第三話:契約の真意
天宮家・マリアの仕事部屋——
書類が整然と積み上げられたデスクの上で、マリアは静かにグラスを揺らす。琥珀色の液体がゆるやかに波打ち、彼女の思考を映し出しているようだった。
「お嬢様、なぜあのようなものと契約を結ばれたのですか?」
厳しい口調で問いかけたのは、アイリス。マリアのヴァッサルとして長年仕えている彼女は、今回の契約に疑問を抱いていた。
その隣で、双子の片割れイリスが軽い口調で続ける。
「たしかに〜、あれくらいのアブレーションならあたし達で十分ですよ〜。」
マリアは淡く微笑む。
「……確かに、あなたたちなら十分でしょう。」
アイリスとイリスは得意げに頷く。だが、次に続いた言葉が、その自信を揺さぶる。
「でも、彼は最低でもセレスティア級よ。」
「……っ!? いくらエクソジェンとはいえ……」
アイリスの瞳が驚愕に揺れる。
マリアは静かに微笑むと、テーブルの上に指を置く。
「私のレギス能力《百鬼夜行》……知ってるでしょ?」
沈黙が降りる。
ヴァッサル階級
1. ディヴァイン級(神域の守護者)【世界に7人のみ】
- 特別な存在で、契約の枠を超えた規格外の力を持つ。
- 通常のヴァッサルとは異なり、契約者の意図を超えて世界に影響を与える存在。
- 契約コストは極端に高く、通常の貴族は契約不可能。
- 戦闘・戦略・支配・神意のいずれかに特化しているが、能力の発動には制約がある。
2. セレスティア級(神域級ヴァッサル)
- 最上位のヴァッサル階級で、戦闘・魔法・戦略すべてにおいて規格外の力を持つ。
-契約できる貴族は極めて限られる。
- 単独で戦局を決定できるほどの力を持つ者もいる。
3. - ミスティック級(貴族専属ヴァッサル)
- 大貴族が契約する上位ヴァッサル。戦闘・戦略・魔法すべてに長けている。
- 契約枠は通常1人までだが、特別なレイズ契約能力を持つ貴族なら枠を増やせる。
- 国家レベルの影響力を持つ戦闘型ヴァッサルも多い。
4. ミディア級(中級ヴァッサル)
- 一般貴族が契約する中級ヴァッサル。貴族社会に広く分布する。
- 戦闘・補助・情報収集など、貴族の活動を支援する役割を果たす。
- 契約はそこまで高くないが、複数契約は難しい。
5. コモン級(一般ヴァッサル)
- 最も多く存在する階級。一般貴族や地方領主に仕えるヴァッサル。
- 契約の自由度は高いが、戦闘能力や魔力はそれほど高くない。
- 商業、運営、特殊技能に特化したヴァッサルも含まれる。
イリスが沈黙を破る不安げに「たしかに〜、お嬢様の《百鬼夜行》なら、コモン級までのヴァッサルを100人契約できるんですよね〜?」
マリアは静かにグラスを揺らす。琥珀色の液体が波打ち、彼女の瞳に不思議な輝きを宿らせる。
「……ええ。そのはずよ。」
アイリスとイリスはお互いに視線を交わす。
「でもね——」マリアはゆっくりとグラスを置き、指先を合わせながら言葉を続ける。「彼と契約したとき、もうあなた達と霧音しか契約できないと感じたの。」
「……まさか。」
アイリスの声に僅かな動揺が滲む。
「そう。」マリアは静かに微笑んだ。「それだけの子よ……」
部屋には沈黙が降りる。
マリアの視線がグラスに落ちる。透明な液体の波が揺れるたびに、何かが心の奥底で軋むような感覚があった。
——やっと、天宮家も。
彼女の表情には、一瞬だけ言葉にできない感情が宿る。
世界がざわめく——
ディヴァイン級の存在が確認された、その瞬間——。
遥か遠い場所、闇に包まれた謎の空間。そこには異質な声が響いていた。
「おおおおおおおおお……ディヴァイン級……!」
音が空間を震わせる。言葉ではない何か——力そのものが揺らぎ・・・・・