静寂の不穏
秩泉エリア境域討滅庁・第一特捜部——
狭間 慧は背が高くひょうひょうとした印象与える人物だ。オフィスの椅子に深く腰掛け、ため息をついた。
「おいおい……なんでこんなにアブレーション事件がなくなってるんだ?」
彼の手は黒髪をガシガシと乱雑にかきむしる。
彼の横では、同じく気怠げに椅子へ沈んでいる人物がいた。
犬飼 澪 茶色のショートヘア、少しクセっ毛 身長は低い
「先輩、やばいっスよ。フラグ立てないでくださいよ。」
澪は軽く頭を抱えながら言う。
狭間はポケットから煙草を取り出し、指先で転がした。
「ちょ、先輩、ここで吸わないでくださいよ。」
「わぁてるよ、クソ……ちょっとタバコ休憩入ります〜。」
手をひらりと上げて、喫煙所へと向かう。
喫煙所に響くのは、同僚たちのぼやき混じりの会話。
「まじで、ここ秩泉エリアの《天華》だけ、アブレーション事件がなくなってるんだよな。」
「ここ2か月、雑魚1匹しか報告されてないって、おかしくね?」
狭間 慧は煙草の箱を指先で軽く叩きながら、聞き流すように呟く。
「おいおい、同じ話ばっかりしてんじゃねーか。」
「おお、狭間!」
狭間が会話に加わると、一人の同僚が続ける。
「でも異常が起きてるの、天華だけだろ?」
「たしかに、他の都市は例年通りの件数だもんな。」
「いやいや、むしろ《例の三家》は例年以上らしいぞ。」
その言葉に、狭間は顔をしかめる。
「げええ……あんなとこ、行きたくないんだけど。」
——その瞬間。
ピンポンパンポン——
館内放送のスピーカーが鳴り響いた。
「狭間 慧 一等捜査官。犬飼 澪 二等護衛官。直ちに捜査三課に出向してください。」
狭間は煙草の箱をポケットに押し込みながら。
「……フラグだよな?」
秩泉エリア境域討滅庁・第三特捜部——
この部隊は討滅庁の中でも**「人間の脅威への対応」を専門とし、特にレギス能力者やヴァッサル能力者の捕縛**を担当している。
狭間 慧は、いつものように頭をかきながらぼやいた。
「畑違いなんだよな~……。」
それに対し、澪が軽く肩をすくめる。
「でも、私たちの力って、第一より第三向きですよね?」
「人間の相手は嫌なんだよねぇ……。」
ぼんやりとした調子で言う狭間の視線の先、奥のデスクには恰幅のいい男が座っていた。
——出川 正第三課長。
「遅いよ~、狭間ちゃん!」
出川は手招きをすると、澪の顔をじっと見て笑った。
「澪ちゃんも、見ない間に綺麗になったねぇ。」
「課長、三日前に会いましたよ。」
澪は呆れ気味に返す。
「あら、そうだったっけ?」
出川はにこやかに笑い、狭間は溜息交じりに尋ねた。
「で、何の用ですか?」
出川の顔が少し真剣になり、切り出した。
「君たちに頼みがあるんだ。もちろん、君たちの上司には許可もらってる。」
狭間は面倒くさそうに煙草を回しながら聞く。
「……で?」
「君たちに《信濃》に行ってもらいたい。」
——信濃。
狭間の頭の中に、その名が響く。
(ん……華御門の都市か。)
出川はそのまま続ける。
「華御門家からの要請でねぇ——あっ、言っちゃった!これは内緒ね。」
「はぁ……。」
狭間はげんなりした顔で額を押さえる。
出川はニヤニヤしながら報告書を指さした。
「あとはこの報告書に全部書いてあるよ。現地に《うちの部下》たちがいるから、協力してね。」
狭間は手を伸ばしながら聞いた。
「誰ですか?」
「報告書に書いてあるよ。」
出川はそのまま席を立ち、軽く手を振る。
「じゃ、あとは任せたからね〜♪」
そして部屋をあとにした——。
天宮家の筆頭三家
閑条家
- 天宮家の軍事面を支えてきた貴族。
- 武術・戦略・治安維持に長け、討滅庁にも深い影響を持つ。
- 力こそ支配の証と考え、強者を崇める価値観が根付いている。
華御門家
- 外交・政治に強い影響力を持つ家系。
- 天宮家の宮廷との結びつきを強めるための役割を担う。
- 表向きは穏やかだが、裏では権謀術数が張り巡らされる。
水鏡家
- 財政・経済の管理を担当する貴族。
- 商業・資産運用に関与し、天宮家の資産を守る立場。
- 賢い策士が多く、冷静な戦略と利益を最優先とする思考が根付いている。