プロローグ
「多様性」これが僕が生物の授業で初めて耳にした生物学用語だった気がする。正確には二番目か三番目だったかもしれない。
昼休み直後の、暖かな春の陽光に包まれた教室。こんな絶好の昼寝日和に寝ない手はないと思っていた。実際、僕は授業開始のチャイムが鳴ってもうとうと机に突っ伏していたし、誰もそれを気に留めていなかった。スタスタスタ、とおそらく先生と思われる人の足音が聞こえる。ああ、これから五十分間この眠気と格闘しなきゃならんのか。ガラガラ。遂に先生が入ってきた。初めて見る顔だ。多分新任の人なんだろう。
「起立、礼、着席」号令の後、先生は自己紹介やらシラバスについて話していた。もちろんその間だって僕は睡魔に負けないように全精力を瞼に注ぎ込んだ。しかしそれでもなお春の日差しは僕を夢の世界へ引き込もうとする。仕方がないから、僕は眠気を紛らわすために先生の観察を始めた。
年齢は三十代後半だろうか。若干多めの白髪が混じる髪の毛は少しはねている。どうやら身なりにそれほど気を遣う方ではないらしい。背丈は175センチメートルくらい。中肉中背でいわゆる標準体型というやつだろう。ちなみにこれまで言わなかったが、男性だ。いたって普通の外見だが、目だけが特徴的だった。黒縁眼鏡の奥の瞳が少年のそれのような光を宿している・・・ように僕には見えた。
「・・・という風に三学期までには植物の反応と調節まで終わらせたいと考えています。さて、これから授業に入るのですが、その前にみなさんに私から質問があります。生物とはどのような物を指すのでしょうか。では鈴木君。どう思う?」どうって言ったって、と虚を突かれた気がした。「えっと、お腹がすく物、とか。」クラスから失笑が漏れる。「では吉川さんはどうおもう?」「えっ、呼吸をする、物?」
なんだ、僕と大差ないじゃないか。「そうだね、今の二つはまとめて代謝という生物のれっきとした活動だ。しかし定義とまでは言えない。実はこの問題にはまだ答えが出ていないんだ。でもあえて言うなら、」
「生物とは一様性を持ちながら多様性を持つ物だ。だからおもしろい。」
いまから話す物語は、僕と僕の周りの人たちについての物語だ。だから僕についても多少知っておいて欲しい。僕の名前は鈴木一樹。成績、ルックス、運動神経はすべて中の中。もてるかどうかは・・・想像にお任せしよう。父はサラリーマン、母は専業主婦。帰宅部。つまり普通の高校生。こんな普通の高校生の普通すぎる物語を今から話そうとしている。多分普通すぎて興味がない人もいるだろう。ただ、生物の授業は普通よりも面白いと断定できる。残念ながら成績には反映されていないけどね。
小説を書くのは初めてなので、文章がおかしかったり、読みにくいこともあるかと思います。どうぞお手柔らかにお読みください。




