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秩泉の旋風

天華蒼穹殿・久遠優の私室。

煌びやかな光が差し込む窓辺で、パシャパシャとカメラの音が鳴り響いていた。


優は、まるで銀幕の女王のように優雅なポーズを決める。

シャッターが切られるたび、どや顔はさらに磨かれていった。


今日の優のファッションは、頭をローゼン巻にセットし、

ヴァン=ローゼンから取り寄せた高級ブランドのゴールドドレス。

そのデザインは前衛的すぎて、幼児服なのか、あるいは宇宙人の衣装なのか――

そんな異質さすら漂わせていた。


「いや~困りましたな、全く。ファンが増えすぎるのにも」

カメラを構えていた袁小は、額に汗を浮かべながら嘆息する。


本来は天華の政務補佐官であり、優のお目付け役でもある彼が、

なぜか今は“専属カメラマン”として振り回されていたのだ。


「これは義務でやってんのよ」

優はそう言いながら、さらにポーズを決める。

片足を浮かせ、両手を広げ、まるで“降臨”でもするかのように。


「明日の一面、楽しみだぜ。

この大女優、優様がよ! くーーーーーっ!

こりゃドラマや映画のオファー来ること間違いなしだぜ!」


袁小はカメラを下ろし、心底疲れた顔で呟いた。

「もう良いだろう……」

(お主みたいな子供にそんなもの来る筈ないじゃろ)


だが優は止まらない。

新聞の芸能欄に載ることが、今や優のブームとなっていた。

そして事実、

優のファッションは天華の流行を左右するほどの影響力を持ちつつあった。


「あ、そうだ袁小。今日のアマミヤッター更新しといてね。

もちろん“いいこと”ばかり書いてね☆」


「なぜわしが……」

袁小は肩を落とし、端末を取り出す。


優は鏡の前でくるりと一回転し、緋色の瞳をキラリと輝かせた。

「ふふふ……この世界、わたくしが回してるってことで、よろしくぅ!」


――なぜ優が“時の人”となったのか。


その発端は、九京大武道会・第六ブロックの試合映像であった。

秩泉エリアのメディアを通じて瞬く間に拡散されたその姿。


人々は最初こそ「誰だこの幼児は?」とざわめいたが――


龍伯星の宣言。

「こ奴こそ、秩泉のディヴァイン級――久遠優だ!」


その映像は翌日、秩泉エリア全土のニュースを席巻。

「謎の幼女、実はディヴァイン級だった!?」

「秩泉の奇跡、久遠優とは何者か」


見出しが並び、芸能欄では彼女のファッションと泣き顔が掲載される。

黙っていればただの可愛い幼女――だが今や、秩泉には“優様旋風”が吹き荒れていた。


商店街では“優様まんじゅう”が売られ、

アマミヤッターでは「#泣いてないもん」がトレンド入りするほどに。



廊下に、パタパタと軽快な足音が響いた。

優は前衛的すぎるゴールドドレスを身に纏い、堂々とした歩みで練り歩く。


「にょほほほほ~♪」


時折、高笑いを響かせながら、道行くメイドや使用人に手を振る。

彼らは慣れた様子で暖かい目を向けた。

――ああ、今日も優様は絶好調だな、と。


向かう先は厨房。目的はただ一つ。


「おやつ~♡」


だがその瞬間、襟元がぐいっと引っ張られた。


「なんじゃ? サインが欲しいのかぇ?」


振り向いた先にいたのは、青筋を立てた天宮マリアだった。


「……優。あなた、何をしているのか分かってる?」


マリアの問いに、優は一瞬だけ考える素振りを見せた。

だが、次の瞬間にはすっかり自分の世界に戻っていた。


ドレスの裾をひらりと翻し、顎を上げて――まるで舞台女優のように。

「レッドカーペットの歩く練習中なんですのよ、にょほほほほ」


マリアの声は冷たかった。

「貴女には罰を与えます」


「え、ごめんなさい」


素に戻る優。

その結果――彼女は週に一度、サティエムの教会に通わされることとなった。




「優、シムス枢機卿の説法を聞いて、少しは真面目になりなさい」


アイリスの言葉を守らず、優は石床に寝転び、嫌々と呻く。


「説法っていうか、あいつの話、長すぎて詰まんないんだけど~」


その“あいつ”こそが、サティエム教会の枢機卿――シムスである。

純白の法衣をまとい、静かに歩むその姿はまさに威厳の象徴。


だが優の姿を見て、シムスは喜びと興奮の笑みを浮かべた。


「はははは、優様。

ならば今日は少し趣向を変えて、貴女が興味を持ちそうなお話をしましょう」


「えー、また“信仰とは”とか“魂の浄化”とかじゃないよね?

そういうの、もう飽きたってば~」


シムスは静かに頷き、法衣の内側から一冊の禁書を取り出す。

表紙には黒枝の文様と七色の魔力痕――災厄の印。


「これは、かつて世界を揺るがした四体の災厄に関する記録です。

《虹災夜》《鏡界崩落》《無音の裂界》《黒枝の胎界》。

それぞれが、エリアを破壊し《アル=ミラヴァス》に消えた存在。

貴女には、それを知る資格があると私は思っています」


優は跳ね起き、目を輝かせた。

「よしきた! それそれ! そういうの待ってた!

中二全開で最高じゃん! 続きはよ!」


シムスは微笑み、静かに書を開いた。

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