ありがちな幼馴染
翌朝起きてリビングに入ると母さんと理沙が既に朝ごはんを食べていた。
「あ、裕二起きたのね。顔洗って早くご飯食べなさい」
「了解」
母さんにそう言われて俺は洗面所に行き、顔を洗う。
「うっわ。髪ボサボサじゃん」
ドライヤーで髪をといて、整えていく。俺の髪は人よりかたいらしく、中々整えにくい。なんとか髪を整えてリビングに入り、ご飯を食べる。時間は7時50分。
「じゃあ行ってきますお母さん、お兄ちゃん」
「おう、頑張ってこい」
ランドセルを背負って理沙が元気よく外へ駆け出していく。俺は理沙を見送ったあと、再びご飯を食べる。
食べたあと、俺は部屋に戻り、制服に着替える。
「じゃあ母さん、行ってきます」
「はい行ってらっしゃい。気をつけるのよ」
母さんに見送られて、俺は綾との待ち合わせ場所に向かう。
待ち合わせ場所に着くと、綾は既にいた。現在の時刻は8時6分。予鈴までまだ30分程ある。ここから学校までは15分程なので、待ち合わせ時間は8時20分なのだが、綾はいつもそれよりも前に来ており、俺が綾より早く着くことは今まで一度もなかった。
綾は俺を見つけると無表情だった顔が途端に花が咲くように明るくなり、俺の方にパタパタと駆けてきた。
「祐くん!」
ぎゅうううぅぅ!!
綾に抱きしめられ、俺の胸に顔をうずめる。もし今、綾に尻尾がついていたとしたらさぞかしよく振られていただろう。それぐらい喜んでいた。
「おはよう、綾。お前はホント可愛い奴だな」
俺は綾の額にキスしてやると、抱きしめ返す。そのままずっと抱き合っていたかったが、さすがに公共の面前なので、俺はすぐに離した。すると綾は俺の腕に自分の腕を絡んでくる。腕に綾の胸が当たった。
「ちょっ、綾?ちょっと恥ずかしいんだけど・・」
「私は気にしませんよ。昨日も言っていたように私はずっと祐くんにくっついていたいんです。夜会えない分、今のうちに祐くんエネルギーを充填しないといけないんです」
なんだそのエネルギーは。でもまぁ恥ずかしいけど、綾がしてほしいっていうならさせてあげるか・・。
綾と腕を絡めながら学校へ向かう。道中、仕事へ行く人や、近所のおばちゃん達が生温かい目でこちらを見ていて俺は顔が赤くなったが、綾は全然気にならないようで、ずっとにこにこしていた。
「よっ色男!」
「いてっ!」
突然背中をバシっと叩かれ、振り返ると幼馴染の高坂 理恵がニヤニヤとこちらを見ていた。
「ってーな理恵。なにするんだよ」
「別にぃ~?お二人さんは本当に幸せそうでよかったと思ってね」
そんなこと言われるまでもない、と思ったが、俺は今以上に綾を幸せにしてあげたい。あの日、綾と出会ってから、俺はずっとそう思い続けてきた。あの時見せた綾の表情が今でも忘れられない。
「でも皆本さん。本当に裕二で良かったの?こいつ、顔はいいけど馬鹿で能天気で馬鹿でいつも悪友とつるんでるどうしようもないやつなんだよ?」
相変わらずの遠慮のなさに俺はもはや怒る気も失せてしまった。しかもどれも意外と間違っていないというのが腹が立つ。あと馬鹿って2回も言うな。
「裕くんで良かった、ではなく祐くんが良かったんです。私には祐くん以外有り得ませんから。あと、祐くんの悪口を言うならいくら高坂さんと言っても怒りますよ?」
すかさず綾がフォローに入ってくれる。理恵は一瞬表情を強ばらせたが、負けじと言い返す。
「悪口じゃなくて事実を言ってるのよ」
「例えそうだとしても祐くんを侮辱するなら私の敵です。祐くん、行きましょう」
そう言って綾が服の裾をクイッと引っ張って進むように促す。理恵には悪いけど、一旦距離を置いたほうがいいと思った俺はそのまま行くことにした。理恵は俺たちに気を遣ってか追ってこなかった。
「・・・私だって・・・裕二と・・」
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理恵と離れたあと、俺は綾にさっきの言葉が別に悪気がないことを説明していた。
「綾、別に理恵は俺のこと侮辱して言ったんじゃなくて、いつもこんなノリなんだよ。昔からあいつ気が強くてさ。俺もあいつも遠慮せずに言い合えるからこそああやって言うんだ」
すると綾が見るからに不機嫌になる。
「祐くん。あの女の肩を持つんですか?」
「持ったわけじゃくなくて、本当のことだからだ。確かに、あいつがいきなりそんなこというのはあれだけど、悪く思わないでやってくれ。あれでもたった一人の幼馴染なんだ」
俺は綾を抱き締める。
「・・・悔しいです。祐くんにそこまで思われている高坂さんが。どれだけ頑張っても、私が祐くんの全てを知るには時間が足りません。ですが、あの人は私の知らない小さい頃の祐くんも知っている。だから・・・」
「それは確かにそうかもしれないけど、俺が愛してるのは綾だけだ!理恵の事は大切だけどそう言う意味の大切じゃない。それははっきりと言える」
綾は暫く黙っていたが、やがて顔を上げる。
「じゃあ、証明してください。祐くんが、私を、私だけを愛している証拠を。そうじゃないと安心できません」
とはいうもの、どうすればいいんだろうか。言質を取るだけじゃダメ、行動で示せということか。
考えているうちに、綾の口が震えていることに気づいた。なるほどな。
「綾、こっちに来て」
俺は綾を路地裏に連れ込むと顎を少し上げさせ、口に直接キスをした。
「ん…ちゅっ・・ちゅぷ・・はぁ・・クチュ・・もっと、祐くん・・・んむ・・ふっ、くはあっ」
「綾・・・」
初めてのディープキスに俺は少し顔を赤くしつつ、暫くキスを楽しんだ・・・。
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「落ち着いたか?」
「はぁ、はぁ・・祐、くぅん・・・」
綾は俺のキスでトロトロになっていた。俺が腰を支えないと立てない。綾は虚ろな表情でただずっと俺を見つめている。
ちょっとやりすぎてしまった。ともあれ、こんな状態の彼女を学校へ連れて行くのはまずい。遅刻はこの際いいとして、元に戻るまでここで休憩することにした。