほんとですか!良かった~。じゃあこっちのピーマンの肉詰めはどうですか?味付けはシンプルにポン酢にしてみたんですけど」
同じく、あーんってしてくれたので口に入れる。ポン酢がさっぱりしててすごく美味しかった。
「綾はほんと料理がうまくなったな~。これならいつ嫁に出ても恥ずかしくないよ」
「え、祐くん嫁って・・・」
あ、つい思ったことを言っちまった。頬が熱くなるのがわかる。
「いや、そりゃさ、このまま学校を卒業して、大学に行って就職して、綾をしっかり養えるようになったら結婚したいよ」
「う、嬉しい・・祐くんが私とそこまで考えてくれていたなんて・・祐くん・・うぅ、嬉しすぎて涙が・・」
「はは、綾は泣き虫だな~。そんなとこも可愛いんだけど」
「も、もぅ!からかわないでください」
指で綾の涙を拭ってやる。やっぱ綾はほんといつ見ても可愛いな・・たまにほんとにこんな子が俺の彼女でいいのだろうかと思ってしまうことがある。
「祐くん好き」
綾が俺に抱きついて顔をうずめる。
「俺も好きだよ」
「祐くんの匂いは本当に癒されます・・・。好き。祐くん、大好きです。狂おしいほどに」
綾の好き好き攻撃が始まった。
「祐くんのことが好きすぎてどうにかなっちゃいそうです・・・このまま祐くんとひとつになりたい。朝のおはようから夜のお休みまでを全て独占したいです。早く祐くんと一緒に住みたいな・・・」
「それはまだ気が早いって。まだ学生だぞ?そりゃ確かにできるなら俺も綾と一緒に住みたいけど」
綾と付き合うまでは、まさか綾がここまで甘えん坊だと思わなかったが、好きと連呼してくるのは正直俺の心がもたなくなりそうで怖い。可愛すぎて今にでも襲いたくなってしまう。
それにしても同棲か。綾と同棲することになったら毎日が幸せでいっぱいなんだろうな。いや、今も十分幸せだけど。
そうしてその後はずっとイチャイチャしながら、昼食を食べるのであった・・・。
・・・・・・・・
・・・・・
・・・。
放課後、綾と一緒に帰ろうとすると、クラスの女子に呼び止められた。
「あ、木村くん。ちょっと話があるんだけどちょっといい?」
「ん、どうした?」
「ちょっとこっちに来て」
そう言うと彼女は廊下に来るように促す。俺は綾に少し待つように言うと、廊下に出た。
「それで、何か用か?」
俺がそう言うと、女子は少しもじもじしながら、カバンから何かを取り出した。そしてそれを俺に渡してくる。
「クッキー作ったの。良かったら食べて!それじゃっ!」
そう言うと女子は猛スピードで廊下を走り去っていった。俺は彼女の後ろ姿を呆然と見つめたあと、手の上に乗った可愛らしい袋に包まれたクッキーを見た。丁寧に、チョコでコーティングされて美味しそうなのだが・・。どうして突然俺にクッキーなんてくれたのだろうか。
再び教室に戻ると綾が手の上に乗ったクッキーの袋を見てすごい勢いで詰め寄ってきた。
「祐くん!その包みはなんですか!?まさかさっきの女からもらったんですか?!」
「あ、うーん。そうだな。なぜか知らないけどクッキーもらった」
「普通、好きでもない人にクッキーなんか渡しません。絶対その女は祐くんのことが好きなんですよ!・・・っ~~~人の彼氏に手を出すなんてあの泥棒猫!!迂闊でした・・・」
今にも飛びかかりそうな勢いの綾を落ち着かせて、俺は、彼女が俺のことを好きだとしても自分が好きなのは綾だけだということを伝える。
「おい裕二。なんで綾ちゃんこんなに怒ってんだ?」
そう言ってやってきたのは巧だった。綾に沈められた後、授業中に突然蘇ったらしい。男子はそんな巧を称え、女子は相変わらずスルーだった。
しかし、教師にもスルーされるなんてな。
「いや、さっき女子からクッキーもらってさ。そしたら綾が」
「なにぃぃぃぃ!クッキーだとぉ!!!?なんでお前ばっかり!!」
巧がすごく羨ましそうな目でクッキーを見ていた。そして、それを俺から取り上げようとするので、俺はバッグにクッキーをしまった。
「祐くんになにしてるんですか。このモブ男」
俺の前に綾が立ち、巧を近づかせないようにした。
「綾ちゃん?その言い方はちょっとないんじゃないかな~?俺さ一応、裕二の親友なんだぜ?モブ男じゃなくてせめて苗字、いや出来れば名前で呼んでくれたら俺ちょー嬉しい!」
すると綾は鼻で笑った。どれだけ馬鹿な言葉でもなんらかの反応をしてくれる綾だが、鼻で笑うことなんて初めてだった。それだけ理解不能だったということか。
「あなたが祐くんの親友だなんて笑わせないでください。祐くんが悪影響で腐ってしまいます。祐くんは貴方みたいなすぐ下心が見え見えでナンパばかりする人とは全然違うんです。それとあなたの、いや男の名前なんて全員”産廃”で十分です」
「産廃・・・?えっとそれって産業廃棄物ってこと・・?俺廃棄物かよ!」
「綾、俺のことは?」
するとさっきまでの冷たい表情から一転して、綾が頬を赤らめてモジモジしながら、
「祐くんは祐くんです。産廃なんかと比べ物になりません。私がこの世界、いや宇宙で唯一愛してる私の祐くんです」
「ちょ、なんで裕二だけそんな扱いがいいんだよ!そりゃないって綾ちゃん!」
そう言うが否や、綾が巧の鳴尾におもいきり正拳突きを食らわした。綾は成績優秀でなく、少しなら武術の心得も持っている。綾の家が有名だから狙われる可能性も十分にあるらしく、それで幼い頃から少し鍛えられたそうだ。
「だから、誰が綾と呼んでいいと言いましたか?死にたいのですか?」
「綾、俺は言っていいんだよな?」
すると巧を殴る時の冷たい表情からまた一変して綾が頬を赤らめる。
「もちろんです。・・・だって、その、祐くんは彼氏・・・だから」
「なんで裕二だけ!?いくら彼氏とは言えなんだよこの差別!
彼氏以外の男はゴミか!?」
「は?当たり前じゃないですか。死んでください」
「ぎゃあああああああああああぁぁぁぁぁ!!」
巧の悲鳴が学校中に響き渡った・・・・・。