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綾は心配性

晩御飯を食べ、その風呂上り、俺は部屋に戻り携帯を確認すると着信履歴があった。その数30件。相手は言わずもがな、俺の彼女、綾からだった。今日は30件だったが、これでもいつもよりは少ない。というか飯を食べて風呂を上がるまで1時間もかかってないよな・・・。

 俺は通話ボタンを押し、綾に電話をかける。すると、ワンコールを待つ間もなく、綾が電話に出た。


「もしもし?」

『祐くん!!祐くんの声だ・・・』


 綾はまるで待ち焦がれていたかのように俺の声を聞いて陶酔していた。


『電話に出ないから心配していたんです。でも無事そうで本当によかった・・・』

「はは、ご飯と風呂に入ってただけだって。大げさだな~」

『私にとっては全然大げさじゃありません。もし、祐くんが連れ去られたりしたら、私は家の総力を持って絶対に取り返しますから』

「確かに綾の家の力を使えば一瞬で見つかりそうだな」

 

 綾の家はテレビにも取り上げられるほどの超有名な大企業で、綾のお父さんはそこの社長をしている。いわば綾は社長令嬢だ。それはもう大切に育てられたのだろう。頭脳明晰、容姿端麗、透き通るような長い銀色の髪に、可愛らしいリボン。長いまつげに純真な瞳。身長は裕二よりも一回り小さく、裕二が抱くとすっぽりと収まってしまう。そういう彼女を男が放っておくはずがない。 入学してから綾に告白する男が後を絶たなかった。中にはバスケ部のキャプテンでかなりイケメンと言われ女子から大人気の奴からも告白されていたが、綾はそれすらも相手にしなかった。


「それで?今日はどうしたんだ?また寂しくなったのか?」


 綾は、放課後別れたあと、ほぼ毎夜俺に電話をかけてくる。最初は何かあったのかと思って俺も心配したのだが、どうやらそれは杞憂だったようで単純に俺の声をずっと聴いていたい、ということらしい。


『はい。祐くんに1秒でも会えないのは私にとって耐え難いです。本当なら祐くんのおうちにお邪魔して祐くんを押し倒した・・っこほん、ずっとくっ付いていたいです。でも、家が厳しくて夜に外出が認められていないので、祐くんの声を聞いて我慢するしかなくて・・・』


 ちょっと下心混じってなかったか?まぁそれは全然構わないんだけれども。でもやっぱりこうして求められるのはちょっと、いやとても嬉しい。


「そっか。そっち厳しいんだよな。でもそれって大切に思われてるからこそ厳しいんだよな。俺、綾のお父さんに会いにいくとき殺されないかな・・」

『そんなことは何があってもさせません。お父様が祐くんのことを認めてくれないことがあるなら、私、家を出ていきますから。何があっても祐くんの傍から絶対離れませんから』


 それほどまでに綾に慕われていたことに俺は感動しつつ、その後は綾ととりとめもない話をずっと喋っていた。

 そして、そろそろ寝ようかと思った頃、俺は喉が渇いたので寝る前にお茶を飲みにリビングに行った。勿論、携帯は耳にあてたままで。

 リビングに入ると、妹の理沙がパジャマ姿でテレビを見ていた。


「理沙、まだ起きていたのか。もう夜も遅いから早く寝なさい」

「あ、お兄ちゃん・・はーい・・すぐ部屋に戻るね・・」


 理沙も眠たかったらしく、眠そうに目をこすってうつらうつらしていた。そして、立ち上がりフラフラと部屋へ歩いていく。家具にぶつかると危ないので俺は理沙をお姫様だっこをして部屋に連れて行った。


「わっお兄ちゃん・・、ありがとう・・・」


 小学5年の理沙はとても軽かった。ちゃんと食べてるのかこいつは?

 理沙を見るともう半分寝ていた。

 理沙の部屋に入ると、そのままベッドに寝かせてやる。俺は部屋の電気を消す。


「お休み、理沙」

「うん・・お休み・・なさい、お兄ちゃん・・・」


 理沙の部屋を出て俺もう一度リビングに戻り、お茶を汲んだ。まだそれほど暑い季節にはなってないが、寝る前に水分を取らないと筋肉が固まって足がつりやすいと聞いたのでそれの予防も兼ねて俺は毎晩寝る前にお茶を飲んでいる。そのおかげもあってか、今まで足がつったことはない。


『祐くん・・理沙って誰?お休みって何・・?』


 あっ。忘れていた。綾にはまだ妹がいることを言っていないんだった。


『祐くん、私と喋りながら他の女と喋っていたの?理沙って誰なの?私の知ってる人?学校にいる人?』

 

 綾が不安そうにこちらに聞いてくる。俺はコップをテーブルに置くと、優しく語りかける。


「学校にもいないし、綾の知ってる人でもないよ。だって、俺の家族だからな」

『家族・・・。本当?嘘じゃない?』


 普段は俺の言うことには素直に聞いてくれる綾だけど、女関係になるととても疑り深くなる。現に、家族だと説明してもまだ綾は本当かどうか半信半疑だった。こういうときは・・・


「綾。俺の言うことが信じられない?」

『そんなことは!でも・・・』

「ごめん。聞き方が悪かったな。確かに、いきなり人の名前を言ってお休みなんて言ったら疑っちゃうよな。もし、綾がいきなり男の名前を言ってお休み、なんて言ったら俺へこむし・・・」

『私が好きなのは祐くんだけです。他の男なんてどうでもいいです。そもそも名前で呼ぶことが祐くん以外にはありえないのですから、そんなことは絶対ありません」


 そう言われて俺は胸を撫で下ろした。でもやっぱり理沙のことは迂闊だった。きっちり説明しよう。


「綾。理沙って言うのは俺の妹の事なんだ。さっきまでテレビを見てたから寝るように促して寝させたんだよ。本当にそれだけ」

『祐くん、妹さんいたの!?初めて聞きました』

「今度家に来た時に紹介するよ」


 なんとか誤解は解けたみたいだった。


『妹、なら大丈夫かな・・・いやでも、祐くんかっこいいからそれをずっと見ている妹さんも惚れて・・っていうことには・・・いや、妹さんといえど女だから・・・』

「ん?何か言った?」

『な、なんでもないです!こっちの話です!』


 なにかブツブツ呟いていたがよく聞き取れなかった。少し気になったが、聞くのはやめることにした。


「ともあれ、とりあえず、もうこんな時間だし寝るよ」

『とてもとても名残惜しいですが、祐くんの睡眠の妨害をするわけにはいかないので私も寝ます。祐くん。また明日、学校で。愛してます、チュッ♡』


 最後に投げキッスをして通話が切れる。少し気恥ずかしかった。顔が熱くなるのがわかる。

 校内一の美少女が、俺に電話越しに愛してますって・・。こんなに幸せでいいのだろうか。


「綾のこと、絶対に大切にするぞ・・・!」


 そう思わずにはいられない夜だった。

 


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