《天律決戒》戦場の勝者
マリアと霧音が一直線に閑条 武へと向かう——。
しかし、その刹那。
「あっと、行かせないぜ!ヒャハーッ!」
飛び込んできたのは、あきらとよしこ。
閑条家が金で雇った、ただの数合わせ——。
霧音は無言のまま踏み込み、次の瞬間。
鋭い右拳が、あきらの顔面を撃ち抜く。
「ぐっ……!」
彼の意識が揺らぐ前に、霧音の回し蹴りがよしこの腹部をえぐる。
「ぐはっ!」
二人の身体は弧を描いて吹き飛び、地面へ沈黙——。
アナウンサーが驚きながら実況する。
「おっと——あきら、よしこ!これは退場か……!」
解説者は適当な調子で返す。
「そうですね!」
それはあまりに呆気ない。
戦場から無言で失神退場——まさに『数合わせ』の末路。
戦いに中マリアは思考するヴァッサルは契約者であるレギスと離れすぎると、
力が約80%低下する——それが常識。
(閑条 武はヴァッサルだ……契約者であるレギスを連れていない。
戦いを舐めているのか?)
ミディア級の霧音でも、閑条 武にダメージを与えられるはず・・・
しかし——武は試すような余裕を見せる。
「秩泉の武術じゃないな……ふむ。」
霧音は無駄な言葉を発せず、一気に肉薄する。
霧音の 疾風のような打撃。
武はそれを軽々といなしながら、時折カウンターを試すように拳を繰り出す。
そして——
霧音の一撃が武の腹部に突き刺さった。
「いいね、なかなかだ。」
武は微笑すら浮かべながら——瞬時に反撃。
霧音の側頭部へ強烈な蹴りが襲い掛かる。
「ガッ……ンッ!」
武の蹴撃が霧音へ突き刺さる**——はずだった。**
しかし、その瞬間。
——見えない壁が割って入る。
「……ほう。」
武は一歩引いた。
蹴りは確かに放たれたはずなのに——霧音は無傷。
バリアのような結界がピンポイントに展開されていた。
「器用だな。」
それを成したのは——マリアだった
武は肩を鳴らし、楽しげに呟く。
「そろそろ暖まってきた——いくぜ。」
その言葉とともに、武の魔力がさらに増幅し、戦場の空気が震え始める——。
「素晴らしい攻防!これはマリア様が押しているのでは――!」
アナウンサーが興奮気味に叫ぶ
しかし、解説者は何の躊躇もなく応援する。
「いけー!ぶ○○ろせぇ!」
(完全にマリアびいき。)
霧音は鋭い打撃を繰り出しながら、閑条 武と渡り合う。
武も冷静に間合いを測り、まるで試すように攻撃を受け流していた。
しかし——マリアの表情が変わる。
「おかしい……そんな馬鹿な!」
閑条 武の魔力がさらに高まり、会場すら震え始める。
霧音が一瞬構えるが——
「おいおい、何を信じられない顔してるんだ?」
武は余裕の笑みを浮かべる。
「お前たちとは経験が違うんだよ。」
その瞬間——武の右手が輝き始める。
雷が収束し、嵐のような魔力が纏われる。
武は拳を振りかぶり、叫ぶ。
「しっかり守れや!」
雷を纏わせた最速の右ストレートが放たれる——!
マリアは即座にバリアを展開する。
「くっ……うそでしょ!?」
しかし——
バリアはあっさりと貫かれた。
霧音は避けきれないと悟る。
瞬間、十字に腕をクロスさせる。
轟音と閃光——。
霧音の体が吹き飛び、地面へと沈む。
何とか立ち上がったが、両腕は折れ、内臓にダメージを受けたか、
血が口からこぼれ落ちる——。
「霧音!」
マリアの声が戦場に響く。
武は息を吐き、ゆっくりと歩みを進める。
「さあ、茶番は終わりだ——。」
その時——
パタリ。 天霊匣の蓋が持ち上がる。
「おきたよーーーー!」
可愛らしい声が響く。
そして——蓋が再び静かに閉じられた。
場の空気が一瞬止まる。
武が眉をひそめ、マリアが視線を上げる。
戦場に響くマリアの静かな声。
「まぁ、ここまでね。」
霧音は膝をつきながら、それでも前を向いていた。
「まだやれます。」
満身創痍——しかし、彼女の瞳はまだ燃えている。
マリアは微笑んだ。
「いいのよ。あなた達でも、ここまで戦えるんですから。」
静かに視線を天へ向け——
「茶番……そうね。終わらせましょう。」
その瞬間、マリアの瞳が緋色に輝く。
彼女が唱える——《無垢なる書 ゼロ・コーデックス》
天華ドームが緩やかで穏やかな静謐に包まれる。
そして、一面の白が世界を覆う。
その異変の中心に立つマリア——
閑条 武が目にしたのは、彼女の変わった姿だった。
まるで神聖なる巫女のごとき佇まい。
白を基調とした衣装
繊細な銀糸の刺繍が施された長衣。
柔らかく流れる紗布のヴェールが肩を包み込む。
純白の法衣に緋色の紋章が静かに輝く。
足元には軽やかに舞う銀の裾。腰には本を収める金のバインダー
手のひらには、光を帯びた書が浮かび上がっていた。
閑条 武は目を細める。
「——ほう。」
言葉では言い尽くせぬ異質な圧力が、場を包み込む
優は息を呑む。
見渡せば、観客の熱狂、破壊された建物、倒れ伏す霧音、アイリス、イリス——。
その目の前には、傷だらけの厳つい顔した男。まるでシュワちゃんのような姿。
「状況、状況を求むであります!」
荒々しい声が響く——
いや、それは閑条 武だった。
「神器か……。」
刹那、マリアの目の前に現れたのは——
桜を神器化した閑条 舞。
その手に握られていたのは、鋭い槍のような神器——。
優は目を見開き、驚愕する。
「ド、ドリル女だと……?」
舞は、勝ち誇った笑みを浮かべる。
「奥義・神速奏槍!」
巨大な波動が炸裂し、閃光の一撃がマリアを襲う。
その速度はまさに瞬間の斬撃——。
しかし——次の瞬間。
甲高い音が戦場に響く——!
ガキン——!
槍の衝撃が、何かに弾かれた。
マリアは静かに微笑み、瞳が緋色に輝く。
「ヴァッサルの階級によって障壁が違う、
それは——隔絶された違いだったかしら?」
舞は唇を噛みしめ、驚愕する。
「ま、まさか……。」
マリアは軽く手を振った。
それだけの動作——
——だが、それがすべてを変えた。
舞の体が強烈な衝撃に包まれ——轟音とともに壁へと突き刺さる。
槍を握りしめたまま、彼女は体を動かすことができなかった。
マリアが静かに、そして力強く詠唱を開始する。
その言葉が戦場全体に響くと、巨大な魔力が広がり 安寧の光が顕現 する。
——そして、一頁が解かれる。
汝の存在は記され、運命は紡がれる。
混沌の囁きを鎮め、虚無へと還れ。
秘されし真理よ、今ここに刻まれよ——
「無垢なる・ゼロ・コーデックス」
汝を治せ《聖光律唱》
その瞬間、霧音、アイリス、イリスの体が輝き、魔力の流れが修復される。
傷が癒え、魔力循環が再び活性化する―― 彼女達は立ち上がった
武が苦笑しながら拳を握る。
「何でもありか……おもしっれええええええ!!」
彼の魔力がさらに高まり、雷撃が纏われる。
身体全体から雷の奔流が迸り、まるで嵐が凝縮したかのような一撃――。
「行くぞ、天宮マリア!!」
雷の刃を握りしめ、閑条武が突撃する。
その速さは尋常ではない――マリアへ向かう一閃
しかし、マリアは一歩も動かない。
彼女の緋色瞳が輝き、静かに詠唱が紡がれる。
「天照・終極光刃」
光が収束し、戦場全体が灼き輝く
次の瞬間―― 閑条武と交錯し、純粋なる光の剣が閃く。
轟音――!
閑条武の身体が娘と同じように 壁へと吹き飛ばされる 。
閑条武が失神すると
アナウンサーが絶叫する。
「勝者……天宮マリアだーーーーーーー!!!」
観客席が一斉に沸き、戦場には沈黙と歓声が混ざり合う。
マリアは静かに立ち、ゆっくりと息を吐いた。