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ヴァルファナの使途

地下施設内はすでに阿鼻叫喚の戦場と化していた。


境域討滅庁と《墜王環》構成員の魔力が交錯し、爆ぜる魔法が天井を焼き、

構成員たちの断末魔が廊下に響く。


その最奥――


「これは……天御門で見たのと似てる……」

澪が立ち止まり、カプセルを見上げて呻いた。


巨大な生命維持槽。内部で蠢くのは人とも獣ともつかぬおぞましい“何か”。

「……相っ変わらずグロいっスよ、こういうの……」

眉間にしわを寄せながら、澪が舌打ちする。


その背で、彗が黙って煙草に火を灯し――

「なんの研究だか……」と、呟いた。


施設奥へ続く長い廊下を踏み進み、

やがて二人は、最深部の管理ラボ――この施設の心臓部へと辿り着く。


重々しい金属製の扉が、威圧的に二人の前に立ちはだかる。

「澪、頼む」

「おっしゃーっス」

気合を込め、拳に魔力を集中させる澪。


――ごぉんっ!


轟音と共に、扉が粉砕され、内側の警報がけたたましく鳴り響く。


「ば、馬鹿なっ! あの扉はミディア級以上の衝撃にも耐えるように設計されていたはず……!!」

奥から現れたのは、病的に細く、ボサボサの長髪で顔の半分を隠した研究員の男。


その目は狂気と恐怖に歪み、声が震えていた。


そんな彼に、澪があっけらかんと笑う。

「あー、自分……ミスティック級っス」。


管理ラボの重苦しい静寂の中で、土下座する研究員の声が響く。


「待ってくれ! 私は……水鏡に雇われただけだ! 助けてくれ……!」

床に額を擦りつけ、服従のポーズをとるその姿に、


狭間 彗と犬飼 澪は、ほんのわずかだけ顔を見合わせた。

「命だけは……お願いだ……」

――(私はまだ、死ぬわけにはいかない。

……この天才が居なくなるのは、世界の損失だ)


彗は火を点けた煙草をくゆらせながら、低く呟く。

「……まあ、今は大人しくお縄に付けば?」

(……とはいえ、こんな奴、捕まってもどうせ死刑だよな)


研究員は顔を上げると、震える声で「……そうか、大人しくする」と頷いた。


そのタイミングで、澪がふと尋ねる。

「そういえば、ここって一体、なんの施設なんスか?」


研究員が口を開きかけ、澪がゆっくりと能力無効化の手錠を取り出す。

――そして、その金属が“カチャ”と鳴りそうになった瞬間。


影が、蠢いた。


「ぎゃーばばあああっ!!」

突如、研究員の背後から伸びた異形の手が、

肉も骨も貫き、その胸をズドンと突き破る。


澪はすぐさま数歩飛び退き、警戒色に染まり直す。

「ッ……なんスか、あいつ……!」


研究員の身体を串刺しにしたまま、影から姿を現したのは――

人とも獣とも判別できぬ“忌まわしき融合体”。


その体躯はおよそ2メートル。

かすかな人間の輪郭を残しつつも、

皮膚は銀化し、背筋から“律触腕”が何本も伸びていた。


顔の左半分は“仮面のようなアブレーション面”に覆われ、

口からは泡を混じえた呼吸音が漏れる。


着ているのは元は墜王環信者のコート――だが、

その下からは鼓動する無機触手と融合痕がのぞいている。


「……ヴァルファナ……我らが神を裏切るとはな……」

くぐもった声。口だけは人間の名残を留めていた。


「ネフガル計画の恩恵だッッ!!

私はアブレーションと融合した……

真のヴァルファナの使途なのだアアアアアア――!!!」


天井が揺れ、警報が鳴り止む。

綻びかけていた結界が軋みを上げ、空間がひずむ。


彗は煙草をくわえ直しながら、ちらと澪を見る。

「……やれそう?」

「まー……やれるだけ、やるっスよ」


「くくく……これで、この施設も終わりだ……!」

異形と化した《ヴァルファナの使途》が

、脇の端末に伸ばした触手でコードを走らせた瞬間、

ラボ全体に赤いアラートが鳴り響く。


《警告――施設内自己崩壊プロトコル起動》

《カウントダウン開始:残り120分》


「……そして貴様らごとき、30分もあれば十分潰せるッ!」

複数の触手が咆哮とともに暴れ出し、

鋭利な刃のように回転しながら彗と澪に迫り――


「はっ、言ってろよっ!」

澪が即座に跳び、真横へ跳躍。


魔力を帯びた脚がきらめき、一本の触手を蹴り砕く!

「彗先輩、こいつバケモンっス!!」


「知ってるよ……」

彗は煙草を咥えたまま、静かに指を立てた。


「《煙影スモーク・フェイド》――起動」

煙が逆巻くように澪の姿がスッと薄れていき、透明に消える。

使途が咆哮し、異形の“目”が部屋中に展開された。


視覚、熱、魔力感知――全方向からスキャンが始まる。

「消えただと……!ならば」

触手が全方位に巻き上がり、

まるで弾幕のように四方八方へ襲いかかる!が――


「――そこっスよ!」

透明になった澪が、使途の右脇から飛び出した!


拳に集束させた魔力を“ブースト”に切り替えて、

腹部へ――ドゴン! と重低音が響き、巨体がよろめいた。


「やるな……だがここか!!」

使途の左肩から生えた刀状の触腕が、即座に切り返す!


「くッ……!」

瞬間、澪の背後――

パンッ!


乾いた音とともに、触腕が空中で弾け飛ぶ。


「……消えてるのは体だけじゃ無いス」

澪は消えている魔法を周囲に張り巡らせる。


煙を吐き出しながら、狙撃体勢の彗。

左手には小型の対アブレーション銃

《シアノ・シグマ》が握られている。


「まだ終わりじゃないっスけどね!」

澪が地面を蹴ってもう一度突撃。


透明のまま魔力を纏った拳が閃光のように打ち込まれる――

一撃、二撃、三撃――

使途はそのたびに触手を絡めて防御するが、

澪のスピードに反応が追いつかない。


「この……ッ!」

使途が憤怒の咆哮をあげ、天井を崩す勢いで巨大な触腕を振り下ろす!


「――上だ!」

彗が叫ぶと同時に、見上げた澪の足元に光弾が飛び――


バチン!とぶつかって空中ジャンプの要領で姿勢を切り返し、

ギリギリでかわす!


周囲の魔法と銃弾が使途に・・・・

「やったか……?」


爆煙が満ちる中、彗の目が光を捉えた。

――《使途》は、まだ立っていた。


だが、その胸にははっきりと――

「澪の拳痕」と「彗の弾痕」が刻まれていた。


「……やれんことも、ないっスね」

汗をぬぐい、澪が笑う。


施設に響く爆音と警報の中――追い詰められた《使途》は咆哮を上げた。


「みぃつけた……!」

だが彗と澪は闇雲に攻撃していたわけではない。


攻撃の合間、彗は視線と一撃のリズムを計りながら、

確実に――“本体”コア、《魔石》の位置を探っていたのだ。


「澪、あれをやれ!」


レギス能力の効果がスッと解かれ、

透明だった澪が姿を現す。その目が彗の意図を瞬時に察する。


「はいはい、やればいいんでしょッ!」

魔力が一気に増幅され、澪の気配が爆発的に立ち上る。


使途がその動きに一瞬気を取られた、その刹那――

彗が、音もなく急接近する。


――だが。

「甘いッ……貴様の考えてることなど、読めている!!」

「死ねええええっ!!

叫びとともに、使途の背中から新たな触手が伸び、

彗の胴を貫いた――ように見えた。


触手が地面に叩きつけたのは……落ちた煙草だけ。


「……残念。甘いのは君だね」

彗の声が使途の目の前から響く。


彼は一瞬だけ《煙影スモーク・フェイド》を自身に使い、

体を煙状態にして攻撃を受けたのだ。


彗の手が、使途の胸――赤黒く脈打つ魔石に触れる。

「――封殺。」


瞬間、魔石が赤い閃光を迸らせ、

使途は絶叫を上げる暇もなく――崩壊した。


仮面が割れ、触手が崩れ落ち、皮膚が灰となり……

最後に残ったのは、静かに転がる赤い魔石だけ。


彗はそれを拾い上げ、光にかざして覗き込んだ。


「へぇ……アブレーションと、同じ構造だな」

その表情に驚きも恐れもなく。


ただ静かに、次の一手を考える者の目だった。


狭間 彗のレギス能力

煙影スモーク・フェイド

- 効果①:ヴァッサル透明化

煙草を吸い終わるまで、契約中のヴァッサル(例:犬飼 澪)が完全に透明状態になる。

視覚・熱・魔力センサーをすり抜ける“ステルス”。

- 効果②:本人の煙状化(限定)

彗自身が“煙体”と化すことができる。

※ただし、自分に使う場合は、煙草が手から離れたり燃え尽きたりすると

3秒後に解除される。

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