また明日
「完成だ……!!」
すっかり日が沈み、満天の星が輝く時間。薄暗い工房の中、淡く水色に反射する懐中時計を掲げ、ヘンリーは宣言した。
ガタン、とイッカクが立ち上がり、その勢いで椅子が倒れる。
「最っ高!! やっぱり、君に頼んで正解だったよ、ヘンリー!!」
水属性魔力を帯びた素材をふんだんに利用した『海中時計』は、全体的に青系の色で構成されている。
表蓋には、美しさすら感じる緻密な魔法陣。文字盤や針は、蓄光性のあるもので暗い中でも確認が可能。
そして、最大の問題であった鍵は、頭の部分のボタンを改造することで、時計と一体化し解決している。
頭の部分には、海龍の角を使用し、細いが強靭、水から内部を守る構造とした。素材の性能に大いに頼った手法であるが、画期的な進化であることは間違いないだろう。
後にこの部分は“竜頭”と呼ばれるようになり、懐中時計はこの形式が一般的になるのだが、それは今のヘンリーが知ることではない。
「これで、依頼は達成だな」
「うん!!」
「じゃあ……」
これで、イッカクとの関係も終わりである。随分長く感じだが、実際の時間は一週間程度。
職人としても、個人としても、あまりに変化の多い時間だった。少しだけ寂しい、と思うのは、今迄、これほど深く関わった相手はいなかったからだろうか。
店から出て行こうとするイッカクの背を見送りながら、ヘンリーは目を細める。
イッカクは店を出る直前、ヘンリーを振り返り、明るく笑った。
「うん、また明日来るね!!」
屈託のない笑みに、ヘンリーは、面食らってしまった。
「……明日?」
もう、イッカクが店に来る理由はないはずだ。だが、イッカクがそう言うなら、本当に来るのだろう。
新しい注文があるのだろうか。ヘンリーが首を傾げたが、イッカクも同時に首を傾げた。
「え、だって僕たち、友達でしょ?」
「……そう、なのか?」
「違うの!? 契約関係の間は、顧客と店員だけど、気持ち的には友達だったんだけど!?」
契約が終わったのだから、今は、ただの友達のはず。そう言い切ったイッカクの瞳は、相変わらず、美しく澄んでいた。
友達でしょ、と改めて聞かれ、ヘンリーは無意識にコクリと頷いた。
ぱあ、と顔をさらに明るくしたイッカクが、ヘンリーの両手を包んだ。
「改めて、これからもよろしくね、ヘンリー!!」
「……よろしく、イッカク」
今迄なら、絶対に友達にしたくないタイプだ。でも、イッカクが噂以上に、約束に対し誠実だと理解できたから。
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