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聖夜のエクスジェン其の終

少し前 蒼穹殿――。


季節は冬へと移り変わり、外気は肌を刺すように冷たい。

天宮マリアは、王宮の奥にある執務室で政務の山を淡々と処理していた。


室内では暖炉が静かに燃え、

磨き上げられた大理石の床に炎の揺らぎが反射し、

金糸で織られたカーテンが柔らかく光を受けて輝いている。


壁には古代の絵画と魔法紋章が飾られ、

重厚な机の上には整然と積まれた書類と、

香り高い紅茶の湯気が立ちのぼっていた。


まさに“王の執務室”と呼ぶにふさわしい、

豪奢で荘厳な空間である。


マリアは数枚の資料をまとめ、ふぅ、と小さく息をついた。


その時――

「マリア様、緊急事態です!」

扉の向こうから、アイリスの張り詰めた声が響いた。


「何かしら、アイリス。入りなさい」


許可を得たアイリスは扉を丁寧に開き、

臣下の礼を取って告げる。


「マリア様。

秩泉エリアで――サタンクロースの箱が発見されました。

至急ご判断を」


マリアの瞳がわずかに揺れる。

「それは本当なの?」


「はい。鑑定を持つレギスに確認させました。

間違いなく“サタンクロースの箱”と」


「……厄介ね、あの箱は」


アイリスが続ける。

「現在、宝物庫に運び込み、

厳重に結界を張って保管しています」


サタンクロースの箱――

12月25日、クリスマスオの日にしか開けられない聖遺物。


“開ければ願いが叶う”と信じられており、

その噂のせいで毎年、犯罪組織や欲深い貴族たちが争奪戦を繰り広げ、

少なからず血が流れる。


マリアは深くため息をついた。

「この件は、まだ……?」


「はい。箱を発見した者たちには、

記憶を消すレギスで処理済みです」


「わかりました。行きましょう、宝物庫へ」

マリアは立ち上がり、

アイリスを伴って廊下を進む。


重厚な扉が開かれ、

アイリスが先導して中へ入る。

「こちらが、サタンクロースの箱でございます」


マリアは視線を落とす。

「これが……?

どこにでもある、ただのプレゼント箱にしか見えないわね」


20センチほどの正方形の箱。

赤い包装紙に金のリボン。

どこにでもある、ありふれたクリスマスの贈り物。


だが――

その箱を巡って、どれほどの血が流れたことか。


アイリスは険しい表情で言う。

「どこかに漏れれば厄介です。

この箱を狙って動く者は、後を絶ちません」


その時、マリアの瞳がふっと緋色に染まった。


「マリア様……?」


マリアは額に汗をにじませながら、箱を凝視する。

「……なるほど。

これが“サタンクロースの箱”の力ね」


アイリスが驚愕する。

「マリア様……神眼で視たのですか?」


「こんな……いえ、アイリス。

この箱は厳重に保管しなさい。

サタンクロースの箱――それはね」

マリアは静かに告げる。


サタンクロースの箱

ミステック級の聖遺物。

12月25日しか開けることができない。

良い子が開ければ――

“その日だけ、最高の夢を見る”。

悪い子が開ければ――

“箱が爆発する”。

サタンクロースの伝承に残る言葉はただ一つ。

「良い子はいい夢見ろよおお」



そして今――

孤児院<天>中庭。



パカッ


箱が耐えきれず包装が破れ、

ついに開いた。


「え」


雪が舞い散る庭に、

サタンクロースの箱の中身が露わになる――


空っぽ。

だが、優と牛ラブは“今こそ願いを叫ぶ時”だと

完全に思い込んでいた。


優が大声で叫ぶ。

「5万円の電子マネーくれええええええ!!」


牛ラブもハッとして叫ぶ。

「真美子は俺の嫁になれえええええ!!」


二つの邪な願いが交差した瞬間――

箱の中から、ひらりと一枚の紙が湧き出た。


優は喜色満面で紙を掴む。

「いやほおおおおお!!

……ってカードじゃねぇのか?なんか書いてあるぞ」


紙にはこう書かれていた。



『5秒後にこの箱は爆発します』



「なんだってぇぇぇ!!」

二人の叫びが重なった瞬間――



ドゴォォォォン!!!



「ぴやああ~~~!!」

爆風に吹き飛ばされた優は、

星のようにキラーンと明後日の方向へ飛んでいき。


牛ラブも同じく空へ舞った。


落下地点は――討滅庁の職員の目の前。

彗は頭を掻きながらため息をつく。

「やれやれ……」


澪が冷静に言う。

「犯人が降ってきたスね」


地面に転がる牛ラブは、煤まみれで叫んだ。

「畜しょおおおおお!!」


その頃――

小さな煙突付きの一軒家。


袁小エンショウは、

家族と暮らすために中古の一軒家を購入したばかりだった。


天宮マリアの融資もあり、

この天華で家を持つという夢が叶ったのだ。


三十年ローン。

だが――

家族の笑顔があれば、それでいい。



順風満帆。

良い流れが来ている。


そして今日は、

子供たちが一年で一番楽しみにしているクリスマスオの日。


秩泉エリアの習わしに従い、

袁小はモヒカンのカツラを被って変装していた。

(バレても笑い話になるように)


子供たちを起こさないよう、そっと子供部屋へ向かう。


「袁貴、袁美……待ってろよ」

朝、プレゼントを見つけて喜ぶ顔を思うと、

自然と頬が緩む。


額にキスをし、

そっとプレゼントを置いたその時――


ガラゴロゴロドン!!


「なんだ!?」

音は暖炉のある部屋から聞こえた。


袁小は即座に結界術を展開し、子供部屋を守る。


廊下で妻が心配そうに顔を出すが、

袁小は短く言う。

「隠れてなさい」


暖炉のある部屋へ飛び込むと――

暖炉の前で、真っ黒な小さな影が

ケホケホと咳き込みながら立ち上がった。


部屋の明かりをつける。

そこにいたのは――

黒い悪魔……ではなく、

煤まみれの赤いサンタ服を着た幼女。


特徴的な緋色の目。


「な、なんでお主がおる……優よ!?」

袁小のモヒカンカツラがずり落ちる。


優はリビングを煤で汚しながら顔を上げた。

「あれ、袁小じゃん」

そして――

頭の上で電灯がピコーンと光る。


「なるほど……袁小!!

5万円の電子マネーくれええええええ!!」



孤児院・天


天宮マリアは、

孤児院の子供たちへ一人ひとりプレゼントを手渡していた。


その姿は、

まるで本物の聖女のようだった。


そして――正則の番が来る。


マリアは柔らかく微笑む。

「あなたが、正則君ね」


その瞬間、

正則は胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。

――あの時、僕はどう答えただろう。


雪が静かに降り続ける中、

マリアの微笑みだけが、いつまでも心に残っていた。




後日談

優の部屋から、突き刺さるような悲鳴が響いた。

「うそだろおおおおおおおお!!」

タブレットを握りしめ、優はわなわなと震えている。


画面には――

『アイ戦 サービス終了のお知らせ』


優は膝から崩れ落ちた。

「なんでだよぉぉぉ!!

俺の……俺のアイ戦がぁぁぁ!!」


理由は単純だった。

アイ戦は“二人の課金勢”で支えられていた。


優と、ラブ牛。


その片方――ラブ牛が突然消え、課金が途絶えた結果、

サービスは静かに幕を閉じたのである。


優の泣き声は、

蒼穹殿の壁に反響しながら広がっていく。

「返せぇぇぇ!!

俺の限定スキン返せぇぇぇ!!」


廊下を歩いていた霧音は、

こめかみを押さえながらため息をついた。

「……また優様が騒いでいますね」


イリスは肩をすくめる。

「まぁ、今日も天宮家は平和ってことよ」

蒼穹殿の朝は、

いつも通り――いや、いつも以上に騒がしく幕を開けた。

今日も、にぎやかな一日が始まる。



終わり

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