幕間:約束とメイド長の秘策
蒼穹殿・優の自室にて――
漣での激戦から帰還したはずの優は、
まるで遠足帰りの小学生のようなテンションで絶好調。
自室に入るなり強化スピーカーでダンスミュージックを爆音再生。
その音とともに、ベッド上で奇妙なステップを繰り出す。
「すうだらすらすら~ん♪ うっふ~ん」
曲名不明、ステップ不明、意味不明。だが本人はいたって真剣。
タブレットを手に「ダンチュバー・キャット」の配信に投げ銭を連打。
画面には“あきらとよしこ”、有名冒険者が謎ダンスを踊っている。
困惑するのは――霧音と新任世話係のリカ。
「優様、ご機嫌ですけど……何があったんですか?」
リカが困ったように霧音に視線を向けるが、
霧音はどこか目をそらしがちに返答。
「そ……それは……」
優はベッドの上で転がるように跳ねながら、ねっとりした声を放つ。
「ねぇ~~~霧音ちゃん~~~俺、頑張ったよね~~?」
霧音は一瞬うつむき、そして深くため息をついた。
「はぁ……」
その姿を見て、リカはさらに混乱した表情に。
優は音楽に乗りながら踊り続け、手を振り上げて叫ぶ。
「例の物~~早く持ってきてねぇぇぇ☆彡」
「あきらとよしこ、やっぱ最高に活かしてるぜぇぇえ~~!」
蒼穹殿の問題児・優から静かに距離を取りたい霧音。
音もなくドアの隙間を抜け出しつつ、ささやく。
「リカ、私は行くところができたので……あとはお願いね」
(私がこの問題児を……そんなメイド長……)
部屋では“ダンチュバー祭”が継続中、
優はベッドで暴れながら奇妙なステップを刻み中。
リカは圧に耐えながら、笑顔を保とうと必死だった。
霧音が向かったのは蒼穹殿の厨房。
昼時の賑わい、コックたちが忙しく動く中、彼女の登場に周囲がざわめく。
「メイド長、どうされましたか?」
料理長・山北俊(35)。
普通すぎる見た目。白のコックコート+帽子が妙に馴染む
独身、だけど料理の腕は天華屈指。
霧音が「ゴニョゴニョ……」と事情を説明すると、
山北は短く苦笑する。
「……あの“つまみ食いの幼女”か……」
優は厨房でも“何か盗まれたらとりあえず優を疑う”くらいには有名らしい。
「よっしゃ、メイド長の頼みとありゃ――
任せておけ!要は、“酒っぽく”すればいいんだな!」
山北は的確に指示を飛ばし、部下が慣れた手つきで材料を用意。
ラベルも張り替え、見事完成したのは――
酒瓶の2合サイズ 味はほんのり苦味のある香味水
ラベルには秩泉の名酒“天華水”と金文字で豪華な演出。
「ありがとうございます、コック長……!」
「いーってことよ、メイド長。
……あんたが来てくれるなら、何でも出すぜ」
山北、顔を赤らめながらも満更じゃない笑顔。
霧音も、少しだけ肩の力が抜けたように見える。
霧音が急いで優の部屋に、ドアをそっと開けると、
彼女の目に飛び込んできたのは、リズムに合わせて踊る二人の姿だった。
優とリカが、部屋の中央で陽気にステップを踏んでいる。
リカは相変わらずフリルのついたメイド服姿で、
動きに合わせてスカートがふわりと舞い、その下からのぞくふくらはぎが眩しかった。
いや、それ以上に目を引いたのは、
リカの豊満な胸元だった。たわわな双丘は服越しでも明らかで、
踊るたびに軽く揺れ、
そのたびに優の視線が吸い寄せられているのが見て取れた。
「ははっ、リカちゃん、リズム感けっこうあるじゃん!」
優は笑顔でそう言いながら、まるで少年のような無邪気さではしゃいでいる。
「優様」
ダンスから一転――霧音の声が部屋に響いた瞬間、優とリカはぴたりと動きを止める。
リカの表情はほっとした安堵で緩み、目の端に小さく涙が光る。
「メイド長……っ」
「例の物、約束通りに持ってきました」
霧音の手にあるのは――あの“天華水”のラベルが貼られた2合瓶。
その瞬間、優はまるで、
スピナーのように霧音の周りをぐるぐると回り始める。
「おおお!早く!はやくッ!!」
霧音は苦笑しながら、そっと瓶を差し出す。
「どうぞ。酒です。」
受け取った優は、一瞬だけ眉をひそめる。
「……なんだよ、2合瓶かよ。
せめて一升瓶じゃないとテンション上がらんよ?」
霧音はにっこり微笑みながら、瓶に手を戻そうとする。
「じゃあ……あげません」
「うそ!うそぉぉッ!!霧音ちゃぁぁぁんッ!!
これは……これは“天華水”じゃないかぁぁぁ!!名酒じゃないかぁッ!」
手元を抱きしめるように酒ぽい水を奪還する優。
ラベルをじっと見て、全身から喜びが爆発
超絶キャワワな声で(本人談)「霧音ありがとう」
霧音は深く息を吐き、リカと静かに目を合わせる。
優は、何を思ったか自室のドアを勢いよく開けて飛び出す!
「優様ぁっ!……お昼、ですよぉぉ……!」
「昼飲まずして何が酒好きじゃあッ!久遠優、行きますッ!!」
勢いそのままに某ロボットアニメ風ポーズで“天の庭園”へ向かってダッシュ。
風に流れるピンクのリボン、白金の髪が風で疾走感を演出。
背後で呼び止める霧音の声ももう届かない。
「……その思想、酒好きじゃなくてもうアル中ですよ……」
霧音は諦めたようにため息をつき、残されたリカにそっと振り返る。
「リカさん、私たちで部屋を片づけましょう。
…この惨状、見なかったことにしたいくらいです」
部屋では、投げ捨てられたタブレットが「あきらとよしこ」のダンスを延々再生中。
床には優が脱ぎ散らかした寝巻きと、ペットボトルが転がっている。
「ハイ……!」
リカは決意した顔で頷く。
天の庭園――
優はその中でも一番見晴らしのいいベンチに「どかっ」と腰を下ろすと、
無造作に空間を裂いた。
死ぬほど努力して覚えた空間魔法、
乾いたスルメ。
続いてポテチの袋が破れる音が響き、
最後に現れたのは、厨房で拾った小さな七輪だった。
七輪に火をつけると、優はスルメを炙り始めた。
香ばしい匂いが風に乗って草花をくすぐる。
その上にマヨネーズを容赦なく「ドバッ」とかけて、豪快にかぶりつく。
そしてもう片手には“天華水”。
「ぷはーっ! うまっ……あれ? アルコール……の味が……?」
思わず眉をひそめる。
日頃から安酒で酔いを回している優にとって、
この繊細な香りと奥行きのある味わいは少し異質だった。
「いや、これは……高級酒ってやつか?」
首をひねりながらも、再びごくりとひと口。
「まあ、昼はこれでよしとして……残りは夜に熱燗で飲むか」
そうつぶやくと、再び七輪の上でスルメをひっくり返し、
空のどこかで輝く光を眺めながら、ポテチを頬張った。
「優。あなた――何してるの」
凛とした声が庭園に響いた、
瞬間優はスルメを持つ手ごと硬直、目が点になる。
「あっ……マ、マリアさん……」
蒼穹殿は、今日も賑やかだった。
スルメの炙り音と、マリアの絶妙な“圧”が交差する庭園。
風が緊張を運ぶ。




