母親達の宴会
美奈の家までは自転車で40分かかる。ちょっと田舎のほうに向かう感じで道路の整備も行き届いていない。僕の家も川を挟んで向かい側にあるから、帰り道はほぼ一緒のコースだ。
僕たちは、時折吹く風を全身に浴びながら、一緒に帰った。会話も楽しく、自転車に乗ってる時間もあっという間に過ぎて、美奈の家までもう少しっていうところまで来た。
「私の両親に会うの久しぶり?」
「ああ、そうかもな。最後に会ったのいつだったかなぁ?」
小さい頃はよく会っていて、遊んでくれたのに、なんだかすごい懐かしい気持ちになった。
「お母さんは家にいるから、けんちゃん来たらびっくりするだろうね!」
「僕たちのこと黙ってたお返し1号だな」
「ふふっ、そうだね♪」
美奈の家の前に自転車を置いて、久しぶりにお邪魔することになった。
「お母さん、ただいまぁ」
「どうも、お邪魔します」
遠くから
「お帰り。遅かったわねぇ」
と聞き覚えのある声が帰ってきた。
するとお母さんが玄関のほうまで歩いてきて、
「なんか聞き覚えのある声がすると思ったら、けんちゃんじゃない!」
「お久しぶりです」
僕は久しぶりに会う美奈のお母さんに挨拶した。
「しばらく見ないうちに男前になっちゃって! 上がって」
「お母さん! 私たちが同じ高校だったなんて知ってたでしょ?」
「あらっ? 当たり前じゃない! え? 何? 今日知ったの?」
「お母さんたち何も言わないから知ってるわけないでしょ!」
「いいじゃない。母さんだって忘れることはあるの!」
「もうっ!」
美奈はまだ不服そうに自分の部屋に戻って行った。
僕は、美奈のお母さんに導かれるように、リビングに入り椅子に座った。
「けんちゃんはやっぱり野球部?」
「はい。野球しか取り柄がないので」
僕は当然のようにいった。
「けんちゃんの両親もすごく応援してるし、私たちも応援してるからがんばってね!」
「はい、がんばって甲子園いくつもりです」
「けんちゃんなら頑張れば絶対行けるわよ!」
「ありがとうございます」
あまり説得力はなかったけど、応援してくれる姿はすごく嬉しくて、思ったより心強い。
「お昼一緒に食べようか? 両親には私から連絡しておくから」
「でも、家も近くですし家でご飯用意してるかもしれないので」
ちょっと遠慮してみた。
「大丈夫よ。ちょっと連絡してみるから待ってて」
そう言って、僕の家に電話している。
「けんちゃんも一緒に食べよう」
後ろには、私服に着替えた美奈が入って来るなりそう言った。そのまま僕の前の椅子に座りテレビをつけた。
「けんちゃん今日暇?」
「予定は今のところ何もないかな」
「じゃあ久しぶりに遊ぼうよ! 野球部に入ったら遊ぶ時間無くなりそうだし」
美奈の顔を見た。そういえば、小さいときはよく遊んだけど、今は顔を合わすのもなかなかない状態だった。僕も予定はないし、それもありだなって思った。
「いいけど、何する?」
「まだわかんない? とりあえずご飯食べて、けんちゃんが着替えるまでに考えよう!」
僕は相槌をうって、せっかくだから何しようかなって思った。
ふとテレビを見ると、何やら映画のCMが流れてた。
「あっ、これ観たかった映画!」
そういって僕のほうを見る。僕はなんの映画だ?と思ってテレビを見ると、なんとホラー映画ではないか! 嘘だろって思って美奈を見ると、観に行きたい視線が胸に突き刺さる。僕は、ホラー映画は苦手だったので、出来れば違う映画にしてほしい。
「決定ー!」
美奈は僕の意見を聞かずにこう叫ぶ。
「えっ! なんで?」
「けんちゃん何も言わないから了解しましたというふうに受け取りました」
「なにもホラーじゃなくても…」
「怖いなら違うのにするー」
笑いながら僕に言ってくるので、
「誰が怖いって言ったよ。美奈が夜一人でトイレに行けなくなると可哀想だなって思って……」
「ご心配なく! 怖い映画は大好きなんです!」
終わった……そう思った。
「じゃあ決まりね! ご飯食べたらすぐ用意してね」
「そういえば、両親に電話するって言ってたけど……」
と話した時、
「お邪魔しまーす」
いつも聞き慣れてる声がした。すると、美奈のお母さんが来て、
「けんちゃんのお母さんも一緒に食べたいから来るそうよ」
そう言うと、後ろから
「健一、お母さんも混ぜてもらうから」
「うちにはご飯用意してなかったの?」
「そうなの! どうしようか迷っていたら香奈子から電話きたから丁度いいと思って!」
ケラケラ笑いながらそう言って、台所のほうに向かっていった。さすが高校からの親友って感じで、母親同士話が盛り上がってる。この母親は……って思っていたら
「いいじゃない、これでなんの心配もなくご飯食べれるね」
「そうだけどさ」
なんか納得できない感じだったけど、ご飯の用意ができてテーブルに運ばれてきた。母親達は、何か上機嫌な感じで、
「乾杯ー」
と言って、ビールを飲みだした。これにはびっくりして
「昼間から飲むんかい!」
とツッコミを入れた。
「だって、晴れて2人が高校生になったんだもの。嬉しくて飲まずにはいられないわよ、ねぇ香奈子!」
「そうよ。こんなにいい日は飲まずにはいられないものなの、彩香乾杯ー」
前々から酒好きだとは知ってたけど……、
「若い私達は早くご飯食べて行こう」
美奈は母親達が酔う前に出発したい感じだ。
「あらっ? どこか出かけるの?」
僕の母親が尋ねた。
「はい。映画を一緒に観に行こうって話してたんです」
母は僕をみて
「健一、あんたお金持ってるの?」
「あんまりなかったかも」
「もう、この子は…… 美奈ちゃんの分も渡してあげるから」
そういってお金を渡してくれた。
「彩香いいのに、美奈の分は私が出すわよ」
「いいのよっ、こうしてビールとご飯頂いてるから。気にしないで」
「わかったわ、ありがとう。美奈もお礼言いなさい」
「ありがとうございます」
「どういたしまして、楽しんできてね」
そう言って、母親同士また話だし盛り上がっていた。
僕たちは、ご飯を食べ終わり
「ごちそうさまです。おいしかったです」
お礼を述べ、帰ろうとすると
「服着替えてすぐ行くんでしょ? 母さんはもう少しいるから戸締り忘れないでね!」
少し酔っぱらった母親が僕にむかってしゃべったかと思うと、もう違う話で盛り上がっていた。
「お母さん達だけで盛り上がってるから、私も一緒にけんちゃんの家に行っていい?」
美奈が出て行こうとする僕に向かって言ってきたので、
「いいよ。早く非難したほうがいい」
「うん! ちょっとだけ待っててすぐ行くから」
美奈は出かける準備を急いでしてきて僕の家に一緒に向かった。
今まで2人で遊んだことが何度もあったので、この日、これが初めてのデートだったって事に気付くのにちょっと時間がかかった……。