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空を裂く邂逅

アイリスが導き出した一筋の線――それは情報の波が交差する一点に、

確かな真実を刻んだ。

そして、その瞬間。海条の空気が激しく脈打つ。


《セレスティア級英雄・閑条武》の魔力が再び解き放たれ、

都市を覆うように広がる。


政務室では緊迫の声を制するように、閑条武が一歩踏み出した――

そして、何の前触れもなく、アリーヌを抱き上げる。


「あら、ダーリン、高ぶってるのね。ふふふふ……

龍珀の小僧はこの事、知ってるかしら?」


アリーヌは驚きながらも、柔らかく肩を預けて武の胸元に身を委ねる。

その口元に浮かぶ微笑は、嵐の予感を甘くなぞる。

「さあな。知ろうが、知らないが――関係ない」



瞬間、武の全身を巨大な魔力が包み、空が断裂する。

魔力の余波は音速を越え、海条を一瞬で吹き抜ける!



そして――

閑条武とアリーヌは、空を蹴って飛翔。

その軌跡は山を裂き、雲を貫き、ウーロンエリアと秩泉エリアの境界へと到達。


列車は轟音を残し、ウーロンエリアへ突入した――その瞬間、

空を裂くような一閃の魔力が、武とアリーヌの前方を遮断する。


まるで空気が逆流するかのような衝撃――

現れたのは、一人の青年。その声は少年の名残を残しながら、

深く、濃く、熱を帯びていた。


「面白い、久方ぶりだな……閑条武よ」

その姿は小柄ながら、立ち姿に一切の迷いはなかった。


紫華衣を纏い、龍の髭が風に揺れる。額には二本の角が伸び、

その瞳には、万の龍を束ねる器の気配が宿っていた。


ウーロンエリアの主――龍の獣人にして、七大貴族の一角。

その名は、龍珀星。


「くくく……なんだ、その攻撃的な魔力反応。我がエリアに何しに来た?」


閑条武はその問いに答えず――ただ、ひとつの書簡を取り出す。

それは、それは袁小が仕組んだ、“久遠優”の意志を記した内容。


無造作にそれを星へと投げる。書簡は空を泳ぎ、星の手元に着地。


星の目が細まり、魔力がほんのり振動する。


「九京大武道会へ、秩泉代表として久遠優殿を迎え入れたい。

本人より“武道会で力を示したい”という意向があり、

龍珀としてもその望みに応えるべく、最上級者として丁重に迎える所存である。

武道会場にて正式に秩泉代表として登壇いただく。」


その書簡を読みニヤリと笑みを浮かべる。

「どうやら、久遠優成る物が、我が国客であることは紛れもない事実」



「……戯れ言を並べるな、龍珀星。」

「貴様に、優の意思を語る資格などない。」武の魔力がより威圧的になる。


星の肩がわずかに跳ねるが――すぐさま、笑みに還る。

「ふむ、“ここ”で交えるのは些か風情に欠けるな

九京大武道会――貴様も来るがよい。

優と共に、秩泉の“格”を見せてみよ、我は久遠優もうぬも歓迎しよう」


星は歓喜の表情で笑うそして・・・・


先程から貨物列車を見やる武を見据え

刹那 

「ふむ、ならば見せてやろう――この“龍伯”の迎え方を」

その言葉と同時に、龍珀星の瞳が細く光る。

空気が震え、彼の周囲に淡い魔力の波が広がる。


それは、龍族特有の“感知の息吹”――

空間に染み込んだ魔力の残響を、粒子単位で読み取る術。


星の視線が、貨物列車の一両に止まる。

「……なるほど。あれか」

次の瞬間、星の気配が掻き消え、風が一変。


空間が歪み、列車の一両が凪のように吹き飛ぶ。

龍珀星は、まるで古びた玩具を拾うように、

優と袁小の足を掴んで現れた。



すると気持ちよさそうに眠る優と袁小。

「探し物はこれか・・・・

もはやウーロンエリアに入った以上龍伯の道理に従って貰おう」



優が目を覚ますと、そこはまるで夢の中のような場所だった。


紅蓮の灯籠が水面にゆらめき、香の香りが空気を包む。

蒸気がゆるやかに立ち上る湯殿。天井は蓮の花模様の細工が輝き、

壁面には龍や鳳凰が舞う金唐紙のような絵が広がっていた。


「……えっ、どこ?」


ふと見ると、優の体は赤く縁取られた湯船に沈んでおり、

着衣のままではなく、さらりとした浴衣のようなものが羽織られていた。


「目が覚められたのですね、優様〜」

「ふふ、お肌つるつるですよ〜」「かわいらしいお顔立ち♡」


両脇には、鮮やかな衣をまとった女官たちが数人、

微笑みをたたえて彼の手足に柔らかな布で湯をかけていた。


「う、うわっ! なにこれ、夢? 転移? 転生? これは……中華系の世界線か?」


優は混乱しながらも、その心地よさに思わずふにゃっと頬を緩める。

さっきまで“攫われた”とか“強制連行された”とか、

ろくでもない感情があったはずなのに、

今は妙に脱力していた。


「いや、ここどこ!? 俺、攫われたよな!?」


「まあまあ優様、力を抜いて。お背中お流しいたします♡」


「よっ、よよよ……お、おいちゃんね、ひどい目にあったんよ〜」


優は思わず演技に走る。泣きまねをしながら、

近くの女官の膝にごろんと転がり込んで抱きついた。


「よしよし……おかわいそうに。悪いネズミに連れて来られたのね」

「でも、もう大丈夫ですよ。私たちが、すっかりお癒ししますからね〜」


(あれ? なんか運、回ってきてない……?)


湯煙の向こうに浮かぶ、白龍の彫像と五重塔。

そこは、龍珀 星が支配するーー龍殿。

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