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開幕の予兆

ウーロンエリア――香口こうこう

大会まで残り一週間。

港は祭りの準備に沸き、獣人たちの笑い声が風に混じっていた。

だが――その空気を、突如として切り裂く影が現れる。


海面に、風景に溶け込むようなステルス船が浮かび上がる。

船首には、聖遺物を用いた特殊装甲。

光を吸収するような黒の艶が、周囲の視線を奪った。


そして、船体から掲げられた旗――

クラウゼヴィッツの紋章。

黒地に二頭の黄金獅子が交差する、軍律の象徴。


船から降り立ったのは、黒に統一された軍服の一団。

その歩みは、まるで機械。

一糸乱れぬ隊列、一定の速度、無言の行進。


香口の人々は、自然と足を止めた。

獣人たちも、荷物を抱えたままその異様な光景に目を奪われる。


その場に現れたのは、香口の役人犬の獣人県椀。

耳をぴくりと動かしながら、軍人たちの前に立つ。

「何しに来た。お前達の目的を……」


先頭に立つ士官は、無言のまま一歩前へ。

手にした書状を、県椀へと差し出す。


官氏が受け取り、目を通す。

「……これは、武道会の紹介状。なるほど」


県椀はすぐに態度を改め、頭を下げる。

「これは失礼いたした。ようこそ、クラウゼヴィッツの皆様」


だが、軍人たちはその言葉に一切反応せず、

荷物の搬出を開始する。

無駄な言葉はない。

無駄な動きもない。


士官長が手をかざすと、全員が一斉に立ち止まる。

その声は、低く、鋭く響いた。

「これより、○○時にて準備を行い、九京へ向かう。

全員、指令通りに動け。誤差は許されぬ」


その言葉に、兵たちは一斉に頷き、

再び無言のまま、整然と動き出す。


香口の空気が、わずかに冷えた。

祭りの熱気の中に、

戦の気配が、静かに混ざり始めていた。


クラウゼヴィッツ――

それは、秩序と冷徹の名を持つ軍団。


ウーロンエリア・香口こうこう

昼下がりの港に、海風と香気が漂う。

その日、クラウゼヴィッツの黒いステルス船の陰に、

ひっそりと寄港していた目立たない船がひとつ。


だが――その周囲には、無言で控える一団がいた。

象の獣人・象信しょうしん

ウーロンにおいて最も重厚かつ信の篤い重鎮。


その屈強な軍勢が、まるで盾のように船を囲んでいた。

象信本人は、象の顔を持ちつつも、

礼装の上からでもわかる尋常ならざる筋肉の持ち主。


重厚な気配を全身に漂わせながら、控えめな一礼を送る。

「遠路はるばる――天宮公」



その船から、ゆっくりと降り立つひとりの女性。

天宮マリア。

水色の髪が海風に舞い、その姿は、

静謐な中にも気品を湛えた、美しく調和の取れた佇まい。


彼女は、秩泉の正装を着こなし現れる


滑るように一歩を踏み出し、象信に柔らかく微笑みを向けた。

その瞳には、揺るがぬ自信と誇りが宿っていた。

「ありがとう、象信殿」


その後ろには三人の影。

アイリス、イリス、霧音。

彼女らはマリアの両脇を固め、慎重に周囲を見渡す。


象信が無言で黒塗りの迎車を指し示す。

「さぁ、こちらの車にお乗りください」

マリア一行は静かに頷き、車へと乗り込む。


車内では、重い沈黙が一瞬流れた後――。

イリスがふぅと息を吐きながら、ぽつり。

「はぁ……いくら仲が悪いって言っても、それは過去のことなのに……」


アイリスは窓から外を眺めながら、静かに言葉を返す。


「仕方ないわ。最近では閑条の件、それに――優のこともある」


話の流れで、霧音がぽつりと口を開く。

「閑条武様とアリーヌ様の遺体が見つからなかった。これは……」


アイリスが答える。

「……あのお方なら、きっと生きていますね。沈む人じゃないわ」


霧音は微笑む「そうですねきっと・・・」


イリスが膝の上に端末を広げる。

九京武道大会――参加者一覧が画面に表示されていた。

その中で、ひときわ目を引く名前。


第6シード・秩泉代表:久遠優


イリスは眉をひそめる。

「これ……ほんとに大丈夫なの? 優が……」


マリアは窓の向こう――香口の景色を眺めながら、思考を巡らせていた。

(優……貴女は今、どんな顔でいるのかしら)


九京武道大会。


主催は、7大貴族の龍伯星。


本戦は全6ブロック制


各ブロックは5チームによるトーナメント方式


ブロックごとの勝者(計6チーム)が最終決勝トーナメントへと進出


※予選は地方単位で行われ、勝ち抜いたチームが本戦ブロックに配属される。


【試合ルール】

タッグバトル形式

2人1組――原則、**レギス(能力者)とヴァッサル(従者)**の組だが、

単独参戦も許容される。


勝敗条件は以下のいずれか


相手チーム両名の失神


戦意喪失の宣言または審判による認定


戦闘不能による死亡


闘技場の外に出た場合リングアウト


ヴァッサルが戦闘不能になった場合でもレギスのみで継続可能(逆も同様)。

ただし両名の戦闘不能時点で失格。


使用武器・能力 (レギス)(ヴァッサル)に制限なし。

ただし外部干渉や違法術式は即時失格。


シードおよび予選免除枠は、以下に該当:

ウーロン上位貴族の推薦

シード選手は龍伯星に認められた各国の推薦戦士たち


トーナメントに挑む戦士たちが徐々に集い始めていた。


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