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王の間の真実

「おもちゃの世界……ネオフィム自体がダンジョン?」

マリアは、王座に座ったまま呟いた。

その視線の先には、七光の侵蝕者――エミリーの顔をした災厄が立っていた。


「あら、正解」

七光は、虹色の瞳を揺らしながら微笑む。

「だから私たちはここを目指す。そして進化し、新たな世界を創造する。

あなた達“人”が特殊な能力を持ち始めたのも、このおかげよ」


マリアは眉をひそめる。


七光は続けた。

「中には目的を忘れて、すべてを破壊してしまうアブレーションもいるの。

本能で動くなんて、ホント最悪。

でも私は違う。私は人々とこの世界を愛してる。

安心して王になりなさい。あとは私が管理してあげるから」


その言葉と同時に、七光は周囲にエネルギー弾を放った。

虹色の光が空間を走り、王座の背後――

鎖で覆われた壁が軋み始める。


そこは、この世界の制御室。

名を《深層制律核〈コード・アビス〉》。


鎖が開かれ、空間が震える。

そこから現れたのは、もはや美しさを失ったヴァルファナだった。


嫉妬に狂い、顔は醜く歪み、瞳は虚ろに濁っていた。

彼女は、マリアに手を差し伸べる。


「王……」


七光は、静かに言い放った。


「あんたの王じゃないわよ」


その瞬間、七光のエネルギー弾がヴァルファナに襲いかかる。

轟音が響き、

ヴァルファナはすぐさま《コード・アビス》の鎖の中へと逃げ込んだ。


七光は、肩をすくめながら冷笑する。


「ホント、厄介なのよ。

この女がね――私たちアブレーションやエクソジェンを、

無差別にこの世界へ送り込んだ張本人」


その声には、苛立ちと軽蔑が混じっていた。

虹色の瞳が揺れ、空間が微かに軋む。


「この鎖の向こうに《コード・アビス》があるのよ。

ここは、ヴァッサルしか入れない。

王であっても、資格がなければ触れられないの

もう分かってるでしょう、私のしたい事」


七光の侵蝕者――セプト・ソートス・ヴァルガは、

マリアを一瞥すると冷たく言い放った。


「ふざけるんじゃない!」

マリアが叫び、王座から立ち上がろうとする。


だが、何かの力が働いていた。

身体に力を込めても、まるで根を張られたように動けない。


「なに……くっ、動けない……!」


マリアは歯を食いしばり、王座に座ったまま拳を握る。

その姿を見て、七光は優雅に微笑んだ。


「待ちなさい。もう動けないわよ。

後は、あなたのヴァッサルを《コード・アビス》に入れて――か・ん・せ・い」


その言葉に、マリアの瞳が揺れる。

だが、七光はもう彼女を見ていなかった。


「ネロが邪魔ね。しょうがないな……」


七光は虹色の羽を広げ、王の間の天井に垂れ下がる三つの球体へと向かう。

そのうちの一つに近づき、手を伸ばす。


「起きなさい。詰まらない世界を捨てて――

あんたに、知性を与えてあげる」


その瞬間、球体が裂けた。

空間が軋み、光が歪み、

中から――“それ”が現れる。


咆哮が響く。

聞くだけで、心の奥底から恐怖が湧き上がる。

理性が震え、魂が逃げ出そうとするほどの、原初の叫び。



天華大学は、もはや阿鼻叫喚の渦だった。

境域討滅庁、警察、消防、救急――あらゆる機関が集結し、

文化祭は即座に中止。

キャンパスは、災害対応区域へと変貌していた。


その混乱の中、復帰したばかりの狭間 彗が現場に駆けつける。

煙草を咥え、携帯灰皿を片手に、

彼は状況を探知するレギスからの通信に耳を傾けた。


「脅威ランクS。精神汚染です。

皆さん、鱗粉に触れないように。

対汚染スーツを着用し、必ず内部へ入ってください」


「復帰初日でこれか……ついてないな」


彗は煙草を灰皿に押し込み、愚痴をこぼす。

だが、その目はすでに体育館――仮設ダンジョンへと向いていた。



体育館内。

「マリアーーーー!」

優の叫びが、空間にこだまする。

倒れたイリスはピクリとも動かず、

鱗粉を浴びた部員たちは、うつろな視線で虚空を見つめていた。


ネロはぐらりと体勢を崩し、

暴食の力が解けたことで、変身が解けバフが現れる。


バフは心配そうにネロの周囲をうろうろしていた。

ネロの腕に抱かれた優が、顔を覗き込む。


「おい、アンタ大丈夫か?」


ネロは疲れ切った声で答える。


「……何とかね。でも、力が出ない」


「ネロ〜!」

バフがネロに抱きつく。

その拍子に優が立ち上がり、周囲を見渡す。


「クソ……イリスがまずい」


七光の攻撃を受けたイリスは、完全に沈黙していた。

優は歯を食いしばり、叫ぶ。


「助け呼んでくる! 包帯野郎、ここは頼んだぜ!」


「まかしまかし〜!」

バフが手を振る。


優は半泣きになりながら、駆け出す。

「なに呑気してやがる……わけわかんね……!」


だが、優が助けを呼ぶよりも早く、

一台の高級車が仮ダンジョンの壁を突き破って現れた。


その車体は、魔導強化された特装型。

静かに停車し、扉が開く。


「優様――マリア様!」


現れたのは、霧音だった。



蒼穹殿――

霧音に拾われた優とネロ、そしてバフは、重苦しい空気の中、

ひとつの部屋にいた。


窓は閉ざされ、外の喧騒は届かない。

ただ、沈黙だけが部屋を満たしていた。


扉が静かに開き、霧音が入ってくる。

その瞬間、優がすぐさま立ち上がる。


「アイリスとイリス、大丈夫なの?」


霧音は一瞬だけ目を伏せ、そして答えた。


「アイリスさんはまだマシですが……

イリスさんは、今夜が峠かもしれません」


その表情は、いつもの冷静さの奥に、深い憂いを滲ませていた。


ネロがヨロヨロと起き上がる。

その動きは、精彩を欠き、弱々しい。


「さぁ、行こうか。王の間に」


優に向かって手を伸ばすネロ。

だが、霧音が静かにその腕を押さえた。


「そんな体で行ったところで、

《七光の侵蝕者》セプト・ソートス・ヴァルガに勝てると?」


ネロは言葉を詰まらせる。

霧音は、あえて本名で語りかけた。


「相手は期限を言っておりません。

目的はマリア様と――優様。

少し冷静になられたらどうですか、ネロ・エバートン」


その名が響いた瞬間、部屋に沈黙が落ちた。

誰もが暗い顔をして、言葉を失っていた。


その空気に耐えきれず、バフが叫ぶ。


「メシー! 食わせろ!」


優も、肩を落としながら呟く。


「とりあえず、なんか食おうぜ……」


霧音は、微かに微笑みながら頷いた。


「ええ。すぐに用意します」


そして、優はネロの方を向き、静かに言った。

「なあ、ネロさん。

知ってること、教えてくんない?」


その声には、焦りも怒りもなかった。

ただ、真実を知りたいという、切実な願いだけが込められていた。

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