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武道会と代表

龍殿最奥――

そこは、神域の静謐さと贅の極みが交差する空間。

だが今、その空間は――優魔殿と化していた。


豪華な寝台に寝そべるのは、

幼女……いや、久遠優。

絹の枕に頬を沈め、

饅頭をほおばるその姿は、まさに怠惰の極み。

「饅頭、ウマー」

女官がそっと膝をつき、銀の皿を差し出す。

「優様、あーん……」


優は至福の顔で口を開ける。


そこへ、扉が開く。

「優よ、お主……良いのか?」

現れたのは、ねずみ男――袁小。

毛並みは乱れ、顔には疲労の色。

だが、開口一番の言葉は真剣だった。


優は饅頭をもぐもぐしながら、ちらりと視線を向ける。

「……あれー、ねず公、生きてたんか」

驚いたのも束の間。

次の瞬間には、女官に「あーん」してもらいながら、再び至福の表情。


袁小は眉をひそめる。

「あと二週間後に――大武道会だぞ。そんな遊んでいて大丈夫なのか?」

優は饅頭を飲み込みながら、首を傾げる。

「武道大会?なにそれ」


お気に入りの女官が、微笑みながら答える。

「あら、優様。ウーロンではもちきりですワ。

街も港も、皆様その話題で持ちきりですの」


優は興味なさげに、もう一口饅頭をかじる。

「へー、面白そうだな」


袁小は一歩前に出て、真顔で告げる。

「お主も出るのだぞ、優よ」


場が――沈黙する。

優の手が止まり、饅頭がぽろりと落ちる。

「……は?」


袁小はもう一度、はっきりと告げる。

「秩泉代表として、お主が出るのだぞ」


優は寝台から飛び上がる。

「はぁ!?俺みたいな子供が出てどうするの!?

っていうか、誰が決めたの!?そんなの聞いてないし!」


袁小は、肩をすくめながら答える。

「龍伯星様のご命令だぞ」


優は目を見開き、団子ツインテールを揺らしながら叫ぶ。

「あのー……ちょび髭小僧!?」


次の瞬間――優は寝台を飛び出し、

饅頭を片手に、龍伯星の部屋へと猛ダッシュ。


女官たちは慌てて後を追い、

袁小はため息をつきながら呟いた。

「……これが秩泉代表か……」


龍殿の龍伯星の部屋、重厚な扉の前。


護衛たちが静かに立ち塞がるが――

「どけどけーい!」

久遠優は、ツインテールを揺らしながら突進。

護衛たちの制止を華麗に無視し、扉をバンと開けた。

「こらーっ!ちょび髭小僧ぉぉぉ――!」


だが、叫びかけたその瞬間。

優の目に飛び込んできたのは――

龍伯星の鍛錬姿。


上半身を露わにし、

洗練された筋肉が魔力の流れに沿って脈打つ。

その動きは、まるで舞。

拳の軌道に魔力が絡み、空気が震える。


素人の優ですら、思わず口を紡いだ。

「……うぉ……」


星は動きを止め、優に向き直る。

「むっ、何か用か――久遠優」


優は一瞬たじろぎ、

「あっ……」と声を漏らした後、気合を入れ直す。

「やい!武闘大会なんて聞いてないぞ!……です……」

最後の語尾は、正に小心者の囁き。


星は眉ひとつ動かさず、静かに告げる。


「閑条武が出ない以上――貴様が秩泉代表だ。

ディヴァイン級の力、余に見せてみろ」


それが決定事項であるかのように、

星は優を無視して再び鍛錬に戻ろうとする。


だが――

「嫌だ嫌だ!俺は絶対出んぞ!棄権ってことで!お願い!」

優は星の足にしがみつき、床にへばりつく。


星は冷たく言い放つ。

「ならぬ」


優は叫ぶ。

「あほか!俺なんかが出たところで何ができると……!」


星は苛立ちを隠さず、

「えーい、鬱陶しい」


星は優をボールのように蹴り上げ、

壁に吹き飛ばす!

どがっ!


だが――

優は、壁にぶつかった後、

部屋の床をゴロゴロと転がりながら叫ぶ。


ツインテールで床を掃き、華服をぐしゃぐしゃにしながら、

優は全力で駄々をこねた。

「嫌だ嫌だ!出たくないぃぃぃ!」


(むっ……こ奴、割と強く蹴ったが、効いてないのか……)

龍伯星の眉がピクリと動く。


龍伯星は、腕を組みながらその様子を見下ろす。

(……あれほどの蹴りを受けて、骨一本折れていない……?)


星の瞳が細くなる。

(魔力防御も使っていない。

ただの反射でもない。

これは――肉体そのものが、異常だ)


星は静かに歩み寄り、

優の襟首を指先でつまむ。

その動きは、まるで壊れ物を扱うように慎重だった。


「……貴様、何者だ?」


星は、無言で優を床に下ろす

その目には、明らかな“興味”が宿っていた。


星は、鍛錬用の魔力測定石を手に取る。

「優よ。これに触れてみろ」


優は、床に寝転がったまま手を伸ばす。

「えー……めんどくせぇ……」


指先が石に触れた瞬間――

「ピィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ」

けたたましい音が鳴り魔力測定石が粉々に・・・・・


「何事ですか?」

現れたのは、龍伯琳。

長い黒髪を揺らし、凛とした気配を纏う美人、星の姉。


その姿に、優は飛び起きた。

「琳ちゃん!弟説得してくれぇぇぇ!」


琳の足にしがみつく優。

団子ツインテールが揺れ、顔は涙でぐしゃぐしゃ。

「星、何が……?」


星は腕を組み、冷ややかに言い放つ。

「こ奴が、武道大会に出たくないと抜かしよる。

姉上でもこの話は聴かぬぞ」


琳は星の顔を見て、すぐに悟った。

(この顔……説得は無理)


琳は優をそっと抱き上げる。

その胸の中で、優は丸くなって蹲る。

「この様な幼子に武道大会は……」


星は眉一つ動かさず、言い返す。

「我はそのくらいの時にはすでに何度か優勝していたぞ」


琳はため息をつきながら、優の頭を撫でる。

「貴方と比べてはいけませんよ、星」


優は琳の胸に顔をうずめながら、震える声でつぶやいた。

「琳ちゃん……怖いよぉ……」

(……って、やわらかっ。こ、これは反則……!)


星はその様子を見て、ふと立ち止まる。

「この件は終わりだ」


そう言ってから、何かを思案するように目を細めた。

「ならば姉上、こ奴に武術を教えてやればいい。

中々才能はあるな。2週間もあればそこそこ……」


琳が何か言う前に、星は琳を部屋から押し出し、

扉をバタンと閉めた。


追い出された二人は。静寂。

琳の胸の中で、優が絶望の声を漏らす。

「はーーーーーーーー……」

(嘘だろ……え、マジ……俺、出るの?武道大会……)


その瞬間、優の脳内で

“饅頭食って女官達と遊んでいた未来”が音を立てて崩れ落ちた。

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