激突の鐘
《ネオフィムの戦争――》
かつての戦争は、軍勢同士の衝突であった。
しかし——ネオフィムにおける戦争は、すでに進化している。
戦場に立つのは、レギス(統治者)とヴァッサル(従者)のみ。
それは、もはや貴族階級にのみ許された戦いとなり、領域と秩序の枠組みの中で遂行される。
この形式の確立によって——
戦争被害は最小限に抑えられ、戦場は領域庁のもと管理されることとなった。
領域災害の抑制と秩序の維持のため、
七大貴族またはサティエム教の仲介が必須となった。
すべての戦争は、領域裁定によって統制される構造へと移行した。
《戦争と法——ネオフィム戦争の規律》
歴史研究者・アル・ヴァイスス による戦争法典
——天華市街、元服式の終幕。
パレードを終えたマリアは、汗に濡れた純白のドレスを脱ぐ。
メイドたちは急ぎながら、次の衣装——戦闘服へと着替えを手伝う。
六道院 実道は満足げに頷いた。
「当主、今のところ順調じゃ。」
華月 エンザは続ける。
「水鏡家の妨害もありませんでしたね?」
マリアは静かに視線を落としながら答えた。
「どうせ、負けると思ってるのでしょう。
勝っても八百長と言い張るわ。これからね——邪魔があるとするなら……。」
戦闘服に着替え終えたマリアが、二人の前に姿を現す。
エンザは驚嘆するように呟く。
「まさか、枢機卿自ら領域結界を張ってくださるとは……。」
彼女が向かう会場——天華ドーム。
秩泉エリア最大の収容人数を誇るその巨大なドームには、
領域結界が張られようとしていた。
マリアが移動用の車に乗り込むために向かうと、
そこには同じ戦闘服を纏ったアイリス、イリス、霧音が待機していた。
マリアが近づくと——三人は臣下の礼を取り、車の扉が開かれる。
その瞬間——
パシャパシャッ!
カメラのフラッシュが次々と光り、
テレビカメラがマリアがいる場所に向けられる。
マスコミの一人が、マイクを向けながらマリアに問いかける。
「マリア様、《天律決戒》古の決闘——エキシビションの勝算は……?」
近づき過ぎたマスコミを、護衛たちが迅速に取り押さえる。
しかし、マリアは何も答えず——静かに車へと乗り込む。
アイリスと霧音が続いて乗り込み、
イリスは背負っていた箱——天霊匣を無造作に車のトランクへと置いた。
その動作を見ながら、マリアは淡々と呟く。
「エキシビションねぇ……。」
その言葉に、イリスがすかさず反応する。
「みんな遊びだと思ってるなんて、心外しちゃいますね!」
怒りを露わにしながら、ぷんすかと不満を募らせるイリス。
マリアは車内に視線を向けながら、ふと問いかける。
「あの子は?」
イリスは肩をすくめ、苦笑しながら答える。
「相変わらず寝てますよ。」
——天華ドーム、熱気の渦。
戦いを見ようと人々は、会場に入りきれず外で溢れ返る。
アナウンスが場内に響き渡る——
「さあ、《天律決戒》古の決闘、間もなく開始です!
閑条家当主、閑条 武の登場——!」
観客のボルテージが一気に上がる。
そこに現れたのは——閑条 武を含む5人の戦士たち。
秩泉の英雄、閑条 武
大柄な体格、無数の傷跡が刻まれた猛々しい顔。
自信に満ちた表情を浮かべ、両手を力強く掲げる。
「あれが閑条さまか……。」
「俺、アブレーションに襲われた時、助けてもらったんだぜ!」
「うおおおお、負けんな閑条!!」
続くアナウンス。
「なんと!閑条 武の愛娘——閑条 舞の登場です!」
現れた閑条 舞——
ロール巻きの金髪に、まるで悪役令嬢のような華麗な出で立ち。
真っ赤な戦闘服に豪華な装飾を散りばめたド派手なスタイル。
戦闘服越しでもわかる豊満な胸。
アナウンスはさらに続く——
「そして、閑条 舞のヴァッサル、閑条 桜!」
閑条 桜は舞とは対照的な地味な戦闘服に、
顔の表情が見えないほどの大きなグルグルメガネを掛け、
舞の後ろに静かに佇んでいた。
「そして有名冒険者、あきらとよしこ!」
アナウンサーが解説者に問いかける。
「これが閑条のチーム、どうですか?」
「いや、いい布陣ですね、はい。」
適当なコメントが流れる。
そして——マリアの入場!
「我らが当主、マリア様の登場です!」
解説者が声を張る。
「成人を迎え、この戦いに挑むとは……これは凄いことですよ、はい。」
マリアが登場すると——
彼女の側には、アイリス、イリス、箱を背負った霧音。
闘技場の中央に集まると、マリアは静かに口を開く。
「本日は、受けてくれて感謝するわ。」
閑条 武が目を細める。
「4人?いや——その箱にいるのか……まぁいい。」
そして、マリアが戦いの前に握手を求める——その瞬間。
「おほっほっほっほっほ!」突然の高笑い
閑条 舞がその手を取り、微笑む。
「お久しぶりね、マリアさん。でも、いいのかしらねぇ……そのメンツで?」
その言葉に、アイリスが静かに闘志を燃やしながら答える。
「あの頃とは違う。」
舞は薄く笑う。
「学生時代、あなた達には負けなかったけど……。」
そして、父である閑条 武へと向かい——
「お父様、この子たちは私と桜で十分ですわ。手を出さないでくださいませ。」
——鐘が鳴る。
戦闘開始。
マリアと箱を背負った霧音が閑条 武へ向かって真っ直ぐ駆け出す。
舞が驚き、声を上げようとしたその瞬間——
「先輩、あんたの相手は私たち。」
イリスが冷静に宣言する。
——そして戦場は動き始めた。
「おほほほほ! この程度で戦を挑むなんて笑わせてくださるわ!」
閑条舞がロール巻きの金髪を揺らしながら不敵に笑う。
アイリスは無言で空間から魔銃を取り出し、イリスは火の魔法を練り上げる。
しかし、その瞬間――桜が一歩踏み込み、
閃光のような右拳がアイリスの頬を撃ち抜く!
「ッ……!」
アイリスの身体が大きくよろめく。
それを見てイリスが瞬時に反撃、低い軌道で鋭い蹴りを繰り出す。
桜は軽々とそれを避け、桜の雷撃がすかさず追撃する。
「舞ちゃん、行くよ。」
「ええ、桜!」
雷の刃がイリスの肩をかすめ、焦げた煙が立ち上る。
アイリスは体勢を立て直しながら、素早く拳を繰り出す。
舞はその動きを読んで、華麗に後方へステップ――
しかし、次の瞬間、イリスの回し蹴りが襲いかかる!
「させないッ!」
桜は腕を振るい、蹴撃を受け止める。
だがその隙を逃さず、アイリスが間合いを詰め、
強烈なボディブローを叩き込む!
「ぐっ……やるわね。」
一瞬、舞の身体が沈む。だが、その目には余裕がある。
「でも所詮ミディア級効かないわよ。」
ヴァッサルの階級によって障壁が違うそれは隔絶された違い
桜が低く構えた瞬間、雷撃を纏った拳が光の残像を引いて双子を襲う。
アイリスとイリスはなんとか後方へ飛び退くが、連撃の圧に押される。
「くっ……!」
アイリスが歯を食いしばる。(まずい)
イリスは悔しげに呟く。
「姉さん、シンクロ!。」
アイリスは短く息を吐き、決意を固めた。
二人の手が重なった瞬間、魔力が融合する――
「二人で一つ。デュアル・ネメシス」
その言葉が響いた瞬間、双子の魔力が爆発的に膨れ上がる。
空間が震え、空気すら歪むほどの力が渦巻く。
「ミスティック級……!? そんな短時間で魔力を押し上げるなんて――!」
閑条舞の表情が驚愕に染まる。
次の瞬間、双子の前に異質な空間が裂ける。
そこに現れたのは 巨大な魔銃の砲身 ――
まるで神域の裁きのごとく、霊的な輝きを宿していた。
「双霊砲、発動。」
砲身が領域と共鳴し、炎と氷が渦巻く。
閃光が弾け、嵐となる―― 天地を揺るがす一撃 が放たれる!
閑条舞が微笑を浮かべる。
「もう遅いわ。」
《戦奏》は極限を迎えていた。
戦闘が長引いたことで、
閑条舞と閑条桜の速度がさらに加速する。容易に回避していたのだ
アイリスとイリスの視界に 二人が
「終わりよ。」
二人がが鋭く踏み込み、雷撃を纏った拳を振り上げた――
絶体絶命の瞬間、世界が変わる静謐な……
閑条舞と閑条桜――その動きが突如として止まる。
「な……なに、この魔力は……!?」
舞の表情から余裕が消え、桜のぐるぐるメガネが震えた
《戦奏》- 閑条舞のレギス能力
「戦闘の中で自身とヴァッサルの攻撃速度が加速していく」-
戦闘が長引くほど、攻撃速度が限界突破 - ヴァッサルと共鳴することで、
超高速の連携戦が可能