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迷宮都市アル=ミラヴァス

アル=ミラヴァス初心者ガイドブック

~迷宮都市への第一歩~

著:カナメ・ミラ

発行:ミラ新聞社

ようこそ、迷宮世界《アル=ミラヴァス》へ。

この地は、大陸の七大貴族――天宮、霧島、龍伯、ヴァン=ローゼン、

クラウゼヴィッツ、エルバートン、アル=ナジール――に囲まれた中央の孤島。


その神秘と資源を求めて、数多の冒険者がこの地を目指します。


アクセス方法:内海インナー・マリスを越えて

アル=ミラヴァスへ到達するには、内海インナー・マリスを通過する必要があります。

この内海には、各エリアに対応した7つの港が存在し、それぞれに厳密な航路が定められています。



島の地上部:港と宿場町

島に上陸すると、まず目に入るのは港と簡素な宿場町。

ここでは、冒険者や商人、教会関係者が物資の補給や情報交換を行っています。

宿場町からは、整地された魔導道路が伸びており、迷宮都市へと続いています。


第1階層:迷宮都市アル=ミラヴァス

そして、圧巻なのがこの島の心臓部――第1階層:迷宮都市アル=ミラヴァス。

地上に広がるこの巨大都市は、迷宮の入口であり、7大貴族が牽制し合う政治的中枢でもあります。

• 魔力汚染がほぼ存在せず、一般人でも安全に暮らせる区域。

• 魔力保持者や冒険者が持ち帰った素材・魔石・魔導品を元に商業が発展。

• 市場、魔導工房、神殿、ギルド館、酒場などが並び、経済・文化の中心地として栄えています。


• 7大貴族

(天宮、霧島、龍伯、ヴァン=ローゼン、クラウゼヴィッツ、

エルバートン、アル=ナジール)

がそれぞれのギルド館を持ち、都市の均衡を保っています。


これから迷宮へ挑むあなたへ

アル=ミラヴァスは、ただの迷宮ではありません。

それは、世界の深層へと続く“階層の物語”であり、

あなた自身の運命を変える場所でもあります。

次のページでは、

階層構造・冒険者ランク・ギルド制度について詳しく解説します。

さあ、準備はいいですか?――迷宮が、あなたを待っています。



迷宮都市アル=ミラヴァス。

その一角、エルバートンギルド館は人影もまばらで、

どこか寂れた空気が漂っていた。


静寂を破るように、扉が勢いよく開かれる。

全身をフードで覆い、包帯のような布で肌を隠した小柄な人物が、

はやる気持ちでカウンター席へと駆け込む。


「にくう! にくう!」


声を上げるその人物は、バフと呼ばれる存在。

言葉は単純で、欲求に忠実だった。


奥から、やせ細った男が現れる。

彼の名はマイケル。エルバートンギルド館の館主にして、店のマスターでもある。

「おや……」


バフを見て目を細めるマイケルの背後から、白銀の髪を持つ長身の男が現れる。

細い目に感情は読み取れず、軽口を叩くように言った。

「マイケルさん、ども」


「これは、ネロ様。ようこそ」

マイケルが丁寧に頭を下げる。


その声に反応したのか、

店の奥から彼の妻――

アル=ミラヴァス管理局エルバートン本部の書記官・ミラと、

10歳ほどの娘・アンが姿を見せる。

「ネロ様!」

二人は笑顔でネロを迎えた。


「相変わらず、ここは寂れてるね」

ネロはバフの隣に腰を下ろすと、彼に向かって言った。


「バフ、空間魔法で今日の戦果を」

「にくう! にくう!」


バフは言葉にならない声を繰り返すだけで、魔法を使う気配はない。


「はぁ……変な知恵、ついちゃったな」

ネロは肩をすくめ、マイケルに声をかける。


「マスター、昨日渡したビッグボアの肉。彼に出してあげて」

「任せな。すぐ用意するよ」

マイケルは厨房へと消えていった。


その間、アンが興味津々な瞳でネロに尋ねる。

「ネロ様、今日の冒険、教えて!」


ネロは優しげに微笑みながら、アンの頭を軽く撫でる。

「そうだね……じゃあ、アン。今日は“20階のボス”の話をしようか」


アンは目を輝かせて、椅子の上でちょこんと座り直す。

「うん!聞きたい!」


ネロはグラスの水をひと口飲み、ゆっくりと語り始めた。

「20階っていうのはね、今までの階層とはちょっと違って、

空気が重くて、音が響かないんだ。

そこにいたのが《グラウ・モルド》っていう、岩でできた大きな魔物。

目が赤くて、動くたびに地面が揺れるほどだった」


「こわい……」

「そうだね。でも、僕たちは準備してた。バフと一緒に、

慎重に進んでいったんだ」


アンはバフの方をちらりと見る。バフはカウンターで「にくう~」と呟いている。


「戦いはね、すごく大変だった。魔法も効きにくくて、

攻撃も重くて……でも、最後はバフが――うん、ちょっと工夫してくれてね」


「工夫?」

「そう。彼なりの方法で、グラウ・モルドの動きを止めてくれたんだ

……まあ、詳しいことは、ちょっと秘密」


ネロはアンにウインクする。


「えー、気になる!」

アンはうっとりとした顔で、ネロの話に聞き入っていた。


そのとき――

「まずいと!!」

突然、バフが大声で叫んだ。


ネロは肩をすくめて笑い、アンはびっくりして目を丸くする。

「……どうやら、話を聞いてたみたいだね」


バフは涎を垂らしながら、カウンターに突っ伏していた。



話がひと段落した頃、奥の厨房から香ばしい匂いが漂ってきた。

甘辛い照り焼きソースの香りが空気を満たし、

ネロとアンは思わず顔を見合わせる。


「はいよ、ボアの照り焼きステーキ、いっちょ上がり!」

マイケルの声とともに、カウンターにドカンと置かれたのは、見事な塊肉。


湯気の中から立ち上る香りが、空腹を刺激する。


いつの間にか、バフは紙の前掛けを装着していた。

手を合わせて、真剣な顔で一言。

「いただきます」


そして、ナイフとフォークを器用に持ち、驚くほど綺麗に肉を切り分けていく。

一口食べるたびに、口元から漏れる声。

「うまー……うまー……」


その姿は、まるで高貴な食事の作法を学んだかのように整っている。


だが――そのスピードは、常識を超えていた。


「相変わらず君は、行儀がいいのか悪いのか……不思議だよ」

ネロが呟く。アンは笑いながら頷く。


この豹変には、二人とももう慣れていたが、

初めて見たときは本気で驚いたものだ。


バフは、まるで芸術作品を仕上げるように肉を切り分け、

そのすべてを、アッという間に平らげてしまった。


そして――

「おかわりい!!」

店内に響き渡る、力強い叫び。


マイケルは厨房から「はいはい、今焼いてるよ」と返すが、

アンは笑いをこらえきれず、ネロは肩をすくめて微笑んだ。

バフは満足げに口を拭きながら、次の肉を待っていた。


ギルドの扉が閉まり、外の喧騒が遠ざかる。

そこに残ったのは、ネロとバフ、書記官ミラ、そして信頼できる数名の職員のみ。


「バフ君、そろそろ頼むよ」

ネロの声に、バフは静かに頷く。


次の瞬間、彼は口を大きく開け――そこから、

信じられない量の戦利品が溢れ出した。


魔石、希少鉱石、特殊な魔物の肉、そして聖遺物に匹敵する魔法具。

その量と質は圧巻で、倉庫の床が一瞬、魔力の重みに軋んだ。


「相変わらず……凄すぎます、ネロ様!」

ミラは目を輝かせ、すぐさまレギス能力 鑑定を発動。

魔力の波を読み取りながら、次々とカテゴリー分けの指示を飛ばす。


「これはアッチに! あっ、これは……なにこれ、凄い……!」

職員たちは駆け回り、魔導記録端末に次々と情報を打ち込んでいく。


そして――ミラの手元に、ひときわ強い魔力を放つ鱗が現れた。

「これは……レッドドラゴンの鱗!?

ネロ様、まさか……65階層まで……?」


ネロは肩をすくめ、少しだけ笑みを浮かべる。

「まぁね。今週中には70階層まで行くつもりだよ」


その言葉に、ミラは一瞬だけ表情を曇らせる。

「……無理はしてませんよね?」


ネロは答えず、代わりに虹色に揺れる瞳をちらりと見せる。

「全然。むしろ、こんな程度なら――今年中に底まで行けるよ。多分ね」


そう言って、隣にいたバフの頭を優しく撫でる。

「こいつとなら、僕は最強だ」

バフは満足げに「ざいぎょ」と呟いた。


その言葉に、ミラはふと胸騒ぎを覚える。

ネロの瞳の奥にある“何か”が、彼女の不安を静かに揺らしていた。

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