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海条 喧騒の花

海条に着いたマリア一行


天華の高層ビルが立ち並ぶ都市とは一線を画す、

ノスタルジックな街並みに足を踏み入れた瞬間――優の目がきらりと光った。

「うぉおお、なんか懐かしいなっ!」


細かなタイル、古風な街灯、

看板に踊るレトロフォント――昭和モダンの香りが、優の記憶をくすぐる。



そこに現れたのは金髪縦ロール、豪奢な衣装を纏い、

口元を扇子で隠した貴婦人。


海条都市を統べる閑条家の令嬢――閑条 まい

「あら、優さん。お気に召しました? ほほほ……」


優は笑いながらその顔を見上げてぽつり。

「昔住んでたとこに、似てんだー……まぁ、すぐこんな街並みも消えちまったけどな」


優は白金髪を揺らしながら、どこか遠い目をした。


すると、優の指がある方向を差す。

「あれ、あいつら喧嘩か?」


道の向こうに人だかり――掛け声が飛び交う。

「やれーー!」

「負けんなっ!」

「兄さん、どっちに賭ける!?」


海条の住人たちが周りを囲んで盛り上がる。


舞は苦笑しながら肩をすくめる。

「はぁ……海条の人々は“喧嘩は花”と申して、

よくあることなんですの。風物詩ですわ」



優が楽しそうに人混みに向かおうとしたその瞬間――

「ちょ、ちょっとだけ見ていこーぜ?」


ふんわりと止めに入ったのは、

ぐるぐる眼鏡がトレードマークのメイド服――閑条 さくら


舞の忠実なヴァッサルとして、気配なく素早く優を抱き上げる。

そして、高級ハイヤーの扉が開く。

その中から現れたのは、威厳と気品をまとった人物――天宮マリア。

「優、遊んでないで早く乗りなさい」


桜に抱えられ、ふわりと乗せられていく優。

瞳だけ名残惜しく、怒号が飛び交う人だかりを眺めながら呟く。

「……喧嘩、見たかったなぁ……」


昭和モダンが色濃く残る街の一角、今日も海条らしい喧騒が巻き起こる。


拳を交える二人を囲み、熱気に包まれる路地――そこに響き渡るのは、

悪鬼組・梢のドスの効いた声!

「さあさあ!賭けて賭けてぇ!ここは悪鬼組の梢がケツ持つよぉっ!喧嘩だ!喧嘩ァ!!」


周囲の住人たちは当たり前のように賭けに乗る。

「俺はアッチの青いのに!」

「じゃあ俺は長髪のあんちゃんに賭ける!」

「負けんなーッ!」

「兄さん、オレの財布預けるぞ!」


場が一気にヒートアップ。拳も声も海条の空気を突き抜けて盛り上がる


悪鬼組とは。 海条に根深く存在する任侠集団


梢女性(のはずだが、誰も自信がない)

大柄で筋骨隆々、声は雷鳴のように響く派手なジャージに金の帯。


勝負が決した瞬間――青服の男が華麗にカウンターを決め、

長髪の男を失神させると、

まるで火が爆ぜたように人々の歓声が上がる。


「勝者!青服男だよッ!勝った奴は並びなァ!」


喧嘩という名の娯楽に賭けていた者たちがぞろぞろと列を作り、口々に叫び合う。

「思わぬ金が入ったぜ、賭場にいくか!」

「おうおう!家の賭場に来いよ、あんちゃん!」


その熱気のど真ん中――筋肉隆々な任侠女、

悪鬼組の梢が色気交じりに投げキッスを送る。


男が顔を引きつらせながらも苦笑。

「げっ、勘弁してよ……冗談っすよ、姉さん!」


「んん?このあたしが投げキッスしたんだ。確定だよォ」

「いよ!梢姉に選ばれるとは、色男だなァ!!」

周囲が囃し立て、場のテンションは最高潮に。



だが、騒ぎの潮が途切れる。


人混みの奥から駆け寄ってきた若い組員が、顔を硬くして叫ぶ。

「姉さん!大変だ!……中川の店でトラブルが――!」


梢の表情が一変する。

笑顔が消え、空気がピリつく。まるで空間そのものに威圧が走る。

「どこだい」


周囲の海条住人たちが一瞬で沈黙する。

「“蛇”です……あいつら、因縁吹っかけてきた……」


犯罪組織《じゃ》――海条に蔓延する違法クスリ、

誘拐、窃盗を糧に暗躍する集団。


その存在は、悪鬼組にとって“汚れの根源”であり、忌み嫌う宿敵。

「よし……行くよ。案内しな」


梢は若者を片腕で抱え、その巨躯にもかかわらず高速で動き出す。

コンクリの地を軋ませながら、街の一角へと疾る。


人々が道を開ける中――誰もが静かに息を呑む。


海条都市の中心に構える、歴史ある豪奢な大名屋敷――


その客間で、ひとり焦燥に身を揺らす龍珀使者の姿があった。

袁小えんしょう・龍珀使者

ネズミ耳の獣人。小柄だが俊敏な動きと噂話の収集能力に長ける。


現在の任務:閑条 武を「九京大武道会」へ参加させる説得役。

「このままでは、私は龍珀に殺される……何とかしなければ……!」


焦りで部屋をぐるぐると巡り続ける袁小。

頭の中では、あの男の声が木霊して止まない。


龍珀星の冷ややかな言葉。

「よいか、袁小――閑条 武は“面白い男”だ。

必ず連れてこい。来なければ……すべてを失うぞ」


「終わりだああああ……!」



その時、屋敷内が騒がしくなる。

慌てて襖を開け外を覗いた袁小の目が、ある一団に吸い寄せられる。

「あれは……まさか、天宮マリア……?」


美しく気品を纏ったマリア、その背に従う精鋭の従者、

そして一際騒がしい小柄な人物――

閑条 武が姿を見せ、マリアと力強く握手を交わす。


「おう、嬢ちゃんが久遠優か? よろしくな」


そして――その優が前のめりで虚勢を張る。

「おうよ!俺様が“ディヴァイン級”の優様だッ!」


閑条 武が豪快に笑う。

「ははは、面白いねぇ~!」


そのやり取りを、客間から見つめた袁小の瞳が震える。

「……まさか、あの幼児が“ディヴァイン級”!? そんな、そんなバカな……」

(いや、ここで諦めては……いやいや、逆にこれは……)


しかし――袁小の頭に雷のように閃きが走る。

「そうか……!よし、蛇を使うか……!」


ニヤリと含み笑いを浮かべ、長い尻尾を揺らしながら、

袁小は急ぎ屋敷を飛び出した。


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