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許されざる再会

——3か月前。

蒼穹殿・マリアの執務室。

巨大なディスプレイに3人の男たちの姿が映し出される。

そのうちの一人——六道院ろくどういん 実道じつどう

マリアの母方の祖父であり、彼女の派閥に属する上位貴族。

普段は温厚な紳士。しかし、今の彼の顔には怒りが滲んでいた。

「おのれ水鏡のやつら……天宮を割る気か!?」

その隣、目の下にクマを浮かべた頼りなさそうな男が呟く。

「まさか、マリア様の元服お披露目の前に……あのようなことをやられるとは。」

彼の顔はどことなく双子の姉妹に似ている——

華月 エンザ(かづき えんざ)、双子の父親。

そして、最後の一人。

ナディール・アル・シムス。

秩泉エリアの枢機卿。

サティエム教——7つのエリアで最も多い宗教の司祭。

彼はミトラのような帽子をかぶり、白と金の祭服をまとっていた。

その整った顔が静かに微笑むと、落ち着いた口調で言った。

「あなたの亡き父君が認めた以上、サティエム教はあなたを支持します。」

マリアは画面をじっと見つめながら、静かに答える。

「皆さん、すぐに集まってくださりありがとうございます。」

この瞬間——天宮家の未来を決する話し合いが始まろうとしていた。

——あの夜。

マリアがまだ優と契約していなかった刻。

天華・最高級ホテルのホール会場。

煌びやかなパーティーが開かれていた。

ありとあらゆる珍しい料理が並び、一流の奏者が優雅な旋律を奏でる。

貴族たちはそれぞれの楽しみ方をしていた。

ある者はパートナーとダンスを楽しみ、ある者は噂話に興じる。

——この場にいる者は、すべて貴族。

その主催者が姿を現す。

水鏡みかがみ 綾臣あやおみ

歳は40。スラリとした体格に、完璧に仕立てられたタキシードがよく似合う。

しかし、その顔には常に自信と野心が滲んでいた。

彼が登場すると、貴族たちは一斉に彼を称える。

綾臣はマイクを持ち、ホールの中心で微笑む。

「皆さま、本日はお越しくださりありがとうございます。」

その声に、会場が静まる。

「今日は私が主役ではありません。」

その言葉と同時に、貴族たちがざわめく。

——ホールが暗くなる。

スポットライトが、一人の人物を照らした。

隅で静かに佇んでいたマリア。

ライトが彼女を捉えると、綾臣は優雅に手招きする。

「こちらへ。」

アイリスが緊張した声で囁く。

「マリア様……。」

今日はパーティー用のドレスを纏った双子が、警戒を強める。

サッとマリアを守るような配置に動く。

しかし——マリアは緊張した素振りを見せず、優雅に綾臣のいる中心へと歩みを進めた。

綾臣は臣下の礼を取り、グラスを掲げる。

「天宮家に栄光を。」

彼が酒を飲み干すと、会場からは**「天宮家万歳!」**の歓声が響き渡る。

しかし——それだけでは終わらなかった。

綾臣はゆっくりと微笑みながら、言葉を続ける。

「本日は、それだけではありません。」

「えええ。」

貴族たちがざわめく。

——ホールの一角にライトが当たる。

その光の中に立っていたのは——

「今まで失踪していた、天宮清明様です。」

会場がどよめく。

綾臣はゆっくりとグラスを回しながら、皮肉げに微笑む。

「半年前に保護していました。安全確保のため、紹介が遅れましたが……申し訳ありません、マリア様。」

その言葉には、明らかな嘲笑が滲んでいた。

「本日は家族の再会を祝して——今一度、皆さま、天宮家に栄光を。」

いつの間にか注がれていた酒を飲み干すと、今までで一番の歓声が上がった。

——天宮清明。

マリアが彼を覚えているのは、5歳の時の記憶。

初めて見た兄は、ひどく落ち着かず、常に何かに追われているようだった。

そして——その夜、清明は家から失踪した。

彼は能力者ではなく、無能力者。

そのため、天宮家は真剣に探そうとはしなかった。

「彼は重圧に負けたのだ。」

母方の祖父、六道院 実道はそう言い放った。

——そして今。

清明は、13年ぶりにマリアの前に姿を現した。

「やぁ、マリア。久しぶりだね。」

彼の声は上ずり、自信なさげな表情を浮かべている。

しかし、どことなくマリアに似ていた。

失踪した時は20歳だった。

今は33歳——青年から大人へと変わっていた。

マリアは冷静に思考を巡らせる。

(なぜ、この時期に……?)

あと2二か月後に迫る元服の儀式。

このような揉め事を起こす理由は——。

綾臣が動いたからだ。

「さあ、積もる話もありましょう。」

綾臣はそう言いながら、会場の一室へと案内する。

マリアは湧き上がる怒りを抑えながら、静かに会場を後にする。

その背後で、綾臣がとぼけた声で言った。

「おや? 久しぶりすぎて恥ずかしくなってしまったのかな?」

その瞬間——マリアの瞳が冷たく光る。

「水鏡 綾臣——許さない。」

……会場では、マリアが去った後も宴は続く。

「……家の娘が妊娠しまして……。」

貴族たちは、何事もなかったかのように談笑を続けていた——。


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