さらばウーロン
ウーロンエリア・九京駅。
九京の特別列車に乗り込むのは、天宮マリア一行。
さんざんメディアの対応に追われたせいか、全員が疲れ目。
久遠優に至っては、すでにイリスにもたれてスヤスヤと眠っていた。
「しかし、大変でしたね……」
列車内には自分たちしかいないと思ったのか、イリスが優を抱えたまま、
ため息混じりに口を開く。
「丁度よく会場が壊れたのが良かったのよ」
マリアは窓の外に視線を向けたまま、やや不機嫌な声音で答えた。
「やっぱり相いませんね、龍伯とは」
珍しく、霧音もその意見に同意する。
九京大武道大会は、星のあの技とカーラの暴走で会場が破損。
復旧工事、特に結界の再調整に手間取り、
決勝ラウンドは安全を期して一週間後に延期されることが決まった。
代替会場の案もあったが、龍伯星が「ならぬ」と一蹴し、
最終的に龍武擂臺で行うことになった。
しかし――天宮マリアの公務予定と重なり、
このまま久遠優を留めておくのは不可能と判断。
結果、優は不戦敗となり、決勝ラウンドには進まないことになった。
それを知った優は、あまりの喜びに「マリア様~好き」と浮かれ、
下手くそなオリジナルソングでマリアを称えだす始末。
当初、龍伯星は渋っていたが、マリアの圧に龍伯琳も助け船を出し
最終的には不戦敗を認めたのだった。
ウーロンのメディアは、この決定に強く反発した。
記者たちは天宮マリアに詰め寄り、
なぜ久遠優が不戦敗になったのか理由を問いただす。
「明日からウーロンを出て秩泉に戻ります。契約者である私がいなくなるのです。
その意味……わかりますよね」
マリアは珍しく強い口調で答えた。
ヴァッサルは契約者がそばにいなければ力を発揮できない。
それはこの世界では常識だ。その一言で大半のメディアは黙り込んだが、
一部の素行の悪い記者だけはなおも食い下がった
――これまで付きまとっていた連中だ。
その夜、ささやかな別れのミニパーティーが開かれた。
優は会場の真ん中で大げさに肩を落とし、ため息まじりに言う。
「あああ、マリアが忙しいからこれ以上武道大会に出られないのは残念だぜ……
(うひょー、ラッキー)でもさ」
ふっと哀愁を滲ませ、わざとらしいポーズを取る優。
「ここに来て、琳ちゃんと君たちと別れるのは……辛いよ」
そう言って琳と女官たちのもとへ歩み寄り、一人ひとり抱きしめていく。
琳は優を見つめ、微笑みながら告げた。
「私も色々あったけど、あなたがいてくれたから宮中が明るくなったの。
……心なしか、星が丸くなったのもあなたのおかげね。感謝しています」
「優様……」女官たちも、それぞれに別れの言葉を告げた。
「でもさ、いずれ戻ってくるぜ」
優は適当なことを言って笑い、場を和ませた。
翌日。言葉通り、優たちは九京駅に到着し、龍伯が用意した特別列車に乗り込もうとしていた。
そのとき、空から龍伯星が降り立つ。
マリアと軽く握手を交わしたあと、優の前に立ち――。
「お主といるのが、余の中で一番楽しかった」
そう言って星は優の手を握る。
「また、どこかで会おうぞ」
星はすぐさま飛び立ち、空の彼方に消えた。
「なんだかんだ言って、気に入られてるんだ、優」
イリスが面白半分にからかう。
「え……あいつ、ロリコンなの?」
戸惑う優を。
「あなた達早く乗りなさい」アイリスが急かす
慌てて乗り込む優とイリス
特別列車が静かに動き出す。
マリアは窓の外を見つめながら思考を巡らせていた。
――アル・カーラ、クラウゼヴィッツ、ヴァルファナ……一体どれだけ裏で動いているのかしら。
一度、七大貴族会議を招集する必要があるわね。




